<ハノキア踏査編> 7.グレイ
<レヴルストラ以外の本話の登場人物>
【ルー・サイファノス】
ラザレ王国宰相。小太りの中年男性の見た目からは想像もできない高貴で威圧感あるオーラを発している。
【ゼノルファス・ガロン】
ティフェレトを守護するリュラーのひとりで音破をあやつるリュラー最強の剣士でありリュラー統括を担っている。
【レーノス・ムーザント】
ティフェレトを守護するリュラーのひとりで音速の音魔法で戦う。素早さはリュラー随一だが、剣技はそれほどでもない。ゼノルファスの弟子でソニック、ソニアにとっての兄弟子。
【ルーナ・テッセン】
ティフェレトを守護するリュラーのひとりで音撃の音魔法を操る女剣士。強さに執着する性格で自分の剣技に自信を持っているが、実は努力家であり、剣技への自信は努力の裏返しでもある。
【ナザ・ルノス】
ティフェレトを守護するリュラーのひとりで音斬の音魔法を操る女剣士。ティフェレトを守護することより、王を守護することを優先する家系で育ったため、ティフェレトの平和より王の身の安全を最優先にする性格。
【グレイ】
外来生命体。銀色の肌に巨大な頭部と目を持つことからグレイと名付けられた。
ティフェレトを襲った隕石の中に潜んでいたと思われる不気味な存在
7.グレイ
「外来生命体‥‥」
(地球外生命体ってことだよな‥‥隕石から透過してせり出てきた‥‥相当な科学力を持っているかそういう類の生命体‥‥一体何が起こっているんだ?!)
スノウは混乱しないように論理的思考を回すことに集中した。
地球外生命体は雪斗時代では都市伝説であり、その存在が明確に示されてはいなかったため、まるでSF映画の中に入り込んだような感覚になっていたのだ。
「驚いたか?」
「ああ‥‥」
「無理もあるまい。我らですら理解するのに時間がかかったのだからな。だが、ルーナが奴らを見破る手段を見つけた。そしてやっと我らも納得せざるを得なくなったレベルだ」
「見破る手段?」
「そうだ。ついてこい。今からそれを見せてやる」
そう言ってルー・サイファァノスはスノウ達を別室へと案内した。
そこは取調室のように部屋と部屋がガラスで仕切られた空間でスノウ達いる部屋からガラス越しに美しい女性が椅子に拘束されて座っているのが見えた。
女性はやつれており、所々に切り傷や火傷、爪を剥がされた痕があり、明らかに拷問を受けていることが一目で分かった。
「あれは?」
「この世界が乗っ取られてしまった証拠だ。拷問痕を見て心を痛めているならすぐにその感情が無意味であったと突きつけられる」
「‥‥‥‥」
暫くすると拘束された女性のいる部屋にルーナ・テッセンが入ってきた。
彼女の姿を見るなり拘束された女性は恐怖のあまり泣き叫び出した。
「大丈夫なのですか?」
ソニックが明らかに不快な表情を見せながら言った。
「大丈夫だぜソニック‥」
ワサンは目を見開いて何か異様なものでも見るような表情で拘束女性から視線を外さずに言った。
「あの女、気持ち悪いぜ。明らかにニンゲンじゃねぇ。臭いで分かる」
「お前、中々鋭い洞察力を持っているようだな。いや嗅覚というべきか。さぁ見ていろ」
ルーナ・テッセンは小さなナイフを取り出した。
そしてそれを拘束女性の前に見せつけるように示すとそのナイフを軽く振るった。
空を切ったナイフから音の波動に込められた攻撃が煌めく靄のように放たれると拘束女性に向かって飛んでいった。
それを怯える表情で見ている女性の顔にルーナの放った音の波動が触れた瞬間、信じられないことが起こった。
シュルルル‥‥
「ギャァァス!」
奇声が発せられたのと同時に女性の姿が見る見るうちの崩れていき、その奥から銀色の金属のような質感の何かが見え始めたのだ。
ドロォォォォ‥‥
皮膚が溶けて泥のように削げ落ちた後に露わになった姿を見たスノウ達は驚愕の表情を見せた。
現れたのは銀色の皮膚の巨大な眼球の異様な姿をした存在だった。
体は細いのだが頭部は大きく人間の1.5倍はあるように見えた。
口は小さく鼻はほぼ存在しない。
指は6本あり激しく動かしている。
「ル・ガタンタ・ギ・ゴ・レンガロ!」
銀色の不気味な存在は甲高くも低くも聞こえる不気味な声で何かを叫んでいる。
「これが今ティフェレトを支配している存在だ!」
ルー・サイファノスの言葉にスノウは鈍器で頭部を殴られたような衝撃を受けた。
「グレイ‥‥」
(そうだ‥‥雪斗時代に日本で何度も見た姿だ。宇宙人の代名詞のような存在‥‥グレイ。都市伝説としてしか語られていないが、時に人を襲いアブダクションすることもあったようなことをネットの番組で見たことがあ‥‥本当に存在していたのか‥‥)
「なるほど。グレイか。我々は外来化物と呼んでいたが、銀色にも灰色にも見えるこの特徴的な肌。今日からこやつらをグレイと呼ぶことにしよう」
ルー・サイファノスが腕を組み顎髭を触りながら言った。
