表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1048/1110

<ホド編 第2章> 129.堕天の終着点

129.堕天の終着点


 コツ‥コツ‥コツ‥コツ‥


 「全くとんでもねぇもんが入り込んで来たな」


 「!」

 (この雰囲気‥‥鋭く威圧的なオーラは‥‥おれはこのオーラを知っている!)


 突如時を止めて現れた男は、白いスーツに身を包み、褐色肌の首元や手首から異様な模様のタトゥーが見えている姿だった。

 その男はディアボロスだった。

 この時の止まった状態はディアボロスの展開した時ノ圍(トキノイ)によるものだった。

 時の呪縛から解き放たれているスノウは時ノ圍(トキノイ)の中でも動けはしないものの意識を保つことが出来るようになっていたためディアボロスの登場に気づけたのだ。


 (ディアボロス!やはりオルダマトラが上空にいるということか!)


 スノウの心の中に怒りの感情が湧いてきた。

 一方カヤクは眼球を激しく動かしてディアボロスに合図を送っていた。


 "ディアボロス!助けに来てくれたのか!早くこの呪縛を解除してくれ"

 

 カヤクが念話でディアボロスに言うと、彼は見下すような表情で視線を向けたあと、何も言わずにニル・ゼントの方へと歩いていく。

 そして彼の目の前に立つと、触れることなく観察し始めた。

 両手を広げて拡散しようとしている無化空間に小石を投げ込むと一瞬にしてその存在が消え、石を投げ込んだことすら忘れてしまうほどだった。


 「確かにこの存在は脅威だな。今のうちに壊しておく必要がある」


 ギュワァン‥‥


 ディアボロスは小さな魔法陣を出現させると中から剣を取り出した。


 ヌゥゥ‥‥


 そしてゆっくりと剣をニル・ゼントの首元に近づけていく。


 グググ‥‥


 「?!」


 剣がニル・ゼントの首元に触れる直前で、何かの強力なエネルギーによって押し返されてしまった。

 強く押せば強い力で押し返され、静かにゆっくりと剣を首元に押し付けようとすると同等の緩やかな力で押し返してくる。


 「‥‥‥‥」


 ディアボロスはふたたび小石を拾い今度はニル・ゼントの顔面に投げつける。


 バチィン!ヒュン!


 投げた小石は跳ね返りディアボロスの顔面目掛けて飛んできたが、ディアボロスはそれを冷静に避けた。


 「何なんだこいつは‥ん?!」


 ディアボロスは跳ね返ってきた小石が空中で奇妙な軌道を描き地面に落ちたのをみて何かに気づいた。


 「小石は俺が投げた際の軌道と正反対の逆再生のようになって元の場所へと戻っていった。俺が小石を投げたことが無かったことになっているってことか。オルダマトラの鉄球を喰らっても元通りに再生できているのは信じられなかったが、そういうカラクリか」

 (だが鉄球はオルダマトラへと戻っていない。こいつの能力にはまだ秘密がありそうだ)


 ディアボロスは小さな転移魔法陣を出現させた。

 そしてその魔法陣をニル・ゼントの作り出した延ばされた状態の虚無の球体に近づけた。


 ヒュン‥‥


 「!」


 転移魔法陣が虚無の球体に吸い込まれるようにして消えた。


 (万能かよ無化の力ってのは‥‥。触れるだけで無化されてしまうとなれば対処のしようがねぇ。壊すのは諦めるしかねぇな。こいつの対処は別途考えるにして、オルダマトラは無事に越界させなければならない)


 ディアボロスはニル・ゼントとザザナールを見てさらにその周辺を見回した。


(越界の時間さえ稼げりゃそれでいい。数秒の足止めで十分だ)


