<ハノキア踏査編> 13.レジスタンス
<レヴルストラ以外の本話の登場人物>
【シュカレトゥーダ・ロロンガイア】
ティフェレトのドワーフ王国ロロンガ・ルザの王家ロロンガイア家の次男の王子。王位継承第2位にあたる存在。兄エンテン・ロロンガイアにロロンガ・ルザを託し、自身はティフェレトに残ってレジスタンスを率いてグレイから人々を守っている。
【トマス】
レジスタンスの一員。
13.レジスタンス
「うん。僕はまだ魔物に変えられていない歴とした人間だよ」
「!!」
(ニンゲン?!‥‥確かにグレイ特有の臭ぇ臭いはしないが、信じていいのか?!こいつなぜオレがグレイじゃないって見抜けたんだ?‥‥その点が謎だ‥‥信用していいのか判断できねぇぞ‥‥)
ワサンは驚きの表情で目の前の青年を見ていた。
「疑っている目だね。僕が人間かどうか確かめる術がなくて戸惑っている感じも見えるよ」
「‥‥‥‥」
図星をつかれたワサンは警戒した。
その様子を見た青年は人差し指を差し出した。
パチン!ボワッ!
「!」
青年が指を鳴らした瞬間に指先に炎が灯り出したのだ。
「音魔法。これで見分けられるのは知ってる?」
「あ、ああ」
「じゃぁ証明できたね。それでなぜおじさんが人間だと分かったか、だけど」
そう言いながら青年はポーチから音叉を取り出した。
「それは?」
「音叉だよ。音魔法は振動に宿る魔法なのは知ってるよね?あのオンチー星人たちは振動が嫌いなんだよ。振動であれば魔法を宿させなくても音だけで良くて、この音叉は音を周囲100メートルくらいに広げることが出来るんだ。それでオンチー星人たちを追い払ったんだけど、おじさんは何ともなかったじゃない。それで確信したんだよ。おじさんは人間だってね」
「なるほど。それでその‥‥何でお前は人間のままなんだ?」
「そうなるよね。こっちに来てよ。紹介するよ」
「?」
ワサンは誘われるままに部屋の奥の扉から中へ入っていく。
扉の先は長い廊下になっていて、しばらく歩くと青年は立ち止まり壁を触り始めた。
カチ‥
ゴガガァァァ‥
壁が引き戸になっており開き始めた。
青年はワサンを連れて中へ入る。
そこからさらに廊下が続く。
「まるで仕掛け迷路だな」
「当たり前だよ。オンチー星人は危険だからね」
(オンチー星人ってのはグレイのことだよな。こいつらはオンチー星人と呼んでいるのか)
幾つかの仕掛けを解除してやっと大きめな部屋に到着した。
「!!」
そこには優に100名を超える人数の人々が何やら忙しそうにしていた。
「ここは?」
「レジスタンスだよ」
「レジスタンス?」
「レジスタンス知らないの?」
「いや、分かるが‥‥」
「ま、いいや。とにかくレジスタンスのリーダーに会ってもらうよ」
そう言うと青年はワサンを連れてさらに奥へと進んでいった。
その間、人々が愛想良く挨拶してきた。
(何でこいつら明るいんだ?しかも夜中だぞ‥‥)
「ここだよ」
コンコン
青年はドアをノックした。
「入れ」
ガチャ‥
青年はワサンを部屋に招き入れた。
そこにいたのは壁に貼られているティフェレトの地図を腕を組みながら眺めている男だった。
慎重は低く、150cm程度だが、太く筋肉質の二の腕から屈強な人物であることが窺えた。
髪は赤毛に近い茶で毛量が多いのか、ポニーテールを3つ結っている。
「ドワーフか」
ワサンの認識通り、彼はドワーフだった。
「よく来ましたね」
男はワサンの方へ顔を向けた。
端正な顔でドワーフ特有の髭はなく、清潔感ある容姿だった。
「私はシュカレトゥーダ・ロロンガイア。シュカと呼んでください」
「ロロンガイア‥‥確かドワーフの王族の名前じゃ‥」
「ほう、ロロンガ・ルザの王家の名をご存知とは。貴方は何者ですか?」
「オレはワサンだ」
「よろしくワサン」
「ここは?」
「レジスタンスですよ。ご存知かと思いますが、ギョロ目たちに侵略されたティフェレトを取り戻すために活動しています」
「!‥‥ギョロ目‥‥グレイのことか?」
「グレイ?‥‥へぇ、貴方がたはやつらのことをグレイと呼んでいるのですね。なるほど、その方が呼び名としては使い勝手がよいですね。ギョロ目という呼び名はどうも下品で好きじゃなかったのです。やつらは下品なので、それはそれで適切だったのかもしれませんが、これからは我々もやつらのことをグレイと呼ぶことにしましょう」
「あ、ああ‥‥。そ、それでどんな活動をしているんだ?」
「それは貴方のことをもっと知ってからお話ししますよ。おそらくグレイは共通の敵です。同じ敵の前では仲間意識も芽生えますが、信頼には至りません。まずはお助けした貸しを返してもらう意味でも貴方の素性を教えてください」
「借りを作った覚えはないんだが、まぁいい。オレたちは知り合いを探して旅をしている」
「知り合い?どこのどなたですか?」
「‥‥‥‥」
(随分ズケズケと突っ込んでくるなこいつ。話してもいいんだろうか‥‥)
ワサンは周囲を見渡した。
(ティフェレトの地図に名簿のようなものがある‥‥あれはニンゲンのリストか‥‥いくつかXマークが付いているがあれは魔物化されたってことか‥‥ん!?)
