表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1054/1102

<ホド編 第2章> 135.ニベルタム

 135.ニベルタム


 「よう(あん)ちゃん」


 背後からスノウに声をかけてきたのはザザナールだった。

 小さな岩に項垂れるようにして座っている。

 ニル・ゼントがヘクトル、カエーサルと共に消えたことで、主人を失ってしまい緊張の糸が切れたのか疲れた表情を見せていた。


 「ザザナール!」

 「おいおい、もう戦意はねぇよ。ゼントさんがいなくなっちまった以上、守る相手もいない。俺が(あん)ちゃんと戦う理由もなくなったってことだ」


 パサッパサッ


 ザザナールは衣服の埃や汚れを手で払いながら立ち上がった。


 「俺の本質は破壊者だ。この世界、いやハノキア全土を破壊する衝動を持っている。拭えない衝動だ。それが俺の使命だって細胞に刻まれてんだ。俺のズバ抜けた強さに嫉妬したかつての仲間、トライブ “イーシャ” のアガティン、ヴェルト、アリディア、そしてロムロナが俺を殺そうとしたことで破壊衝動を持ってしまったって思われているだろう。特にロムロナにはな。だが実際には違う。俺は生まれた時から世界を破滅に導く力とその衝動を持っていたんだ。‥‥だからロムロナに伝えてくれ。恨んでねぇってな」

 「直接伝えればいいじゃないか」

 「面倒臭えんだよ。そういうのはさ。まぁ伝えてくれなくてもいい。とにかく俺はこの世界から消える。ホドは既にツマらねぇ世界に変わっちまったからな」

 「どこに行くつもりだ?」

 「さぁな。適当に越界して当面はのんびり暮らすさ。行き当たりばったりも楽しいもんだ」

 「越界して破壊に走るつもりか?」

 「いや、ゼントさんがいねぇからな。俺ひとりで世界の破壊もツマらねぇ。刺激がなくなっちまった。まぁゼントさんが再び現れたら分からねぇけどな。それじゃぁ俺は行くぜ」


 ザザナールはポーチから特殊なアイテムを取り出した。

 よく見ると笛だった。

 ザザナールはその笛に思い切り息を吹きかけるが音はならない。


 グググググ‥‥グイィィ‥‥


 突如空間に裂け目が生じた。

 カルパに続くゲートだった。

 ザザナールはそのゲートにゆっくりと足を踏み入れていく。


 「あ、そうそう。(あん)ちゃん。お前さんの波動気は道半ばってところだ。俺ですら極めていないんだな実はよ。山に例えるなら、俺が8合目で(あん)ちゃんは5合目ってところだ。その差は何か‥‥。波動気の本質をよくよく考えてみるこった。それに気づいた時、お前さんはさらに強くなるぜ。そん時にもう一回やろうや。今回はちと物足りなかったからなぁ。フフフ」


 そう言うとザザナールは軽く手をあげてゲートの中へと消えた。


 ヒュゥゥゥン‥‥


 ゲートはゆっくりと閉じていき、空間の裂け目は消えた。


 「波動気の本質‥」

 (ザザナールの波動気の強さは呼吸にあった。呼吸‥‥特殊な呼吸法で波動気は強くなるってことか?いや、何かが違う気がする‥‥)


 スノウは自分の強さを認めた。

 認めた上でザザナールを自分よりも強者として認識していた。

 明確に自分とザザナールの差に気づける状態になっていたのだ。

 そして気づけたからこそ、圧倒的な力の差を突きつけられていた。


 (鍛錬が必要だ。今までは何故か魔法や武技を見ただけで使いこなせていた。だが、これからは自分で腹落ちしなければだめなんだ。見ただけでは、体験しただけでは使いこなせいない領域に来ているんだ。だが、言い換えればおれはもっと強くなれる。どんな脅威からも仲間を守る強さを得られるってことだ)

 「いいところに気づいたじゃないか」


 スノウの髪の毛の中にオボロ切れ長の目が現れて話しかけてきた。


 「何だよババァ。おれの心の声にいちいち反応すんなよ」

 「何言ってんだい。お前が早く一端の強さを身につけてくれなきゃいちいちあたしが出張らなきゃならないじゃないか。本来あたしの力を借りられるなんて贅沢、お前みたいな小童が得られるもんじゃないんだよ」

