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<ホド編 第2章> 150.古の遺物

150.古の遺物


 「マスター!」

 『スノウ!』


 フランシアたちがスノウの名を呼ぶが虚しく響いた。

 マルクトの科学の進んだ環境で生活し、ネツァクで道具職人でもあったスノウがホドでは存在し得ない精巧な造りのギアだと表現した歯車に触れた瞬間、光を発した直後にその場から消えてしまったのだ。


 「マスターは何処へ行ったの?!」

 「落ち着くのだフランシア」


 そう言いながらルナリが前に出て地面に落ちた歯車を見つめ出した。


 「おそらくだがこれは移動のポータルだ。スノウがこの謎の神殿の地下都市には何かあると睨んだ通りだったということだ」

 「ポータル!私も行くわ!」


 フランシアは歯車に触れたが何も起こらなかった。


 「なぜなの!!」

 「落ち着けと言っているぞフランシア。ポータルと言っても特殊なものらしい。分析が必要だ」

 「く!」


 フランシアは後悔と焦りの表情を浮かべている。


 「歯車の分析はオレも手伝うぜ」

 「助かるぞワサンよ」


 ワサンはゆっくりと歯車に触れたが先ほどのフランシア同様に何も起こらなかった。


 「何も起こらないな」

 「何か法則があるのだ。それを見つけなければならない」


 ルナリは触手で歯車を持ち上げ多方面から調べ始めた。


 「スノウの言う通りこの歯車の造りはこの世界で再現することは不可能であろう。材質は超高強度の金属であり、謎の神殿の造り同様に常に破壊と再生を繰り返している。まず削ることが出来ない。仮に削る道具があってもここまでの寸法精度で削り出すのはほぼ不可能だ。何か特殊な装置でもない限りはな。それ程の技術力を持った文明だ。何か仕掛けがあるのだろう。それを見つけなければスノウの飛ばされた場所へ行くことは出来んぞ」

 「仕掛けか。だがスノウは何かしたようには見えなかったぞ。単純にこの歯車に触れただけだぜ」

 「我も見ていた。その通りだ。今我らが触れている状態とスノウが触れた状態。この二つの間にある差がポータルを起動させる仕掛けなのだろう」

 「スノウは何かしていた‥‥スノウがやっていてオレたちがやっていないもの‥‥」

 「なるほど。理解したぞワサン。我に出来るか分からんが試してみようぞ」


 ルナリは触手で歯車を持ち上げ、自身の両手をかざすように歯車に向けてゆっくりと近づけていく。


 「ルナリ!それは波動気じゃないのか?!」

 「そうだ。波動気の螺旋で強い振動波を歯車に送ろうとしているのだ。おそらくスノウはザザナールとの戦いの中で波動気を制することが戦いを制すると学んだのだろう。常に強い波動気を体内で練り続ける訓練をしていたのだ。その練られた波動気が漏れ出て歯車に流れ込んだのだと我は推測している。この地の古代の文明は波動、波を操っていたとカマエルは言った。つまり波動気を自在に操っていた文明なのではないかと思うのだ」

 「それに違いない!流石だルナリ!」

 「少し静かにしてくれ。さらに集中力を高めたい」

 「お、おぉすまない」


 ルナリの練る波動気が徐々に力を増して行く。

 見様見真似でやってみたが負の情念の流れで波動のイメージは持っていたため何とか波動気を使えるところまできていた。


 バシュォォォォォ‥‥


 ルナリの練っている波動気が一気に高まった瞬間、歯車から光が放たれた。


 ヒュゥゥン‥‥シュン!‥ボドン!


