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<ゲブラー編> 15.斧 対 剣

15.斧 対 剣



「お嬢ちゃん、なかなかやるらしいね。だが運が悪かったな。ルデアスへの昇格、今回は諦めておくれ」


「・・・」


「おやおや、言葉も出ないかい。それも仕方ない話だとは思うけど恨まないでおくれよ?」


「・・・」


テノール歌手のような声で話かけるバーマン。

そのバーマンの挑発にエスカは全く動じることなく剣を構えていた。

対するバーマンは挑発でエスカに隙が生まれるのを伺っているようだが、動じないエスカに若干イラッとしていた。


「じゃぁ行かせてもらおうかね!」


バーマンは背中に背負っている超巨大な斧を片手で軽々と掴み持ち上げたかと思うと、斧の刃を縦にして思いっきり横振りした。


ブワッファーー!!


「でた!バーマンの剛腕サンドストーム!」

「決まったな」

「流剣姫も一瞬で敗北か」


VIP席に座るスノウの後方の会話が聞こえる。

横振りされた斧によって凄まじい風が巻き起こり、地面を抉るようにして暴風がエスカの方へ飛んでいく。

巻き上げられた石や草は散弾銃のようにエスカに襲いかかるが、厄介なのは巻き上げられた砂が視界を奪うところだった。

通常バーマンのこの剛腕サンドストームを浴びた相手は、視界を失って防御か回避に徹するがあまりの広範囲に逃げることもできずに、その後すぐに襲ってくる無数の石の銃弾や草の剃刀攻撃で大ダメージを負ってしまうのだ。


「早くも終わってしまった。致命傷は避けるから怒らないでおくれよ?」


そう言うとバーマンは凄まじい勢いでエスカの方へ突進した。

この攻撃の最も恐ろしいところは、視界を奪われることでも散弾石や剃刀草の攻撃でもなく、そのストームの直後に襲ってくる強烈な斧の一撃だった。

思いっきりのけぞって溜めた力を一気に放出するように繰り出す斧の一撃は小さな城一つを陥落させるパワーを持つ。


「ホウホウホウ!」


ドッガァァァァン!!!


「ぬっ!手応えがない!どういうことだ?!」


剛腕サンドストームが晴れるにつれてあたりの視界も回復する。

するとバーマンは背後に気配を感じ凄まじいスピードでその場から飛び退いた。


「あら、なかなか素早いのね」


「お嬢ちゃんほどじゃないよね。全く驚かせてくれるもんだね」


「いいから早くかかってくれば?」


「その生意気な態度・・・嫌いじゃないよね!」


ググググァァァァァシャァァァ!!!


バーマンは超巨大斧で地面を抉った。

地面は抉られただけでなく、まるで生きた波のようにうねりを上げてエスカの方に向かっていく。


「おお!出た!バーマンの剛腕サンドウェーブ!!」

「こいつで流剣姫はまともに立ってられない!」

「いくら速くてもまともに戦えないんじゃ勝負は決まったも同然!」


エスカが立っている地面がまるで液体のようにうねる。


「!!」


急いで飛びのこうとするが、地面に足がはまりこんでしまう。

固い地面だからこそ生み出せる瞬発力だが、まるで泥沼の表面からジャンプするように虚しく動きが封じられた。


「お次は剛腕サンドストームだよ!」


暴風と共に無数の散弾石や草の剃刀がエスカ目掛けて飛んでいく。


「だから何」


カンカンカカカカンカカンカン!!!


エスカは剣でそれら飛散物を全て払いのけた。


「往生際が悪いんじゃないのかい?ホウホウホウ!!!」


バーマンはさらに無数の散弾石を飛ばす。


「はぁ。面倒くさいわ」


「何!!」


エスカはバーマンの放った剛腕サンドストームのうねりと共にまるで風に舞うように飛んでいった。


『おおおお!!!!』


大歓声が沸き起こる。


「一体どうやったらそんな芸当こなせるのかね。お嬢ちゃん天才だわ・・まったく」


エスカは素早い動きで地面に剣を刺し体を浮かせ、飛んでくる散弾石の方に足を向けた。

そして、飛んでくる散弾石のスピードに合わせて体をくねらせてタイミングを合わせて散弾石を足で受け止めるような動作を取って散弾石と共に飛んでいったのだ。

まるで散弾石に乗って舞うように。


高く舞い上がったサンドストームが消え、少し離れた場所に着地したエスカは流れるような動作で剣を構え直した。


「お遊戯は終わり?まだ一度もあなたの斧を受けてない。早く試合を始めたいのだけど」


「ホウホウホウ!いいよね、その高慢な態度。好みだなぁ。じゃぁご要望にお応えしないとね。怒らないでおくれよ?その剣折ってしまうかもしれないから」


「よく喋るクマ」


「ホウ!」


その巨体からは想像し得ないほどのスピードで一気に詰め寄るバーマン。

そしてそれ以上のスピードで超巨大な斧を振り下ろす。

それを流れるような剣捌きで受けるエスカ。


ガキィィィン!!!ドゴォォォォン!!!


