<ホド編 第2章> 132.世界を飲み込む蛇
132.世界を飲み込む蛇
(な、なんだよこれ!!)
突如出現した巨大な魔法陣の中から出てきた大きく艶のある鋼板の連なりとその後にスノウの目を眩ませながら出てきた巨大な光を放つガラスのような質感の何か。
それはあまりに大きすぎて全容が見えないほど巨大な眼であった。
そしてスノウにはこの超巨大な眼球に見覚えがあった。
殆どの事象で動じることなく行動ができるほど成長したスノウであったが、体が硬直して動かない。
トラウマとなっている事象が一気に表面に出てきて体の細胞全てがスノウの命令に背くように全く動いてくれなくなった。
ヌチャァァァァァァ‥‥
全容の見えない超巨大な何かはそのままさらにせり出てきて、黒雷鳴の鎖の方へと進んでいく。
まるで巨大な塔が生き物と化して自分の目の前を通過しているようだった。
ガバクゥゥゥン!!
黒雷鳴の鎖のある場所で例えようのない破壊音とも破裂音とも取れる音が聞こえた瞬間、吊られた大地が徐々に傾き始めた。
ズゴゴゴゴゴゴォォォ‥‥‥
ギイヤァァァァァァァ‥‥‥
地獄の叫びのような轟音とともに吊られた大地が少しずつ落下し始めているのが見えた。
思わず耳を覆いたくなるような不快音だった。
(吊られた大地が落ち始めた‥‥一体何が起こっている?!い、いや、おれは既に理解している‥‥目の前にいるバカでかい何かが何者で、何が起こったのか‥‥理解している‥‥)
スゥゥゥゥ‥‥
スノウは風魔法でゆっくりと後方に下がりながら巨大な何かから離れていく。
(やはり!)
「ヨルムンガンドか!」
巨大な魔法陣から出現したのは世界蛇ヨルムンガンドだった。
しかも指蛇などではなく、正真正銘本体の世界蛇だった。
体の太さも巨大な塔と同じくらいあり、長さについては畝っている状態もあってどれほどの長さかも分からないほど巨大な姿だった。
巨大な魔法陣から出現している状態であり、全長は想像もつかない。
頭部には先ほどスノウを硬直させた巨大な赤い眼と、異様に裂けた大きな口、そして幾重にも重なっている不規則に並ぶ牙があり、口を開くとおそらくホドカンを軽々と飲み込む大きさであることが容易に想像できた。
鱗は青黒く光っており、体のあちこちから黒く長い触手のようなものが生えており、先端には蛇の頭部がついていて蠢いている。
おそらくその黒く長い触手が切り離されると指蛇と化すのだと思われた。
(ヨルムンガンド‥‥膝市の檻で見ていたのは眼だけだった。眼のサイズから体全体は相当な大きさだとは思っていが想像を遥かに超える‥‥)
スノウはポーチの中でヨルムンガンドより譲り受けた世界竜の牙が熱くなっているのを感じた。
「主人よ」
マダラが話しかけてきた。
「我がヨルムンガンドの力を受け変容したなら、遠慮なく殺してくれて構わん」
マダラはいつになく怯えたように言った。
「しっかりしろ。お前は既にやつから切り離された存在だ。お前はお前だマダラ」
「主人‥‥」
「!!」
スノウは何かを見つけたのかポーチからスメラギスコープを取り出して覗いた。
「みんな!」
そこにいたのは先んじて離脱したはずのレヴルストラメンバーたちだった。
細胞が近づくことを嫌がってはいたが、仲間がいる安心感からかスノウの体は辛うじて動きヨルムンガンドの頭部へと近づいて行く。
ズゴゴゴゴゴゴォォォ‥‥
ギイヤァァァァァァ‥‥
その間も地獄の叫びのような音とともに大地が落下して行く。
スノウは一旦その様子を見守る。
傾きながら落ち始めた吊られた大地は徐々に水平になっていく。
ズゴゴゴゴゴゴォォォ‥‥
ギイヤァァァァァァ‥‥
地獄の悲鳴音を放ちながら吊られた大地は徐々に落下速度を上げていく。
そしてついに地面に落ちた。
ズドッゴォォォォォォォォン!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォ!!
ほぼ元の場所に嵌るように落下したのだが流石に巨大な大陸が落下したため、とてつもない大きさの津波が発生する。
ギュルルルン‥‥
世界蛇ヨルムンガンドが突如津波の方へと降下していく。
ジャキィィィィィン!!
ドガガガガガガガガガァァァン!!ドバッシャァァァァン!!
ヨルムンガンドが大津波に突入する直前で大津波は一瞬で凍りついていき、その凍りついた大津波の巨大な壁を突っ切って破壊していく。
粉々になった氷氷塊を方々に飛び散らせながらヨルムンガンドは凍った巨大津波を横断し破壊し尽くした。
ゾバババァァァァァァァン!!
