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<ゲブラー編> 10.奇妙な晩餐

10.奇妙な晩餐



 「‥‥‥‥」


 沈黙が続く。


 (気まずい‥‥。なんだろう。こんな無理して一緒に飯食う必要なかったな‥‥ここまで警戒する食事ってさ‥‥)


 スノウはやれやれといった表情でゆっくりと食べ物を口へ運んでいる。

 隣ではそんなことお構いなしと言わんばかりに腕白に飯をほうばっているナージャがいるが、食べることに集中しているためいつもの口の悪いおしゃべりはなく、それがさらに沈黙の気まずさを助長していた。


 「あの、みなさん揃ってグラッドに上がられたんですよね、おめでとうございます」


 (ソニアー!!!それは触れちゃいけない話題だったー!!)


 アンジュロがギロリとソニアを睨みつける。


 「ヒッ」


 恐ろしい殺気を感じたソニアは黙ってしまった。


 「そ、そういえばよ、えっとカグラミじゃなかったエスカ、お前さんはどこ出身なんだ?」

 「答える必要はない」

 「あ、あぁ‥‥」


 これならこの沈黙を打開できると思い立った質問を即座にズバリ断れたことでグレンは口をパクパクさせて意識がどこかへ飛んでいってしまった。

 そしてしばらく沈黙が続く。


 (やべぇ、どうするか‥‥自分の殻に閉じこもってしまったソニアと、意識が異次元に飛んでいったグレン、さっきから殺気が消えないアンジュウロー、戦いだけじゃなく会話もぶった斬るエスカ、俺関係ないと言わんばかりのスカしたコウガ。となりの小娘はもはや獣‥‥まともはおれだけか‥‥)


 さすがのスノウもどうにかせねばと焦り始めた。

 とその時。


 「ぶっはーーー!!!!食ったーー!!!オイラ腹いっぱいだぁーー!!」


 ビクン!!


 思わず驚き反応するスノウ。


 「あ、いやお腹いっぱいではない!甘ぁいもんくわねぇとな!甘いもんは別腹って言うしな!おい!そこのおっさん!別腹5つくれぇ持ってきてくれ!急げよ!甘いもんにはオイラ目がねぇんだからな!いいか!うーんと甘い別腹だぞ!」

 「え?‥‥別腹?」

 「ぷ!」

 「ぶっ」

 「ぶーーーー!!!」

 「ぷぷ」


 スノウとナージャ以外一斉に吹き出す一同。


 「だっはっはーー!!!」

 「はははーー」

 「ふふふ」

 「はははー」

 「お、おい!な、なんだよ!もしかしてオイラの言ったことで笑ってんのか?し、失礼なやつらだな!スノウ!オイラへんなこと言ってねぇよな!おい!」

 「別腹ってデザートはないぞ、ナージャ」

 「はぁ?お前知らねぇのかぁ?学がねぇやつはこれだから困るんだよ!知らねぇんだな!甘いもんは別腹って決まってんだぜ!」

 『だーっはっっはっは!!』


 腹を抱えて笑う一同。


 「な!何がおかしい!別腹ってのはな!めっちゃくちゃ甘くてとろけるやつなんだぜ!おれも一度しか食ったことねぇんだがな!たまたま食うときがあってそれからというもの別腹の虜ってやつだ!どうだ?うらやましいだろ、ボケどもが!」

 『ぎゃーっはっっはっは!!』

 「おいおい!やめてくれナージャ!わかったからギブギブ!」

 「何がだよ!何笑ってんだよ田舎もんが!これだから田舎もんは嫌いだ!別腹のひとつも食ったことがねぇんだからよ!」

 『ぎゃーーーっはっは!!』

 「ナージャ、いいか?甘いものは別腹っていうのは知ってる。みんな知ってる。これはものの例えでどんなにたくさんご飯を食べて腹いっぱいになっても甘いものは食べられてしまう。まるで別に腹があるかのように食べられてしまうっていう例えだよ。別腹っていう食べ物があるわけじゃないんだ」


