<ハノキア踏査編> 8.3つの目的
<レヴルストラ以外の本話の登場人物>
【ルー・サイファノス】
ラザレ王国元宰相。今はグレイの攻撃から逃れるため白の塔に引きこもっているが、小太りの中年男性の見た目からは想像もできない高貴で威圧感あるオーラを発している。
【ゼノルファス・ガロン】
ティフェレトを守護するリュラーのひとりで音破をあやつるリュラー最強の剣士でありリュラー統括を担っている。ルー・サイファノスと共にグレイの脅威から逃れるため白の塔におり、他のリュラーとともに単独行動のグレイを捕らえては拷問し魔物に変えられた人々を元に戻す方法を聞き出そうとしている。
【レーノス・ムーザント】
ティフェレトを守護するリュラーのひとりで音速の音魔法で戦う。素早さはリュラー随一だが、剣技はそれほどでもない。ゼノルファスの弟子でソニック、ソニアにとっての兄弟子。
【ルーナ・テッセン】
ティフェレトを守護するリュラーのひとりで音撃の音魔法を操る女剣士。強さに執着する性格で自分の剣技に自信を持っているが、実は努力家であり、剣技への自信は努力の裏返しでもある。
【ナザ・ルノス】
ティフェレトを守護するリュラーのひとりで音斬の音魔法を操る女剣士。ティフェレトを守護することより、王を守護することを優先する家系で育ったため、ティフェレトの平和より王の身の安全を最優先にする性格。
【グレイ】
外来生命体。銀色の肌に巨大な頭部と目を持つことからグレイと名付けられた。
ティフェレトを襲った隕石の中に潜んでいたと思われる不気味な存在。
8.3つの目的
「奴らはラザレ王国との国交があるにも関わらずラザレの危機を知って、ティフェレトを捨てたのだ!」
ザン!
スノウはあまりの事態に衝撃を受けた。
ルー・サイファノスは珍しく声を荒げて言ったこともあり、スノウは言葉を失ってしまった。
「言葉も出ないとは‥‥。ティフェレトを救った英雄スノウ・ウルスラグナも所詮は人の子。情けない限りだがまぁ無理も無いか。常識の範疇を超えてはいるからな」
ナザ・ルノスの失望感ある物言いにフランシアは怒り混じりの表情で彼女に話しかけた。
「貴方、名前は?」
「私か?ナザ・ルノス。音斬の使い手のリュラーだ。そして王の剣でもある‥‥いや、今は王を守れなかったただの折れた剣だ‥‥」
ナザは少し項垂れたように視線を落としながら言った。
「貴方が何をミスし、何に絶望しているのかなんて興味は無いわ。私の関心ごとはマスターであるスノウが侮辱されたってこと。訂正しないのならここで殺してあげるわ。折れた剣とか自分を表現していたけど、女王を守れない時点で剣ですらないわね。ただの無能な女だわ」
「何を!!」
ガキィン!!
ナザが剣を抜き音斬を放つと同時にフランシアも細剣を抜きそれを受けようとするが、間に凄まじい速さで入り込んだスノウが両方の剣を人差し指と中指で挟んで止めた。
『!!』
ナザはもちろんのこと、ゼノルファス、レーノスもスノウの動きに驚きを隠せなかった。
「スノウ。貴方のその動き‥‥」
ゼノルファスが言葉を詰まらせながら言った。
それに対し、フランシアがドヤ顔で言葉を返す。
「ゼノルファスとか言ったわね。ナザ・ルノスは私の言葉に激情を露わにして力任せに剣を振り上げたわ。しかも音の斬撃のおまけ付きで。でもマスターにそんなもの通用しない。もちろん私の全力の一撃ですらね。そしてナザ・ルノス。貴方、剣を動かすことが出来ないんじゃない?」
「‥‥!!」
ナザは剣を引き戻そうと手を動かすがびくともしないことに気づいた。
「マスターは貴方の両手の全力を片手の2本の指だけで軽々抑え込んでいるの。この歴然たる力の差を理解出来たのなら、金輪際マスターを侮辱するのはやめた方が身のためね。そして言っておくけど、私は全世界でマスターの次に強いから」
「くっ!!」
その言葉を聞いたワサンは苦笑いしている。
(スノウが1番はいいけど、お前が2番ってことはないだろう‥‥)
スノウは冷静な表情でフランシアの方を見て話し始めた。
「おれ達は敵じゃない。剣を振るう相手を間違えるな。それとシア、いちいち反応しなくていいよ。おれを思ってくれてのことだから嬉しいが、おれ達は喧嘩をしにきたわけじゃ無いんだ」