大津波は破壊され、その飛び散った細かい氷解が海に沈んでいき、その衝撃で生じた小規模の津波がホドの内海へと伝わっていった。
ホド全土が巨大津波に飲まれる危機を防ぐためにソニックが音氷魔法で瞬時に大津波を凍らせ、それをヨルムンガンドが破壊し尽くしたのだ。
最も簡単にホド壊滅の危機を回避させ、ヨルムンガンドはそのまま上昇し元いた場所へと戻ってきた。
その上空にいたスノウはゆっくりとヨルムンガンドの頭部の上へと近づいて行く。
大津波を潰して回ったヨルムンガンドの頭部には、先ほどと変わらずレヴルストラメンバーがいた。
「スノウ!」
「みんな!」
スノウはレヴルストラメンバーと再会した。
吊られた大地の落下による津波を打ち消したのはレヴルストラメンバーがヨルムンガンドを動かして行ったものだった。
まるでヨルムンガンドを自由に操っているかのような状況にスノウは驚きを隠せなかった。
スノウはメンバーの中で最もヨルムンガンドと接点のあるロムロナに話しかけた。
「ロムロナ!これは!」
「ニトロボウヤがヨルムンガンドボウヤを閉じ込めた鍵を持っていてねぇ!この窮地を乗り切るためにはヨルムンガンドボウヤの力が必要だと思ったの!」
「それだけニル・ゼントの無化の力、そして大地を吊り越界しようとしているオルダマトラは大きな脅威だったという事だ」
「魔法陣については私も協力させてもらったわ師匠!」
「シルゼヴァ!それにエルまで!そうか‥‥ありがとう、みんな‥無事でいてくれて‥‥本当にありがとう!」
スノウはホドの終焉を覚悟し、仲間を救えない絶望感に苛まれていたが、そこから解放された安堵感で目に涙を滲ませた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
「グノォォォォォ‥‥我への感謝の言葉はないのかスノウ・ウルスラグナァ!」
「!!」
巨大な眼がスノウを捉えて言った。
「世界蛇!い、いやヨルムンガ‥」
「アギャギャギャァァァァァアアアア!!なんと呼んだか!クソが!俺をあのような嫉妬に狂った地を這う輩と一緒にするな!」
ズドドドォォォォン!
以前聞いた声とは比べ物にならないほどの音量と波動だった。
怒りの声でホドの内海が大きく震えて津波が発生するほどだった。
ゴォォン!
「!」
突如シルゼヴァがヨルムンガンドの脳天を叩いた。
「イギィヤァ!」
激痛の悲鳴が波動となって周囲に広がって行く。
「こいつを閉じ込めていた檻ってのは、結構有能でな。鍵をヨルムンガンドにぶち刺すだけで檻に戻せるのだ。さらに一度檻に閉じ込められた者はこうやって鍵を握って殴られるだけでもかなりの痛みを受けるらしい」
「この檻はかつて強大な力を誇っていた荒れ狂う煉獄の炎の海の化身リヴィアタンを閉じ込めていた檻で、異系神のオリンポス山を支配しているゼウスもティターンを閉じ込めるのに使ったものなの。その時はタルタロスとも呼ばれていたわ」
「ケテルにもタルタロスがあったがあれは檻があった場所らしい。本当のタルタロスはこのホドにあったというわ訳だ」
シルゼヴァに続き、エルティエルが説明した。
「ほぇ‥‥」
スノウは呆気に取られていた。
同時に檻に秘密があるとはいえ、ヨルムンガンドを手懐けていたとは流石だと改めて仲間を誇りに思った。
「世界‥竜‥でいいんだよな?」
「当たり前だクソが!あ!あぁ‥‥いや、分かればよいのだスノウ・ウルスラグナ。俺は世界竜ヨルムンガンド。既に理解しているな?よし、いい子達だ」
(何だかこの件懐かしいな)
「!」
スノウは何かに気づいたようにヨルムンガンドに質問し始めた。
「あんたが飲み込んだのは黒い稲妻の鎖と無化の球体なはずだ!鎖はいいとして、無化の球体はどうした?!まさか飲み込んだんじゃないだろうな?!」
ヨルムンガンドが無化の球体を飲み込んでいたとすれば、ヨルムンガンドも無に帰してしまうのではと思ったのだ。
「ヒョホホホホホォォ!!我が普通の生物だと思い込んでいるようだな!我の口の中は異次元へと繋がっているのだ!黒雷鳴の鎖も無化の球体も今頃次元の狭間でプカプカと浮かんでおるわ!」
「マジか‥‥」
(まるで巨大な掃除機みたいだな‥)
スノウは口に出すと怒り出すため、本音は心の中でつぶやいた。
「それはそうと、忌々しい巨大戦艦から落とされた鉄塊によって潰された異形の存在。間も無く再生するぞ」
『!!』
ヨルムンガンドの言葉に全員が落下した大地に視線を向けた。
ニル・ゼントが潰された場所に異様な空間が出現していのが感じられた。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




