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<ティフェレト編>51.民衆のために

51.民衆のために



――ノーンザーレ内広場――


 「ん?なんだ?!何でこんなところにつっ立てるんだ?」

 「え?なに?なにしてたんだろ私‥‥」


 多勢が一時的に記憶の混同を起こしているのか歌が終わった後、皆我に返ったかのように状況が把握できずに戸惑っていた。

 しかし次第に思い出し始める。


 「そうだ‥声が聞こえたんだ‥‥」

 「そう‥誰かが‥‥とっても綺麗な踊りを踊っていたような‥‥」

 「美しい剣というかタクトみたいなものを振りながら僕たちに語りかけてた‥‥」

 「そうだ!思い出した!空から落ちてきそうな星を破壊するためにみんなで心をひとつにしようって語りかけてくれてた!」

 「暖かい気持ちになった」

 「ああ。あの紫色の髪の毛の女性は‥‥」

 「女神さまだ!」

 「そうだよ!きっと女神様だ!このティフェレトを救うために降臨された女神だ!」

 『わぁぁぁ!!!!』


 エスティのアウロスの舞いの映像が全ての生き物の脳裏に映し出されおり、それを見たノーンザーレの人々はその姿を自分達を救ってくれた女神降臨だと思い歓喜に湧いていた。


――メルセン地方の草原にある家――


 「あれは‥‥」

 「エスティおねぇちゃんだったね!おねぇちゃんとっても綺麗だった」

 「いや!オンチー星人だ!あの女やっぱりオンチー星人だ!」


 ゴツン


 「トマス。そんな言い方しちゃだめよ?」

 「いってー!なんだよぉー。別にいいじゃん!悪いオンチー星人じゃなくて良いオンチー星人だっただけじゃんか!」

 「すごいぞ!すごい!俺たちはこの世界を救った女神を救った家族だ!」

 「スタン‥‥あなたそんなこと言いふらしちゃだめよ?!」

 「すごい!ははは!」


――ドワーフの里 ロロンガ・ルザ ――


 「見事やり抜いたな」


 ゴーザの父でもあるエンキ・ロロンガイア王は我に返り全てを思い出した上で実の息子の偉業を心から喜んでいた。


 「あのワガママ放題で王家の自覚もゼロ、司祭を敬う常識もゼロのバカ王子がねぇ」


 ドワーフ国司祭はいつもの調子で皮肉混じりの表現で誉めてたたえた。


 「バカは余計だ。がっはっは」

 「そう考えると、王政の教育だけでは少し物足りないということですかねぇ。何度叱っても辞めなかった鍛冶がこんなところで役に立つんですから。まぁ製鉄神が教えてたわけですからこれぐらい当たり前ではありますけど」


 そう言いながら喜びを隠せない2人だった。


――白の塔下――


 「ははは‥完敗だ‥‥」

 「クソ!!」

 「おいおい、騎士たる者がそんな汚い言葉履くもんじゃないよ、レーノス」


 キタラの不協和音が消え、アウロスによる全生命の歌声によって隕石が破壊され、全てを理解したゼノルファスとレーノスは負けを認め武器をおろした。


 (エスティ‥‥やりましたね)


 ソニアは笑顔で空を見上げた。


――天文台宇宙船制御室――


 全員が歌っていた姿勢から自由になり、その場に崩れる。

 キタラによって長時間歌わされ続けた結果、体へ大きな負担があったからだ。

 全員意識はあったが、全生物と意識を共有していたような感覚になっており、その不思議な体験を現実のものと受け入れることができず混乱していた。


 「スクリーンを見たまえ」


 越界者のスメラギにはキタラの精神支配もアウロスの意識共有も効き目はなかったようで体力の消耗はなかった。


 「な、ない‥‥」

 「まさか‥‥」

 「やったのか?!僕たちがやったのか?!」


 一種の記憶の混乱でマクロネットのよる隕石破壊が中途半端となっていたころからの記憶が欠落している者がほとんどだった。


 「いや、残念ながら私たちが隕石を完全破壊したのではない」

 「な‥‥」

 「そ、そういえば、3つに割るところまでは成功していたのに、その後2番目に大きな隕石がネットの端をすり抜けて‥‥」

 「そうだ。作戦は失敗した」

 「だが、この空はなんだ?!隕石が飛び散って大気圏で燃え尽きているじゃないか!」

 「そうだ。私たちの作戦は失敗した。だが、その後、王が国宝によってこの世界の全ての生物の力をまとめて音の波動を生み出し、見事隕石を破壊した。詳細はわからないが状況から推測するにこれが濃厚だ」

