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<ホド編 第2章> 145.世界竜の残穢

145.世界竜の残穢


 「おれも感知した。全員警戒態勢だ。ルナリ、生命反応までのルートを見つけてくれ」


 スノウはそう言うと体に波動気を練り始めた。


 「ソナー魔法じゃぁ生命反応や魔力反応の強弱は分からないはずだろ?強敵なのか?」

 「おそらくな。そもそもここら一帯には生命反応がなかった。だが突然生命反応が現れた。魔力反応もだ。それだけでも危険な臭いがするが、そもそも、今更だがこのダンジョン何か変だ。何か感じないかワサン」

 「‥‥‥そう言われてみればこのダンジョン、以前来た時に比べて空気がおかしい気がする。ほんの僅かだが焦げくさい臭いがする。焦げ臭いだけじゃない。何か澱んだ、いや邪悪な感じだ」

 「流石はワサン。おそらくその臭いのせいだな。嗅覚の鋭い魔物や動物たちはその焦げくさい邪悪な臭いに何らかの恐怖を感じて逃げてしまったんだろう」

 「なるほど。動物たちはさておき、魔物全てが逃げ出すとは相当な存在ってことか」

 「そしてマスターが越界した場所へ行くためには、生命反応の存在を倒さなければならなそうね。急ぎましょう」

 「ルートを確認した。我の触手を這わせてある。それを辿っていけばよい」

 「ありがとうルナリ。みんな行くぞ」

 『おう!』


 スノウたちは慎重に進み始めた。

 ルナリの負の情念の触手を辿っていくが、その道はとてもダンジョンとはいえず、まるで前人未到の洞窟を切り開いていくかのようだった。


 「あと少しだ。警戒を怠るなよ」


 狭い洞窟を這うようにして進んでいく。


 ガラ‥ガタタタン!!


 「崩れるぞ!」


 突如洞窟が崩れ始めた。


 ガラララドッゴゴゴォォン!!


 地盤が崩れスノウ達は一気に下降していく。


 『!!』


 降下していくと、突如大きく開けた空間に出た。


 「また落下かよ!!」

 

 ワサンが叫ぶ。


 「下を見ろ!!」


 スノウの言葉で皆下を見る。

 そこには一面マグマが広がっていた。


 「魔法で浮遊だ!」

 「ダメですマスター!魔法が使えません!」

 「何?!」

 「本当よ師匠!ここには何らかの魔法防御の結界が張られているようだわ!」

 「ルナリ!エル!頼む!」

 「了解した」「はい!」


 エルティエルはスノウとフランシアを掴み、出現させた翼を羽ばたかせて浮遊した。

 一方ルナリは負の情念の触手を伸ばし岩肌を掴むと当時にシンザとワサンを触手で抱えた。


 ヴァサッ!ヴァサッ!


 マグマから発せられる上昇気流にもエルティエルはバランスを崩さずに飛んでいる。


 「ここがおれが越界した時に背後にあったマグマなのか?」

 「スノウ!今はそれどころじゃないぞ!生命反応が下のマグマから発せられている!」


 ワサンの言葉にスノウはソナー魔法と万空理(バンクーリ)空視(クーシー)を展開し確かめる。


 「!‥‥い、いや‥違うぞワサン。マグマから発せられているんじゃない‥‥あのマグマそのものが生き物だ!」

 『!!』


 目を凝らすとマグマには動きがあり、海流のように渦を巻いているのが見えた。


 「こいつは‥‥」

 「まさか!‥‥巨大な蛇?!」

 「いや、竜だ!鋭い鉤爪が見えた!」

 「マグマの竜‥‥マグマ竜か!」


 皆がマグマだと思っていたのはマグマで出来た竜だった。


 ドロォォ‥‥


 マグマ竜の頭部がゆっくりと上昇してくる。


 ニュゥゥゥゥ‥‥


 「!!」


 そしてスノウの前まで頭部を上昇させるとスノウに顔を向けた。

 一触即発の中、緊張感が走る。


 「貴様は一体何者だ?」

 「!」


 マグマ竜が突然話しかけてきたことでスノウ破面くらった。


 (話せるのかよ。まぁその方が情報収集できるからいいか)


 スノウは深呼吸すると落ち着いた声で答える。


 「どういう意味だ」

 「名を名乗れと言っているのだ。我が知りたいのは貴様の種族でも役割でも使命でもない。貴様の名だ」


 クイクイ‥


 「?‥‥どうしたマダラ」


 スノウに巻き付いて透過しているマダラが話しかけてきた。


 「主人よ。こやつは我と同様に世界竜より切り離された指蛇の成れの果て。大方本体より繋がりが切り離された瞬間にマグマに落ち、運良くマグマを取り込んだのであろう。それも世界竜の一部であったからこその作用。そしてこやつは主人の持つ世界竜の牙(シェムロム)に反応している。おそらくだが、世界竜の牙(シェムロム)を持つスノウ・ウルスラグナを探せとでも命令されていたのであろう。名乗るなら戦闘になることを覚悟しておいたほうがいい」

 「なるほど」


 「グルルゥゥゥゥ‥‥さぁ名乗れ!」


 スノウは仲間に戦闘体勢に入るよう目配せした。


 「おれの名はスノウ・ウルスラグナだ」

 「グルルァァァァァ!!スノウ・ウルスラグナかァ!!」


 突如マグマ竜の喉元が大きく膨らみ始めた。


 「ルナリ!シアを頼む!おれがエルと共にこいつと戦う!」


 ダヒュン!!ガシッ!