エスカは剣で斧をいなし、斧はそのまま地面に突き刺さった。

しかし、すぐさま反対側の斧刃を向けて振り上げるバーマン。

それをエスカは剣で受けるがそのまま大きく吹き飛んでしまう。


「ふぅー、全く。切れる気がしないんだよねお嬢ちゃん。クマちゃんちょっと自信なくしちゃうよね」


「気持ち悪い」


今度はエスカから攻めにかかる。

凄まじく速くそして流れるような剣捌きをバーマンは巨大な斧で必死に受ける。


カンカンキンキン!!!


あまりの速さで一般の観客には何が起こっているのか見えていない。

ただ、かすれて見える武器とそれを持つ腕、そして風圧からまきおこんる砂埃。

それだけが見えていた。


次第にその攻防は激しくなり、さまざまなところに瞬間移動のように転々と場所を変えながら続いていた。


「第一試合からすげぇ戦いだ!」

「いったい何が起こってるの?」

「これがルデアスの試合だ!普段はグラッド、たまにローラスの試合しか見ていないから忘れがちだけど、これが一流の戦いだよ!」

「がんばれバーマン!!」


バーマンは恐ろしくガタイがいい一見怖そうな雰囲気だが、実はお祭り大好きでふわっとした喋り方、仕草が荒々しくないところからやさしいクマのように親しまれており特に子供たちからの人気が高いグラディファイサーだった。

興奮した観客が多くいるため、アムラセウムにはほとんど子供は出入りしないがそれでも数える程には毎回来ている。

それも大人気バーマンが出るとあれば、どうしても見たいと思う子供は多く、普段よりも多くの子供が見られた。

皆一生懸命バーマンを応援している。


「がんばれ流剣姫!」

「エスカ様―!」

「流剣舞を見せてくれー!」


一方のエスカに対しては男性のファンがたくさんいた。

エクサクロス(上位3名)とルデアス(上位10名)にはしばらく女性がランク入りすることがなかったため、紅一点特に男性にとって久々の応援しがいのあるグラディファイサーが現れたということなのだ。


「やるわね、クマのくせに」


「ホウホウ!褒めてくれるんだね、なかなか可愛いところあるじゃないよ、お嬢ちゃん」


「私に準備運動以上の剣技を出させるっていう意味よ。滅多にいないから言っただけで褒め言葉じゃないわね」


そういうとエスカは激しい攻防から一旦身を引いて少し距離を取って立った。


「おお!出るぞ!」

「流剣舞!」

「エスカちゃーん!」


「桜吹雪」


エスカは美しい舞いを舞い始めた。

剣の軌道が流れるように且つ複雑に描かれる。

足捌きや体の反りなども美しく、思わず見惚れてします。


「エクセレントだよね!お嬢ちゃん最高だよ」


バーマンは構える。


「もちろん、その恐ろしい剣の動きだけどね!」


カンカンカキキキンカキンカキン!!!


「ホォォォォォォォォ!!!!」


グザァ!グザグザグザ!グザァ!!


最初の数秒は斧で受け切っていたが、次第に読めない剣の動きに防御が追いつかなくなり、体の至る所が剣で削がれるように斬られる。

体の表面だが、削がれた部分が中に舞い、まるで桜が散っているような光景になった。


「うぐぅ・・・」


思わず膝をつくバーマン。


「舞い散る桜の数が足りないわ。美しくないわね」


「いやぁ、おじさんちょっとピンチだよね。こりゃぁ本気ださないといけないな。怒らないでおくれよ?」


バーマンは超巨大な斧を両手に持ちながら縦に前方へ掲げた。


シャディン!!


なんと斧がスライスしたかのように二つに分割された。


「これはね、とあるドワーフに作ってもらった特注斧なんだよね。おじさんはこれをバーマントラって呼んでる。これでお嬢ちゃんの勝ちは無くなってしまったけど恨まないでおくれよ?」


「よく喋るクマ・・籠目・・・」


エスカは別の流剣舞を繰り出した。


キンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!!!!


凄まじく速く縦横斜めに流れる剣技が繰り出され、あまりのスピードに砂煙が舞う。

砂煙が風で消え去っていくと鋭く光バーマンの目がエスカを捉えているのが見えた。

超巨大な斧を盾のように使って避けている。

盾には僅かに籠目模様の剣傷がついていた。

これを直に受ける場合、体に籠目模様の深い傷がつきそこから血が噴き出る恐ろしい流剣舞なのだが、今回はバーマンに阻まれてしまった。

バーマンは、エスカが技を出し切った一瞬の隙をついて、そのまま盾で突進するようにエスカに向かってまるで押し迫る壁のような攻撃を繰り出す。


ガガン!!


