<ホド編 第2章> 152.コントロールルーム
152.コントロールルーム
それから2日後。
ソニック率いる第2班が謎の神殿の地下にある街へと帰還した。
謎の神殿から一番近い岸壁の近くにヴィマナが待機しているが、その近くに何と巨大戦艦グルトネイが停泊していた。
停泊というよりただ浮かんでいるだけで、所々に破損があり今にも沈みそうな雰囲気が漂っていた。
――地下都市内会議室――
「以上が第2班のミッションの結果です。目的が達成出来なかったことは僕の不徳の致すところです。何なりと罰を」
第2班を代表してソニックが状況を説明したが、当初の目的が果たせてないことに申し訳なさを感じているのか悔しそうな表情を浮かべていた。
「何言っているんだよソニック。ネンドウの得体の知れない攻撃にあっても全員無事に帰還してくれたんだ。それだけでも十分だし、三足烏にネンドウという脅威となる存在がいることも分かったんだ。上出来だ。アリオクの機転にも感謝だな」
「いや、全てお前の指示した役割分担が功を奏したと言える」
「どういうことだ?」
アリオクの発言にスノウが質問するとシルゼヴァが割り込んできた。
「アリオクを全体統制に据えたのが正解だったということだスノウ。あの場では俺やソニックですら抑え込まれたネンドウの能力は侮れない。アリオクが助けに来てくれなければ今頃ソニックはネンドウに連れ去られ洗脳された上、俺たちの敵になっていたかもしれないからな。そんなネンドウにはアリオクだからこそ対処して出来たのだ。彼は元々アサシンだから極限まで気配を殺すことが出来る。それゆえ奴の背後に回り込み奴に攻撃を与えることが出来たのだ。アリオクがヴィマナから状況を観て冷静に判断し、対処したからこそソニックはこの場所にいると言えるだろう」
「なるほど。そういうことか。ありがとうアリオク」
スノウは改めてレヴルストラの面々の連携の強さと頼もしさに誇りを感じていた。
「いや、礼はいらんぞスノウ。俺は仲間だ。救うのは当然だし、別の者が統制役を担っていても同じことをしはずだからな」
スノウは笑顔で返した。
「しかし奴らの洗脳技術はそんなに高いのか?」
スノウの問いにニトロが発言し始めた。
「高いですね。俺は偶々上手く免れましたが稀ですよ。目の部分に目ん玉の刺繍の入った布を巻いた怪しい人物が洗脳してきたんですけど、何らかの能力者っすね。頭に何本か針を刺してきやがって、その後呪文みたいなのを唱えて‥‥その後頭の中がビリビリとし始めて突然ぐわんぐわんに意識が揺れ始めたんです」
そこにルナリが割って入ってきた。
「頭蓋を通り越し脳に直接刺激を与え精神世界への入り口をこじ開け、そこから洗脳魔法を侵入させ思い通りに操るという手法だと我は推測している。厄介なのは洗脳魔法が時間の経過と共に精神世界の深層に向かって移動していくことだ。ニトロにはその痕跡があった。我はこやつの精神世界を覗いたから分かるのだ。だが、精神世界が肉体に宿っている以上、血の巡りが必要だ。血の巡りが滞ると精神世界も閉じてしまうからな。ニトロは自ら首を絞めて脳への血の巡りを滞らせ、大腿部を抓り意識を保ったことで洗脳魔法を遠ざけたということだが、そんな荒技が成功するのは奇跡としか言いようがない」
「分かった。とにかく三足烏のネンドウは気をつけなければならないな。やつに捕まりさえしなければ洗脳されることもない。奴を倒す時は総力戦だ」
皆スノウの言葉に頷いた。
「それでグルトネイの技術はヴィマナに応用できそうなのか?」
「それは私からお答えしますスノウ船長」
突如リュクスの声が会議室に響いた。
「何でリュクスの声がここまで聞こえているんだ?」
「これです」
ソニックが小さな箱をテーブルの上に置いた。
「これって‥‥」
スノウは見ただけでそれが何であるかを理解した。
「マイクスピーカーじゃないか。こんなのどうやって作ったんだ?」
「リュクスの知恵を俺が具現化したのだ。材料はヴィマナにあったもので作り出せたから簡単だったぞ」
シルゼヴァが得意気に言った。
「そうなのか?‥‥まぁ流石としか言いようがないが‥」
