<ホド編 第2章> 149.謎の神殿の地下にあるもの
149.謎の神殿の地下にあるもの
カマエルは髭を触りながら真剣な表情でさらに話を進めた。
「これは遥か昔に密かに囁かれていた噂じゃ。じゃが天使は噂話を口にすることは出来ん。あくまでこれはわしの見た夢の話という妄想じゃ」
『?』
エルティエル以外はカマエルの言葉にキョトンとした表情を見せた。
その様子を見たエルティエルが慌ててフォローし始める。
「えっと、天使は噂話をすることを禁じられていますので言えません。天使は主のお許しになった真実のみを語る存在であり、利己的で他者を攻撃するような噂話は出来なくて、でも何となくそんな話をするようなしないようなっていうのを回りくどく言われたということです!」
エルティエルは必死に説明したがその場にいる者たちを余計に混乱させ、怪訝そうな表情にさせてしまった。
「分かったよエル。とにかくチャミュじいは人伝で聞いた不確かな情報の妄想を語ってくれるってことだな」
「そうです!さすが師匠!」
「トゥトゥトゥ。と言うわけで妄想を話そうかの」
カマエルは地べたに胡座をかいて座った。
「この大地は元々存在しておったと言う妄想じゃ。そこには先住の種族が住んでおり、長寿で不思議な力を使っておった。世界の至る所に存在する波動‥‥波を操り魔法ではない力で火を操り、水を浄化し、空を飛ぶ。無から有を生み出す力も持っておった。何より強大な力であったのはその波の力を使い全てにおいて常に破壊と再生を繰り返して永遠の時間を手にしていたことじゃ」
「永遠の時間?」
「はっきり言うた方がええかの。物質は常に新しい状態となる。動植物も、そして人もじゃ。成長の度合いは自ら選ぶことが出来る幼子のまま生きたければそう出来るし、体力に満ちた若者になりたければそうもなれる。昨日老人であった者が今日子供として野原を駆け回る事だって出来たわけじゃな。ハノキアに住まう者たちには理解出来ん世界じゃのう‥‥」
「あんたの言う通り意味が分からないぞチャミュじい。‥‥いや違う‥‥」
スノウは何かを思い出した。
(おれはその世界を知っている。謎の神殿の壁や石像が新品同様であったことを。そして謎の神殿の石像に誘われて精神だけ別の時間軸に飛んだ際に見ている。魔法も使わずに空を自由に飛んでいる人々を)
「すまないチャミュじい。あまりにも突飛な話で理解が遅れてしまったが、おれ達は謎の神殿で常に破壊と再生が繰り返され常に新しい状態の石像を見た。信じられない光景だったが、実在した。あんたの話を信じよう」
スノウの言葉に頷いたカマエルは優しい笑みを見せると話を続けた。
「その世界を欲したとある大天使が軍を引き連れて奪ったとされておる。左手に神杖を持ち、腰には神の宝剣を携えた美しき6枚翼の大天使ルシファーじゃ」
「ルシファー‥‥」
スノウにとって大天使ルシファーは堕天使として聞き馴染みのある名であり、神に反旗を翻し大軍で戦いを挑むも敗れ堕天使として地獄に堕とされ大魔王として全ての悪魔を総ている存在と理解していた。
「今は堕天して大魔王となってしまったが、その力未だ健在じゃ。我ら元守護天使、いや今の守護天使含めて束になって戦いを挑んでも勝てぬほど強大な力を有しておるお方じゃなぁ」
「ルシファー‥‥やはり大魔王ルシファーのことだったんだな。それほどまでに力を持っているのか。出来ることなら会いたくない人物だな」
「神出鬼没なお方じゃからのう。もう既に会っておるやもしれんぞい」
「お方って、堕天使なのに敬う言い方するのは何故だ?あんたらにしたら敵なんじゃないのか?」
「そうかもしれん。じゃがそうでないかもしれん。まぁ複雑な事情があるんじゃよ」
「‥‥何だかよく分からないが話を続けてくれ」
「いずれにせよじゃ、過去、そのような不思議な力を使う種族がおったとしたら、海水溜まりとなった巨大な湖も淡水に変える力を持っていてもおかしくない。そして越界の術も持っておったかもしれんのう。じゃがこれはあくまでもわしの妄想じゃ。信じるも信じないもおぬし次第じゃ。わしから言えることは以上だ」
「ありがとうチャミュじい。おれ達は謎の神殿へ向かおうと思う。灯台下暗しな気もするが、やはりあの謎の神殿には何かあるのかもしれない」
「何もないかもしれんがのう。ルシファーは力だけでなく智力も我らが及ばないほどの存在じゃ。既に有用な力や技術は持ち去っておるかもしれん。罠もあろう。気をつけて行くがええ」
「忠告ありがとう。期待せずに警戒しながら探索するよ」
「それがええ。そうそうエルティエル。ちょっとこっちへ来るがええ」
「はい」
カマエルはエルティエルに小声で何かを伝えているが、スノウ達には聞こえなかった。
会話が終わるとカマエルは赤い光に変わって天に昇って行った。