 『!!』


 ルナリは先ほどのスノウと同様に消え去った。

 同時に歯車が重量感ある音を立てて地面に落ちた。


 「確定だな」

 「次は私がやる」

 「何処に転送されるか分からないんだ。転送後にも気をつけろよシア」


 ワサンの言葉に反応することなく、フランシアは波動気を練り始めた。

 フランシアもワサンもゲブラーで波動気は学んだが、戦闘に活かすことは行なってこなかった。

 そのため十分な波動気を練ることが出来るのか分からない状況ではあったが、流石は戦いの天才であるフランシアは最も簡単に規定以上の波動気を練り上げ螺旋として歯車へと流し込み見事にその場から消え転送された。


 「次は私が行く。私は師匠から波動気を習っているから問題ないわ」


 そう言うとエルティエルは歯車を手に取った。

 元々波動気を使えたことと、天使の力を取り戻したことでさらに波動気の力を上手く扱えるようになったらしく、あっという間に波動気を練り上げて転送してしまった。


 「シンザ。次はお前だ。オレは波動気を学んだことがあるから後でいい」

 「分かりました。よし‥」


 シンザは歯車を持ち意識を歯車へと集中させた


 「シンザ。歯車に意識を集中するんじゃない。自分の内面に意識を集中するんだ。自分の呼吸と血の流れを感じろ。そしてその流れに同調するように流れる何かを感じろ」

 「呼吸‥‥血流‥‥同調する何か‥‥」


 シンザは目を瞑った。

 体の中で血が流れている感覚を掴み始めた。

 するとその奥に火花のような弾け燃える流れが感じられ始めた。


 「!」


 そしてゆっくりと歯車に右手をかざした。


 「イメージを掴んだようだな。次はそれを動かしてみるんだ。動かすっつっても流れを変えるだけだ」


 シンザは軽く頷くとさらに意識を集中させた。

 火花を散らす光る流れが少しずつだがシンザの思うように流れを変えていく。


 「すごいなお前。1発でそこまで波動気を練り上げられるとはな。さぁ今度はその流れを右手のひらに集めるようにイメージするんだ」


 ワサンの言葉に頷いたシンザは目を瞑ったまま落ち着いた表情でさらに意識を自身の中の氣の流れに集中させた。

 徐々にシンザの右手のひらに波動気が集まって凝縮していく。


 「ほう!すごいぞ!よし!集めた波動気を渦を巻くように回転させろ。すると勝手に回転が加速される。これ以上ないところまで回転が進んだらそこから一気に氣を放出させるんだ」


 シンザはワサンの言う通りに氣を回転させ渦を作り始めた。

 

 「!」


 練り上げられた波動気はそれ自身に意志があるように勝手に回転を速めていく。


 (今だ!)


 シンザは十分に回転速度を得た氣の渦を右手のひらから歯車に向けて一気に放出した。


 バシュォォォォォ‥‥ヒュゥゥン‥‥シュン!‥ボドン!


