<ハノキア踏査編> 12.メルセボーの人影
12.メルセボーの人影
完璧な闇が続いている。
スノウ達が3人で進んでいることを確認する術は手首に結んだロープと違いが発する声と音だけだった。
サイトオブダークネスも発動することが出来ないため何も見えないのだ。
「シア、シルゼヴァ、いるな?」
「はい」
「ああ」
定期的に声で確認しながら進む。
常にロープに伝わる感覚と声、歩く靴音とその感覚を把握する事に努めていた。
グレイは人に擬態する。
ならば声すら真似る可能性もあった。
そのため、ちょっとした変化も見逃さないようロープの感触、声、足音の3つで互いの存在を把握し続ける事にしたのだ。
トンッ
「!‥止まれ。何かある」
スノウは爪先が何かの障害物に当たったことで足を止めたが、そのまま周囲を確認し始めた。
手探りで周囲を確認するとそこに突起物を発見した。
「何かあるぞ‥‥」
「気をつけろ。トラップやもしれん」
「ああ」
ザザザ‥‥
「何か装飾のようだな。手触りだけでは分からない」
ビン‥
「?!」
小さな電子音が聞こえた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
『!!』
突如目の前に縦の眩い光の線が現れた。
光の線は徐々に広がっていく。
壁が左右に動き光が差し込んでいたのだ。
ゴゴォォォン‥‥
開いた壁の向こうの世界の光に目が慣れていくにつれて、徐々に視界が開けていく。
『!!』
ヒュゥゥン!!ガキィィン!!
突如刃が振り下ろされたがスノウは咄嗟に波動氣の螺旋で弾き返した。
ズババババァァァン!!
フランシアが腰を屈めて剣を抜いて凄まじい速さで切り付けていく。
ドドササァァ‥‥バタタタン
一瞬で10体以上の何者かが床に倒れた。
床に無惨に倒れ落ちたのは悪魔たちだった。
「悪魔か」
「ああ。だが、これで確定だな。ここは越界エネルギー充填設備のあるコントロールルームだ」
そこに広がっていたのはホドの越界エネルギー充填設備のある施設とほぼ同様の風景だった。
「悪魔たちはここを守っていたのね」
「ホドであの場所を守ってくれているロムロナやニトロ同様にディアボロスたちもここに守りを置いたんだろうな」
「もしくは単にティフェレトに寄った際にスムーズに越界エネルギー充填を行えるように操作する役割を置いたか。だが、グレイに侵略されているこの状況ではここを守っていたと見た方がいいだろう。グレイ相手ならこの程度の守りで十分だったのだろうが、現れたのが俺たちで予定が狂ったということだな」
「ああ。早速ヴィマナを呼ぼう」
「それならば俺が呼んでこよう。少しここを調べたいのもあるしな。スノウ、お前は2班を追いたいんだろう?」
「すまない」
「ふん。とっとと行け。俺は自分の知らない者を救う趣味はないからな」
「ははは‥‥じゃぁ頼んだ」
スノウとフランシアはその場をシルゼヴァに任せて第2班のワサン、ヘラクレスと合流するために出発した。
・・・・・
第2班のワサンとヘラクレスはノーンザーレから東のメルセボーを目指して進んでいた。
「この先にメルセボーって街があるな」
ワサンは地図をみながらヘラクレスに話しかけた。
「寄っていくか?っていいたいところだが、寄ってみたところでグレイだらけだろうな」
「一応確かめる必要はある。それにエスティとケリーが潜んでいる可能性もあるからな。寄っていこう」
「分かったが、攻撃されたら俺はやり返すぜ?」
「おいおい頼むよヘラクレス。ことを荒立てると何かと面倒だ。くれぐれも短絡的に暴れないでくれよ?」
「分かってるって。あくまでやつらが襲ってきた場合だけだ。こっちから何かすることはねぇよ」
ワサンとヘラクレスはメルセボーの入り口に到着した。
街の門は解放されており、特に警備の者もいなかったためすんなりと街の中へと入ることが出来た。
「随分と無防備だな。この街は」
「既にこの街がグレイに占領されちまっている証拠だな。街を守るのは魔物が襲ってくるからだろうが、その魔物は自分たちが魔物に変えちまった元ニンゲンだ。その魔物たちはすっかりグレイに怯えてしまっているからな。門をあけっぴろげても何の脅威もないってことだ」
メルセボーの街は賑わっており、レストランでは酒を飲む住民たちが楽しそうに会話していた。
道具屋や、娯楽場もたくさんの人が集まり活気がある様子だった。
「ニンゲンの真似事か?趣味悪いぜこいつら」
「おい、聞こえたらどうする!」
ワサンは小声で叫ぶように言った。
「ビクビクすんなワサン。もう奴ら気づいてるぜ?」
「?!」
ワサンはヘラクレスの言葉に反応し、街の住人たちを観察した。
(何だこいつら‥‥楽しそうに会話しながらチロチロとオレたちを見てやがる‥‥なるほど何らかの方法でオレたちがグレイじゃないってことが分かっているってことか?)
