序章 1.ヘルインヘヴン
9つを超える世界を舞台に偽りの記憶を持ったしがないサラリーマンが突如現れた自分の永遠の伴侶だという女性に異世界に飛ばされ、世界を渡りながら失った自分を取り戻し自分の生きる道を見い出していきます。
主人公スノウ・ウルスラグナを中心にそれぞれの世界で仲間になっていく様々な種族の者たち、それに敵対する元老院ニルヴァーナ、登場人物たちを翻弄する神々や魔王、天使や悪魔、誰彼構わず全ての世界を蝕んでいく存在、そしてどこか知らない場所から様子を伺っている観測者たち。
いつしか善と悪という枠組みを超えた勢力争いに発展します。
その中で自分の目指す道を進み成し遂げるために奮闘する主人公スノウの壮大な冒険譚です。
現時点の設定で登場人物も軽く500名を超える物語となっており、様々な武器や複雑な階層の魔法、古代の船や兵器なども登場します。
ぜひ楽しんでいただけたら幸甚です。
(初投稿ですので乏しい表現や誤字脱字はあるかもしれません・・)
<序章>1.ヘルインヘヴン
東京の中心に位置する高層ビルの上層階に俺はいる。
外周ガラス張りでサンシャインブリッジが一望できる眺めの良いフロアで、不規則に並んだおしゃれなデスクの中で全体が見渡せる位置に俺は座っている。
そんな近代的なオフィスに18人のクリエティブな同僚たち。
俺は今年度からその意識高そうなグループに配属になったのだった。
俺の名前は三神 雪斗。
大手IT流通企業に勤める37歳。
顔は悪くないと思うけど、いかんせん人間不信から人との関わりが怖くて距離を置く性格だから、目立ちたくない一心から‥‥まぁモテない影の薄い存在だね‥。
なんでこんな性格になったのか‥‥。
頭は悪くない‥‥と自分では思うのだが、いかんせん人前にでるのが苦手。
でも元々はそうじゃなかった。
小さい頃はいわゆるクラスの人気者で目立ちたがり屋で怖いもの知らずだったけど、調子に乗ってしまったおかげで中学・高校はいじめの的。
クラス全員から無視とか、グループ行動の時に仲間はずれにされるとか、派手ないじめじゃなかったけど、流石に6年もそんないじめにあっていると、人間不信が染み付いてしまったようだ。
そんな人間不信を引きずっているものだから、いまだに大した友達はできたことがない。
両親は既に他界しており頼る身寄りもない。
生きるためには働かなければならない。
いじめられていたとはいえ、学生時代はまだ楽だったなと思う。
なるべく人と関わらないようにしてバイトを重ねて奨学金で大学へ進学して、就職活動では人と関わらずにそれなりに稼げる職を探すも、選べるほど優秀ではないため、結局流れに任せて辿り着いたのが今の会社だ。
趣味は人間観察。
その理由は誰が自分にとって煩わしい存在なのかを知るための防衛本能から自然と行ってきたものだった。
自分にとって害のない人物とは面倒にならない程度の最低限のコミュニケーションで済ます。
人付き合いというものがほとんど不要な状態が自分にとってはベストだった。
一方で自分に害をなす人物がいる場合は、体の細胞一つ一つがアラートを鳴らす。
ほぼ近寄らない。
どうしても近寄らなければならない場合は、その場を捨ててでも逃げ出す‥‥。
そんな男が何故にこんな華やかな部署に転属になったのか?!
