<ホド編 第2章> 138.リーダーの決定に従う
138.リーダーの決定に従う
スノウは自室のベッドで横になっていた。
目を瞑るスノウの脳裏にエルティエルが発言する姿がリフレインしていた。
「私もレヴルストラの一員になるためにここへ来たの」
本来ならば今日、謎の神殿を出発し越界の手段を探しに行く予定だったのだが、エルティエルの突然の申し出があったため、今日の夕方に会議を開くこととして出発を1日延期することにしたのだ。
部屋の天井を見ながら思考を巡らせていた。
(確かにエルがレヴルストラに加入すれば大きな戦力アップだ。彼女の天使の力とネットワークは強力だからな。だが、他のメンバーが許さないだろうな。特にシルゼヴァは露骨に不機嫌な表情だったし。さてどうしたものか‥‥‥)
仲間の中では意見が割れていた。
好意的ではないが加入に反対していない者、加入に反対の者、加入を拒絶する者、大まかに分けるとこの3つとなる。
ソニック、ワサン、シンザ、ルナリ、ロムロナは反対していない。
一方ソニア、フランシア、アリオクは反対、ヘラクレスとシルゼヴァは拒絶していた。
(ざっくり半々か。おれの意見で決まるみたいなもんじゃないか‥‥)
スノウはメンバーの総意で決めたいのだがここまで二手に分かれると後々面倒な事になるのではと懸念していたのだ。
コンコン‥
「師匠」
「!」
エルティエルがドアをノックしてきた。
スノウは起き上がって彼女を部屋に招き入れた。
「どうした?」
「いえ、少し話をしたくて」
「ああ」
エルティエルは自分のレヴルストラ加入の申し出で揉めていることを気にしているようだった。
「師匠‥‥何だか困らせてしまってごめんなさい」
「ほんとだよ全く。それで話ってのは何なんだ?まさか謝りに来ただけってわけじゃないんだろ?」
「ええ。実は‥‥」
エルティエルはコングレッションでの決議の話をした。
翌日に行われた2回目の臨時コングレッションでカマエル、ミカエル、エルティエル、そしてメタトロンはハノキア各世界の次期守護天使候補を持ち寄った。
多少力不足や人類への配慮などに不安はあったものの全員一致で全候補者が守護天使として認められ世代交代が実現することとなった。
唯一メタトロンとガブリエルだけは継続となったが、イェソドの守護天使であるガブリエルは諸事情で不在なのまま継続、メタトロンはコクマの守護天使代理を務める形となり、守護天使統括はケテルを守護する次期守護天使が担うこととなったようだった。
そしてエルティエル、カマエル、ミカエルが全面的にスノウ達と連携し、オルダマトラ壊滅で共闘したいと言う考えを持っていることを聞いた。
エルティエルとしては自分がレヴルストラに加入するのに十分なメリットを示せていると考えていたが、スノウの曇った表情が変わらないのを見て少し不安そうな表情を見せた。
「話は分かった。連携は確かに心強いが問題はもっと本質的な部分なんだ」
「私が天使だからですね?」
「まぁそんなところだ」
エルティエルは少し寂しそうな表情を見せながら、小さな魔法陣を出現させて中に手を入れると何かを取り出した。
エルティエルの手に乗っているのは小さな木彫りのナイフだった。
「?」
「これが何か分かりますか?」
「ただの木ナイフじゃないのか?いや、態々取り出して見せるくらいなんだから木ナイフじゃないんだろうな。分からない。何だそれは?」
「これは神域の宝具です」
「ゴッズアイテム?」
「はい。神が造ったアイテムで極めて貴重かつ特殊な効果を発揮するものが多いのです」
「どっからどう見ても木ナイフだが、使うとどんな効果があるんだ?」
「これは越界アイテムです」
「!」
エルティエルから意外な言葉が出てきたことでスノウは目を見開いて驚いた。
「これを握り、行きたい世界を思い浮かべながら空を切るとゲートが開きます。残念ながら使い切りのアイテムになりますので1度使うと消滅します」
スノウは初めて越界した時を思い出した。
日本で後のフランシアである富良野紫亜に導かれ、黒い影から逃げるようにしてゲートに飛び込んだのだが、その時富良野紫亜が突如空間に空を切るようにしてゲートを開いたのだ。