 「そ、そんな‥‥」

 「あれだけの準備をしたのに‥‥」

 「くそ!‥‥俺たちにもっと知恵と技術があれば‥‥」


 スメラギは塞ぎ込んでいる数人を立ち上がらせた。

 そしてスクリーン中央下にたち全員の方を向いて話し始めた。


 「私は‥‥根拠のない奇跡というものを信じない」


 全員が顔を上げスメラギの方を向いて話に聞き入っている。


 「なぜなら、科学は仮説の実証とその実現性の確率でしかないと思っているからだ。そしてその仮説もまた、我々が知りうる事実やデータの延長、またはそのから考えられうる発展的発想でしかない。その実証性においても100%はあり得ない。我々はその再現性を0%から100%に近づけるため地道な、それこそ血の滲むような努力、いや報われないかもしれない過酷な状況下で1%でも確率をあげるための実験を高い意識で続けている。それは音魔法という別次元の力が加わったとしても同じだ」


 聞き入っている者たちの顔はキタラの影響によって血が滲んでいる。

 みなが拳を握ってスメラギ氏の話を聞いている。


 「そして今回我々は失敗した!」


 全員の目から涙が滲む。


 「これは紛れもない事実だ」


 スメラギ氏は一呼吸置いた。


 「だが!失敗がなんだ!失敗もできないやつが成功を掴めるのか?最初はみな成功の仕方を知らない。失敗とはやり方のわからない成功を掴み取るための一歩だ。その一歩を踏み出せないやつが成功を掴めるはずもない!」


 全員が声を押し殺して泣き出している。


 「我々は!次の成功のための一歩を踏み出したのだ!顔を下に向けるな!次なる成功の鍵は床には転がっていない!結果を見ろ!データを分析しろ!想定を超えた状況を振り返れ!そしてその一歩を踏み出せた自分達を‥‥誇れ!!!」

 『おおおおおおお!!!!』


 全員が拳を力一杯握って涙を流しながら振るえる心のままに叫んでいる。

 スメラギ氏は声のトーンを下げて落ち着くような声で話を続ける。


 「君たちはよくやった。それに考えても見たまえ。王が如何に素晴らしい力を使ったとはいえ、その力を伝えたのは紛れもなく我々の成果物であるマクロネットだ。そして最初に衝突を防ぎ、隕石を3分割にし破壊しやすい大きさにした功績も大きい。これはティフェレト全てで防いだいわば世界が一丸となったチーム連携だ。これもまた紛れもない事実であり、その功績は君たちにある。私は、君たちとともにこの作戦を実行できたことを誇りに思うよ。礼を言う。ありがとう」


