<ハノキア踏査編> 19.再会
<レヴルストラメンバー以外の本話の登場人物>
【エストレア・レストール・マッカーバイ】
ティフェレト最大の王国であるラザレ王国の女王。
元々はホドで最大キュリアのガルガンチュアの総帥だったが、スノウと共にティフェレトに越界した人物だが、聖なるタクトのアウロスを操ることができる唯一の人物で数年前に飛来した巨大隕石をアウロスの力でティフェレトに住まう全ての生物の力を借りて破壊し世界を救った。
現在グレイの侵略を受けて一旦避難していたが、偶然ワサンたちと合流できた。
【ケライノー(通称ケリー)】
ハーピーの上位種ハルピュイアの中でも特殊な系譜に名を連ねる存在で、姉アエロー、オキュペテと妹のポダルゲの4姉妹の三女に位置し、美しい碧い翼を持っている。
スノウと出会った頃はまだ幼い少女であったが、ワサンたちと合流した際は、エストレアの身長を超えるほどの成長を見せており大人振ってはいるが、嘗ての幼い面影をふんだんに残している。
19.再会
ドッザァァ!
グレイアンの凄まじい腕力はヘラクレスのそれを凌駕し、ヘラクレスの掴む手を振り解き腹から手を引き抜くとそのまま掌底を放ちヘラクレスをワサンの方へと飛ばしたのだ。
「いつつ‥‥野郎、俺と力比べで勝った気でいやがるな。癪に触るやつだ。どっちが力持ちか教えてやらなきゃならねぇよな」
「ははは‥‥土手っ腹に風穴開けられてるやつの言うセリフじゃないぞヘラクレス」
「何言ってんだよワサン。お前も同じじゃねぇかよ。大体お前、魔法使えるからって偉そうだがよ、大した魔法使えねぇんだからな。全然腹塞がってねぇしよ」
「魔力ゼロ男に言われたくないぜ、ははは。‥‥さて、オレも1発かまさないと気がすまねぇからな」
スタ‥‥
ボキボキ‥
ポキボキ‥
ワサンとヘラクレスは立ち上がり手を組んで鳴らした。
ふたりとも腹に風穴を開けられた状態で満身創痍であったが、それを物ともせず凛々しい姿でグレイアンに対峙していた。
「トマスとエリサは大丈夫なんだろうな」
「ああ。今頃道なき道を走って逃げている頃だ」
「よし、それじゃぁ心置きなく戦えるな」
「そうだな、上手く合わせろよ」
「お前がな!」
ダシュン!
ダシュン!
ヘラクレスは凄まじい跳躍を見せグレイアンとの距離を一気に詰めると強烈な鉄拳をグレイアンの頭部に叩き込む。
ドゴムン!!
グレイアンの頭部左半分が歪み、人間であれば明らかに即死状態であったが、グレイアンには効かないようで頭部の左半分が凹んだままの姿で平然と攻撃を仕掛けてきた。
ガコン!!
「ぐはぁ!」
グレイアンが振り下ろした平手打ちでヘラクレスは地面に倒れ込んだ。
その隙に背後に回り込んだワサンは短刀を思い切り振り下ろす。
「バイオニックソーマ」
超肉体強化の魔法で全身全霊の力を込めたワサンの一撃がグレイアンに炸裂する。
ガキィィン!!
「ちぃ!硬すぎだろ!」
ワサンの渾身の一撃も傷をつける事は出来なかった。
ガコォォン!
「グハァ」
グレイアンのあらぬ方向に曲がった足がワサンを直撃し、ワサンは回転しながら地面に叩きつけられた。
シュワァァァァァ‥‥
倒れ込んでいるヘラクレスとワサンの前に立つグレイアンは両肩から5本の尖った触手を出現させた。
「おいおいマジかよ」
「防げるかヘラクレス」
「さぁな。意外と終わりってのはこんな風に呆気ねぇのかもな」
「珍しく弱気じゃないか」
「冷静なだけだ。諦めてるわけじゃねぇ」
動けない2人がグレイアンの尖った金属の触手で無数の矢のように突き刺しまくられることは容易に想像でき、そのような攻撃を喰らえば流石の2人も生きてはいられないことは明らかだった。
シャシャシャシャァァ!!
2人は覚悟を決めた。
同時に5本の尖った金属製の触手が一斉にワサンとヘラクレスを襲う。
ブジョアァァ!
『?!』
死を覚悟した2人だったが、迫ってきた尖った触手は2人の皮膚に触れた瞬間、まるでゼリーのように崩れさった。
「エグ・ロ・ロイ・ガンタ・ベラ」
グレイアンは無表情のまま得体の知れない言葉を発したが、それはグレイアンの体が徐々に崩れ始めたからだと分かった。
「一体何が起こっているんだ?」
「分からないかワサン。凄まじい振動がやつの体を崩壊させているようだ」
ヘラクレスの言う通りグレイアンの周囲に空気の揺れが感じられた。
「アゴダ・ク・ソア・ブリ」
グレイアンは体勢を変えることなく両腕を後方斜め上に上げるとその両腕が何もないはずの後ろの木々の上層に向かって凄まじい勢いで伸びていった。
シャァァァ!!
