<ゲブラー編> 14.ルデアス対ルーキー4
14.ルデアス対ルーキー4
アムラセウムは大いに湧いている。
大歓声で建物全体が振動していると思えるほどだ。
その理由はもちろん久しぶりのビッグマッチが立て続けに行われるためだ。
レンスの提案から既に1週間が経っていた。
―ルデアスvsルーキー4 ―
そう銘打った大イベントは全グラディファイサーの頂点であるエンカルジスを決める一大イベントほどの規模ではなかったが、観衆はスノウたちが見てきた中で最も興奮し湧いていた。
その詳細の対戦は次のように組まれていた。
<第1試合>
フェイター
大斧と流剣、剛と柔のたたかい
剛腕戦斧バーマン vs 流剣姫カグラミ
<第2試合>
フェイター
炎の魔術師と光の速さを誇る槍のたたかい
紅炎鬼 ヒーン vs 光槍コウガ
<エキシビジョン>
次期ルデアス候補達による盾折り
<第3試合>
マニエ
暫定ルデアスをかけた死闘
第1次点 神レーザー・レーザーシュート
第2次点 竜巻激槍カブラミオ
第3次点 インビジブルアロー メザ
第4次点 荒くれ剣グレン
<第4試合>
フェイター
剣と拳の激闘
豪剣神マイン vs 雷帝スノウ
この大イベントが始まるまでは通常のグラディファイスを行っている。
普段は賭けもあり、盛り上がるのだが今日に限っては別で観衆は皆 “ルデアスvsルーキー4”のイベントをまだかまだかと待ち侘びているようだった。
それもそのはず、相手はルデアスで滅多に試合に出ないスターグラディファイサーばかりであり、ルーキー4はそれに匹敵する強さと噂されていることからただでさえ盛り上がるイベントに加え、どちらが勝つか予想の難しい状況のため、賭けに勝った際の配当もかなり高くなることが予想されているのもあったからだ。
―――控室―――
「おお!なんか緊張してきたぜ!」
落ち着かないグレンは1人で喋っている。
他の3人は武器を手入れしたり、イメージトレーニングしたりと集中している。
「うぉぉぉ!やってやるぜ!ぜってぇ負けねぇ!」
バタバタバタ
グレンはその場で腿上げを始めた。
「うぉぉぉぉ!うし!うし!ふぅー!中々緊張ほぐれねぇな!だが負けねぇ!俺はぜってぇ負けねぇ!うっし!うっし!」
ストレッチをしてみたり、シャドーボクシングしてみたり、腕立てしてみたりとバタバタしている。
「よぉーし!ぜってぇ負・・」
『うるさい!!!』
「グレン、ビビってるからってぎゃーぎゃー喚くなよ!うるさくて集中できないだろうが!」
「そうだぞ!戦う前から負けているようなものだぞ!とにかく座って精神を落ち着けろ!」
「どうせ負けるんだから外でやってもらえるかしら?」
「なんだよ!お前らだって負けるかもしれねぇじゃねぇか!」
ドーン!
突然勢いよく控室のドアが開いた。
「よぉ!調子だどうだお前ぇら!オイラがゲキ飛ばしにきてやったぜ!」
「コウ兄!ルデアス昇格おめでとう!」
「スノウ!最終試合の大トリとは流石の実力です!」
ナージャ、アンジュロ、ソニアが立て続けに入ってきた。
「おいナージャ!俺たちゃ精神統一中なんだよ!精神掻き乱すような入り方すんな!それにアンジューロー!コウガの試合これからだかんな!そしてソニア!綺麗だ!」
「負け犬がすっこんでろ!オイラはこれから試合に出る3人にゲキを飛ばしにきたんだっつーの!」
「グレン、コウ兄が負けるはずないだろ!馬鹿なんだろあんた!勝てないからってひがむなって!それに俺はアンジュロだ!」
「そ・・そうですか?!私綺麗でしょうか・・・スノウ」
「おいおいおい!まだ負けてねぇしって負けねぇし!お前こそすっこんどけクソジャリが!それにアンジューロー、コウガはともかく俺は負けねぇからな?!そこんとこよく頭に叩き込んどけ!そしてソニア!綺麗だといったのは俺だから!」
騒々しくも和む場だった。
奇妙な出会いからなんだかんだと行動を共にしてきたスノウたち7人だったが、いつの間にか気心知れる関係になっていた。
側からみたら言いたいことを言い合っている仲の悪そうな雰囲気に見えるが、いじる方もいじられる方も、そのやりとりを楽しんでいた。
心の中ではお互いの勝利を望んでいるし、一方でライバルとしても認め合っている。
7人に何かがあれば最優先で助けに行くだけの理由を得ていた。
ドン!