 これまで一度として笑顔を見せたことはなく、指摘や指示も口調も目つきも鋭く厳しい存在だったスメラギ氏が見せた初めての笑み。

 口角がほんの少し上がっただけだったが、この場にいた全員にとってなによりも変え難い笑みだった。


――ブロンテース鍛冶工房小屋前――


 セリアとレンがセンターピラー前で倒れ込んでいたエスティを小屋に連れて戻り休ませていた。

 エスティの体はところどころ血が滲み、骨も数カ所骨折していた。


 「おねぇちゃん、大丈夫かなぁ」

 「大丈夫ですよ。致命傷ではありませんから。マスターがご帰還なされたら回復魔法をかけていただきましょう」


 翼猫に変化しているセリアが説明した。


 「そうか、嬢ちゃん頑張ったんだな」

 「ゴーザのおっちゃんもがんばったなー」

 「おう!ケリーの嬢ちゃん、よくわかってんじゃねぇか!お前ぇは賢いなぁ!がっはっは!」

 「ゴーザのだんな、ブロンテース師匠は大丈夫なんすか?」

 「ああ‥‥」


 ブロンテースは聖なるタクトのアウロスをゴーザが鍛えるのに指示を行っていたが、過酷な鍛治工房内での温度に身体の腐食が進行し倒れ込んだまま動けない状態だった。

 しかし、ゴーザには無様な姿は見せたくないとして鍛治工房には入ってくることを禁じていた。

 ゴーザもまた、ブロンテースの気持ちを察して側にいたい気持ちを押し殺してエスティたちと一緒にいたのだった。

 表情で隠しきれない苦しさが出てしまっていたのだろう、レンが心配して話かけたのだ。


 「エストレア‥‥よく頑張った!」


 涙を流しながらエスティが寝ているベッドの横に座っているムーサ王の姿があった。

 その姿を見たレンがムーサ王に質問した。


 「王様‥‥聞いてもいいっすか?」

 「なんだね?」

 「ゴーザのだんながこしらえた聖なるタクトってやつっすけど、あれは王家の人しか使えてないって代物じゃなかったすか?なんでエスティのアネゴが使えたんすか?なんで王様が使わなかったんすか?」

 「ほんとだー!おーさまおどり下手なんだよきっと!」

 「ええ?!そんな理由っすか?!」

 「そんな理由ではない。まぁ確かに我は王家にいながら踊りは‥‥ゴホン!その下手な方かもしれんがな。舞踏会とかは大嫌いでな。どうせなら武闘会の方が性に合っておる。剣技なら得意だがな!」

 「へぇ!!王様強そうっすもんね!」

 「あたりまえじゃ!我はこれでも昔は屈強な戦士だったのだからな、わっはっは‥‥で、ではない!話がそれてしまったではないか!」

 「す!すいません!」

 「あ、いや、我のほうこそすまん。そうだな、真実を離さなければならんだろう。ゴーザは既に気づいているかもしれんがな」

 「‥‥‥‥」


 ゴーザはムーサ王の言葉を黙って聞いていた。

 ムーサ王は目を瞑り何かを思い出すようにして話し始めた。


 「実はな、エスティは我の娘なのだ」

 「えええ?!」

 「ぎゃぁぁぁぁ!!」


 レンが目が飛び出るほど驚いている。

 その顔をみてケリーが驚いて叫んだ。


 「細かい部分は省くが、エストレアが生まれてまもない頃、命を狙われているという話があってな。それで何とか逃すのにドワーフだったある男に託したのだ」

 「それが俺の親友のウルザンダー・レストールだ」

 「ウル‥‥それってアネゴがこのティフェレトに来る前にいた世界の親父さんの名前じゃないっすか!」

 「そうだな。あの赤子をあんなに立派に育てたんだって、気づいたときにゃぁ腰が抜けそうになっちまった。今じゃぁ感無量って感じだけどなどな。ウルズィはやるときゃやる漢の中の漢だったからな」

 「彼はこのゴーザの力を借りてホドという世界に越界したのだ。そこで我らが託したウルザンダーに大切に育てられたのだろう。我としては生きてさえいてくれればそれでよかったのだが、まさかこのティフェレトに戻ってきてくれるなどと夢にも思わなんだ」

