<ハノキア踏査編> 20.ハルピュイアの里
<レヴルストラ以外の本話の主な登場人物>
【エストレア・レストール・マッカーバイ】
ティフェレト最大の王国であるラザレ王国の女王。
元々はホドで最大キュリアのガルガンチュアの総帥だったが、スノウと共にティフェレトに越界した人物だが、聖なるタクトのアウロスを操ることができる唯一の人物で数年前に飛来した巨大隕石をアウロスの力でティフェレトに住まう全ての生物の力を借りて破壊し世界を救った。
現在グレイの侵略を受けて一旦避難していたが、偶然ワサンたちと合流できた。
【ケライノー(通称ケリー)】
ハーピーの上位種ハルピュイアの中でも特殊な系譜に名を連ねる存在で、姉アエロー、オキュペテと妹のポダルゲの4姉妹の三女に位置し、美しい碧い翼を持っている。
スノウと出会った頃はまだ幼い少女であったが、ワサンたちと合流した際は、エストレアの身長を超えるほどの成長を見せており大人振ってはいるが、嘗ての幼い面影をふんだんに残している。
【アエロー】
ハルピュイア4姉妹の長女にあたり、背丈は5メートル、翼を広げると10メートルは超える巨大なハルピュイア。艶やかで美しい緋い翼を持ち、ハルピュイアの里を治める長の役割も担っている。
祭壇を必死に守り続けており、以前魔王ベルフェゴール扮するコグランが村を襲った際も、村を捨てることを頑なに断った。
20.ハルピュイアの里
――森の奥のハルピュイアの里――
ワサン、ヘラクレス、エストレア、ケリーは道中でトマスとエリサと合流し、ハルピュイアの里に到着した。
そこには以前の村とも呼べない程度の巣とは違い、大きく発展した街が存在した。
街の周囲には軽微な鎧を纏ったハーピーが衛兵として街の警護を行っており、街の中には電灯や簡易的な電光掲示板があった。
街の中にはハーピーだけでなく他の魔物も住んでおり、人族の住む街と変わらない賑わいを見せ、何より違和感があるのは魔物たちが衣服を纏っている点であった。
高い木々に囲まれており、街の中にも高い木が点在しているのだが、上部に絶妙なバランスで建ち並ぶ家々があり、その家までは簡易的な滑車で上り下りできる様になっているエレベーターがあってそれを使い、飛べない魔物は上層エリアへ上ることができた。
家々の他にもレストランのような店まで存在し、多くの魔物が楽しく飲み食いしながら身振り手振りで意思の疎通を図っているように見えた。
「すげぇな‥‥とても汚ねぇ魔物の巣とは思えねぇぞ‥‥」
「おい、ヘラクレス」
「あ、あぁ、すまん。表現が難しいな。だが、ここはまるで人が住む街だぜ?」
ヘラクレスの失礼にも聞こえる素直な意見にワサンやトマス、エリサも納得していた。
それほどこのハルピュイアの里は異常なほど人族の街と変わらない発展した様相だったのだ。
「無理もないわ。ここは過去のハーピーたちの住む村とは全く違う状態になっているんだら」
エストレアが自慢気に言った。
「質問したい気持ちは分かるけど、とにかく街長に会ってもらうわ。話はそれからね」
一行はエストレアの誘うままに進み、街の奥にある岩場に併設されている建物の中へと入った。
建物の中に入るとそこには大きな部屋があった。
薄暗く視界はよくないが、部屋の奥には祭壇のようなものがある。
「アエロー、いる?」
エストレアは大声で街長と思われる者を呼んだ。
「おや、珍しい方々をお連れの様ですね」
ヴァサ!
ワサンたちの目の前に巨大な翼が広げられた。
『!!』
(気配は感じなかったぞ?!)
(この感じ‥‥ただの魔物じゃねぇな‥)
ワサンとヘラクレスは警戒した。
パッ!パパパッ!
