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<ハノキア踏査編> 18.グレイアン

18.グレイアン


――メルセンタカラン山脈麓――


 ワサンたち4人は巨大な山脈の麓を進んでいた。

 山脈の頂上付近には雪が積もっている。

 雄大な景色でありこの旅がピクニックならよかったとワサンは思った。

 前方を見ると森が広がっているのが見えた。


 「あの中にハルピュイアの巣がありますわ。ケリーもあの森の中のどこかにいる可能性が高いかと思われます」

 「あの森っていっても結構でかいぞ?!」

 「弱音を吐いていますか?ワサンのおじさま」

 「‥‥‥‥」


 ワサンは黙ってしまった。


 「しらみつぶしに探すよおじさんたち」

 「はいはい‥‥」


 ワサンとヘラクレスは完全にトマスとエリサの尻に敷かれた状態となっていた。


・・・・・


 メルセンタカラン山脈の麓の奥、カレンザカタラン山脈と交わっている場所に巨大な森が存在する。

 ワサンたちはその森の中にあると言われているハルピュイアの里を目指して進んでいた。

 メルセン樹林とは違い圧迫感はなく、陽の光が差し込む美しい森であった。

 森の歴史は古いと思われ、長い年月とともに様々な形へと変化した木々一つ一つが癒しを与えるような不思議な美しさを持っていた。

 岩や地面には緑の絨毯のような苔で覆われており、陽の光のコントラストで輝くような緑と心を落ち着かせてくれる深い緑が見てとれた。

 獣道ではあるが人が通ることの出来る道があり、苦戦することなく森の中を散策できている。


 「中々見当たらないな」

 「当たり前ですわ。かつてエレキ魔法の永久機関を作ろうとしたスメラギ様の配下の者たちによってハーピーやハルピュイアの翼が狙われてケリーが攫われる事件があったのですから、人間たちから身を隠すためには森の奥でわかりづらい場所に里を作って当然です」

 「スメラギ。スノウから名前は何度も聞いている」

 「ハルピュイアの羽をむしる指示を出したのがスメラギだって言うなら、そいつは目的のためなら手段を選ばないやつってことだな」

 「スメラギ様はそんな方ではありませんわ。これ以上の侮辱は許しませんよヘラクレスのおじさま。あくまでレネトーズ卿とその配下、後に悪魔だったと分かりましたが彼らの勝手な行動でそのような酷い仕打ちが行われていたことが分かっています。スメラギ様が知っていたら決してそのような指示は出されませんでしたわ。事実、レネトーズ卿はその事件以降貴族の称号を剥奪されています」

 「何だかよく分からんが、スメラギってのは慕われていることは理解した。つーかそんな事はどうでもいい。早いところハルピュイアの里を見つけないと。そろそろ腹も減ってきたぜ」

 「ヘラクレスのおじさん、本当に自由人だね。忍耐力って言葉知ってる?ワサンのおじさんは文句も言わずに探してくれてるのにさ」

 「お前なぁ‥‥!!」


 バッ!トォン!


 突如ヘラクレスとワサンは何かに反応し、トマスとエリサを抱えて大きめな木の影に隠れた。

 トマスとエリサは突然抱き抱えられ口も抑えられたことから何が起こったのかとヘラクレスとワサンを睨んだが、すぐに状況を察して大人しくなった。


 キュィィィィィィィン‥‥


 獣道の後方から異様なオーラを放つ何かが近づいてきたのだ。


 (野郎‥‥しつけぇな。ワサン、警戒しろ)

 (分かっている。最悪戦闘になるが、こいつら2人を逃さなければならないぞ)


 ヘラクレスとワサンは目で会話し頷いた。


 キュィィィィィィィン‥‥


 異様なオーラが徐々に濃くなっていく。

ヘラクレスは木の影から少しだけ異様なオーラの方を覗き込んだ。


 (やっぱりか)


 そこに現れたのは宙に浮いた隕石とその上に乗った通常のグレイとは違う姿のグレイだった。


 (あいつ‥‥これまでのグレイとは違うな。明らかに)


 ヘラクレスはワサンの顔を見て頷いた。

 それに呼応するようにワサンも頷き両手にトマスとエリサを抱えた。


 (少しだけ静かに耐えてくれ)


 ワサンはふたりに優しい笑みを見せながら目で伝えた。

 トマスとエリサは今が危険な状態なのだと察して頷いた。


 ドォォン!バッゴォォォォォン!!


 ヘラクレスが凄まじい跳躍を見せ、隕石に強烈な拳撃を叩き込んだ。

 宙に浮いた隕石は後方に吹き飛んだ。

 

 スタ‥


 それに動じることなく異様な姿のグレイがゆっくりと地面に着地した。

 身長は通常のグレイの3倍近くの3メートルはあり、ヘラクレスとほぼ同じ背丈となっていた。

 表皮は液体金属のように艶やかなシルバー色で、一番の特徴はその目だった。

 通常のグレイは顔に対して大きく釣り上がった目をしているが、この異様な姿のグレイの目は親指の爪ほどの目が左右に3つずつ横に並んでいる状態であり、合計6つの目がそれぞれ不規則に瞬きしていた。