 「でも王様が聖なるタクトを振るわなかった理由にはなってないっすよね?」

 「ああ、さっきも言うたろう?我は元々戦士だ。とある出来事が切っ掛けで王女であった我が妻と知り合い結婚したのだ」

 「えええ?!むむむ婿養子ってやつじゃないっすか!!」

 「わっはっは!そうだ!婿養子だ!婿養子で何がわるい!婿養子万歳だ!」

 「王よ‥‥」

 「ああ、すまん!つまりだな!あのアウロスは王家の血筋を持つ者にしか使えない、つまり婿養子である我には使えぬ代物だったのだ」

 「でもなんでアネゴが王様の娘だってわかったんすか?てかアネゴのお母さん、じゃなかった女王様はどこに?女王様だったらあのアウロスってやつ使えたんすよね?!」

 「‥‥‥‥」


 ムーサ王は少し悲しい表情になりつつ話を続けた。


 「我の最愛の妻、クリステラは既に亡くなっているのだ」


 余程辛い思い出があるのか、ムーサ王は苦しそうな表情を見せていた。 


 「クリステラは美しい紫髪の女性でな。もちろん顔も容姿も性格も完璧な女性だった。あのような心も容姿も美しい女性は我は見たことがない。少しおっちょこちょいではあったがな‥‥ふふふ。それもまた良き思い出だ。そして、エストレアはそのクリステラにそっくりなのだ。出会った頃のクリステラそのもの。最初に見た時は驚いて息が止まるかと思ったわ。そしてエストレアの話を聞いて確信した」

 「そうだったんすか‥‥」

 「王よ。奇妙な話ですな。しかもこれは‥‥何と言うか‥‥奇跡だ。あの時王女がエスティの嬢ちゃんを逃したのも、嬢ちゃんが我が友ウルザンダーと共に越界し育てられたのも、俺が鍛治技術を会得したのも、嬢ちゃんが偽王を倒し王をお救いしたのも、我が師ブロンテースを復活させたのも、全てが繋がらなかったらこの世界は終わってた。女王の意思が紡がれてこの奇跡を起こしたんだと俺は思うんですよ」


 堪えきれずに涙を流しながら王は黙って上を向いていた。


 (クリステラ‥‥)



・・・・・


・・・



――翌日――



 「アネゴ!アネゴ!」

 「んん‥‥」

 「おお!目ぇさましたか嬢ちゃん!」

 「エストレア!大丈夫か?!」

 「おねーちゃん!」

 「大丈夫っすか?!」

 

 目を覚ましたエスティにゴーザたちが声をかけるが、天井を黙って見ておりまだ意識が混濁しているかのように見えた。


 「‥‥‥‥」

 「大丈夫っすか?!アネゴ!アネゴ!」

 「エストレア?!エストレア?!」

 「ああああああ!!!うるさい!!聞こえてるわよ!!怪我負って倒れて寝込んでやっと起きたところに多勢で大声で叫ばれるとかありえないでしょ!馬鹿なの?!馬鹿だわよあなたたち!」


 エスティのごもっともな怒りの叫びに一同は背筋を伸ばしまるで先生に怒られた生徒のように直立している。


 「あんたたち反省しなさい」

 『はい!』


 ムーサ王まで直立して返事をしている。


 「って、もう大丈夫なのか?エストレア?」

 「あ、お、王様‥‥は、はい‥大丈夫です‥」


 エスティはムーサ王にもいつもの調子で強い口調で話してしまったことに気づき恥ずかしさのあまり顔を赤らめていた。


 ズン!!


 突然小屋の外で音がした。

 ドアを開けて入ってきたのはスノウとソニアだった。


 「スノウ!!」


 ガシィ!