エスカは思わずそれを剣で受けるがそのまま覆い被さるようにバーマンは突進してくる。

すると突然エスカの背後から薄い何かが振り下ろされてくる。


「!!」


エスカは振り向いておの何かを剣で受けた。


「ぐふっ!!」


振り下ろされたのは2つに分かれたもう一つの斧だった。

壁のように向けた斧と振り下ろされた斧の刃に挟まれて、あまりの圧力によって血反吐をはいってしまった。


「ポニーテール!!」

「エスカ!!」


安心して見ていたグレンとコウガは思わず声をあげてしまった。


ガン!!ガン!!ガン!!


バーマンは何度も斧を振り下ろす。

エスカはそれをかろうじて受けているも、その攻撃の斧と盾となっている斧に挟まれる衝撃を受けるたびに血を吐いていた。


「スノウ、どう思われますか?」


「問題ないだろう」


スノウは腕を組んでじっとエスカが斧で打ち付けられるのを見ていた。


ガン!!ガン!!ガン!!


「ぐはぁ!」


バーマンは攻撃をやめない。

エスカが何度も斧に挟まれ血を吐いている状況をみて観客は徐々にいたたまれない気持ちになっていた。

子供らは親に目を塞がれている。


「あらあら、すっかり嫌な役割になってしまったよね。でもやめないから。怒らないでおくれよ?」


ガン!!ガン!!ガン!!


「ちょ・・」


「ん?何かな?何か言ったかい?」


「ちょう・・・るな」


ガン!!ガン!!ガン!!


「ん?」


「調子にのるな!」


ガァン!!バゴォン!!


エスカは剣で振り下ろされる斧をいなし、横に避けた。

斧はそのままバーマンの盾となっている斧にあたりバーマンは自分の攻撃で後方へ吹き飛んだ。

如何にエスカが受けていた攻撃が激しかったかがうかがえた。


「ホウホウ!自分の攻撃でやられるところだったよ。じゃぁそろそろ終わろうかね」


そういうとバーマンは両手に持った超巨大の斧を真横に広げ回転し始める。


「剛腕サンドストームトルネード」


凄まじい回転速度によって竜巻が巻き起こる。

竜巻の中には無数の散弾石や草剃刀が巻き込まれている。

そしてまるで生きている蛇のように上空にくねりながら上昇し、突如向きをエスカの方に変えて凄まじい速度で襲いかかってきた。


ドッガーーーン!!!


体勢を整えられていないエスカに直撃した。


「ポニーテール!!」

「エスカ!!」


破壊の竜巻がアーチを作って巻き続ける。

グレンとコウガは不安な顔で見守っている。


ガッシャーー!!!!!


大きな金属音と共に徐々に竜巻が消えていく。

巻き上げられた煙で状況がよく見えない。

少しずつ煙が晴れていくにつれて状況が見え始める。

大きな影が見え始める。


「バーマンだ!勝ったのはバーマンだ!」

「流剣姫はどこへいった?!」

「まさかこの竜巻で粉々に・・・?!」

「あのでかい音はなんだったんだ?!」


煙が晴れる。


『!!!』


観客は思わず言葉を失う。

立っていたバーマンの目は白目を剥いていたからだ。

額に星形の痕がついており、そこから血が流れていた。

バーマンは立ったまま気を失っていた。

そしてバーマンの足元にひざまづくようにしゃがんでいるエスカがいた。

額からは汗が滴っており、息を荒げている。


「ジャッジ!!」


グレンが大声で審判に対して勝敗の確認を促す。

審判はバーマンとエスカの状況を確認した。


「しょ・・勝者!流剣姫カグラミ!!!」


『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』


一斉に大歓声が沸きおこる。

しゃがみこんでいたエスカを立たせようと審判は手を差し出したが、エスカはそれを無視して自分で立ち上がった。

そして剣を一振りして鞘に納めた。

その優雅な姿に観客はさらに沸いた。

そしてそのまままるで何のダメージを負っていないと主張するかのように控室に向かって優雅に歩いていく。

観客は、あれだけの壮絶な戦いの後に美しい歩行ではけていくエスカに改めて拍手と喝采を送った。


控室についたエスカは、血を吐きながら力なく倒れ込む。

それを察していたかのように待っていたグレンが受け止める。


「よく頑張ったじゃねぇかエスカ」


「・・・名前を・・呼ぶな・・・気持ち悪い」


そう言って気を失った。

グレンは優しい顔でエスカを控室のソファに寝かせた。


「ゆっくり休めよ・・・ポニーテール」







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