 「だったらとっとと他のやつに憑依すりゃぁいいだろ」

 「馬鹿だね小童。大馬鹿だよ。あたしがいなきゃぁお前はとっくの昔に死んでいたんだ。少しは感謝してほしいねぇ」

 「まぁ、それはそうだな。ババァがいなければ今頃おれは生きていないし、仲間だって救えていない。そりゃぁ感謝しなきゃな。ありがとうオボロ」

 「なんだい!気持ち悪いねぇ!小童らしくなくて気持ち悪いんだよ!」

 「うるせねぇな!何が言いたいんだよクソババァ!」

 「全く喧嘩するほど仲がよいと言うがその通りだな」

 『やかましいマダラ』


 割り込んできたマダラにスノウとオボロは声を揃えてツッコミを入れた。


 「全く、お前らと会話していると調子狂うよ。とにかくみんなのところへ戻るぞ」


 スノウは風魔法でゆっくりと浮遊しヨルムンガンドの頭部にいるレヴルストラメンバーの元へと飛んでいった。


 ヒュゥゥゥゥン‥‥スタ‥


 「マスター!」

 「スノウ!」


 フランシアとソニアがスノウの帰還を喜び出迎えた。

 ワサンやヘラクレスたちも飛びつくことはなかったが嬉しそうにしている。


 「すまない。ニル・ゼントたちを逃してしまった」

 「いや、上出来だ。少なくともホドは救われたのだからな。奴らが別の世界へと越界したのだとしたら、俺たちは奴らを追わなければならんが。それにヨルムンガンドやオボロの技である次元の狭間送りにすることでやつらを隔離出来ることも分かったのだ。無敵とも思えた無化の力を消し去る手段を得たということだ」


 シルゼヴァが腕を組みながら言った。


 「得体の知れないあいつらを追うことに加え、俺たちはオルダマトラも追うべきだ。あれだけの陸地を越界させようとしていたんだ。それを他の世界でもやられたらハノキアは崩壊する。ディアボロスたちの計画を知る必要がある」


 アリオクが腰に下げている長魔刀 “獅子玄常(ししげんじょう)に手を置きながら付け加えた言葉に皆納得したように頷いた。


 「グノォォォォォ‥‥どうでもいい会話は後にしろぉぉぉ」


 ヨルムンガンドが痺れを切らしたように唸り出した。


 「いつまで我の頭上でくつろいでいるつもりだァ!」


 ドッゴォォォン!


 「アギャァァァァァ!!」


 シルゼヴァがヨルムンガンドを閉じ込めていた檻の鍵を握りながらヨルムンガンドの脳天に拳を叩き込んだ瞬間、ヨルムンガンドはホドが震えるほどの悲鳴をあげた。


 「わ、分かった!分かったからそれで殴るのはやめろ!」

 「理解したのなら許してやる」


 世界竜ヨルムンガンドはシルゼヴァに完全に手懐けられていた。


 「師匠!」


 エルティエルがスノウのもとへと近寄ってきた。


 「エル、色々とありがとう。お前はこの世界の守護天使じゃないから色々と大変だったんじゃないか?基本的に無干渉が守護天使のルールなんだろ?」

 「いえ、ハノキア全体の危機です。自分の世界がとうとか言っている場合じゃないですからね。それに今回のことは私たち守護天使の統括のメタトロンも感謝の言葉を述べていました」

 「そうか」


 メタトロンはスノウの過去の記憶において苦楽を共にした友であった。

 現在のスノウにとって明確な友としての認識は持てていないのだが、蘇ってきた記憶で友と理解しているだけであったため、スノウは釈然としない感覚で返事をした。


 「それでは私はこれで。間も無く部分越界しているデヴァリエもケテルへ戻るから私もネツァクへと戻るわ」


 ヴァサッ‥


 エルティエルは背中に翼を出現させた。


 ガッ!


 「じゃぁねスノウ!」


 ヴァッサヴァッサ!


 エルティエルはスノウに抱きついてスノウの胸に顔を埋めたあとすぐに飛び去った。

 それを見たフランシアとソニアは凄まじい魔法攻撃を飛行しているエルティエルに向けて放ったことは言うまでもない。


 その後、謎の神殿の側でスノウ達はヨルムンガンドの頭上から降りた。


 「あんたはこれからどうするんだ?」


 スノウがヨルムンガンドに聞いた。


 「これからケセドへ向かう。我はそもそもこの世界の獣神ではないのだ。本来の我の住む世界はケセド。まぁ我の本来の姿はハノキア全土に跨るほどの大きさだ。どこにでも存在するのだがなぁヒョホホホホ!」