『!!』
突如部屋に灯りがついたのだが、それによって開けた視界の中に現れたのは巨大なハルピュイアだった。
背丈はヘラクレスを優に越すほどで5メートルはある。
しかも広げている翼の全長は10メートルを超えている。
そして何よりその艶やかで美しい緋い翼に心を奪われる感覚になった。
「警戒は不要です。ワサン、ヘラクレス、トマス、エリサ」
『!!』
目の前の巨大なハルピュイアは知るはずのない名をいきなり口にした。
「トマス、エリサやオレの名はともかく、エスティやケリーが知るはずのないヘラクレスの名まで知っているとはどういうことだ?」
「驚かせてしまいましたね。私には少し先を観る力があるのです。私の観た数分先では既に自己紹介を終えており、打ち解けて会話しているもので、それで慣れ慣れしくお名前を呼んでしまいました。気分を悪くされたのなら謝罪します」
「いや、気にする必要はない。正直に明かしてくれてありがとう。あんたには自己紹介は不要かもしれないがオレたちはあんたのことは分からない。あんたは何者だ?」
「待てワサン。このハルピュイアが観た未来では俺たちも自己紹介しているからこそ、俺たちの名を知ることができたってことは、俺たちも自己紹介する必要があるってことだ。俺はヘラクレス。半神だ。こいつはワサンだ。本来は銀狼の頭を持つが、今は人の顔を手に入れている。エストレアの嬢ちゃんが知っているワサンとは違う姿だ。そしてこいつらはトマスとエリサ。ここまで俺たちの道案内をしてくれたノーンザーレのレジスタンスの一員だ。自己紹介は以上だ。さぁ、お前のことも教えてもらおうか」
ヘラクレスは必要以上の情報を与えない様に会話の先手を取って自分たちの情報を言い切って質問を遮り目の前の巨大なハルピュイアから情報を引き出すように会話の主導権を握った。
「ヘラクレス。警戒は不要ですよ。私は貴方がたの敵ではありません。疑問には全てお答えします。私はハルピュイア4姉妹の長女であるアエロー。4姉妹と申しましたが、次女はオュペテ、三女はそこにいるケライノー、四女はポダルゲです。オキュペテは訳あってこの街にはおりませんが、ポダルゲはこの街におりますのでその内お会いすることもあるりましょう」
ヴァサ‥‥
アエローは巨大な翼を畳み、話を続けた。
「私は4姉妹の中でも疾風の二つ名を持ちこの街を治める長の役割も担っております。以前、この街がまだ小さく、それこそ魔物の巣の域を出ないほどの状態の頃、悪魔に襲われ妹のケライノーが翼がむしられ多くのハーピーが狩られた際にエストレアに救って頂いたのです。そしてケライノーについては人里の中でスノウ・ウルスラグナにも救って頂いた。私たちはレヴルストラに大恩があるのです」
「なるほど。だが、理解が出来ないことがある。この街は一体何なんだ?異常なほど発展している状態もあるが、衣服を着た魔物は何だ?‥‥まぁ大体察しはつくがな」
「貴方は賢い方のようですね。普段はそれを隠して生きている。いや、戦闘に身を置くことを性とせざるを得ない生い立ちから、賢さを表に出すことが出来ない癖があるようですね。戦闘では自身の優を欺く‥」
「余計なことは言うな」
ヘラクレスはアエローの言葉を遮った。
「これは失礼致しました。お察しの通りです。この街に住まう魔物は元ニンゲンです。隕石に潜み現れた異界の者どもによって魔物に変えられたニンゲンたちです」
『!』
ワサン、トマス、エリサは驚きの表情を見せた。
「そしてこの街。ここは嘗てスメラギが我らを守るために発展させて下さったことで今の便利で強固な守りの街となったのです。裏でスノウがスメラギに頼み込んで下さったと聞きました。我らを守り便利になった街を魔物に変えられた元ニンゲンのスメラギの下で働いていた科学者たちがさらに発展させて下さったということです」
ヘラクレスはワサンの目を見た。
ワサンは納得した様子だった。
「魔物に変えられたニンゲンたちと話すことは出来るか?俺たちは情報が欲しい。ここに来るまでに隕石を操る特殊なグレイのグレイアンに会った。エストレアとケリーに助けられたが、他にあと4つ隕石が飛来したと聞いている。つまりそれぞれの隕石にグレイアンがいるってことになる。グレイアンはとてつもなく強ぇ。俺たちですら歯が立たない異常な力を持っていやがる。奴らの弱点をもっと知る必要があるんだ」