「今度はなんだよ!」
勢いよくドアを開けたのはレンスの部下だった。
「なんですか?!私ただ呼びにきただけですけど!」
「す・・すまねぇ・・」
「まぁいいです。それではルーキー4、そろそろ時間です。簡単な開会セレモニーに出ていただきます。その後カグラミさんはそのまま残って第一試合です。それ以外の皆さんはまたこの控室に戻ってきてもいいですし、観戦いただいても構いません。VIP席を用意していますので、観戦するならそこでお願いします」
「おう、ありがとよ。よーし行くか!」
し〜〜ん
「っておい!ノリがわりーな!」
「よし!行こうか!」
「おう!」
「そうね」
「な・・なんでスノウだとノリノリなんだよ!ポニーテールお前普段やらないガッツポーズまで!」
・・・・・
・・・
会場入り口。
レンスの部下にそこで待つように指示を受ける。
VIP席にはソニア、ナージャ、アンジュロがルーキー4の仲間として座ることを許可されており、既に着席していた。
会場にファンファーレが鳴り響く。
それと共に地震と勘違いするほどの振動が大歓声によって巻き起こされてた。
4人はそれによって力をみなぎらせる。
「さぁルーキー4!出番です!」
「みなさん!本日の主役達の一角、ルーキー4の入場です!」
拡声器のような声が会場にこだまする。
カグラミ、コウガ、グレン、スノウの順に会場に入っていく。
観客席から4人の姿が見えた瞬間に大歓声がうねりに変わり、4人を襲う。
これまで幾度となく体験してきた入場時の歓声とは比べ物にならないほどの波だ。
「さぁ!ここにいるのは皆さんもご存知のルーキー4!まずは紅一点、流れる剣さばきはまるで舞のよう!だがその威力は触れたものを次々に死に追いやる危険な刃!流剣姫カグラミ!」
その声に合わせてエスカは手を上げる。
それに反応してさらなる大歓声の波が押し寄せる。
「その後に続くは騎士道を貫く男の中の男!光の速さで繰り出される無数の槍の突きはあらゆる生き物を決して逃さない!光槍のコウガ!」
コウガも同様に手を上げる。
エスカ同様に大歓声の波が押し寄せる。
アンジュロは目に涙をためながら感動している。
「そしてお次はルーキー4の中でもムードメーカーと言われる男!4人の中では最弱ながらも持ち前の荒々しさと勢いで勝ち進む姿はまさに誰も止められない!荒くれ剣グレン!」
グレンは自分の紹介コメントに若干戸惑いながらも両手を上げて観客に応えている。
意外にもエスカやコウガ以上の大歓声の波が押し寄せている。
グレンの戦い方はまさに荒くれ剣で派手であるため、人気も高くファンも多いということらしい。
「そして4人目はこのグラディファイスで唯一!武器を持たずに相手を倒しまくる鬼神!その振り上げる拳にはうねりと共に稲妻が発生させ雷鳴轟く破壊を生む!雷帝スノウ!」
グレンよりもさらに激しい大歓声がアムラセウム内に轟く。
スノウはあまり慣れていないのか申し訳なさそうに手を軽く振り上げるだけだった。
技の激しさに対して、控えめな応対のギャップがさらに人気を呼んでいるようだ。
4人が定位置に着くと、別のファンファーレが鳴り響いた。
「続いては今はまだルデアス次点に甘んじているがその実力は折り紙付き!のし上がってくるのは時間の問題と言われている強者たちの入場です!」
ルーキー4に引けを取らない大歓声が巻き起こる。
「1人目は天の矢とも恐れられている男!その甘いルックスからは想像し得ない恐ろしい炎のレーザーを武器に勝ち上がってきた強者!神レーザー・レーザーシュートォ!」
アムラセウム内は大いに沸いているが、特に女性の黄色い歓声が一際目立つ。
その声援に応えるように右手の人差し指を天に向かった高らかに上げその先から赤いレーザーのような炎魔法を繰り出す。
上空の雲に穴が空き、まるでスポットライトのように日の光がレーザーシュートに注いだ。
それを見てさらに黄色い歓声がこだまする。
「あのキザ野郎・・・。ぶちのめすのはあいつからだな」
「ああ、確定だな」