うむ、自分でもわからん‥‥。
こんな華やかな意識高い連中の中に放り込まれたらもはや存在は空気だな‥‥。
まぁそれもまた、逆に居心地はいいかもなぁ、と思いつつみんなの前で挨拶‥‥。
(めんどくせーなぁ‥‥)
そんな心の声が周りに漏れそうだった。
やることはやるから関心持たずにそっとしておいてくれりゃぁいいのに。
「本日から我がビジネスクリエーション部に新たなメンバーが加わるので紹介します」
と出目金のような顔をしたGMがみんなの前で切り出す。
(うわぁいやだなぁ‥‥みんな俺を見てるじゃんかよ‥‥)
「三神 雪斗です。みかみと書いてさんじんと読む珍しい名前なので覚えやすいとよく言われます」
(存在はすぐ忘れられますが‥‥ははは‥‥)
「このような本社の華やかな部署で働くということでいささか緊張していますが、精一杯頑張りますのでどうぞよろしくお願いします」
昨日2時間練習した言葉通りに淡々と言い終えると、これまたお決まりの心の篭っていない拍手。
人間不信といっても人と関わるのを避けてるだけでコミュニケーションが苦手という訳ではなくて、こういう挨拶はあまり緊張しない。
肝は座ってる方かな‥‥いや、元々何も期待していないだけなのかもしれない。
人は何か期待するとその結果を得る時やその行動を起こす時に緊張する。
期待する結果がほしいからね。
でも俺はそんな期待は一切ないから緊張することもないのだと思う。
緊張するのは自分に害をなす存在が近寄ってきた時かな‥‥。
続けて出目金部長が言葉を付け加える。
「三神さんは、この部のマーケティング&リサーチセクションでマネージャーとしてきてもらいました、M&Rセクションはいわゆるビジネス提案の成立性や可能性をネットと足で調査するいわゆる最終判断を行うための重要な砦です。そこを仕切ってもらうために優秀な人財をまねいたということです。」
ああ、そうだった。
こんな華やかな部署に来たのに加え、もうひとつの不思議がなぜかマネージャーに昇格した事だった‥‥。
何が評価されたのか‥‥。
だが、その謎もすぐ解けた。
自分のチームの女子3人が給湯室でヒソヒソ話をしているのを聞いて理解したからだ。
なにやら前任のマネージャーはビジネスで失敗した責任全てを背負わされて飛ばされたらしい。
つまり、出目金部長含めて自分たちのミスを背負わせるための部署がM&Rセクション、おれのグループというわけだ。
そしてその全責任を背負わせる役職がM&Rセクションのマネージャーという構図で、俺は今回その餌食になるらしい。
スタッフはそこそこ優秀な人財がそろっているが、マネージャーはリストラ対象的なやつを充てがうのだという。
つまり、俺はリストラ対象的存在なのだろう。
そんなあからさまなパワハラというかコンプラ違反な会社だったんだな‥‥俺の働いている会社って。
俺の最後にふさわしい場所ってか?!
まぁ給料が貰えて人と関わらない場所へ飛ばしてくれるならそれでもいいや。
ーとにかく人の汚い部分になるべく触れずに過ごしたい。
数日が過ぎて、だいたい仕事の内容は把握できた。
実質やる事もない。
全て優秀な部下が情報を揃えて、出目金部長が判断するからだ。
あとは失敗を押し付けられるのを待つだけってやつだな。
おれの存在も ”頼りない地獄行きの気の毒な人” ってやつになって周りもあえて話しかけてこない。
まぁ逆に楽だけどね。
会議じゃぁ、毎度のごとく、えらそうな口ぶりで会議を仕切る出目金部長。
自慢話と意味のわからない指示でまわりのやつも笑顔引きつってるっての。
とその時、顔が引きつっている面々が一瞬にして凍りついた。
偉そうに喋ってる出目金の後ろに影が。
「ゲホッ!ゲホォォーゲーッッホ!」
俺の存在に気づけとばかりにその出目金の後ろの影は汚い咳を繰り返す。
ヘビースモーカーなのか、会議室中にやに臭い匂いがたちまち充満し、その汚い咳からは茶色いツバが飛んで来そうだ。
スタッフは皆下を向いて若干震えている。
その咳が聞こえるや否や出目金がまるで瞬間移動したかのように一瞬で立ち上がり脇によけて言い放った。
「これはこれは仲本部長!!このような下っ端会議によくおいでくださいました!ささ、みんなご挨拶ご挨拶!」
あぁなるほどね、出目金は顔の通り強気を助け弱気を挫くいわゆるゴマスリ野郎ってことか。
おれの最も嫌いなタイプだ‥‥。
いやいや、それよりも!