今思えばこの神域の宝具を使っていたのだと気づいた。
(これがあれば態々越界方法を探さなくて済む。しかも行き先を選べるオプション付きだ。これ以上ないほどの好条件だ。‥‥いや、ここで使わずにいざという時のために取っておく手もある)
「エル。これは幾つあるんだ?」
「守護天使であればひとつだけ持つことを許されています。天使だけが使用できる越界の装置があるのでこのアイテムは有事の際の緊急脱出用みたいなものです。そうそう数もありませんのでお渡しできるのは私のものだけになってしまいます」
「そうか。でも1つでも貴重だな」
「だったら私を!」
「いや、もので釣るような気がして気が進まない。とにかく話し合いだ。おれはお前を連れていきたいと思っている。天使勢力が味方に付くメリットはあるがそれ以前に友として歓迎したいと言う気持ちだ。もちろんお前の戦力も頼もしい限りだよ」
「ありがとうございます師匠」
「だがおれの一存では決めたくない。きっと最後はおれに決めろって言ってくる気もするがやっぱりおれはみんなが納得する形がいいんだ」
「うん、分かりました。師匠の言う通りですね。私も強引に加入してギクシャクするのは嫌だし」
スノウは頷いた。
・・・・・
その日の夜、晩飯を食べながら議論し結論を出すことになった。
もちろんこの場にいるのはレヴルストラのメンバーのみでエルティエルはいない。
スノウは神域の宝具については触れなかった。
議論の口火を切ったのはヘラクレスだった。
「俺ぁ反対だぜ。いやむしろ拒絶したいねぇ。オリンポスの神々の肩を持つつもりはさらさらねぇが、ゼウスを始め力を失ったのは天使たちのせいだ。奴ら徒党を組んで攻めてきてあっという間に制圧しちまった。俺やシルズみたいな半神はただでさえ神々から虐げられてきたのによ、天使たちに領土を奪われた腹いせに半神たちに八つ当たりしてきやがったんだぜ。俺やシルズが黙らせなきゃぁ今頃半神たちの地位は下の下だ。これも全て神々や天使どもの利己的で傲慢で傍若無人な行動のせいなんだぜ。そんな奴らと組めるかよ」
「ハークのいう通りだ。利害が一致し一時的な共闘ならば問題ないが、仲間にするのはわけが違う」
シルゼヴァの発言にソニアが反応する。
「あんたたちは単なる僻みでしょ。くだらない小者の意見ね。あたしは拒絶はしない。メンバーに加えてもいいと思う。天使の力を得られるのはレヴルストラにとって有益だわ。でもエルティエルが態度を改めることが条件ね。スノウに馴れ馴れしくするのは絶対にダメ。それさえ守られれば問題ないわ。もし守れなければ即刻去ってもらうけど」
「お前こそ僻みじゃねぇかよソニア。あの天使がスノウと仲良くしちゃってるもんだからヤキモチと僻みと嫉妬してんだろうが!」
「言ってくれるわねヘラクレス。いいわ表に出なさいよ!あたしがヤキモチも僻みも嫉妬もないことを力で分からせてあげるわよ!」
「おう!望むところだぜ!」
そこにワサンが割って入る。
「喧嘩ってことだよな?オレたちは議論してんだ。喧嘩すんなら議論から離脱するってことでいいな?」
「はぁ?!何であんたが仕切るのよワサン!」
「そうだぜ!俺はこいつが表出ろっつったから受けて立つって言ったんだ。議論とは関係ねぇ!」
「オレに矛先向けるんじゃねぇよ!」
「面倒ね。いっそのこと戦って勝った者の主張を優先するのはどうかしら。もちろん最終的に決めるのはマスターだけど」
「面白い案だなシア。お前の提案を受けてやろう」
「ちょっと皆さん!」
『黙ってろシンザ!』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
喧嘩に発展しそうな流れを止めようとしたシンザに怒号が飛んだ瞬間、ルナリが凄まじい怒りのオーラを発し始めた。
「全員纏めて殺してやろう」
するとい普段は冷静なアリオクが腕を組んで笑みを浮かべながら反応した。
「ルナリ、お前が本気を出すなら俺も参戦しよう。体が鈍っていたところだ。俺も限界を超えるような訓練を試みたい」