「頼むぞグレン。あのような不埒者がルデアスなどありえんからな!」
グレン、スノウ、コウガの3人はレーザーシュートにイラついている。
それを冷ややかな目で無視しているエスカ。
「まさかポニーテール・・・。お前あんなのがいいのか?」
「下衆な会話に巻き込むな。殺すぞ」
「図星かぁ?!」
「おいやめろグレン。マジで殺されるぞ」
「そうだぞ。エスカはあのような不埒者など相手にしない。もっとこう・・男らしく大胸筋がせり出たような筋骨隆々で美男子の・・」
「3人まとめて冥府に落とされたいのか?少し黙っていろ」
エスカの冷たく突き刺さるようなツッコミに3人とも冷や汗を垂らしながら黙り込んだ。
「2人目は彼がいるところに竜巻あり!豪快かつ繊細な槍捌きは時に大きな竜巻を発生させ、時に相手の弱点をピンポイントで突き抜く!この男の槍捌きについていけるのか?竜巻激槍カブラミオ!」
相手を竜巻で吹き飛ばす派手な戦い方はグラディファイスの中でも人気だったことから大きな歓声が上がる。
その中で一際目立つように一部のエリアから大声援が沸き起こる。
スパッツの子分達だった。
「3人目は神出鬼没!この男から狙われたら必ず心臓を射抜かれる!見えない矢を放つ弓の名手インビジブルアロー・メザ!」
最も大きな歓声が沸き起こる。
小柄で細身の体だが、矢を射る際の腕の躍動と射るポーズがかっこいいと評判である上、射る方向と違う場所にいる相手が倒されるという不思議な戦い方から特に子供を中心に人気があるグラディファイサーとのことだった。
「そしていよいよ!グラディファイスのトップ10に君臨する強者たちの入場です!」
その声に呼応するようにこれまで以上の大歓声が巻き起こる。
アムラセウム内の観客が一斉に握った右手の親指と小指だけ広げその手を高らかに挙げ、“ホウ!ホウ!ホウ!”と低い掛け声をし始めた。
そしてその掛け声に合わせて右足で地面を踏み始めた。
『ホウ!ホウ!ホウ!』
ドン!ドン!ドン!
「よーしわかったぜみんなぁ!あいつを呼ぶんだな!行くぜ!男の中の男!戦士の中の戦士!剛腕戦斧バーマン!!!」
恐ろしくガタイのいい男が超巨大な斧を片手で軽々と上に掲げながら登場した。
「ホウホウホウ!」
『ホウホウホウ!』
「ホウ!ホウ!」
『ホウ!ホウ!』
バーマンは観客と掛け合いをしながら勇ましく歩いている。
(やれやれ、まるでバンドのライブのようだな・・・。エスカにコテンパンに伸されるのが見たい・・・)
グラディファイサー人気投票でも5位以内に食い込む人気者らしくアムラセウムが一体となった大歓声が響いた。
突如上空に炎の渦が巻き起こる。
炎の竜がアムラセウム上空を舞っている。
そして、上空に昇り出したと思いきや急に振り向き恐ろしいほどの量の炎を吹き出した。
ゴァァァァァァァァ!!!
観客席を焼きつくすであろう規模の炎が今にも襲い掛かろうとした瞬間に、竜から吐かれた荒れ狂う炎はとある一点に吸い込まれた。
『うおぉぉぉぉぉぉ!!!!』
大歓声が轟く。
「竜の火炎は蝋燭の火と同じ!プロメテウス大火山の加護をうけた炎の申し子!紅炎鬼ヒーン!!!」
こうも立て続けにショーじみた登場が続き、スノウ、エスカは少しうんざりしているようだった。
一方でグレンとコウガはまるで子供のようにはしゃいでいる。
「あの炎の竜!そして吐いた大火炎!すごかったな!」
「ああ!50人規模の炎魔法の使い手が意識を合わせて作り出した炎魔法だそうだ!だがなによりその大火炎を一瞬で消し去ったヒーンだろう!すごいのは!」
「いやぁ!間違いないぜぇ!お前羨ましいなぁ!あんな大スターと戦えるなんてよぉ!」
「任せとくんだな!必ず勝つ!」
(やれやれ)
突如場内に200人近い弓隊が2列に分かれ並んで登場した。
列と列の間は10メートルほどだったが、まるで通路でも作っているような並び方だった。
「よーい!放てぇーい!!」
その声と共に1点に向かって無数の矢が一斉に放たれる。
シャシャシャシャシャシャシャ!!!!