「残念ながら魔物に変えられた人々は話すことが出来ません。特殊な手話を使って会話しています。その手話を覚えて頂ければ会話は可能ですが、貴方は既に未来で断りましたね。そしてあの異界者たちを貴方はグレイとグレイアンと名付けられたのですね。私たちもそれを採用しましょう。確かに貴方の仰る通りグレイアンは異常なほどの強さです。有効なのはエストレアの振るうアウロスのタクトから放たれる特殊な波動。あの波動によって強靭なグレイアンの表皮が溶解しますが、その状態にならない限り攻撃は全くといってよいほど効きません。先ほど妹のケライノーがトドメをさせたのも、エストレアのアウロスの波動があってのこと。しかもグレイアンはアウロスのタクトの波動に十数秒で順応してしまいます。今回は偶々貴方がたが他のグレイを始末し、グレイアンの気を引いていたことで隙が生まれてエストレアのアウロスの波動が上手く効果を発揮し、順応前にケライノーの翼の刃で破壊できたのです。これまで何度か戦いを挑みましたが、いずれもグレイに阻まれ有効だを与える前に順応されてしまいましたので、倒せたのは貴方がたのおかげでもあるのです」
エストレアが前に出て話に割り込んできた。
「アエローの言う通りよ。私の振るうアウロスの波動の種類はそう多くないの。手の内を見せ切ってしまうとやつらを倒すことが出来ないから今回は本当に助かったわ」
「俺たちを囮にしたってことか?」
「ヘラクレス。言い過ぎだぞ」
「いいのよワサン。確かにその通り。でも貴方たちが戦闘している最中に気づいて気配を殺して攻撃の機会を窺っていたから、お腹に風穴が空いたところは見ていなかったし見殺しにするつもりはなかったことだけは信じてよね」
「ふん。そういうことにしておいてやる。それでエストレア。お前はここで何をしてんだ?レジスタンスと合流しないのか?」
エストレアはヘラクレスの言葉に表情を曇らせた。
「戻りたいのは山々だったんだけどね。メルセン平原南の隕石のグレイアン?‥‥やつを倒せなかったからこの場所を離れられなかったのよ。私のアウロスの波動がなければ勝てないし、万が一やつがこの街を襲ってきたら防ぐ手立てはないから」
「じゃぁもうこの街を離れることも出来るってことだな?」
「その通りね‥‥」
エストレアは曇らせた表情のまま少し俯いた。
「とりあえず一旦休めるか?オレたちはエスティの魔法で傷は治ったものの、血が足りねぇからな。他のグレイアンと戦うにも先ずは体力を回復しておく必要がある。2〜3日この街でやっかいになりたいんだが構わないか?」
「ワサン、お前なぁ」
「いいじゃないかヘラクレス。オレたち2班の目的はエスティとケリーを見つけることだ。ミッションは達成したわけだし、無事にノーンザーレへ戻るためにはオレたちが体力を万全にしておく必要があるだろ?」
「確かにそうだがな」
ヘラクレスはどことなく納得のいかない表情で無理やり頷いた。
「それでは街の空き家がありますからそこに滞在下さい。レストランもありますが、そこは魔物向け料理が出されます。エスティ向けに食事を提供してくれるお店があるのでそこで食事をとって貰えれば英気も養えましょう。回復するまで自由にこの街をお使い下さい。それでは私は祈りの時間なのでここで失礼致します」
ヴァサ‥‥
アエローが翼を広げると灯りが消え始めた。
視界が暗くなっていくにつれてアエローの赫く美しい翼が怪しい黒赤色へと変わっていく。
「さぁ行きましょ」
エストレアに連れられワサンたちは建物から出た。
そしてその日はアエローの言った空き家に泊まることとなった。
・・・・・
その日の夜。
ヘラクレスはワサンたちが寝ていることを確認すると静かに家を出た。
そして昼間訪れたアエローの住む建物に侵入した。
(アエローの気配は感じられない。おそらく奥の部屋でお寝んねだな‥‥)
窓のない部屋であるため、月明かりも入らない真っ暗闇の中、音を立てずに慎重に中へと入った。
(流石にこの暗闇を進むのは危険か‥‥下手に物音を立てればやつを起こしちまうからな‥‥)
ヘラクレスはポーチから小さな松明を取り出し、火打石で火をつけた。
ボッ‥‥
小さな灯りが足元を照らす。
(よし、進もうか。アエローの気配は依然として感じられない)
ヘラクレスは魔法を使えないため、ソナー系魔法が使えないが戦闘の中で身につけたオーラを感じ取るセンスを手に入れており、それを張り巡らせて慎重に進んだ。
長年戦闘の中に身を置き常に真剣勝負で生死ギリギリの状態を潜り抜けてきたからこそ得られたギフトであった。
(これだ!)
ヘラクレスは祭壇の前に立った。
そして小さな松明で祭壇の奥の石碑に描かれた文字を読み始めた。
(やはりそうか‥‥)
「こんな夜分遅くに何の用ですかヘラクレス?」
「!!」
ヘラクレスは背後に巨大な翼を広げたアエローの存在を感じ取った。
(何故気配を感じなかった?!‥‥どうする‥‥戦うか?!)
ヘラクレスとアエローの間に一触即発の緊張状態が走った。
いつも読んでいただきありがとうございます。




