<ホド編 第2章> 141.新たな目的
141.新たな目的
翌朝、レヴルストラ全員が集まり会議を行っていた。
皆昨日のことが無かったかのように平然としている。
全員がふたたび集まった理由。
それは、これからのレヴルストラの目的を擦り合わせるためだ。
「朝から集まってもらってすまない。今日は改めておれ達の今後の進むべき方向、目的を明確にし、いつどう動くかをすり合わせしたくて集まってもらった」
「それで俺たちはどこへ越界するんだ?エルのゴッズナイフと亀の甲羅があれば好きなところへ全員無傷で越界出来るんだよな?」
ヘラクレスが腕を組みながら言った。
「ああ。だが、その前におれ達は何をなすべきかを整理しておく必要がある。越界はその手段でしかないからな」
「その通りだがオルダマトラを追っかけてディアボロスやアドラメレクをぶっ飛ばすんだろ?目的は既に決まってると思ってたんだがなぁ」
「オルダマトラだけじゃない。ニル・ゼント、そしてやつをどこかへ連れ去ったヘクトルとカエーサルも殲滅対象だ」
「そうだな。無化の波動は世界一つを無に帰して消し去るほどの力があると言っていい」
「止めねぇとダメじゃねぇか」
シルゼヴァの発言にヘラクレスが反応した。
その横でニトロが手を挙げた。
「えっと、発言いいすか?」
「もちろんだニトロ」
「ありがとうございます。今名前の出たカエーサルって言ったら人類議会のマスターヒューだったやつっすよね」
「その通りだ」
「以前聞いたんすけど、三足烏が護衛している元老院のトップは最高議長ってのは皆さん知ってますよね?」
「それがニル・ゼントだろ?」
「そうっす。それで、元老院と並ぶ組織が人類議会で、そのトップはマスターヒューなんすよ」
「つまりカエーサルはニル・ゼントと同列のトップだったってことだな」
「ええ。人類を上から力と恐怖で抑えつけて支配するのが元老院だとすると、人類で結束を固めて支配するのが人類議会なんですよね」
ニトロの話に納得のいかない表情のシルゼヴァが質問し始めた。
「元老院、人類議会ともに人類の支配が目的だとしても思想は相反する。とても並列で成り立つ組織だとは思えん。それを束ねる上位の組織があるんじゃないのか?」
「さすがシルゼヴァさんっすね。その通りで、元老院と人類議会の上に、ニルヴァーナって組織があるらしいんすよ」
「ニルヴァーナ‥‥」
「ええ。謎な組織なんすけどね、7人しかないとか、13人しかいないとか色々言われてて、ニル・ゼントが最高議長に選ばれた際に開かれたクム・クラーヴェの時に参加してたみたいすけど、その姿も存在も謎だったみたいす」
「そのニルヴァーナとか言う組織がニル・ゼントやカエーサルと繋がっているなら、ニルヴァーナが無化の波動を操っているってことになるじゃねぇか」
「その可能性はあるかもしれないっすよヘラクレスさん」
「ありがとうニトロ。三足烏とニルヴァーナは繋がっているのか?」
スノウの質問にニトロは一瞬悩みつつ答え始めた。
「正直分からないっす。ニルヴァーナとは全く関わったことがないんですよ。情報もさっきの話以外には全くと言っていいほど入ってこないかった。かなり網張って危険ギリギリまで聞き込んだんすけどね。いや既に危険水域超えていたのかもしれません。だからカヤクさんは体乗っ取られてしまったのかもしれないっすよね‥‥」
ニトロは悔しそうな表情を浮かべたが話を続けた。
「つまり三足烏だけでなく元老院ですら上層部のごく限られた者しか知らない機密情報なんだと思うんすよ」
「そうか」
スノウの険しい表情を見てさらにニトロは話を続けた。
「あと、以前も伝えたかと思うんすけど、三足烏自体もかなり謎な組織で危険です。今回ネンドウっていう幹部がその身分を隠してジライ連隊長の部下として来ていたんですけど、恐ろしい術の使い手でして、戒律を破った部下を並べた際、人差し指を軽く動かしただけで全員の首が飛んだんですよ!何の手品かと思いましたよ」
「厄介な奴が多いぜ全く」
「人差し指だけで頭部を吹き飛ばすとは面白い!是非会ってみたいぞ」
「呑気かシルズ。いくら半神だからって頭部が吹き飛んだらそりゃまずいだろ!俺なら確実に死ぬ自身があるぜ!」
「だからそれをお前がやるんだよ。俺はその隙にその技を見極める」
「はぁ?!」
シルゼヴァとヘラクレスのいつものやり取りが始まった。
「ヘラクレスさんとシルゼヴァさんは仲がいいのか悪いのかよく分からんっすね」
ニトロは小声でシンザに話しかけたがシンザは苦笑いした。
また面倒な盛り上がりをみせると察したスノウは割って入って来た。
「分かったニトロ。つまり、オルダマトラだけじゃなく、ニルヴァーナも三足烏も元老院も人類議会もおれ達が対処すべき相手だってことだな。そしてそのどれも油断ならない相手だってことだ。彼らの目的は定かじゃないが、世界を壊そうとしている、もしくは支配しようとしていることは間違いない。その未来にハノキアに生きる者たちの笑顔はないだろう。それをおれ達が守る。これをこれからのおれ達の目的のひとつにしたい。みんなどうだろう?」