「アリオクボウヤ。これ訓練じゃないから」
ロムロナが割り込んできた。
「まぁでも、この化け物級のボウヤたちにあたしの魔法がどれだけ通用するのか試してみたい気もするわねぇ」
何故か彼女も参戦しやる気満々になっている。
趣旨が変わってきた感もあるが、全員がこれから戦って勝者を決める方向に議論が進んだ。
ダン!!ビギギッ‥‥
スノウはテーブルを叩いた。
抑え気味に叩いたつもりがつい感情が込められてしまったようでテーブルに大きく亀裂がはしった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
スノウの苛立ちのオーラが広がる。
「おれ達はこんなにも会話が出来ない仲間だったのかよ‥‥」
ズズ‥
「いいだろう。おれも参戦してやる。最後に立っていた者の意見を最終決定としようじゃないか」
「お!スノウ!お前もやるのか!」
「スノウが入るならオレは遠慮しておくぜ。オレはスノウの決定に従うつもりだからな」
「おいなんだよワサン!拍子抜けするじゃねぇかよ!そう言うことなら俺もスノウの決定に従うぜ」
「そうだな。俺もそうしよう。リーダーのスノウには考えがあるはずだ。レヴルストラはチームだからな。リーダーの決定に従い行動する。私情は2の次だ」
「そうね。それに私情があったとしてもスノウならちゃんと考慮してくれるわ」
「当たり前ね。マスターは常に全てを見透し熟慮して適切な決定を下されるわ」
「状況は理解した。そう言う話であれば我もシンザへの侮辱を赦してやろう」
「なるほど。スノウとも戦ってみたい気もするが、皆の意見は尊重すべきだ。俺もリーダーの意見に従うとしよう」
ガタン‥‥
スノウはへたり込むように椅子に座った。
「お前ら‥‥」
(完全におれをはめたな‥‥最初から全員で結託しておれに決めさせようとしたってことかよ‥‥)
ポン‥
「まぁそんなガッカリするものではないわねぇ、スノウボウヤ。色んな素性の者が集まったレヴルストラだから其々主張もあれば譲れないことだってあるわ。でも皆仲間を想っているのよ。ただ一人ひとりの意見を尊重したくても優先順位なんてつけられないんだわ。だから貴方みたいリーダーが必要なのよ」
「そうですよ。僕らはスノウさんに責任を押し付けようと思っているわけじゃないんです。リーダーの意向を自分の意見として納得して責任を持つ。そんな感じなんですよ」
「お前は皆で決めたい、独裁的、独善的になることを避けたいと思っているのだろうが、それはこのレヴルストラには当てはまらないぞスノウ。俺は魔王だが、その中でも孤立した単独行動をとる。だから悪魔の世界を少し引いた目で見ることが出来るんだが、悪魔の世界は絶対君主制で上の命に納得し信頼している者などいない。皆上の顔色を伺って行動し、死角の範疇で裏切る。合議制など存在しないし、ましてやリーダーを信頼してそれに自ら従うなどないんだ。俺はこのレヴルストラの信頼で繋がっている形が気に入っているんだがな」
ロムロナに続き、シンザ、そしてアリオクまでがスノウを諭すように話し、他の者たちはそれに頷いている。
「はぁ‥‥分かったよ」
ため息を吐きながらもスノウは皆の想いに感謝し誇りに思っていた。
「エルはレヴルストラの仲間として迎え入れることにしたい。理由は3つだ。ひとつはエル自身がネツァクでおれと共に戦った仲間であり実力者であること。そしてそのバックに旧守護天使たちのメタトロン、カマエル、ミカエルも味方となること。最後はエルからとあるアイテムを見せてもらえたことだ」
スノウは神域の宝具の話をした。
一同は顔を見合わせて驚きの表情を見せている。
「おそらくエルはレヴルストラに加入できなくてもその越界アイテムをおれ達に渡してくれると思う。だがおれはあいつを仲間にしない場合は受け取るつもりはない。そしてそのアイテム欲しさに加入させるわけでもない。あくまでオマケということだ」
その言葉に一同は納得した。
これでレヴルストラに新たな仲間が加わることとなった。
いつも読んで頂き本当にありがとうございます。