「こやつはキタラ大聖教の信徒を装っていた者で、オリジナルの人間の方は身寄りがなかったから、捕らえて拘束し何か情報を得るため拷問しているのだが、何も話さんのだ。人間の姿の時は黙秘し、こうしてルーナによって姿を晒されると意味不明な言語で叫び出す。未だに我々はこやつらにどう対処すべきか分かっていないのだ」
「何故あの女の音の攻撃にグレイは反応したんだ?」
ワサンが質問した。
「俺から答えましょう」
ゼノルファス・ガロンが説明し始めた。
「こいつらは音の波動が嫌いなようで、ルーナの発した音撃の波動によって化けの皮が剥がされたんですよ。それだけじゃなく、そもそも音の振動がこいつらの弱点らしいんですがね。実際音撃を与え続けるとこいつらは発狂して死にます。ここからは推測ですが、音は振動だからその振動がこいつらが纏っている人間の表皮を崩してしまうんじゃないかと考えています」
「音‥‥振動‥‥なるほど。だとしたら何故ティフェレトの人たちはグレイに取って代わられてしまったんだ?十分反撃する力があったはずだが」
「スノウ、貴方なんだか雰囲気が変わりましたね。何というか俺たちの遥か上にいるような強さとリーダーシップを感じますよ。相当な修羅場を潜ったような感じだ‥‥おっとすみませんね、話が脱線してしまった。何故ティフェレトの人たちが奴らに取って代わられてしまったか。それは奴らが音の振動を吸収する物質を持っているからです」
「音を吸収する物質?」
「ええ。最初に話のあった隕石に音の波動が吸い込まれたって話がありましたね。おそらくその力の応用なんだと思いますが、音魔法が吸い込まれるのと同様に音の振動が吸い込まれかき消されてしまうんです。唯一俺たちの音魔法だけは奴らに吸い込まれず効果があるらしいんです」
「リュラーたちの音魔法は攻撃に特化したものだ。人々が日常生活で使うレベルではなく音魔法質も練られ続けてきた。おそらく振動の強さに違いがあるのだろう」
ゼノルファスの後にルーサイファノスが補足した。
「‥‥待てよ‥‥ということはエスティは?ムーサ王はどうなったんだ?!他にも確認したい人物が何人もいる!」
「落ち着け。1人ずつ説明してやる」
スノウの心臓がこれでもかと言わんばかりに大きく脈打ち、一拍一拍体を微かに揺らすほどとなっていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
ルー・サイファノスは鋭い目線でゆっくりと説明し始めた。
「まず、ムーサ王だが残念ながら亡くなられた。エストレア女王を庇って逃がそうとしたのだが、既に入れ替わっていたアルフレッド・ルーメリア、ザリウス・ルーメリアによって殺害された」
『!!』
(あの屈強な男のムーサ王が‥‥!)
「そしてエストレア女王だが、行方不明となっている。グレイに触れられたため入れ替わってはいるが、魔物化される前にムーサ王が庇って逃したのだ」
「エスティ‥‥」
(いや、悲観するのは早い。逃げたということは生きている可能性がある。エスティのことだからきっとどこかで反旗を翻しグレイからラザレを取り戻すための組織を作っているに違いない‥‥)
「我らも捜索したが見つかっていない。だが死体も見つかっていないからな。生きている確率は高いだろう」
スノウはホッとした表情を見せた。
ワサン、ソニックも同じだった。
一方ルー・サイファノスは淡々と説明を続ける。
「それとスメラギだが、彼は一度異世界へと足を踏み入れ、それっきり帰ってきていないため、やつに入れ替わっている存在はいない。スメラギが去った後にグレイが出現したからな。外来生命体は高い科学力を持っている。ノーンザーレはさらに技術的発展を遂げているのはお前も確認済みだろう?下品極まりないが、あれにはエレキ魔法が使われていない。実に非効率なエネルギー生成になっている。故にあの程度で済んでおり、もしエレキ魔法を転用され高効率にエネルギー活用されれば奴らの科学技術によって強力な武器が生み出されていたやもしれない。それだけは幸いしたというべきか」
「エレキ魔法はそんなに高効率でエネルギーを活用出来ていたのか‥‥」
「当たり前だ。お前はスメラギ同様にマルクトとやらの異世界から来た越界者なのだろう?話が通ずるかと思ったが、どの世界にも低脳な奴はいるのだな」
ルー・サイファノスの言葉にフランシアが怒りに任せて攻撃しようとしたところをスノウが抑えて落ち着かせた。
「その他の者たちはどうなったんだ?」
「お前の仲間だった者たちを言っているのか?ホワイトドラゴンはお前を追って越界した。行方は知らん。ハルピュイアはエストレア女王が事前に逃していたはずだ。ゴーザノル・ロロンガイアは、ドワーフたちと共にロロンガ・ルザ、つまり街ごと消えた」
『?!』
スノウとソニックは怪訝そうな表情で顔を見合わせた。
「街ごと消えたってどういう意味だ?!」
「言葉通りだ。気になるなら行ってみるがいい。ブロンテースも同様に街と共に消えた。奴らはラザレ王国との国交があるにも関わらずラザレの危機を知って、ティフェレトを捨てたのだ!」
ザン!
スノウはあまりの事態に衝撃を受けた。
いつも読んでくださって本当にありがとうございます。