その仲本部長と言われる汚い咳の影の容姿がすごい!
まるでスペースウォーズに出てくるジャバなんとかハットみたいに整理的に受け付けない容姿‥‥。
しかもあの気持ち悪い咳にこのヤニ臭さ‥‥。
タバコを吸わない俺にとっては吐き気をもよおす程の悪臭だよ‥。
(こいつが本部長の 仲 鬼使密ってやつか‥‥)
なんだか悪い意味で運命的な出会いな気がする‥‥。
「よけいなことはいうんじゃねーよバカが。ちょっと見に来ただけだろう?大袈裟なんだよーおめーはさぁ」
(うわぁ‥‥)
思わずいやな声が漏れそうになるほど性格も悪そうな感じだ‥‥。
しかも超パワハラなやつだ。
直感でわかる。
いや、これを見れば誰でもわかるか‥‥。
スペースウォーズのジャバなんとかそっくりな醜悪な見た目と性格。
こいつをジャバと命名しよう。
「そんなことよりユミちゃんちょっと」
急にデレデレ顔になったと思ったら甘ったるい気持ち悪い声で、うちの部の一番美人な田島 有美を手に持っている扇子でクイクイとしながら呼びつけた。
呼ばれた本人は死にそうな顔で震えながら助けを求めるように目で訴えながらゆっくりとジャバなんとかの方へ歩いていく。
(やばいな、、こいつパワハラだけじゃなく、セクハラもしてるんじゃないか?)
しかもここにいるメンバー全員俯いて見て見ぬ振り的な感じになっている。
常習的にあるやつだと直感した。
田島さんがジャバのところにたどり着くとすかさず、気持ちの悪い声色で話しかける。
「なぁ、ユミちゃんくらい優秀だとこんなくだらない会議やってられないよなぁ?いいんだよ?言いたいこといって。おれそういうの大歓迎だから‥はぁ‥」
と、デレデレ言いながら手がおもむろに田島さんのお尻の部分に忍び寄るのが見えた。
出目金含めて全員が顔を伏せている。
(なんなんだ?この雰囲気は?!‥‥いや俺の細胞が全力でアラートを鳴らしている。絶対に関わってはいけないやつだ!)
と思った瞬間に隣に座っていたイケメンの八田野くんがおもむろに立ち上がり一言言い放つ。
「ほ、ほ、本部長!ぜ、是非見ていただきたい資料があるんですが!!今お時間いた、いた、頂けませんでしょうか!!」
おそらく相当な勇気を振り絞ったのだろう。
勢いは発言を言い切るころには震えフェードアウトしたかのようだった。
「あ“ぁ?!」
ドスの効いた声でゆっくりと振り向きながらジャバが放つ声に一同が凍りつく。
「気安く話かけてるんじゃねーよ。お前、誰だっけ?名前教えろよ。来月の人事楽しみにしとけよ?」
もはやここまでわかりやすいパワハラがあるのか?