放たれた矢の先には1人の男が見える。
「何?!」
スノウは思わず驚きの声を上げた。
1000本はあろうかと思われる矢を全て素手で掴み、背中に背負っている大きな籠に入れていたのだ。
「なんて速さだ・・・」
その1000本の矢が入った籠を手前に放り投げ思い切り蹴り上げた。
すると1000本の矢は見上げるほどの上空まで舞い上がった。
「ヒーン。頼んだよ」
「全く人使いが荒いですね。自分が目立ちたいってだけの理由で」
紅炎鬼ヒーンが右手を挙げると、上空に舞い上がった矢は一瞬で燃え出し炎の矢と化した。
それらは束になり凄まじい勢いでその男の方に飛んでくる。
まるで高熱で焼かれた直径3メートルほどの隕石のようだった。
「サァ!」
男は奇妙な掛け声と共に、背中にかけてある剣を抜きざまに振り上げるとその剣は炎の矢の隕石にまっしぐらに飛んでいく。
バジャジャジャーー!!!
ドパパパーーン!!!
今日一番の大歓声が上がる。
まるでアムラセウムに巨大な花火が打ち上がったかのようだった。
そして剣はブーメランのようにその男の元に返ってきたが、そのまま背中の鞘に収まった。
「最後に大花火をぶち上げてくれたのは我らが豪剣神マインその人だーー!!!」
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
まるで大地震かと思うほどアムラセウム全体が揺れた。
「すげぇ・・・。こんなにもすげぇとは・・。ルデアス・・・。俺たちは今日こいつらに勝って、こんなすげぇやつらの仲間入りするってのか?」
「お前は次点との試合だがな」
「それを言うなよコウガ」
「だが、あのマインという男、優男に見えるが相当な剣の使い手だ。気をつけろよスノウ」
「わかっている。あいつはかなり強い」
「さぁ役者は出揃った!これより特別イベント!ルデアスvsルーキー4を開催する!」
一斉に大歓声が沸き起こる。
スノウはここまでで既にお腹いっぱいといった感じでとてもこれから戦う気分にはなれなかったが、自分は第4試合なためそこまでにはモチベーションを上げようと考えていた。
「それではこの後10分後に第1試合 大斧と流剣、剛と柔のたたかい、剛腕戦斧バーマン vs 流剣姫カグラミを始める。お二人とも準備を整えてください」
スノウ達はVIP席に移動した。
「この異様な盛り上がりはティフェレトにはありませんでしたね、スノウ」
「ああ。国の政策としてこういう文化があるのは悪いことじゃないし、収入もあるだろうから、変に民衆に重い税をかけるよりはマシなんだろうが、どうも性に合わないよ」
「私もです。ただ、あの中でマインとヒーンと呼ばれた2人・・・。あれは相当な手練れですね。スノウなら全く問題ないのでしょうが、私1人では相当苦戦します。ソニックと2人で戦ってなんとか勝てるかどうか」
「そこまでか?だがお前にそこまで言わせるあの2人。おれも本気を出さないとならないかもな」
「フラガラッハは封印しているのでは?ああ、本気と言っても剣を使わない本気ですね」
「まぁそういうことだけど、何か掴めそうなんだよな。フラガラッハに戻るのはその後にしたいと思ってるよ」
「そうでしたか。さらにお強くなられるのですね。流石はスノウ」
ソニアックはスノウに付き従って以来かけがえのない頼もしい仲間だが、常に褒めてくるためスノウとしてはいささか照れ臭くも思っていた。
だが、耳を傾けると常に冷静に物事を見ている(若干ソニアの方が熱くなるが)ことからスノウは照れ臭いながらもふたりのコメントを参考にしていた。
一方エスカは淡々と試合前の準備を整えている。
「どちらが勝つと思われますか?スノウ」
「決まってるだろう?しかもそれほど時間はかからないだろうな」
「そうですね」
「あのヒーンと戦いたいんじゃないか?ソニア」
「確かに疼きます。同じ炎魔法の使い手ですからね。でも本当に戦いたいのはあそこにいる男です」
「お前も気になっていたか。あれは相当強いな」
「ええ。でも強さだけではなく何か異様なオーラを感じます」
スノウとソニアは中央VIP席に座っている縁に黄色いラインの入った赤いローブに身を包んでいる男を見ていた。
「異様なオーラ・・・確かに」
(あのどこかドス黒い感じは一度接したことがある気がする・・・)
「では第1試合を始める!剛腕戦斧バーマン!そして流剣姫カグラミ!前へ!」
大歓声が沸き起こる。
いよいよ試合開始だ。
バーマンは背中に巨大な斧を背負っている。
エスカは細身で少し長い剣を持っている。
「では始め!」
ドォォォォォン!!!
大きなドラの音と共にエスカの試合が始まった。