「分かりましたマスター」
スノウは剣を放した。
「宰相」
「その呼び名はよせ、スノウ・ウルスラグナ。私はもう宰相ではない。ただの逃げて身を隠している老いぼれだ」
「いや、老いぼれがそこまで高貴で威圧感あるオーラは出せない。あと、おれのことはスノウでいい。ところでロロンガ・ルザが消えたのは追々確認するとして、グレイは化けの皮が剥がされてあの状態になった後、人間の姿に戻れるのか?」
「いや戻れない。少なくとも我らが実験した中では戻ることは出来なかった。先ほどもナザの攻撃で表皮が溶けたのを見ていたな?あのまま元に戻ることはない」
「そうか、それじゃぁ音魔法の強い振動で成りすましている表皮を破壊すればグレイ本体が露わになるってことだな」
「そうだ。だが、加減が難しいのだ」
「どういう意味だ?」
「リュラーの中でグレイの表皮を破壊できるのはルーナ・テッセンとゼノルファスだけなのだ。他の者の音攻撃は効果がないか、効果がありすぎて殺してしまうのだ」
「俺から説明しましょう」
ゼノルファスがそれぞれのリュラーの音攻撃の特徴を踏まえて説明し始めた。
「俺の音破は音の破壊波動です。波動を操れば奴らの表皮だけを破壊することが出来る。直接波動を調整できますからね。ルーナの音撃もそうだ。斬撃と違って、拳撃ですからね、直接当てるにせよ、調整が容易なのです。一方レーノスは音速攻撃だ。その衝撃はグレイを殺してしまいます。ナザの音斬も同じです。音の斬撃が飛ぶにはそれなりの音魔法を込めなければならないんですが、斬撃が飛ぶまで音魔法を込めるとグレイを殺してしまう威力にまでなってしまうのですよ」
「なるほど。グレイは意外と脆いんだな。ちなみにどの程度手加減して表皮破壊しているんだ?」
「感覚ですからね、上手く説明ができませんよ」
「そうか。それなら実践で覚えるしかないな」
その会話を聞いてワサンが怪訝そうな表情で問いかけてきた。
「そんな弱っちい奴らになぜあんたらはこんなところでコソコソしてんだ?要は魔物に変えられる呪文みたいなのに引っ掛からなきゃいいんだよな?」
「貴様、相当な低脳だな」
「何ぃ?!」
ルーナがワサンを馬鹿にするように言ってきた。
「いいか?ティフェレトの住民たちは皆、魔物に変えられているのだぞ。手当たり次第にグレイを殺してみろ、住民たちを元の姿に戻す術を失うかもしれないだろうが」
「!!‥‥確かにその通りだ。じゃぁ、お前らがこんなところでコソコソしてんのは‥‥」
「そうだ。こうやってグレイ同士の繋がりがなさそうな者を捕まえては人々を元の姿に戻す方法を探っているのだ」
「ルー様の仰るとおりですよ、ワサン。俺たちはそのためなら非人道的なことも厭わない」
その言葉にソニックが嫌悪感を隠せないといった表情を見せたが髪で隠した。
「せめてやつらの言葉さえ分かればな。グレイどもは人間同様に死を恐れる性質があることだけは分かっている。言葉さえ分かればいいんだがな」
スノウはその言葉を聞いて焦り始めた。
(このままこいつらに付き合ってグレイから人々を元に戻す方法を聞き出すのを待つ時間はない。こうしている間にもエスティやケリーたちがどうなるか‥‥それにおれ達の本来の目的は禁断区域に行き、越界エネルギー充填が可能かどうかを確認することだ。こうしている間にもオルダマトラやニル・ゼントたちが何かことを起こすかもしれない‥‥)
スノウは思案を巡らせた。
「ソニック、シア、ワサン、ちょっといいか?」
スノウはルー・サイファノスに手をあげて了解をとった上でソニックたちを別室へ呼んだ。
「どうしたスノウ」
「今後のおれ達の取るべき行動について相談したいと思ってな。おれの案は‥‥」
「スノウ、いいですか?」
珍しくスノウが話している最中にソニックが割り込んできた。
「どうしたソニック?」
「すみません、途中で口を挟んでしまって。僕は早くティフェレトの住民たちを元の姿に戻したいと思っています。でもゼノたちの手段では生ぬるい。僕は僕なりの手段でグレイたちから元に戻す方法を探りたいと思っています」