(本当に人間としてクズだ‥‥絶対に関わるのはよそう‥‥おとなしく、目立たず、どうせ尻拭い役なんだからそれまでは穏便に暮らしたい‥‥)
後で聞いた話だが、八田野くんは田島さんの彼氏だったらしい。
彼氏として彼女を守った勇姿は本来なら賞賛ものだが、彼に関わろうとする者は誰1人いなかった。
彼女である田島さんでさえ‥‥。
生活には変えられないということか‥‥。
それから程なくして八田野くんは地方にある関連会社のプログラマーとして異動になった。
もともと商品企画やマーケティングとして入社したクリエーターだから、かじった程度のプログラムスキルではついていけるかどうか‥‥明らかに退社を促す不当人事だった‥。
俺が配属になってから2ヶ月以上経って、なぜか出目金が俺の歓迎会をやると言い出した。
今更感があるし、目立ちたくないから断ろうと思ったが、招待メールのリンクに書かれていた参加者名簿になんと仲の名前があった。
「なるほどね、、そういうことか。環境はオシャレだが、本当ブラックだな・・」
おっといけない‥独り言とはいえ、こんなの誰かに聞かれたらやばい。
男性陣はもとより特に女性陣は何をされるかわかったもんじゃない。
戦々恐々としているが、欠席するわけにもいかず、参加者100%で当日を迎えた。
・・・・・
・・・
ーーー歓迎会ーーー
ゴマすって手の皮がなくなったんじゃないかと思うくらいの出目金によるジャバ持ち上げの前振りと、くそ長いどうでもいいジャバの自慢話に皆が顔を引きつらせて拍手している。
どうやらもはや俺の歓迎会ではないようだ。
1時間ほどしてから酒が回って来たのか、ジャバが動き出す。
ジャバから一定の距離を置いていた女性陣は酒を飲みながらも警戒は怠らず、すかさずトイレに立つものや別の男性のところに行き話かけるやつもいた。
当然話しかけられた男は迷惑顔だが‥‥。
その中でもたついたのが富良野 紫亜さんだった。
メガネで顔は分からないが多分美人、、というか可愛らしい子。
いやむしろ、そのメガネは可愛さ増ししているようだ。
俺が来る少し前に入社したらしいが、もちろんそれ以上の情報は持ち合わせていない。
というか俺には縁のない存在だった。
「あーれぇぇぇ?ここにいるのはしーあちゃんかなぁ」
ジャバがゆっくりとにじり寄り、隣にすわって髪を撫で始め抱き寄せようとした瞬間。
(トキハナテ‥‥)
どこからか頭の中に問いかける声が響いたと思いきや、気づくと富良野さんを抱きよせようとしているジャバの腕を片手でひねり上げていた。
「イデデデデデ!!!!」
「!!」
自分でも信じられないほど軽々とひねり上げていて行動に移した瞬間の動作は一切記憶になかった。
「さーんじんーー!!お前なにしてんだー!!!はやく手を離さんかーー!!」
例のごとく瞬間移動で叫び寄る出目金。
「あ!すんません‥‥」
「おーまーえぇぇぇ!この野郎!あー!えー!がー!お前は誰だー!!」
ぶちぎれたジャバが店の周りの人を全く気にすることなく叫ぶ。
まぁそうなるわな。
この人完全に俺のこと知らないし。
「本部長―!申し訳ありません!!この男は三神と言いまして先月こちらに転属になったものでございます!!いかような処分もこの三神本人が受けますので、なんなりと!どうかそのお怒りはこの三神本人に!!」
日本語おかしくないか?
そもそもこのジャバは既におれにブチ切れているのにそのコメント要らなくないか?
でもまぁ俺終わったな‥‥。
一瞬記憶が飛んだ間に起こった覚えのない行動だったとはいえ、これ以上ないことしでかしてしまったことは言い逃れのしようもない。
こういう状態だと人間って意外と肝が座るもんだなぁと半分精神が体から抜け出てるんじゃないかと思うほどに他人事のように落ち着いている。
いや、最早この環境からの脱出モードに切り替わったせいか‥‥。
「おまえぇぇ!サンジンとか言ったなぁああ?!人事楽しみにしとけよぉぉ!!!あぁぁいでででぇぇ。。ゲホッゲーッホ、ホゲーッ!」
周りの同僚、若手が堪えきれずクスクスと笑っているのを感じ、バツが悪くなったのかジャバはそのまま帰ろうとしている。
そして帰り際、再度俺にを睨みつけて言った。
「お、お前‥‥いや、まさかな‥‥。まぁいい!今日は精々楽しめ。あとは人事を待っとけ、くそが!」
去り際に負け犬のようにさっていくジャバ。
