<ホド編 第2章> 151.スノウの観た過去
151.スノウの観た過去
部屋中の装置が一斉に作動し始めた。
「!!」
次の瞬間、スノウは目を見開いて驚きの表情を見せた。
装置が作動し始めたのと同時に、突如10人以上の人が現れたのだ。
(誰だこいつら?!)
スノウは思わず周囲を見回した。
一人ひとり壁を向いており、何か操作していることが窺えた。
思わずフランシアやエルティエルの顔を見たのだが、不思議なことに彼女達はこの突如現れた10人以上の者たちに気づいていないようだった。
操作している者たちもスノウには全く気づいていない様子だった。
(またおれだけに見える映像か)
スノウはゆっくりと前に出た。
「?」
フランシアとエルティエルの視線は何故か動かずスノウの後方に向けられたままだった。
しかも全く動いていない。
(時も止まった状態か‥‥)
スノウは冷静に周囲を見回した。
(さて、この部屋は一体おれに何を見せたいんだ?)
「?!」
振り向くと自分の身体が止まった状態で後方にあることに気付いた。
(なるほど。おれの精神は身体から抜け出ているってことだな。おれのいた時間軸は停止し、同時に別の時間軸におれの精神体が飛んだ状態か)
通常ならあり得ない状況にも関わらずスノウは全く動じることなく、落ち着いて状況把握に努めていた。
これまでの幾多の不可思議な事象でスノウはすっかりこういった状況にも直ぐに順応出来るようになっていたのだ。
(何を操作しているんだ?)
スノウはスクリーンに目を向けた。
「!」
そこには見慣れたものが映されていた。
(ヴィマナじゃないか!ヴィマナの全体の図面だぞ!何故この部屋でヴィマナを見ることになるんだよ!‥‥いや、有り得る。神の船とか言われていたが元々はこの文明が作り出したものをルシファーや神が奪ったとしたら辻褄は合う。それにヴィマナが本当に唯一神が創った船ならエルティエルやカマエルが何かを教えてくれていたはずだ。だが、何も知らない様子だった。それはつまり唯一神が創った船じゃないと言える‥‥)
スノウは浮遊しながらスクリーンに映し出されているヴィマナの図面を食い入るように見始めた。
(ここは機関室。そしてここが通常エンジンだ。そしてこれが6000度の種火とやらで動く飛行エンジン。この隣にもうひとつエンジンみたいなのがあるな。こいつは何だ?)
装置をいじっている者の1人が操作盤を操作し始めた途端、謎のエンジンが起動モードになるのが見えた。
そしてその横に何かの文字が表示された。
当然読めないのだが、何故かスノウには理解出来た。
(マジかよ‥‥)
スノウが理解した読めない文字の内容はこうだ。
"越界エネルギー充填完了"
(越界エネルギーが充填されたってことは、ヴィマナは越界出来るってことだよな‥‥しかも越界可能回数が出ている。満充填で5回の越界が可能って書いてあるように感じる。もしかするとこいつのやった操作と同じ操作をすればヴィマナに越界エネルギーを充填させることが出来るんじゃないか?!)
スノウは精神体の姿でありながら身体が身震いするような感覚になった。
越界エネルギー充填操作を行った者の操作は覚えたため、スノウは自分の身体へと戻ろうと試みる。
しかし思うようにいかない。
(まだ何か見るべきものがあるってことか?)
スタ‥スタ‥スタ‥
「!」
スノウが見た椅子に座ったまま死んでいた男が歩いてきて、腕を組みながらスクリーンを見始めた。
“艦長聞こえますか?”
“アカシ総司令か。軍の指揮においてお前はおれの上官。おれに敬語は不要だと何度言ったら分かる?”
「?!」
スノウはスクリーンに映し出された場所と人物を見て奇妙な感覚になった。
映されているのはヴィマナのブリッジで見慣れた場所だったのだが、奇妙な感覚になったのはそこで船長の椅子に座っている人物が見知らぬ人物であったことだ。
見慣れた場所に見知らぬ人物がいる奇妙な感覚もあったのだが、それとは別に船長の椅子に座っている見知らぬ人物が、どこか懐かしく感じている点もあった。
(おれはあの男を知っている気がする)
スノウよりも10歳ほど年上の風貌でどことなくスノウに似ている気もする見た目だったが、当然知り合いでもなく会った記憶すらない男だった。
スノウは、今度は腕を組んでスクリーンを見ている男に視線を向けた。
(この男、アカシ総司令とか呼ばれていたな。ヴィマナに指示を出している取りまとめといったところか。死んでいる状態と全く変わらない風貌。やはり肉体だけは破壊と再生を繰り返し歳を取らず腐食もしない状態のまま現在に至っているということか。そしてスクリーンに映っている人物が艦長‥‥ヴィマナの船長か)
観察している中、アカシ総司令が話を続けた。
“貴方だけじゃありませんよ。私は皆に敬意を払っているので皆に同じように敬語を使います。いい加減お慣れください。それより転送エネルギー充填は完了です。計画通り記憶世界へと向かわれますか?”