 エスティは思わずベッドから起き上がりスノウに抱きつく。


 「お、おい‥‥」

 「あたし‥‥頑張ったよ‥‥」


 エスティの目からは涙があふれていた。

 突然抱きつかれて驚いたスノウだったが、その声を聞いて優しい顔になった。


 「ああ。よく頑張ったな‥‥」


 スノウは不器用ながらそっとエスティの肩を抱いた。

 そして、傷だらけのエスティに肩を抱きながら回復魔法をかけた。

 光に包まれているその姿は美しく見惚れるほどだった。


 「ごほん!スノウ‥‥お取り込み中とは思いますが、急がないと」

 「あ!ああ!そ、そうだった!」


 もう一つのベッドに担がれて運ばれてきたのはユーダだった。

 担いできたのはゼノルファスだった。

 一緒にレーノスも来ている。

 セリアの背に乗って白の塔からここへ飛んできたのだ。

 ユーダは右手の指の肉が削げ落ちて骨が見えており、体には斜めにえぐれた深い傷がありかなり出血していたが、スノウの回復魔法によって一応外傷はない状態になっていた。


 「意識が戻らないんですよ」


 ゼノルファスが言葉を発する。


 「ってかあんたたち一体誰っすか?」

 「ああ、これは申しおく‥‥ムーサ王!!!」

 「久しいではないか、ゼノルファス。‥‥!!レ、レーノス?!な、なぜ死んだはずの貴様がここにおるのだ?!」

 「これには少し説明が必要なんです。ですがまずはユーダ様の回復を優先させてください」

 「わ、わかった」


 改めて回復魔法を掛けて様子を見るスノウたち。


 「とりあえず様子を見ることにしよう」


 一同は別室へ移動した。


 「それで、どう言うことか説明をしてくれるか?」

 「その前に自己紹介させてください。僕はゼノルファス・ガロン。リュラーを統べていた者‥‥いや元‥かな。訳あって行方をくらましてたからねぇ。そして横にいるのが僕の弟子のレーノス・ムーザントです。彼もまたリュラー、いや元リュラーか」

 「‥‥‥‥」


 レーノスは黙っている。


 「僕たち2人はキタラ聖教会の大司教であるユーダ様の真の守護者なんですよ」

 「一体どういうことだ?」

 「ムーサ王。ご無礼を承知で申し上げます。ラザレ王国は病んでおりました。貴族たちは何もせず弱気者から搾取し、刃向かえば身勝手な理由で処罰したりひどい時は殺すことも何とも思わない。それを正そうと行動したくとも僕たちリュラーは王の剣。貴族たちの圧力で思うように動けず、守るべき民を救えなかったのです」

 「すまぬ‥‥我の目が行き届いていなかった証拠だ。謝罪したい‥‥」

 「ムーサ王!あなたが謝罪すべきは僕らじゃない!民衆であるべきです!」

 「やめなよ、レーノス。王もお分かりなはずだ。その上でまずは僕たちに謝罪したいとおっしゃっているんだ。ムーサ王、もったいないお言葉。痛み入ります」

 「すまぬ‥‥」

 「そしてその頃からリュラー内で意見が割れ始めました。民衆を守るべきと考えた僕やレーノス、ソニア、ソニック。そして王の剣である以外の目的を持たないナザ、そもそも誰かを守るなど目的としていない強さのみを求めるルーナの2人は民衆を守る目的など持ち合わせていないですから当然王政、つまり貴族側についたわけです」

 「それはべっぴんソニアから聞いたな」

 「そうでしたか。ですが、僕の立場はリュラーの統括。あくまでリュラーがバラバラにならないよう調整役に徹する必要があったわけですよ。リュラー同士の殺し合いなど聞いたことないですし、そんなことが起きればそれこぞ国の一大事ですからね。いくら騎士団がいるとはいえ、まぁ言っては何ですが、あーんな脆弱な軍隊があってもグコンレンに対抗できやしませんからね。ですが、貴族たちにしてみればレーノスやソニア、ソニックが次第に邪魔な存在になった訳です。何といっても貴族が好き勝手できていたのが、見回っているレーノスやソニアたちに悉く阻止され窘められているわけですから」

 「それは確かに排除したくなるわね。それにしても酷いわね。どこの世界も権力を持つとろくなことがないわね」

 「すまぬ‥‥全く耳が痛い‥‥」

 「あ、いえ、そう意味では‥‥すみません」

 「良いのだエストレア。お前の言う通りなのだから」

 「そんな折、貴族たちは王政に歯向かった罪でレーノスやソニア、ソニック、そして僕のリュラー剥奪及び処刑する計画を立てたんです。たまたま僕が警戒していて貴族たちの計画を事前に知ったので分かったんですがね。そんな折、ユーダ様が声を掛けてくださったんです」

 「え?!どう言うことなのですか?」


 驚いたソニアが思わず質問する。


 「そうだね、君たちには話していなかったからそういう質問をしてしまうのも無理はないな。ユーダ様の特殊能力は知っているだろう?強い音の波動を思念として読み取る力をお持ちだ。だから世の中に起きている貴族たちの非道な行いや僕たちを処刑する計画も知り得たという訳だね。普段からキタラ聖教会は貧しい人たちを助けてきましたからね。僕たちの存在もまた民衆を救うひとつの助けだったんですよ。それを失う訳にはいかないと考えたユーダ様は、僕にコンタクトされたんですね」