ある意味スカッとしたけど、おそらく全てを失うんだろうな‥‥。
後悔はないが、これからどうするかっていう不安は流石に頭によぎる。
(まぁでもあの気持ち悪い顔を二度と拝むこともないだろうからそれだけは救いかもな‥‥)
そんな気持ちだったが、この出会いが因縁めいたものだとはこの時はまだ知る由もなかった。
「三神さん、すごいっすねー!いやぁスカッとしましたよ!漢の鏡です!」
「マネージャー!女性を代表してお礼を言います!ありがとうございます!」
イケメンの調子のいい若手が切り出したと思ったら、続けざまに例の美人の田島さんも俺をおだてる。
前に彼が飛ばされた恨みが晴らされた気分なんだろう。
自分も彼氏を見殺しにしただろうに‥恨む前にそこは反省しないのかね‥。
見殺しにされ飛ばされた彼に一瞬同情しつつ、褒められて一応照れる俺。
なん年ぶりの褒められコメントか。
まぁ気分は悪くないけど‥‥その代償は計り知れない。
時間が経つにつれて我に返って来始めたのか、どんどん不安が増して悲しくなって来た‥‥。
「ははは‥‥」
しかし、救ってあげた富良野さんはお礼なしか‥‥。
まぁ世の中そんなもんだし、期待するだけ疲れるからな‥‥とっとと忘れてしまおう‥。
・・・・・
・・・
翌日、ガラス越しに見える本部長室の中でジャバと出目金が何やら話し込んでいる。
時折こちらをチラチラ見ながら怒りを露わにした表情で何かを指示しているようだ。
流石にクビはないだろうが、荷物はまとめておいた方がいいな‥‥。
いや、先月から管理職で組合員じゃないからクビもあるかもしれない‥‥。
その日の夜からなんだか誰かにつけられているような感覚に襲われるようになった。
電車の中でも視線を感じるし、駅から歩いている最中もなぜか気配を感じる。
振り向いても誰もいない。
突然走ってみたりしたが追ってくるような影や音はない。
だけどなぜかつけられているというか見られている感じが消えない。
「ジャバ事件があってからだ‥‥なんだか左遷だけじゃなく命までねらわれてるんじゃないだろうな?いや、流石にそれはないか‥‥ははは‥‥」
などと心の中で考えるのはちょっと怖いので口に出して見たが、余計に怖くなってやめた。
1週間が経ち、そろそろ出目金に呼び出され例の人事とやらの話が聞かされるタイミングが来た。
あの事件以降、ジャバのセクハラやパワハラはないようだし、俺を怒鳴り散らしに来ると思ってたけど、それもない。
なんだか不気味だ。
しかしもっと不気味なことに出目金から呼び出されることもなく1日が終わった。
不気味な感じを払拭したくて居酒屋で一杯ひっかけることにした。
(これじゃぁ生殺しってやつじゃないか‥‥)
確定した処刑宣告を焦らされている感じだった。
飲まなきゃやってられないという感情が生まれつつも、そもそも酒も得意じゃない上に1人で飲むのも得意じゃないことに今更気づく。
どうやら色々と動揺しているようだ。
この時間をどう過ごせばよいかわからず、我ながらよくわからないことをしたなと思いながら、とりあえず好きなものを飲んで食うことに決めた。
ピッチも早かったのか酔いが回り始めて思考も鈍って来たのでそろそろ帰ろうと店を出ようとした時にいきなり隣に女性が座って来て耳元で囁いた。
「正面から出てはダメです。私が合図を出したら、トイレ横の裏口から出ます。いいですね?」
酔ってるのと、その女性があまりのいい匂いなので夢かと思ったが、顔を見た瞬間に酔いが覚めた。
「ふ、ふ、富良野さん?!」
「し!静かに!さぁ今です。立ってトイレまでゆっくりと歩いてください」
「ちょ、い、いきなりなんですか?急にそんなことを言われてもわけわか‥‥」
言い切る前に腕を掴まれ強引に立たされた。
(うぐぐ!!!いでで!!おい!まじか?!この力、、男?いや人じゃない!!)
肩が外れるかと思えるほどの力で立たされそのまま奥のトイレの方向に歩かされる。
トイレの奥の裏口から出る寸前に正面の入り口から黒いハットを被り黒いコートを着た男が入ってくるのが見えた。
見えたというより目が合ったのだ。
全身黒。
その中に光る目が恐怖と共に印象に残った。
「まずい気づかれた。少し走りますよ、マスター」
(結構酔いの回っているわたくしに走れと?!そしてわたくしはバーのマスターなの?!)