ワサンはとある名前に目を見開いた。
(エスティ!)
そこに書かれていたのはエストレアの名だった。
「もしかして貴方の探している人物とはエストレア女王ですか?」
「!」
「図星ですか。我々も捜索しているのですが、中々手掛かりがなくて。貴方は女王とお知り合いですか?」
「ああ、まぁ」
「もしかして、レヴルストラの方ですか?」
「!!」
「やはりそうですか」
ワサンはシュカと名乗った目の前のドワーフの洞察力を警戒した。
質問をされるたびに自分の反応から情報を抜き取られていく感覚になったためだ。
「そう警戒する必要はありません。レヴルストラの方と分かれば我々は貴方を全面的に信頼いたします。私の素性、レジスタンス、そしてこの世界で何が起きているかもお話ししましょう」
シュカはワサンにソファに座るよう促して話し始めた。
「今この世界がギョロ‥グレイに侵略されているのは知っての通りです。数年前、超巨大隕石が飛来しティフェレトが壊滅すると言われた時、ノーンザーレのスメラギとレヴルストラのリーダースノウ・ウルスラグナ、そしてティフェレト救世主のエストレア女王の活躍でティフェレト滅亡は回避されました。そこで世界は救われた。誰もがそう思っていたのですが、実際には違った。破壊によって流れ星のように散った隕石の欠片はティフェレトの大地に落下しました。やつらはその隕石の中に潜んでいたのです」
「‥‥‥‥」
ここまではスノウから聞いた話と同じであったため、ワサンは冷静に聞いていた。
「やつらは擬態能力を有していました。ですが、その擬態能力は振動に弱く、音魔法を使っているティフェレトの民に最初は劣勢を強いられていました。ですが、やつらは人々を次々に魔物に変える手段に打って出たのです。特殊な呪文のような言葉を発すると人々は次々に魔物へと変化し音魔法だけでなく声まで奪われました。それで一気に形勢は逆転し人々は次々と魔物へと変えられ、やつらはその人々へと成り代わっていったのです。その中で逃げ惑う人々を救ってくださったのがエストレア女王でした」
「!!」
「彼女はラザレ王宮都から命からがら逃げ出し、そのまま人々を引き連れてここ、メルセボーへとやってきました。この地も半分はグレイによって侵略されていましたが、エストレア女王はアウロスを振い、皆の音の力を使ってグレイたちを一掃しました。その隙に王家が遥か昔に残した地下道に人々を非難させたのです」
「!!‥‥エスティ‥‥」
「仲が良かったのですね、女王と」
「ああ。短い間だったが仲間として一緒に冒険したんだ。苦楽を共にした」
「そうでしたか」
「それであんたは何故ここに?ドワーフたちは街ごとこの世界から消えたって聞いたぜ?」
「なるほど、よくご存知ですね。実は私はロロンガ・ルザの王族のロロンガイア家の次男でエンキ王の息子なのです。私の弟のゴーザノルはエストレア女王やスノウ・ウルスラグナと共に旅をした仲間でした。弟は越界したスメラギの後を追って越界してしまったのですが、私はゴーザノルからこの世界を託されていましてね。我らは3兄弟で、長男のエンテン、次男の私、三男のゴーザノルそれぞれで役割を分担したのです。エンテンはロロンガ・ルザを守り、私はティフェレトをニンゲンたちと共に守る。そしてゴーザノルは兄や私が成し得ない自由を全うする。でもグレイが現れたのは弟が越界した後でしたから、もし弟がグレイの存在を知っていたなら残っていたでしょうね。まぁそれはさておき、私はこのティフェレトを守ると決めたので、残りました」
「ドワーフの街はどこに?」
「グレイの危機を知り、エンキ王の判断のもと、街全体を別世界へと飛ばしました」
「!!‥‥そんなことが出来るのかドワーフは?!オルダマトラほどの巨大な大陸が飛ばせるくらいだから可能なんだろうが‥‥」
「オルダマトラ!‥‥何故その名を?!」
「あ、いや‥」
ワサンは思わず口が滑ってしまったと思った。
「いえ、その話は後にしましょう」
シュカはトマス青年を気にして話題を元に戻した。
「エストレア女王はレジスタンスを立ち上げた後、他の街も救いに行くと言ってこの街を去りました。メルセボーのレジスタンスを私に託してね」
「そういうことだったのか」
「ええ。貴方は女王をお探しでしたね。実は我々も探しているのです。彼女がここを去ってから大分時が経ちましたが、その後全く連絡がありません。我々も心配していまして」
「そうか‥‥」
「もし探しに行かれるのでしたら情報提供しましょう」
「おお、それは助かる」
「とにかく今は夜中です。貴方は昼に活動されているのでしょうからゆっくり休まれるとよいでしょう。我らはグレイの眠っている夜に活動しているので、また明日の夜、入り口までお越しください。そしてこの音叉を鳴らしてくれればここまでお連れします」
そう言ってシュカは音叉をワサンに手渡した。
ワサンはその日はそのまま宿へ戻ることにした。
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