 「なるほど」

 「ユーダ様の計画はこうでした」



・・・・・


・・・



 「ユーダ様。お声がけいただいたのは有り難いんですが、最近お人が変わられたような王に貴族たちがうまく取りってしまっているんで、これをひっくり返すのは容易じゃないですね」

 「その通りだね、ゼノルファス。私はね、今の王が偽物だと思っているんですよ」

 「偽物?!」

 「そうです。理由も、何者が王に成り代わっているかも掴めていませんがね。ですが、王が偽物である限り私たちにとって王政と争うのは不利なのです。真のムーサ王はああ見えて人格者ですからね。元々の出が戦士ですから政には思慮が回らないだけできちんと今の状況を伝えさえすればきっと変えるチャンスが来る、私はそう考えています」

 「なるほど‥‥」

 「偽の王をどうやって排除するかは一旦置いておきましょう。そして私の作戦ですが‥‥君はリュラーの均衡を保つ存在だね。だから死ぬ訳にはいかない。だが残っていても殺されるだけだ。つまり君は生きながら消えなければならない」

 「つまり失踪するってことですか?」

 「流石はリュラー統括。その通りだよ。だが、一度のこの争いを鎮める必要もある。これ以上長引いてしまってはさらに多くの血を流してしまうからね。王政を正すタイミングは今じゃない。だが必ず来る。それまでこの状況を落ち着かせてカムフラージュする必要があるのです」

 「なるほど。ですが僕1人失踪して止まりますかね?」

 「その通りだ。生贄が必要だね」

 「つまり?」

 「レーノスに死んでもらう」

 「!!」


 思わず剣に手を伸ばすゼノルファス。


 「ははは、流石は師匠だね。いい反応だ。すまない笑ったりして。死んでもらうというのは語弊があったね。正しくは身代わりを立ててレーノスが死んだことにする‥だね」

 「身代わりを立てるのはどうやりますか?」

 「苦しい話だが誰か身代わりになるものを探してはくれないか?それをレーノスと見立てるのは私の思念波でやる」

 「気は進みませんがわかりました。それでソニア、ソニックは?」

 「あの子たちは私の護衛リュラーにします。レーノス1人の処刑で一応の収束をさせますからその後は一旦私が引き取ります。ですが、伝えて良いのはレーノスだけです。ソニアたちには伝えてはいけません。あの子たちは純粋で、2人で1人ですからね。どちらか1人が納得できない場合、二つの人格が喧嘩し混乱しかねませんから」

 「わかりました」



・・・・・


・・・



 「そうして僕はレーノスの代役を立てた。気は進まなかったがお尋ね者の凶悪犯を捕まえてきたよ。それをユーダ様が思念波でレーノスだと処刑場にいる全員に認識させた。その前に僕は失踪したけどね。それで混乱する中、事態は一旦の収束を見た。ここからはソニアたちも知っている状況だね」

 「‥‥‥‥」

 「そしてスノウ。君たちが現れた。それはユーダ様にも全くの想定外だったよね。だからソニア、ソニックに接触させたんだ。教会の白の塔にも招かせた。敢えて偽の王だと暴かせ偽の王を殺し、本物のムーサ王をお救いするためにね」

 「やはり利用されてたってことだな。どうりで怪しかったし、ユーダの言葉に常に疑念を抱き続けた訳だ。スメラギを悪者にしたててまで画策したシナリオだったみたいだが、爪が甘かったな」

 「そうだね。あのスメラギ様もまた、君と同じ世界から越界してきた越界者だったんだから。だけどスノウ、君のように悩むような人物じゃなかったから好都合だったよ。彼はとことん科学というものを追求したいだけの研究者だったからね。それに性格上取り繕ったり狼狽えたりしない分、読めない感じだったから途中まで翻弄されていたんじゃないかい?」