 鼻や耳はなく、口も小さなものがあるが、開くのかどうかも分からない。


 「お前少し見ないうちに随分と変わったな。思春期は終わったのか?」

 「ゴゴ・ベルザ・ニ・アレガルガ」

 「相変わらずこの世界の言葉は喋れねぇってか。人の皮被っている時は話せて、化けの皮剥がされたら話せなくなるってどういう構造だよ」

 「馬鹿‥に‥するな‥‥下等‥生物」

 「ほう!喋れるじゃねぇか!」

 「我ら‥がお前たち‥の言語を‥‥使わないのは‥‥実に‥‥無駄な言語体系だから‥だ。お前たちの意思伝達に使う言語はとても稚拙で‥‥回りくどいのだ」

 「言ってくれるじゃねぇかシルバー野郎。お前は最早グレイじゃねぇな。その見た目と俺たちの世界の言語は扱えるグレイ亜種だ。グレイ亜種、言いづれぇからお前のことをグレイアンと呼んでやる」

 「拒否する‥‥そもそも我らはグレイという名ではない。プレアデス星系のオウンティ系から来た高等な‥‥種族なのだ」

 「いいや、お前はグレイアンだ。俺が命名した。喜べ。さて、能書きは終わりだぜ。さぁかかってこいよ」


 グザァ!!


 「な‥なに?!」


 ヘラクレスは腹部に生じた激痛と自分の腹から飛び出ている銀色の手を見て驚きと苦痛の表情を見せた。

 

 (何が起こった?!見えなかったぞ‥‥俺が目で追えないほどのスピードでしかも背後から簡単に俺の鉄の肉体を貫きやがった!)


 「グバァ!」


 ヘラクレスは大量の血を吐いた。


 「脆弱な肉体だ。だが、この世界の下等生物の中では優秀な体組成をしている。お前はニンゲンではないな?」

 「て、てめぇ‥‥随分と流暢な話振りになったじゃねぇかよ‥‥やっと俺たちの世界の‥‥言葉が話せるように‥‥なったか下等生物‥‥」

 「我を愚弄のするのか」


 グリグリ‥‥

 

 「うぐっ!」


 グレイアンは貫通させた手を回しながら腹を抉った。

 

 ガシ!


 ヘラクレスは貫通したグレイアンの手を掴んだ。


 「さぁ‥‥逃げられねぇぞ‥‥お前‥‥」


 ドゴォォォォン!!


 ヘラクレスはグレイアンの手を押さえたままもう片方の腕の肘をグレイアンの脇腹に叩き込んだ。

 凄まじい威力でグレイアンの脇腹はヘラクレスの肘の形に凹んだ。


 「離せ」

 「離さねぇよ」

 

 ヘラクレスは激痛に耐えながらも必死にグレイアンの手を握り掴んでいる。

 もし手を引き抜かれたら再び目で追えないほどスピードで攻撃を仕掛けてくることは明白だった。


 「くだらない」


 グレイアンはもう片方の手を振り上げた。

 そして一気に振り下ろす。


 ガギィィン!


 振り下ろした手刀が途中で止まっていた。

 グレイアンの手刀は確実にヘラクレスの心臓の上の肩から一気に振り下ろされ、腹を貫通させた力と速さによって上半身が縦に割られるように切られていたに違いない。

 だが、その手刀は背後から詰め寄り攻撃してきたワサンによって防がれたのだ。


 「遅かったじゃねぇか」

 「お前がすぐにやられ過ぎなんだよ」

 「もう一人のニンゲンだな。お前もニンゲンとは違う体組成だ。いや、構造そのものが違う。脆弱には変わりないが興味深い」

 「何だよこいつ。グレイの癖に喋り出したぜ」

 「こいつはグレイアンだ。グレイの上位互換ってやつだな‥‥油断すると致命傷を負うぜ」

 「分かっている。お前のその無様な姿をみればな」


 ガシ!


 「うぐ!」


 突如グレイアンは手刀の手をあらぬ方向に曲げてワサンの頭部を掴んだ。


 グザァ!!


 「がはぁ!」


 右足が不自然な角度でワサンの腹部に振り上げられ突き破った。


 「ぐばぇ‥‥」


 グレイアンの足がワサンの腹部に突き刺さり、ワサンは口から血反吐を吐いた。


 「脆弱だ。このままお前たちの生命を停止させる。そして森の奥に潜んでいるニンゲンの雄と雌も殺す」

 「!!‥‥させ‥るかよ!」


 ガキィィン!!ガシ!ゴコォォォン!!


 ワサンは短刀を振り下ろしたが、グレイアンはその短刀の刃を口で噛み付いて抑えた。

 そしてそのままボレーシュートのように足を振ってワサンを放り投げるようにして飛ばした。


 ズザザァァ‥‥


 その後すぐにヘラクレスも放り投げられた。

 そしてグレイアンは倒れずに構えをとった。


 「大丈夫か‥‥ワサン」

 「お前のほうこそ‥‥」


 ワサンはウルソーの回復系クラス1の魔法レストレーションをヘラクレスの腹部に向かって唱えた。


 「おい、俺はいい。まずは自分の腹を治せよ」

 「やってるぜ。とにかく動くんじゃないぞ‥‥」

 「そうも言ってもいられない様だ‥‥」

 

 グレイアンがゆっくりと一歩一歩前に足を進め、ヘラクレスとワサンの方へと近づいてきた。


 「万事休すか」


 ふたりは致命傷を覚悟した。




いつも読んで頂きありがとうございます。

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