「そうだろう。俺は流石なのだ、スノウ」
「ははは‥‥それでリュクス。進捗状況はどうなんだ?」
「はい、順調です。間も無くグルトネイに搭載されていた猛魅禍槌をヴィマナに移植が完了します。空気を調光圧縮する工程とエネルギー連動操作を行う機能をヴィマナの機関システムと接続することに成功しましたので、あとはエネルギーを充填すれば使用可能となります」
「おお!何だかしくみはよく分からないがヴィマナ初の武器か!しかも猛魅禍槌は防御としても優秀だ。ヴィマナの能力が格段に上がったな」
「そうですね。ただ、猛魅禍槌は1度のエネルギー満充填で3回しか使用できない状態です。それだけ超高圧縮するのに莫大なエネルギーを消費するということですが、今後の改造によってより回数を増やすことも可能と思われます」
「なるほど。それはまた別途検討しよう。それじゃぁ今度は第1班からの報告だな」
スノウはこれまでの出来事を皆に報告した。
・・・・・
「ヴィマナに越界機能が付いていることは把握していたが、越界エンジンの起動方法が分からなかったのだ。だがスノウが見た過去の残像に答えがあるってことだな」
シルゼヴァは嬉しそうに言った。
「ヴィマナで越界‥‥何だか信じられないぜ」
「そうねぇ、ここにアレックスボウヤとエントワボウヤがいたら喜んでいたかもねぇ」
「確かにな。空を飛ばすより凄いことだからな」
ワサンとロムロナが感慨深い表情で話しているのを見てスノウは少し胸が締め付けられる感覚になった。
そんなスノウの表情を感じ取ったのかヘラクレスが腕を組みながら話しかけてきた。
「しかしよ、お前は本当に何者なんだろうなスノウ。実はお前、その古代人の末裔とかなんじゃねぇの?」
「それはあり得る。それを確認するのは難しいだろうがな」
アリオクが答えた。
「兎に角スノウの見た残像通りに操作しヴィマナに越界エネルギーを充填させれば越界出来るということだ。直ぐに取り掛かりたい」
シルゼヴァは好奇心が抑えられない様子だった。
「そうだな。あのコントロールルームへも案内したいから早速行ってみるか」
スノウ達は謎の神殿の歯車のポータルからコントロールへと向かった。
念の為に待機することを申し出たアリオクと、波動気を使いこなせないソニックとガースが残ることになり、それ以外のメンバーは皆コントロールルームに移動した。
ガースが悔しがっていたのは言うまでもない。
そしてソニックはシンザも波動気を使えるようになっているのを見てショックからか元気を無くしていた。
・・・・・
ーー謎の神殿地下から転移したコントロールルームーー
スノウはコントロールルームの操作盤を起動した。
壁一面に生命が宿るような脈打つ現象が見られたあと、スクリーンが映り始めた。
映っているのはコントロールルームだった。
「事前に聞いていたとはいえ、実物見ると気持ち悪りぃなぁ」
ヘラクレスは肉体だけ常に若々しく存在している死体を見て不思議そうに観察している。
一方シルゼヴァとロムロナ、ニトロはスノウの説明を熱心に聞いていた。
「なるほど大体理解した。ニトロ、マイクスピーカーをよこせ」
シルゼヴァは全てを理解したようにマイクスピーカーをニトロから受け取った。
「リュクス聞こえるか?」
「はい、シルゼヴァチーフエンジニア。そちらの状況は如何でしょうか?」
マイクスピーカー越しにヴィマナの人格型統制コントロールプログラムのリュクスが応えた。
「ここの状態は把握できたか?」
「はい、間も無くリンクします」
「上出来だ」
「聞こえるか?」
「はい聞こえますシルゼヴァチーフエンジニア」
『おお!』
リュクスの声が部屋から聞こえ始めたことで皆驚いた。
同時にスクリーンにはヴィマナのブリッジが映され、アリオク、ソニック、ガースの姿が映っていた。
「繋がったようだな。よし、リュクス、これから俺が越界エネルギー充填作業を行う。しっかり連携しろ。いいな」
「承知致しました」
ヴィマナの越界エネルギーが充填され始め徐々に満タンに近づいていった。
ギュルルン!
越界エネルギーがフル充填となった。