「どうするんだ?」
「あらゆる手段を講じます。グレイを何体殺そうとも必ず元に戻す方法を突き止めます。ですので、僕の単独行動の許可を頂きたいのです」
「‥‥だめだ」
「スノウ!」
「いや、単独行動がダメだと言ったんだ。お前の思うままに人々を元に戻す方法を探ることは否定していないよソニック。シンザとルナリを連れて行くんだ」
「!」
「特にルナリは負の情念を操ることが出来る。グレイも死を恐れる存在なのだとすれば、ルナリの力が有効かも知れない。負の情念を極限まで高め不安と恐怖で人の言葉を話すまで追いついめて聞き出すことだって出来るかもしれない」
「スノウ、ありがとうございます!」
「いや、お前の気持ちは分かるよ。おれもこのティフェレトで大きく成長させてもらったんだ。最初の越界時はアレックスやエントワ、ワサンやロムロナ、ニンフィーがいたからな。どちらかと言えばおれは彼らに守られ彼らの後をついて行っただけなんだが、このティフェレトで初めてトライブを率いる役目を負った。おれはその時、この地で大きく育ててもらったんだよ。だからこの世界の人たちを元の姿に戻したいという気持ちは強い。だが、おれ達にはやることがある。元に戻す方法を探るミッションはお前に任せるよソニック。それと聞いていると思うがソニア、頼んだよ」
ヒュン‥
「はい!もちろんよスノウ!」
一瞬でソニアに入れ替わり嬉しそうに答えた。
「それでお前の作戦ってのは?」
「少し変更になったが、残ったメンバーで3班に分かれる。1班は禁断区域へ赴き越界エネルギー充填可能な場所の調査だ。2班はエスティ、ケリーを探す。3班はヴィマナで待機とする」
「メンバーはどうしますか?マスター」
「1班はおれ、シア、シルゼヴァの3人だ。2班はワサン、ヘラクレス、3班はアリオク、ガース、そして新たに4班の人々を元に戻す班として、ソニック、ソニア、シンザ、ルナリだ。繰り返すが、おれ達の今後の行動の目的は3つ。禁断区域で越界エネルギー充填方法を探す、エスティ、ケリーの捜索、そしてティフェレトの人たちを元の姿に戻す方法を探す。いいな?」
「分かりました。早速私が飛んでヴィマナ通信圏内まで行き、皆にこの作戦を伝えてきます」
「頼んだよシア」
フランシアはすぐさま部屋から出て行った。
「スノウ、肝心なことを忘れているぜ?オレはもちろんヘラクレスもケリーのことは知らない」
「分かっているよ。だからまずエスティを見つけるんだ。エスティがケリー探しを手伝ってくれる。だがもしハルピュイアのいる場所に辿り着いたら、これを見せてケリーがいるかどうかを聞いてみればいい。ケリーはおれのこの財布を覚えているはずだ」
スノウは以前、ケリーに自分の免許証を渡しているのだが、その時に自身の財布をケリーが見ていることを思い出したのだ。
「分かったぜ。任せておけ。ハルピュイアとは遭遇したことはないが、噂には聞いている」
「ケリーはハービーの上位種で美しい碧い羽を持っている。会えばすぐに分かるはずだが、警戒されるだろうしいずれにしてもおれの財布が役に立つはずだ」
「了解した。オレはヘラクレスが来次第出発するぜ。まずは情報収集‥‥と言いたいところだが、街中がグレイなんだよな。とにかく片っ端から調査だな」
「頼んだよワサン」
・・・・・・
それから2日後、アリオクとガース以外のメンバーが白の塔へ辿り着いた。
既にフランシアから状況を聞いていたため、驚きはなくすぐに出発できる状態にあった。
スノウの号令のもと、1班から4班に分かれた面々は白の塔を後にして出発した。
「ソニック」
出発してノーンザーレを出ようとしていた4班のソニックに何者かが話しかけてきた。
「ゼノ‥‥それにレーノス、ナザ、ルーナまで‥‥どうしたんですか?」
「お前さん、ティフェレトの住民を元に戻す方法を探しに行くんだろ?」
「ええ」
「俺たちも連れて行ってくれ」
「!」
ゼノルファスから思いも寄らない提案が来たためソニックは驚きの表情を見せた。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