 スノウが丁寧に説明すると一同はさらに腹を抱えて笑い出す。


 「な!な!な!うわーーーー!!!」


 ナージャはあまりの恥ずかしさでトイレに走っていってしまった。


・・・・・


 どうやらあまりの恥ずかしさにトイレから出てこれずこもっているようだ。

 ソニアが迎えに行く。


 「ナージャ出てきなよ」

 「うるせー!みんなオイラのこと笑って楽しんでんだろ!オイラが何も知らない子供でえらそーなこと言ってるけど間違ってるって笑ってんだろ!」

 「笑ってないよ。みんなあなたを気に入ったのよ。待ってるからでていらっしゃい」

 「いやだね!どーせ笑ってんだ!オイラが田舎もんだってよ!」

 「そんなことないよ。みんな田舎者だもの。あの後会話がはずんでね。それぞれ自己紹介したのよ。そしたらゾルグ王国出身者はナージャだけだったわ。ゾルグはこの世界で一番進んでいる国なんでしょう?つまりナージャが一番都会の子ってことになるの」

 「ほんとか?」

 「ええ、本当よ」

 「なんだよ!先に言えよ!オイラ恥かいたと思っちまったじゃねぇかよ!」


 単純なのか、切り替えが早いのか、あっさりした性格なのかソニアの説得でナージャは簡単にトイレから出てきた。

 ナージャがテーブルに戻るとたくさんのスイーツがところ狭しと並んでいる。


 「ナ、ナージャ。さっきはすまなかったな、笑っちまって。これはみんなからの奢りだ。ちょっとしたお詫びの印ってやつだ。ささ、遠慮なく食ってくれ」


 グレンがバツ悪そうにナージャに話しかける。


 「私からも詫びよう。先ほどは笑ってしまってすまなかった」

 「俺からも謝罪する。失礼した」

 「コウ兄が謝るから俺も真似して謝ってやる。けどおもしろかっ」


 ゴツン!


 アンジュロはコウガにゲンコツをくらった。


 「さぁ食べようぜ。お前がいないとなんか盛り上がらないからな!」

 「だろー!そうだよな!お前らみーんな田舎もんだからな!オイラがいなきゃ右も左も分からねぇひよっこだからな!よし!遠慮なくいただくぜ!」


 ナージャは嬉しそうにところ狭しと並ぶスイーツを食べ始めた。


 「お!おい!お前だけずるいぞ!俺も食うんだからな!っておいー!きったねぇ食い方すんな!」


 ナージャとアンジュロが取っ組み合うようにスイーツをほうばりながら取り合っている。

 その光景でまた全員が笑顔になる。


 (一時はどうなることかと思ったけどとりあえず一安心だな‥‥やれやれ)


 その後もなぜか楽しい会話が続いた。


 「んでよ!オイラ言ったんだよ。あんたみたいなデブのおっさんになんでそんな可愛い子犬が懐いてるんだ?まるで豚に珍獣だなってよ!」

 『だーっはっは!』

 『あははは』

 「おい!豚に珍獣ってどういう意味だよ!それを言うなら豚に真珠だろ!」


 アンジュロがツッコミを入れる。


 「はぁ?!お前バカか!豚に真珠あげてどーすんだぁ?この話はな!豚みたいなデブのおっさんに可愛い可愛い珍獣みたいな子犬が懐いてるって例えだろうが!どこをどう聞いたら真珠が出てくんだよ、ばかか!」

 「だからそうじゃなくて!豚に真珠っていうことわざ!例え!普通は豚に真珠っていう使い方すんだよ!」

 「だーかーらー!この話はよ!豚みたいな‥‥」


 ナージャとアンジュロの噛み合っていない言い合いが続いている。


 「ところでコウガ。なんでまた兄弟でグラディファイスなんて出ようと思ったんだ?確かに兄弟揃って強いのは認めるけどよ」


 グレンがコウガに話しかける。


 「君たちは信頼できそうだから言うが人を探しているんだ」

 「人探し?」

 「ああ。グラディファイスに出て行方不明となっている人だ」

 「死んだとかじゃなくて行方不明か?」

 「おい、グレン!」

 「ああ!す、すまねぇ。グラディファイスっていやぁ死者が出て当たり前の剣闘だからついな‥‥」

 「いいんだ、気にするな。そう思うのも無理はない。普通に想像したらグラディファイスには3つの道しかないからな。一つは勝ち続けてエンカルジスになる、一つは自ら引退する、一つは負けて死ぬ。引退すると言ってもエクサクロスレベルにならないと自由はないから実質二つか」

 「確かに行方不明というのは珍しいな」

 「探している人はエンカルジスにまで上り詰めた強者だった。俺たちを食わせるためにグラディファイスに出て死に物狂いで勝ち進んで掴み取った栄光。これから家族が幸せに暮らせるって時に、届いた知らせは賞金を持って旅に出たという手紙だけ」