「さ、行こうぜワサン。堂々としてりゃぁいい。襲ってきたら好都合だ。この街全員で襲ってきたって勝てる自信があるからな」
「戦いたいだけだろ‥‥だが、こいつら何らかの方法でグレイと人を見分けているぞ。一体どうやって?」
「色々とあるだろうな。体温を検知して見破っているとか、吐く息の色とか、オーラとか。奴らと違う点を見つけるのはそう難しくないと思うぜ?なんつってもニンゲンを魔物に変えられる力があるんだからな」
「‥‥‥‥」
ワサンは楽しそうに会話しつつ、チロチロと自分たちに目線を向ける不気味さにゾッとした・
・・・・・
――夜も更けた頃――
ムク‥
ワサンは徐に起き上がるとヘラクレスがいびきをかいて寝ているのを確認した。
(寝かしておくか‥‥まぁこいつなら襲われてもやられることはないしな。それに誰かが入ってきてもすぐに気づけるトラップも扉につけてある。‥‥さて、街の中を調べに行くか。昼間だとグレイの視線が気になって調べることも出来ないからな)
ワサンはベッドから出ると、窓を静かに開けた。
「気をつけて行けよ」
「!」
ヘラクレスが小声で言ったのを聞いてワサンは少し笑みを浮かべると窓から外へ出ていった。
スタ‥
周囲を警戒しながら街の中を進んでいく。
(夜だからといって流石に出歩くわけもないか‥‥探すなら下水路か、貧困街か‥‥とにかく闇雲に見回っても仕方がない。一旦街の端まで行ってみるか)
ワサンは夜道を警戒しながら街の端を目指した。
家々が立ち並んでいるのは変わらないが小さく古く傷んでいる家々が増えていることに気づいた。
(貧困街が近いのかもしれないな。家の中の生命反応が次第に増えているし)
ワサンはロゴスの感知系クラス1魔法のライフソナーで周囲の生命反応を確認しながら進んでいた。
「!」
(まずいな‥‥感づかれたか)
半径10メートル程度であったが、ライフソナーに反応する動く何かを感知したのだ。
しかも次第にその数が増えてきていた。
(つけられているってレベルじゃないな。襲う気満々って感じだ。‥‥どうするか)
タタン!
ワサンはいきなり走り出した。
凄まじい速さで走るワサンにつけてきていたグレイたちは追いつくはずもなくすぐに引き離された。
(まいたか)
「!!」
方々から迫ってくる生命反応をライフソナーが感知した。
(グレイのやろう‥‥なりふり構わず本気で襲ってくるかよ)
トン!
ワサンは大きく跳躍し家の屋根に着地した。
タタタタン‥‥
家の屋根を走っていくが、そこから見えたのはそこら中にまるで夢遊病のように彷徨いている人々の姿だった。
もちろんその中身はグレイだ。
「!!」
ワサンの視界にそこら中の屋根に登ってきている人々が映り込んだ。
タタン!
「ちっ!」
ワサンは一旦立ち止まって周囲を確認した。
そこら中の屋根の上に人々がのぼり、逃げ道がなくなっていた。
(仕方ない。ことを荒立てたくはなかったが戦うか)
ワサンが腰に下げている短刀を抜こうとした瞬間。
キィィィィィィン‥‥
『ぎぃぃやぁぁぁぁぁぁ!』
突如音叉のような音が響いたのだが、その瞬間周囲にいる人々が苦痛の表情で叫び出した。
「こっち!」
路地の影からワサンを呼ぶ声がしたため、視線を向けると影から慌てたような動きで手招きしているのが見えた。
(罠か?‥‥いや、罠でも戦うのは一緒だ)
ワサンはその誘いに乗って声のする方へと向かった。
スタ‥
「こっちだよ!」
家の隅に1メートル角のゴミ箱があり、そこの蓋を開けて立っている人物がその中へ入るように促してきた。
ワサンは警戒しつつもその中へと入った。
「ついてきて」
自分を招き入れた者も後から入ってきて蓋を閉めるとワサンに自分についてくるよう促してきた。
薄暗く細い通路が続いている。
ジメジメとした息苦しい通路で慎重に進んでいく。
ガチャ‥
通路の途中にあったわかりづらくカムフラージュされた扉を開くと中には部屋があった。
ガチャ‥
「ふぅ‥」
ワサンを誘導してきた人物は帽子とマスクを外した。
「危なかったね、おじさん」
「お、おじさん?!」
姿を見せたのは17〜18歳の青年だった。
「僕はトマス。安心していいよ。僕はオンチー星人じゃないからね」
「オンチー星人?」
「うん。僕はまだ魔物に変えられていない歴とした人間だよ」
「!!」
ワサンは驚きの表情をみせつつトマスと名乗った青年を見ていた。
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