グレイアンは何かの気配を感じ取ったのか、両腕を伸ばし攻撃を繰り出したのだが、まるで狙った獲物を仕留める槍のように伸びた両手が木の上層の茂みを叩いた瞬間、その茂みから何者かが飛び出してきた。
スタ‥‥
飛び出して来た者は空中で鮮やかな回転を見せながら別の木々へ飛び移ろうとしていた。
「え?‥‥お前は!」
ワサンは思わず目を見開いて叫んでしまった。
何故ならその目に映った存在をよく知っていたからだ。
ファァン‥‥ヒュルゥゥリィ‥‥
ブジョアァァ!!
グレイアンの両腕が突如先ほどの触手と同様にゼリーのように弾けて壊れた。
「アゴダ・マ・ヂク・ソア・ブリ」
ニュルル‥‥キュィィィン!
グレイアンは胸から腕を生やしその手のひらから黒い光線を発した。
茂みから出てきた者は空中を回転して着地する直前で避けきれない状態にあったが、何か棒のようなものを振った瞬間、光線がねじ曲がった。
「今よ!」
ヒュュゥゥン‥‥
上層の木々から姿を現した者が叫ぶと、突如上から風切音が聞こえ始めた。
次の瞬間。
ズバァァン!!
空から別の何者かが凄まじい速さで飛来し、グレイアンを真っ二つに斬り裂いた。
そして中から出てきたコアを掴みそのコアも斬り刻んで破壊した。
ほんの一瞬の出来事だった。
ドロォォォ‥‥
コアを斬り刻まれたためか、グレイアンは解ける様にして絶命した。
スタタ‥
木の上の茂みから現れた者と空から飛来した者がワサンとヘラクレスの前に立った。
死を覚悟してからグレイアンがあっという間に倒されたことで一体何が起こったのか分からないといった表情のヘラクレスに対し、ワサンは違う反応を見せていた。
目の前に立っているふたりは陽の光を背にしているため一瞬顔が分からなかったが、ワサンは安堵と懐かしさの笑みを浮かべていたのだ。
「エスティ!」
「あたしをそう呼ぶのはレヴルストラの者だけ。あなた一体何者?」
目の前に現れたのはエストレア・レストール・プレクトラム女王だった。
「オレだよ!ワサンだ!」
「はぁ?ワサンがそんな男前の‥人間の‥‥顔なわけ‥‥‥」
エストレアは以前の銀狼の顔とは違う姿のワサンに戸惑っていたが、何かを感じ取ったようだった。
「ワサン‥本当にワサンなの?!」
「そうだ!訳あってこんなニンゲンの顔になってるがな」
ガシ!
「!」
エストレアはワサンを抱きしめた。
「また会えるなんて‥‥来てくれてありがとう‥‥」
エストレアは涙ぐみながらワサンに礼を言った。
(そうか‥‥ティフェレトがこんなことになって心細かったんだな‥‥今や女王だから弱音も吐けなかったんだろう‥)
「会えてオレも嬉しいぜ。それはそうとそっちの‥‥まさかハルピュイアか?!」
エストレアと共に現れた者は美しい碧い翼を持ったハルピュイアだった。
「エスティ。こいつは何者?」
身長がエストレアとほぼ変わらないハルピュイアが警戒しながら言った。
「敵じゃないわ。以前話した私がホドにいた時のレヴルストラの仲間のひとりのワサンよ」
「ふぅん‥‥」
「お前、もしかしてケリーか?少女のハルピュイアって聞いたんだが、どう見ても成人してるように見えるが」
「何故私の名を知っている?!エスティ、やっぱりこいつら怪しいよ!」
ハルピュイアは警戒し構えた。
「待て!これを見てくれ!」
ワサンはポーチからスノウから預かった財布を取り出してハルピュイアに見せた。
「これ!!」
バッ!
ハルピュイアは奪うように財布を取ると、じっくり見つめ、匂いを嗅いだり味を確かめ出したりした。
そして次の瞬間、目から大粒の涙を流し始めた。
「これ、スノウの‥‥スノウはどこ!どこにいるの!」
ハルピュイアは訴えるようにワサンに問いかけた。
「やっぱりお前、ハルピュイアのケリーだな。スノウは今別行動しているが、このティフェレトに来ているよ」
「スノウ‥ここに来てる‥‥うわぁぁぁぁん!!」
ハルピュイアは泣き出した。
この成長したハルピュイアはスノウにケリーという愛称で呼ばれたハーピー上位種のケライノーだった。
「へへ‥そっか。スノウも来てるんだね‥‥」
エストレアは涙ぐみながらケリーを見ていた。
「あのよ、感動的な再会を喜ぶのはそれくれぇにして、治療してくれるとありがたいんだがなぁ。おそらく俺もワサンも数分も持たねぇ。もし回復魔法が得意なら‥‥だが」
腹部に風穴が開いているヘラクレスが申し訳なさそうに言った。
「え?!何この傷!何で生きてるの?!ってかあんた誰?!ってかワサン!あんたも腹が抉れてるじゃないの!ってか何で生きてるの?!」
「ははは‥‥」
(女王になっても相変わらずの慌てようか‥‥)
ワサンはホッとした表情を見せた。
ワサンとヘラクレスはエストレアの回復魔法によって風穴が空いた腹も元通り回復し、一命を取り留めた。
エストレアの回復魔法能力は以前に比べ格段に向上されていたようで、みるみるうちに傷が塞がっていったのだが、エストレアは最後までふたりが生きていたことが奇跡だといって驚いていた。
傷が癒えて普通に行動できる状態になったワサンとヘラクレスは、エストレアとケリーを連れてトマスとエリサを追いかけつつ、ハルピュイアの里へと向かった。
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