 「家族ってことはコウガ、お前の父親かい?行方不明になった人って」

 「ああ」

 「そうか‥‥しかしその状況で行方不明ってのはぁありえねぇな」

 「‥‥‥‥」


 グレンもエスカも苦い表情を浮かべる。


 「じゃぁよ!俺たちがその父親探しを手伝ってやるってのはどうだ?」

 「おいグレン!勝手に踏み込むなよ」


 スノウは思わずグレンの申し出を制する。


 「そういうんじゃねぇよ!俺ぁただ嫌いなだけなんだ。偉いやつが弱い人たちを抑え込んだり、言うこと聞かせたり、理由もねぇのに罰したりよ‥‥もしかするとこれもこの国の偉ぇやつらの仕業かもしれねぇじゃねぇか」

 「そりゃそうだが‥‥」

 「何もそういう偉そうにしてるやつらぶっ飛ばすとかそう言う話してるんじゃねぇんだ。ただの人探しを手伝う!それだけだからよ!いいだろスノウ!」

 「私も手伝うわ」

 「ポニ、エスカ!」

 「ポニーテールと呼びたいなら好きに呼べばいい」

 「す、すまねぇ。でもあんたまで巻き込むつもりでいったんじゃねぇんだけどよ」

 「あなたに巻き込まれたつもりはないわ。私はこの参加している会話を聞いて自分の意思でそうしようと思っただけ」

 「わかったよ!手伝うよ。ただし!危険は冒さない!おれたちがコウガの父親探しを手伝って怪我や死ぬようなことがあってみろ?コウガに迷惑かけるんだからな」

 「わーってるよ!」

 「君たち‥‥ありがとう。初対面なのに心遣い感謝する」

 「かてーこと言うなよ!おたくの弟は既にうちのお嬢とすっかり仲良しだぜ?」


 アンジュロとナージャは最後の一個になったデザートを取り合って睨めっこをしている。

 アンジュロは15歳そこそこなため、もう少し大人だと思っていたがまるで子供だった。


 「そう言えばポニ‥ああ!すまねぇ俺不器用でよ!ポニーテールって呼ばせてもらうぜ」

 「構わないってさっき言ったわよ」

 「ああ、そうだったな。そんでよ、ポニーテールの出身はどこなんだ?見た感じ東のハーポネスかなと思ったんだがよ」

 「そうね」

 「やっぱりか!このゲブラーには中心のプロメテウス大火山を中心に無数の火山があるけどよ!ハーポネスのトミシ山ほど美しい火山はねぇと思ってるんだがやっぱり美しいか?」

 「そうね」

 (グレン‥‥それくらいにしておけー!会話になってねぇの気づいてくれー)

 「そういう君はどこの出身なんだ?グレン」


 困っている(ようには見えないが)エスカを解放するようにコウガがグレンに質問を投げかけた。


 「俺か?俺は‥‥西のガザド公国出身だ」

 「ほう、あの豆料理で有名なガザドなのか。しかしあの国の者たちは礼儀正しいと聞いたが‥‥」

 「!!!い、いやぁ、失礼なことをおっしゃるねコウガ君。君ももっと礼節を弁えた方がよいんではないんか?」

 「グレン。はっきり言う。気持ち悪いぞ」


 あまりに下手くそな丁寧語を使うグレンに背筋がゾゾッとしたスノウはこれ以上聞きたくないとばかりに手厳しくツッコミを入れた。

 そんな他愛ないやりとりをしている最中突然テーブルを叩く音がする。


 ドン!!


 「おいおいおいおい!ここは田舎もんのガキどもが入ってきていいところじゃぁねぇんだよ!」


 黙っているスノウたち。


 「おいおいおいおい!聞こえてねぇのか?揃いも揃ってアホヅラしやがってよ!ここはな!今日ローラスに上がられた貴族出身のスパッツさんの昇格祝いの場なんだよ。てかこのウス汚ねぇガキをまず外に追い出せや。この店の品位が疑われんだよ!」

 「な!オイラ薄汚くなんかねぇぞ!」

 「あーはっはっは!オイラだってよ!」

 「ウス汚ねぇ上に言葉遣いもなっちゃいねぇな!親はろくなもんじゃねぇぞきっと。教養もねぇバカガキが!さっきから大声でバカ丸出しで騒ぎやがってよ!どうせナラカ生まれの親無し捨て子だろ、がっはっは!」


 ナージャは涙ぐみながら黙ってしまった。

 ナージャをバカにされたことに怒りを覚えたソニアが目に炎を激らせながらゆっくりと立ち上がろうとする。

 グレンも同様に怒りの形相で立ち上がろうとする。


 ガタン!!!