 エルティエルはフランシアを思い切りルナリの方へと投げた。


 「マスター!御武運を!」


 スノウはフランシアに笑みを見せた。

 ルナリは触手でキャッチするとそのままシンザ、ワサン、フランシアを抱えて上へと登っていく。

 一方スノウを抱えたエルティエルはマグマ竜と距離をとった。


 ドッバァァァァァ!!


 マグマ竜からマグマの攻撃が放たれた。

 まるで炎を吐いているかのようにマグマを吐いている。

 何らかの結界が張り巡らされているため魔法が使えないスノウとエルティエルはマグマ炎を巧みに避けつつ距離を詰めていく。


 「ちょこまかと小賢しい奴らよ!」


 マグマ竜はマグマ炎に加え、鋭い鉤爪で攻撃してきた。


 ズバァァァン!!ギリリリリ!!


 マグマ炎と鉤爪の両方を躱すのは難しく、フラガラッハを抜いて鉤爪を防いだ。


 ジュゥ!


 「ぐっ!」


 弾ける火花やマグマの破片が飛び散り、スノウの体やエルティエルの翼を焼いていく。


 「マグマの竜よ!なぜおれを攻撃する?!」

 「知ったことか!気づけば溶け燃えさかり、脳裏にあるのは我の一部を持つスノウ・ウルスラグナを殺せという目的だけ!他に理由などない!」

 「ふざけんなよ‥マダラの言う通りマグマに落ちて暴走しているヨルムンガンドの指蛇じゃねぇかよ」

 「エルティエル。主人と共に大きく上昇するのだ」


 突然マダラがエルティエルに指示してきた。


 「何この子!こんな時に偉そうね!」

 「エル、マダラの言う通りにしてくれ!急げ!」

 「はい!」


 エルティエルはスノウの言葉に従い急上昇する。


 「逃すか!」


 マグマ竜はそれを追って口を大きく開けて追いかけてくる。


 ヒュゥゥン‥


 透過していたマダラが姿を現した。


 「何をする気だマダラ?!」

 「これは哀れな残穢。滅するは我の責任」


 ヒュン‥


 マダラはスノウから離れると徐々にその体を大きく変化させ、美しい斑模様の巨大な蛇となった。


 「何者だ貴様!我の行く手を阻むとは死を覚悟しているのだろうな!」

 「昨日今日生まれた赤子の分際で喚くな」

 「飲み込んでくれるわ!!グバァァァァ!!」


 登ってくるマグマ竜は巨大な口を開けた。

 一方マグマ竜に向かって下降していくマダラはそのまま突進していく。


 「マダラの方が体が小さい!それに相手はマグマの化身!普通の体では焼かれてしまう!」

 「大丈夫だエル」


 心配するエルティエルにスノウは自信に満ちた表情でマダラとマグマ竜の衝突を見守った。


 ドッゴォォォォォォォン!!


 完全にマグマ竜がマダラを飲み込む形となった。

 マグマ竜の喉元が大きく膨らみ、その膨らみは胴体へと伝っていく。


 「グバババァァ!!全て飲み込み我の腹の中で焼き尽くしてやるわ!」


 グゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


 「ウグ!グブブバァァ!!」


 突如マグマ竜は苦しみ出した。


 「アガガァァ!!」


 ギュルルン‥‥ギュワァァァン‥‥


 畝りながら大きく旋回するマグマ竜の表情は明らかに苦しんでいた。


 グブ‥ドッバッァァァァァ!!


 マグマ竜の腹部が突如裂けてそこから大量のマグマが放出された。


 グブ‥ドッバッァァァァァ!!


 さらに別の場所も裂けてマグマを放出し始めた。


 「グゥゥゥ!!痛い!痛いぞ!!何が起こっているノダァァァガァァァ!!」


 グブ‥ドッバッァァ!


 また別の場所も裂けてマグマを放出し出した。


 バジュラ‥ドッグバァァァァ!!


 そして裂け目からマグマ以外の何かが飛び出てきた。


 「マダラ!」


 せり出てきたのはマダラだった。


 「!!‥‥何故だぁぁ!何故マグマで焼かれぬのだぁぁ!」

 「当たり前だ。我は世界竜ヨルムンガンドの抜け殻を母体としている存在。世界竜がマグマに焼かれるわけがあるまい」

 「なぁぁにぃぃぃ!!」

 「さぁ、我に取り込まれるがいい。哀れな残穢よ」


 マダラは口を大きく裂けんばかりに開くとマグマ竜を一気に飲み込んでいく。


 ゴボボゴゴゴゴボボゴゴォォォォ‥‥シュゥゥン!


 マダラはマグマ竜を全て飲み込んでしまった。


 「ゲプゥゥ!」


 マダラはゲップしたのだが、口からは炎が飛び出てきた。


 「危機は去ったってことですよね師匠」

 「どうやらそのようだ」


 スノウ達はマグマ竜が消えたことで安堵した。




いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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