 ディアボロスはニル・ゼントとザザナールの真上に魔法陣を出現させた。

 そこから鳥籠のような鉄格子の檻が出現しニル・ゼントとザザナールを覆った。

 黒く鈍い光を放つ鉄格子は地面にガッチリと固定された。


 「せっかくの拷問アイテムがこんな使い方になるとはな」


 そう言うと、ディアボロスは振り向いてスノウの方へと歩いてきた。


 「さて」


 ディアボロスはスノウの前に立った。

 スノウは敢えて時が止まった瞬間に視線を向けていた方向を見て動けないことを表現し、意識があることを悟られないようにしていた。


 「アノマリー、スノウ・ウルスラグナ。お前、見えてんだろ」

 「!」

 「平静を装っても無駄だ。お前が心底俺を嫌ってる証拠として怒りのオーラが漏れ出てるからなぁ。それはこの限りなく遅くなった時間の中で俺を認識できてなきゃぁ湧き上がって来ねぇ感情だ」

 

 ギロリ


 スノウは怒りの視線をディアボロスに向けた。


 「おお、怖!」


 ディアボロスは自身が優位な立場であることを知らしめようとしているのか、ゆっくりとスノウの周りを歩き始めた。


 「出会った頃に比べたら格段に戦闘力を上げたようだな。既にアドラメレクやザドキエルじゃぁお前を殺すことは出来ねぇようだ。いやむしろ、逆に壊されちまうかもしれねぇ。全くお前、本当にニンゲンか?解剖でもしてみるか」


 ディアボロスはスノウの顔に自身の顔を近づけて楽しんでいるかのように話を続けた。


「これまでお前を生かしてきたが、はれて俺たちの計画にお前は不要となった。となればお前みたいなのがうろちょろされんのは計画に支障が出る恐れがある。と言うことでお前にはここで死んでもらう。お前には嫌悪感しかねぇからな。本来ならこの俺直々にお前をぶっ殺してやりたいところだが、そうもいかない。でもまぁとにかく結局は俺の勝ちだ。お前は俺を殺せずにここでゲームオーバーってやつだ」


 話しながらディアボロスはスノウの真上に魔法陣を出現させた。

 ニル・ゼントに施したものと同じ魔法らしく、鳥籠のような鉄格子の檻がスノウを覆った。


 パチン‥


 ディアボロスが指を鳴らすと突如鉄格子が動き出し、全身を拘束した。

 激しい締め付けなのかスノウの体から軋むような音が聞こえてきた。

 だがスノウは目線を変えずにディアボロスを睨み続けている。


 「残念だぜ。普通ならこの樹縛の締め付けで全身に激痛が走っているはずなんだが、時ノ圍(トキノイ)の中じゃぁ痛みはまだ脳に到達しねぇ。お前の苦しみ泣き叫ぶ顔が見られねぇのは残念だがまぁいい。この鉄格子は古い魔法でな。簡単には切れねぇから、あの得体の知れねぇや奴の無化攻撃に飲まれるだろう。いかにお前が規格外だろうと世の中の理に縛られない放浪人だろうとあの無化の力には逆らえねぇ」


 ガシガシ‥‥


 「じゃぁな」


 ディアボロスはしゃがみ、スノウの髪を掴んでぐしゃぐしゃと振ると立ち上がってアドラメレクとカヤクの方へと向かった。


 「この体たらく、あの得体の知れねぇ奴の出現による不可抗力ってことにしておいてやる。おれはオルダマトラへ帰還するが、これからお前らに時ノ圍(トキノイ)の中でも動く許可を与える。オルダマトラは間も無く越界だ。それまでに戻れ」

 