 「ケセドか。アラドゥや八色衆、イリディア、カディール、ジェイコブにシャルマーニ、そしておれの大事な炎の友にもよろしく伝えてくれ。まぁ、あんたがいなかった時間での出来事だから知らないやつらかもしれないが、今ケセドを盛り立てているのは彼らなんだ」

 「知っているぞ。我の目はケセドにもあるのだ。お前が友と呼んでいる陽之宇美の神は我の目の役割も担ってくれているのだ。その目を通して、お前たちの行動の一部始終を見ていた。天使と悪魔どもが我の不在時に随分と好き勝手してくれた状況も知っている。従って、今のケセドを復興させようとしているあやつらを我は見守ろうと思っているのだ」

 「あんた、中々いいやつなんだな」

 「ヒョホホホホ!知らなかったのか?人生の半分は損をしているぞ」

 「なぁにを馬鹿なこと言ってんだい。早くケセドへいっちまいなクソジジイ」

 「おお!オボロ!お前にそう言われると何だか嬉しいものだぞヒョホホホ!」

 「気持ち悪いねぇ全く」


 スノウの髪の毛にある切れ長の目を顰めながらオボロが言った。


 「そうだ、忘れるところだった」


 ヨルムンガンドは目の端の方から一欠片の何かを取り出し、スノウへと飛ばした。


 ヒュン‥‥ガシ!


 「何だこれは?‥‥貝?いや、何かの合金か?」

 「亀の甲羅だ。それはロン・ギボールの獣神核である亀の甲羅(ニベルタム)だ。我の授けた世界竜の牙(シェムロム)と同じようなものだ」

 「ニベルタム‥‥」

 「それにも強大な力が込められている。越界時にそれを持っている者の半径10メートルほどの距離にいる者はカルパの魔力で蒸発することがなくなるという力だ」

 『!!』


 皆驚きの表情を見せた。


 「気安く触るなよ、半神」


 亀の甲羅(ニベルタム)に触れようとしたヘラクレスをヨルムンガンドは止めた。


 「それには我の世界竜の牙(シェムロム)同様にとてつもない呪詛が込められているからな。触り続ければ数分と経たずにお前の手は腐り削げ落ちるだろう。お前たちの中で唯一それを手に持ち平然としていられるのはスノウ・ウルスラグナだけだ」

 「削げ落ちる‥‥こえぇ」

 「なぜこれをおれに?」

 「ロン・ギボールに頼まれたのだ。ホドを、そしてロン・ギボールを救った礼だと言ってな。瑜伽変容(ゆがへんよう)が完遂されていたなら、ロン・ギボールの精神体は消滅していたはずだからな。それをお前たちが阻止した。その礼ということだ。我が持っていても意味はない。お前が受け取り、使いこなせ」


 スノウは亀の甲羅(ニベルタム)を視た。

 空視(クーシー)では因の構成が確かに毒素のような波動を発しているのが見えた。

 だが、その毒素の波動はフェニックスから手に入れた飛翔石(タガヴィマ)の波動や世界竜の牙(シェムロム)の発する波動とは違っているのに気づいた。


 (確かにこの亀の甲羅(ニベルタム)の発する毒素の波動はカルパの魔力波動を中和するような力を感じる。なるほど、これがあれば、越界の手段さえ手にすればいい。カルパの影響を防ぐ方法など気にしなくてもいいんだ)

 「確かに渡したぞ」


 ヨルムンガンドは超巨大な体をゆっくりと動かし始めた。


 ズゾォォォォォォォォォ‥‥


 「おお、そうだ。そこの蛇」


 ヨルムンガンドはゆっくりと動きながらもマダラに視線を向けた。

 マダラは一瞬ビクンと体を震わせた。


 「我から切り離された存在とはいえ、元は一部。我の名に恥じぬように生きろ」


 ズゥゥゥゥゥゥゥン‥‥シュフォォォォォォ‥‥ダシュン!


 ヨルムンガンドは一気に空へと上昇し空に巨大な空間の裂け目のゲートを開いてその中へと消えていった。

 ヨルムンガンドの言葉を受けたマダラは何かから解放された感覚と共に自分に力が漲っているのを感じていた。


・・・・・


 一方スノウのもとを去ったエルティエルはとある場所に向かっていた。


 ヒュゥゥゥゥゥン‥‥


 「この辺りね」


 エルティエルは海上をぐるぐると回りながら何かを探すように飛行している。

 そして何かを発見したのか、動きを止めた。


 「な‥‥馬鹿な‥‥あり得ない」


 エルティエルは驚愕の表情を見せて何かに視線を向けていた。



いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