 光に包まれたシンザは消えた。


 「よし!」


 地面に落ちた歯車を拾い上げたワサンは自分も転送準備を始めた。


・・・・・


 シンザはゆっくりと目を開けた。

 だが視界は真っ暗なままだった。


 「シンザ、無事に転送出来たようだな」

 「ルナリかい?」

 「そうだ。お前のすぐ隣にいるぞ」


 光ひとつない真の暗闇では視界を頼る意味がないため自然とその他の感覚が研ぎ澄まされる。

 シンザは普段は感じなかったルナリの存在の温かさを感じていた。


 「それはそうと、ここは一体?!それにスノウさんやシアさんたちは?」

 「シアとエルティエルは我の後にこの場に転送してきたが、スノウを探して先へ進んでしまった。我はお前を待っていた」

 「ありがとうルナリ」

 「おわ!何だこの暗闇は?!」

 「その声はワサンさんですか?!」

 「シンザか!ルナリもいるな。無事に転送されたんだな」

 「ワサンさんのおかげですよ!」

 「いや、お前のセンスだよ。それより何だここは?薄暗い密閉空間だが何処かに灯りはないのか?‥‥結構離れてるが向こうに方に扉が見えるぞ」

 「!!‥‥ワサンさん、この暗闇の中で何か見えてるんですか?」

 「薄っすらだがな。お前らは見えてないのか?」

 「真っ暗ですよ」

 「我もだ。視界を奪われた状態だ」

 「そうか。じゃぁオレについてくればいい」

 「我の触手をシンザとワサンに結んだ。これで逸れることもあるまい」

 「ありがとうルナリ」

 「おい、あっちにいるのはシアとエルティエルじゃないか?」

 「見えませんがこの状態ですから彷徨っているんだと思いますよ。合流しましょう」

 「分かった」


 ワサンたちはフランシア、エルティエルと合流してワサンには見えている扉まで辿り着いた。


 「光が差し込んできたら目をやられるかもしれないから目蓋は閉じておいた方がいいぞ」


 ワサンのアドバイスに皆頷いた。

 そしてワサンはゆっくりと扉を開ける。

 一気に光が差し込み、あまりの眩しさに目を閉じていても眩い光を感じ皆視界を覆った。

 徐々に視界に光を取り入れて慣れさせていくと、目の前の光景が徐々に鮮明に映り始めた。


 『!!』


 少し広い部屋にスノウが背中を向けて立っているのが見えた。

 

 「マスター!」「師匠!」「スノウ!」


 皆の呼ぶ声にスノウは振り向かず手をあげて反応し、手招きしている。


 『?!』


 それに応じて皆スノウの近くへ詰め寄るがスノウの目線の先に目を向け驚いた。

 何故なら目の前にある玉座のような椅子に座っている人物を見たからだ。

 人物といっても既に死体だった。


 「スノウ、何だこれは?!」

 「さぁな。おそらくだがここを管理していた者だと思う。驚くべきはこいつの肉体だ」

 「どう言う意味だ?」

 「ニンゲンじゃない‥‥そうですよね師匠?」

 「その通りだエル。人間に似たような姿に見えるが違う」

 「そうなのか?!しかしまるで生きているかのような感じだな。今にも目を開きそうだぞ」

 「そこだよワサン。おそらくこいつが死んだのは数千年前だ。だがこんなまるで生きているかのような状態だ」

 「わるいスノウ。オレには理解が難しいらしい。もっと分かりやすく言ってくれ」

 「そうだな、すまない。こいつの肉体は未だに破壊と再生を繰り返しているってことだ。つまり精神は死んでいるし心臓的なものも止まっている。だが肉体だけは生きている状態と変わらないと言うことだな」

 「あの石像と一緒ってことか?!」

 「そうだ」

 「何だか不気味ですね‥‥」

 「透視してみても心臓位置がニンゲンと違うわ。それに骨格も所々違うわね。こんな種族は見たことがないわ」

 「お前透視も出来るんだな、エル」

 「ええ。天使だからね」


 ワサンは尊敬の眼差しでエルティエルを見た。

 エルティエルはその眼差しで気分を良くしたようだった。


 「さて。よく見ればこの部屋、殺風景に見えるが実は色々と機能があるようだ。おれ達の知識では扱えないかもしれないがな。だが調べてみよう。越界の手段もあるかもしれない」


 スノウの言う通りに何もないように感じた部屋の壁には不規則に並んだ突起や不自然に飛び出た何かが幾つか見受けられた。

 全員が周囲を見回している中、ルナリが触手をしまいながら話し始めた。


 「無駄だスノウ。既に我が周囲に触手を這わせ、調べ尽くしたが、何も反応しない。確かにお前に言う通りここには多くの装置らしきものが散りばめられている。だが動かせなければただのガラクタだ」

 「待ってルナリ。私の天使の力なら動かせるかも」


 エルティエルが周囲の突起やボタンのような形状の不規則に並んだ突起に触れてみる。

 だが反応はなかった。


 「えい!」


 掛け声と共にボタンを強く押してみるが、何の反応もなかった。


 「天使の力ってのは万能じゃないんだな」

 「う、うるさいわねワサン!」


 エルティエルは顔を赤ながら言った。


 「おれが試してみよう」


 スノウはエルティエルが試したように幾つかのボタンに触れてみた。


 キュィィィィィィィン‥‥

 バババババン!


 『!!』


 突如、部屋全体が振動し始め何かが起動し始めた。


 「何か動いたな‥」

 「流石マスター!」


 フランシアは勝ち誇ったかのようにエルティエルを見た。


 「気をつけろスノウ」

 「ああ」


 スノウは慎重に他のボタンらしきものに触れ始めた。

 


いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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