酔いに任せて心の中で陽気に突っ込んでみるが状況はそれどこじゃなく、胸が焼けそうなほど全速力で突っ走っていく。
頭がぐるぐるを通り越して視界がままならないがとにかく引きずられるように走る。
まるで市中引き回しの刑のようだった。
いい加減、食ったものと再開しそうどころか、血反吐を吐きそうになる。
「ちょ、ちょっとまって富良野さん!呼吸が‥‥限界!!吐きそう!ってか死にそう!」
「何を言っているんですか!マスター!吐くか死ぬかどっちを選ぶっていうんですか?!」
(もーほんとに何を言っているのかさっぱり分からないし、まじで吐きそうなんだけど‥‥)
「仕方ありません、じっくり説明した上で飛ぶつもりでしたが、事態は急を要します。ここでゲートを開きますので準備はいいですか?」
(富良野さん、ここでゲートを開きますって、何かのスパイ映画のエージェントキャラになりきってんのかな?そういえば入り口から入って来た黒い人も別に殺し屋的な人って決まったわけじゃないし、たまたま黒好きな人が入って来ただけかもしれないし、むしろこの富良野さんが何かのキャラになりきって俺で遊んでんじゃないか?)
といつものごとくひねくれ思考でまとめようと試みる。
ひとつ合点がいかないのはこの異常なまでの腕力。
握力なんかすごすぎておれの掴まれている手が痺れてる上に鬱血し始めてるよ‥‥。
(ほんとに人か?)
頭の中を整理しきれずにうろたえている俺の感情はそっちのけで手を強引に引っ張り、細いビルとビルの間の小道に入った。
肺の次は腕が限界だ。
「ちょっと、こ、この腕を締め上げている手を離してもらえると嬉しいんだけどな‥‥はは」
「あ!すみません!」
急いで腕を掴んでいる手を離す。
離された瞬間に手や指先に血液がどっと流れ出す感覚があった。
深夜となり人影もない中で、富良野さんはなにやらブツブツと呪文めいたものを囁き出す。
(はい、キター、エージェントからファンタジーにキャラチェン)
メガネの奥に光る可愛い顔は、このブツブツ呪文を唱えているいわゆる ”何か” になりきっている姿によって一気に妄想世界を懸命に生きる、世界を救う運命を背負った遠い人に位置付けられた。
(はぁ‥‥さっさと帰って寝ようっと)
富良野さんに別れの挨拶をかけようと振り向いた瞬間、何かの異常に気づく。
手刀で縦に空を切る仕草の後、その線をこじ開けるかのように両手で広げる。
力一杯開こうとしているその奥には宇宙に光の道のようなものが続いている景色が見える。
目の前の非現実的な光景も、何かテレビで映像を見ているかのように他人事に感じる。
「さぁ、あまり時間はありませんマスター。行きましょう!第7カルパを通ってまずマスターの記憶を取り戻しに行きます。魔法の知識も失われたマスターにはご自身でカルパを渡る術も持ち合わせていませんが、私と一緒なら問題ありません」
木の葉を縦にしたような形で宇宙空間が広がっている。
この瞬間、俺は全てを理解した‥みたいなよくあるファンタジーもののようにはいかず、俺の頭の中はこの異常な光景にさらなる混乱をきたし、酔った中全力疾走でまわった状態もあって一気に気を失う。
「マスター!仕方ありませんね‥‥‥もう本当に世話がやける‥‥昔から変わらないんだから‥‥」
美女とそれに引きづられてくしょぼい中年は光の輪に吸い込まれるように消えて行く。
影から光の渦に消えゆく自分たちを見ている存在に気づかず‥‥。
読んでくださってありがとうございます!
これから越界して別の世界を舞台に様々なイベントが起こります。
世界がどんどん広がっていきます。
登場人物も多いので分からなくなった際はWikiToF登場人物(随時追加記載中)をご参考下さい。
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