“いや、その前に新たに形成された物質世界を確認しに行くことにした。世界崩壊後に形成された物質世界は侵略者がいち早く占拠したが、そこに何か異質のものが造られているという情報が入ったのだ”
“カドモンですね。侵略者はまだ実験を続けているということですか”
“そうだ。しかも今回はアルケーを閉じ込めたという噂がある”
“はい、聞いております。分かりました。物質世界は侵略者の巣窟。どうかお気をつけください。もしヴィマナに危機が迫るようなら強制帰還となります。猶予は30分です。取り残された場合は‥‥”
“分かっている。おれ達アガートラムはこの任務を受けた時から死を覚悟している。そして奪われた無限エンジンを取り戻すまではおれ達の戦いは終わらない”
“分かっております。それは私も同じです。そのための犠牲は厭わない”
“やはり総司令の任はお前に任せて正解だったな。それじゃぁそろそろ行くぜ。ヴォルカヌス、エンジンは温まったか?”
スクリーンに分割された形で機関室が映り出し、別の人物が映り出した。
“準備は完了です艦長。いつでも行ける”
“承知。ソニオニク、越界準備だ”
“既に完了しています艦長。艦長の合図待ちですよ”
“承知。よし‥‥ヴィマナ‥‥飛翔!”
室内の様々なゲージが反応し始めた。
“越界まで5‥4‥”
操作をしている者のひとりがカウントダウンを始めた。
“3‥2‥1‥越界”
スクリーンはヴィマナの図面へと変わり、エンジン部分と燃料タンクらしき部分に何やら文字が出現した。
(無事に越界か‥‥)
読めない文字の内容を感じ取ったスノウはヴィマナが越界したのだと理解した。
(だが、なんだろう‥‥さっきスクリーンに映し出されたヴォルカ何とかってやつとソニオニクってのに見覚えがある気がする‥‥何なんだこの既視感というか記憶の奥が抉られるような感覚は‥‥)
「?!」
ググ‥グググ‥‥
突如肉体に引っ張られる感覚に襲われたスノウは目の前の光景が歪んでいくのを見た。
キュィィィィン‥‥ズン!
大きな衝撃と共に自分の肉体に戻ったのだとスノウは理解した。
ゆっくりと目を開けてみる。
「なんか色々と動き出したみたいだが、何がどうなっているのかさっぱりだぜ」
「当たり前よワサン。貴方の子供の拳ほどの脳みそでは理解できるはずもないわ。マスターだけが理解できるものなの」
「シア‥‥お前さぁ、いちいちバカにするその癖、いい加減治せよな?」
目の前ではスノウが操作版に触れ起動した直後の光景が動き出していた。
スノウは少し下がってスクリーンがあった場所を見上げる。
「どうしたんですか師匠」
「いや、ボタンに触れた途端におれの精神が飛ばされ遥か昔の光景を見せられたんだ。そこではヴィマナが越界していた」
『!!』
全員スノウの言葉に驚いた。
「そこの椅子に座っている死者はアカシ総司令と呼ばれていた。この場には10名以上の操作員がいて、ヴィマナに乗っている者たちと連携をとり、ヴィマナを越界させたんだ。あの辺りにスクリーンがあって、そこにヴィマナの図面が出ていたんだが、通常のエンジンに加えてふたつエンジンがあった。ひとつは飛行用のエンジン。あれは普通に起動しているように見えた。そしてもうひとつは越界用のエンジンだ。ここからヴィマナに越界エネルギーをヴィマナのエネルギータンクに装填していた。そしてヴィマナは越界した。丁度その直後に体に引き戻されたからその後のことは分からないが、いずれにしてもヴィマナに越界エネルギーとやらを装填すればヴィマナで越界が出来るってことだ」
『!!』
全員言葉を失った。
あまりにも想定外の話であったことと、思わぬ形で新たな越界方法を見つけたことに驚きを隠せなかったのだ。
「操作の仕方は一通り見たから覚えている。とにかく、2班のメンバーと合流し全員集まってから作戦会議だ。越界エネルギー装填とヴィマナでの越界にはガースとシルゼヴァ、そしてリュクスが必要だからな。この場所で操作する者たちも必要だ」
皆頷いた。
・・・・・
一旦謎の神殿の地下都市へと戻ることにした。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