 タタン‥


 アドラメレクとカヤクは時ノ圍(トキノイ)の制限から解放され自由に動けるようになった。


 「あああ!窮屈だわねぇ!意識があって動けないってのはとんでもないストレスですよ全く!」


 アドラメレクは文句を言いながら浮遊し始めた。


 「こんなところはとっととオサラバです!ザザナールには手を焼いたから苦しむ姿を見たかったけどもうどうでもいいわねぇ。あら、お前はオルダマトラに戻らないのですか?」


 アドラメレクはカヤクに話しかけた。


 「私はここの後始末をしてから帰還します。なぁに、直ぐに終わりますから越界には間に合いますよ」

 「ふん。お前本当に守護天使だったとは思えない鬼畜ぶりだわね。嫌いじゃないけど」


 ディアボロスとアドラメレクは上昇しオルダマトラへと戻っていった。


 ザ‥ザ‥ザ‥


 カヤクが不適な笑みを浮かべながらスノウに近づき、顔を覗き込んだ。


 「おい。見えてんだよな?」

 「‥‥‥‥」

 「下手な芝居しやがって。さっきディアボロスを睨みつけていたのを知ってんだよ。私を散々虚仮にしてくれた礼をしないとならないんだ。無反応じゃつまらないだろ?」


 ガコォン!ズン!


 カヤクはいきなりスノウの額部分を思い切り殴りつけた。

 その勢いでスノウは後頭部を地面に打ち付けた。


 ガシ!ガァン!ガァン!ガァン!


 カヤクはスノウの前髪を掴むと狂ったように頭部を地面に打ちつけた。


 「時がゆぅーっくりと進んでるから血も噴き出ないな。何ともつまらないが、私の腹いせは時ノ圍(トキノイ)が解除された時に完結するわけだ。お前が痛み苦しみ泣き叫ぶ顔が見られないのは残念だが、それが想像出来るくらい体の色んな部位を壊してやるよ」


 シュキン‥‥グザリ!


 カヤクは短剣をスノウの右膝に突き刺した。

 

 グザリ!グザリ!


 引き千切れそうなほどカヤクはスノウの右膝を刺した。

 そして今度は右腕に短剣を突き刺した。


 グザグザリ!


 「クハハハ!痛いか?痛いか?痛くないかぁ‥‥じゃぁもっと痛くしてやるよ!」


 グザリ!グザリ!


 今度はスノウの脇腹を刺した。


 グリグリグリ‥‥


 カヤクは刺した短剣を捻りながらスノウの刺し傷を抉っている。


 「風通しが良い方が快適だろう?クハハハハ!おれがもっともっと快適にしてやるよ!ハハハハハァ!!」


 グザリグザリグザリ!


 スノウは何度も何度も全身を短剣で刺された。

 回復魔法をかければいっぺんに治癒出来るが、あまりの刺し傷の多さに、時が通常の流れに戻った瞬間に大量の出血は避けられずショック死する可能性があった。


 「ヒャハハハァ!」


 グザグザリグザグザグザリ!


 刺すところがないのではないかと思われるほど刺されてしまったスノウはカヤクに視線を向けた。


 「ホホ!やっと見たなぁ!私に恐怖を感じさせた罪は恐怖を持って償わせる!貴様は今死への恐怖で気が狂いそうなはずだ!私に命乞いをしているのだろう?ええ?回復してやろうかぁ?」

 「‥‥‥‥」

 「んん?お願いしますじゃないのかぁ?」

 「‥‥‥‥」

 「聞こえねぇよ!はい、だめぇぇ!回復は致しません!クハハハハ!快感だ!快感すぎるぞ!んんんん堪らない!ヌハハハハァァァ!!」


 グザグザグザグザグザ!!


 カヤクの不快な笑い声が響く。


 「さぁて。そろそろか。これだけ刺したら回復魔法をかけても大量出血は免れないなぁ。ニンゲンがショック死するには十分な出血が見込まれるわけだ。それまで恐怖をじっくり味わいな!」


 カヤクは徐に手のひらをスノウに向け振り出した。


 「じゃなぁ!バイバ‥」


 スノウの刺し傷が回復していく。

 カヤクの手から回復魔法が放たれていた。


 「な?!何だこれは?!」


 カヤクは手を引っ込めようとするが動かない。


 「か、体が言うことをきかない!何だ?!‥‥‥ま、まさか!!」


 カヤクの歪んでいた表情が一気に昔の表情へと変わった。

 ザドキエルに代わりカヤク本人が戻ってきた瞬間だった。



いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