「挨拶もなしに帰っていったよ。淡白なじいさんだな」
「その通りだなワサン。しかしまさかチャミュじいが守護天使カマエルだったとはな」
「カマエルをチャミュじいと呼ぶのは師匠くらいですよ。ワサンに至ってはじいさんと呼んでましたし。あの姿はカマエルが変化しているだけで、本来の姿を見たら恐怖で震えますよ?」
「どんな姿なんだよ」
ワサンが面白そうに食いついてきた。
「体は5メートルを超える大男で全身赤く美しい甲冑を着て真紅の4枚翼を持ち、神槍を振り回す恐ろしい戦士です。頭もキレるので1万を超える能天使を率いて先頭に立って戦う強さと智略で勝利をもぎ取る軍師の才もあります」
「冗談だろ?うんこ漏らしてたぜ?屁をこきながら」
「はぁ?!」
「ぷっ!」
『わっはっは!』
エルティエル以外皆笑い出した。
彼女だけは信じられないといった表情で怒り混じりにワサンを睨んでいた。
「はっはっは!まぁそういう演出をしたかったんだろう。大体あんなボケ老人に変化したいと思ってる時点で変わり者なんだろうしな。さて、おれ達もそろそろ出発しよう。日が暮れる前に謎の神殿には到着したいからな」
『おう!』
スノウ達は北に位置する謎の神殿に向かって出発した。
飛行で戻れば大した時間は掛からないのだが、今回新たに湖を見つけたこともあり周囲を探索しながら歩いて帰ることにしたため、謎の神殿に到着したのは日が沈んで間も無くだった。
ーー謎の神殿内の街ーー
「今日のところはゆっくり休もう。明日の朝にこの神殿内を隈なく調べるために出発する。それじゃぁ解散だ」
スノウ達は謎の神殿内の街にある建物の中で明日の出発時間を共有すると解散した。
・・・・・
ーー翌朝ーー
「さぁて、越界方法探しチームは全員揃ったし出発するか」
「出発するといっても何処を探しますか?」
「この謎の神殿の地下にある街をくまなく探す。おそらく昨日おれ達が辿り着いた蒼市の地下から通じている古代文明の廃墟都市アトラと昨日のチャミュじいの妄想に出てきた種族ってのは違うんだと思う」
「何故ですか?両方とも僕らの想像を超える文明に見えますし、アトラのモノリスを通って辿り着いたのが、海水が淡水に変わっていた湖ですし、そこからこの謎の神殿までそれほど遠くなかったので、アトラが滅ぶ前に他の地を目指して移住したのが謎の神殿とこの地下都市だと言えませんか?」
シンザの推測にワサンは納得したように頷いている。
「お前の言うことも一理ある。だが、これはおれの勘に近い推測だが、文明の質が違う気がするんだ。おれは上の神殿にある石像に精神体だけ別時間軸に飛ばされチャミュじいの説明にあった世界を見てきた。おれが意識を失って夢でもみていたのかもしれないが、あのリアルさは現実としか言いようのない光景だったんだ。アトラは科学‥‥つまり魔法以外の現実的な技術の発展によって栄えた都市で、この謎の神殿の文明は魔法でも科学でもない、何か別の‥‥そう、波だ。チャミュじいが言っていたが、波動というか波を操る文明で全く異質のものだと思うんだ」
「何だか理解が難しいですね」
「シンザよ安心するがいい。我がしっかりとシンザが理解出来るまで説明する。スノウの言っていることはおそらく正しい。我の推測でもアトラとここの文明は別物であると思うのだ」
「そっか。しっかり教えてもらうよルナリ」
「任されたぞシンザ」
「おいおい、そのやりとり毎回やんのかよ。こっちが恥ずかしいからいい加減やめるか他所の見えないところでやってくれよ全く」
シンザとルナリのやりとりにワサンはうんざりした表情を見せた。
「話が外れてしまったが、とにかくこの街を隈なく調べる。おそらくモノリスはない。だが、見たら分かる何かがあるはずだ。エリアと分担を決めて早速調査を開始する。いいな?」
『おう!』
スノウ達は調査を開始した。
そして4時間が過ぎた頃、ルナリがとある何かを見つけた。
「歯車‥‥ギアか」
見つけたのはホドには存在し得ない精巧に作られた歯車だった。
材質は超高強度の金属であり、その高い強度を誇る金属を寸分違わない削り方で作ったギアが目の前にあるのだ。
「あり得ないぞ、この加工技術は‥‥」
「そうなのか?道具職人でもあったお前なら同じようなモノを作れるんじゃないかと思うんだけどな」
「無理だワサン。ここまで精巧なものは手作業では難しい。しかも何となくだが、この地下都市の文明が生み出したものには見えな‥‥うっ!」
突如スノウの体が光り出し、その後消え去ってしまった。
『!!』
ゴトン!
ギアが床に落ちた。
そして一同は何が行なったのか分からず呆然としていた。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。
間も無くホド編第2章は終わり、新章に突入します。