 「僕らをバカにするのはまだ許せるが、子供を愚弄するとは聞き捨てならない」

 「自分の醜い顔を棚に上げて他人を侮辱するとはいい度胸だな」


 ソニアとグレンよりも早くコウガとエスカが勢いよく立ち上がった。


 「ああ?!オメェら今なんつったぁ?!」

 「聞こえなかったか?」

 「醜い顔だと言ったのだ」

 「くぉーのー!!!」


 因縁をつけてきた男はコウガに向かって拳を振り上げた。


 ガシン!


 それをスノウが片手で軽々と掴んだ。


 「店で騒ぎを起こしちゃ他のお客さんにご迷惑だと思うんで外出ましょうか」


 ギュゥゥゥゥ‥‥


 スノウは握った拳を凄まじい握力でさらに握る


 「イデデデデ!!!」


 因縁男は手を振り払って後退りした。


 「いいだろう!でめぇら表にでろ!後悔すんじゃねぇぞ!」


 因縁男はそう言うと仲間を引き連れて外に出た。


 「みんな‥‥すまねぇ‥‥オイラ‥‥汚くて‥‥バカで‥‥」


 涙を堪えきれないナージャの頭に手を乗せてアンジュロが語りかけた。


 「泣くんじゃねぇ。泣いたら負けだ。心は折れるな」


 店の外にはいつのまにかグラッドと思われる屈強な男たちが20名ほど、スノウたちが出てくるのを待っていた。


 「おせぇんだよノロマどもが!このグラディファイス歴戦の猛者たちであるチーム・スパッツが新参者を教育してやるよ、がっはっは!」


 スノウたちは6人。

 対する相手は20人。

 いわゆる売られた喧嘩だが、買ってしまったものは仕様がない。


 「能書きはいいからかかってこいよ。セ・ン・パ・イ」


 グレンは相手を怒らせるのが得意らしい。


 「くぉーのー!!!生きて帰れると思うなよぉ!!」


 20人のグラッドたちは一斉にスノウたちに襲いかかってきた。


・・・・・


 「ハァハァハァ‥‥」

 「もう終わりかよ、せんぱーい」


 力の差は歴然だった。

 それもそのはず、スノウとソニアはともかく、コウガやエスカ、グレンも訓練の卒業試験の結果は圧倒的に群を抜いていてそこらのグラッドでは歯が立たないレベルだったのだ。


 「くそ‥‥お前らいったい何なんだよ」

 「醜い顔の者に返す言葉はない」

 「おお!ポニーテール、なかなかイカすな!惚れちまうよ」

 「‥‥‥‥」

 「なめやがって‥‥」


 因縁男は隠し持っていたナイフを取り出した。


 「死ねやぁ!!!」


 バサー!


 アンジュロの手刀で簡単に払い落とされた。

 加えて練りに練った螺旋が放たれていたため、因縁男の手はズタズタになっていた。


 「ぐあーーー!!!いてぇ!いてぇよぉーーー!!!」


 グラッドとは思えない情けない言葉を放つ因縁男。


 ピィィィン‥‥


 急に空気が張り詰める。


 コツ‥‥コツ‥‥コツ‥‥


 「トイレから戻ったら誰も居ないからどうしたかと思えば‥‥」


 バシィィィン!!


 背後からやってきた男は因縁を平手打ちした。

 その衝撃で因縁男は遥か彼方に吹き飛ばされてしまった。

 あまりの威力の平手打ちにグレンたちは思わず構える。


 「スパッツさま‥‥」

 「す、すみません‥‥」

 「こいつら‥‥生意気にも‥‥強くて‥‥」

 「どういうことですか?誰か説明したまえ」

 「先輩たちが俺たちの仲間を突然侮辱したんだよ!それに言い返したらこうなった。仕掛けてきたのは先輩たちだからよ!」

 「本当か?」

 「い、いや‥‥」

 「本当か?」

 「す、すいません‥‥」

 「‥‥‥‥」


 ドゴゴゴォォォォォォン!!


 後からやってきた男は凄まじい速さで仲間のグラッドたちに平手打ち連打を放ち吹き飛ばした。


 「私の仲間が大変失礼した。私はスパッツ・カブラミオ。この者たちのリーダーを務めている。この者たちの失態は私の失態も同然」


 話のわかる男の登場で無意味な喧嘩が突如収まった。



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