皆頷いている。
「皆賛同しています」
久しぶりに登場したソニックが言った。
彼はレヴルストラの副リーダーであり、スノウ不在の時はリーダー代理を務める。
ソニックは皆を代表してスノウに答えたのだった。
「俺はレヴルストラにいる限りこれ以上ないスリルが味わえる。人類を救うことに興味はないが、それがスリルに繋がるなら問題ない」
「素直じゃないなシルゼヴァ。本当はこの世界を守りたいんだろ?」
「ふん。守りたいのではない。これ以上ないほどのスリルを味わうという目的を果たす上での手段として人類を守り抜くということだ。勘違いするなワサン」
「フフ‥そうかい、了解だ」
ニンゲンたちにいいように当てにされてきた半神であるシルゼヴァとしては素直に人類を守るとは言いたくないことをワサンたちは悟って優しい笑みを浮かべた。
続いてレヴルストラの中で異質な存在だと自認しているアリオクが話し始めた。
「もちろん俺も協力させてもらう。俺は魔王というクラスに属しているが元々は堕天使だ。ハノキアの至る所で伝えられている堕天使とは悪の象徴のように扱われているが、堕天使には堕天使なりの正義があり、その中には人類を救うという目的もあった。つまり俺の本来の目的のひとつでもあるわけだ。従って俺にはスノウ達と共にレヴルストラの目的を果たす動機がある」
「それを言うなら天使の私にも人類を救う動機があるわ。救う方向性は違うかも知れないけどね。でも少なくとも破壊や支配はしない」
アリオクに続きエルティエルが話始めたのだが、アリオクはいつになく真面目な表情で言葉を返す。
「支配はしないか‥‥いつか落ち着いたら語りたいものだ」
アリオクとエルティエルに微妙な空気が流れたのを察したスノウが割って入る。
「ありがとうアリオク。あんたが魔王だろうが堕天使だろうがおれ達には関係ない。エルも同様だ。確かにお前は天使かもしれないが、記憶をなくしていた頃は自分を人間だと思っていた。つまり、生まれた素性で種族や力に差があったとしても関係ない。大事なのは心だ。心で通じている限りそんな差に何ら意味はないということだ。レヴルストラとはそういう集まりなんだ。そしておれはレヴルストラの一員であることを誇りに思っている。皆と行動を共に出来ていることに喜びを感じている」
皆スノウの言葉を優しい表情で聞いていた。
「それで!最初の質問に戻るが、俺たちは一体どこへ行くってんだスノウ?そのゴッズナイフを使って越界するんだろ?オルダマトラにしろ、ニルヴァーナにしろどこにいるのか分からないぜ?」
「それだが、ゴッズナイフは使わない」
『!?』
「何でだよスノウ!それを使わなきゃ越界出来ないんじゃねぇのか?!」
「かも知れないな。だが、亀の甲羅を手に入れたおれ達にとってはゴッズナイフは守護天使同様に緊急用にすべきなんだ。ネツァクでもケセドでもバラバラになってしまったことや幾度となく皆の危機に襲われた経験からすれば、ゴッズナイフは本当に使うべき時に使う必要がある。それにおれとワサン、そして今ティフェレトにいるエスティはホドから越界している。どうして越界したのかは不明だがな。でもそれは越界の手段があるってことだと思うんだ」
「確かに!」
ワサンが納得したように割り込んできた。
「あの時は三足烏のホウゲキと戦っていた最中で一体何が起こったのか分からなかったが、微かな記憶では地割れが起きた際にその亀裂のひとつがカルパに繋がっていたように見えたぜ」
「ああ。とにかく仕組みは分からないが越界は出来た。だからもう一度同じ場所へ行ってみようと思うんだ」
「三足烏・烈と戦った蒼市のダンジョンだな」
「その通りだワサン。そしてもう一つ。今回のホドの混乱の中でまだ生きている三足烏がいるはずだ」
「!!」
ニトロが目を見開いて驚きの表情を見せた。
「そうっす!そうっすよ!まだ生き残ったやつらがいるっす!」
「まさか‥‥」
ロムロナが険しい表情でニトロを見た。
「ライジ‥いやジライだな」
「ええ!」
スノウはロムロナとワサンを見た。
「あいつからは聞き出すことがある。三足烏の組織や目的、そしてこれから何をするか‥」
「もうひとつあるわねぇ」
ロムロナはこめかみに血管を浮き立たせながら笑みを見せた。
「あたしたちを裏切ってどう思ったのかをねぇ」
エントワを失いアレックスを窮地に追い込んだ原因はジライにあったと言ってもよい。
罪を償わせるというつもりはなかったが、一時でも仲間であったにも関わらず裏切ったその心境を問いたかったのだ。
「2班に分かれて今日の午後出発だ。1班は越界方法の探索。2班はジライの捜索と確保だ」
『おう!』
スノウ達は次なる行動を開始した。
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