 「そんな話はどうでもいいからさっさと続けてくれ」

 「ははは、つれないねぇ‥‥」

 「あのゼノルファスさん。どうして国宝楽器のキタラを盗んだんですか?そしてどうしてソニア、ソニックに罪をなすりつけたんですか?」

 「そうだね‥‥キタラは元々盗む計画だったんだ。あれは精神支配の楽器だ。元々聖なるタクト・アウロスが唯一の国宝楽器だったんだが、後から何代目かの王が作らせた楽器があのキタラなんだ。王政も時の流れとともに栄枯盛衰を繰り返すから、マッカーバイ王家にも敵が多くてね。そこで仮に反乱が起きて王が殺されてしまうような事があっても、あの楽器によって王権を取り返せるようにする目的で作られたものなんだね。マッカーバイ家しか使えない代物なんだけど、いつ誰が狙われるかわからないから、とにかくマッカーバイの血統を持つもの全員に使えるようにしたってことだね」

 「アウロスは王の純粋血統を受け継ぐものにしか使えない、後から作らせたキタラはマッカーバイの血統をもつもの全員が使える‥‥なるほどそれでユーダさんも使えてたって事なのね」

 「そうです。そしてそのキタラを手に入れ、マクロニウムを使ってティフェレト全土に精神支配が及ぶ環境を作り、現在の腐敗した貴族支配の世の中を排除する、それが僕たち‥‥いやユーダ様のご計画だったという事です。それに共感し賛同し、死ぬまでお支えする覚悟を持ってユーダ様の真の守護リュラーになったという訳です。ひとつだけ誤算だったのはレーノスがキタラを盗む時にソニア、ソニックがその場にいた事ですね。盗むのを阻止する行動に出てきたために仕方なく2人に罪をかぶって逃げるしかなかったという訳です」

 「酷いっすよ!その仕方ないってやつでソニアさん、ソニックさんのお二人はすんごい苦しい拷問受けたんすよ?!一体どうするつもりだったんすか?!」


 ゼノルファスは飄々とした表情が一変し少し苦しい顔になった。


 「あれは僕も辛かった。我が子のように育てた2人だからね。救いたかった。でもあの場に僕が出ていけば計画が破綻する可能性が高かった。レーノスも同様です。せっかく沈めた民衆と貴族の争いが再燃し振り出しに戻ってしまっていたはずだ。当然リュラー同士の殺し合いに近い争いも避けられなかっただろうから」

 「それにしたって見殺しにするところだったんすよ?!」


 スノウは涙ながらに主張するレンの肩に手を置いた。


 「おれたちがソニアたちを救うと想定していたのだろう。それもユーダの予見なはずだ。こいつらなりに苦しんでいたんだろうよ。だが、ひとつ解せないのはユーダの行動だ。あの隕石衝突もまた想定外だっただろうが、結局スメラギの準備したマクロニウムを使いユーダがキタラの力で一部を破壊、その後エスティのアウロスの舞いによって完全破壊した流れだが、エスティのアウロスの舞いが始まった時点でキタラの演奏をやめる事もできたはずだ。あれの精神支配による生き物への影響はお前たちも見たはず。当然ユーダも感じ取っていただろう。だが止めなかった。何故だ?!」

 「それは私から説明しましょう」


 ガタン。


 ユーダが壁に寄りかかりながら部屋に入ってきた。


 「ユーダ様!」


 ゼノルファスとレーノスが素早くユーダの側にいき肩をかして支えた。


 「ありがとう2人とも。大丈夫だ」


 ユーダは抱えられながらゆっくりと歩き、椅子に座った。


 「ふぅ。スノウさん。あなたの魔法はこの世界のものと違って素晴らしい。直接的で根源的だ。きっと精霊たちに愛されているのだろうね」


 ユーダはキタラ演奏で削げ落ちて骨が見えていた指が元通りになっているのを見ながらスノウの魔法力に感心している。


 「さて、私が演奏を止めなかった理由ですね。ムーサ王もおられるのでちょうど良いです」


 一同は固唾を飲んでユーダの話に耳を傾けた。


間も無くティフェレト編パート1が終了します。

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