<ホド編 第2章> 126.憑依している者
126.憑依している者
(回復魔法が発動しねぇ?!いや、発動しているが効果が打ち消されてんだ!一体何が起こってる?!)
ザザナールは背後からカヤクに背後から半月輪で突き刺され、自身の腹部から半月輪の先端が飛び出ているのを見ながら思った。
回復魔法が完全に打ち消されている状況は、激しい痛みが腹部を中心に全身に響いていたにも関わらずそれすらも気にならない衝撃だった。
「はい無駄です。回復魔法は効きません。観念なさい」
カヤクが半月輪を抉るように動かすとザザナールの腹部の貫通部分がさらに裂けていき、動かすたびに大量の血を流している。
「お、お前‥‥誰だ‥‥カヤクが洗脳‥‥された姿じゃねぇ‥‥」
「今頃気づくとはねぇ」
「‥‥誰だって聞いてんだよ‥‥」
「私はザドキエル。守護天使ザドキエル。いえ、元‥守護天使ですね」
「なるほど‥‥」
今にも途切れそうな意識を保ちつつザザナールはザドキエルと名乗ったカヤクを睨みつけていた。
ドッゴォォン!ヒュゥゥン‥‥ズゴォォン!!
突如カヤクは横方向に吹き飛んだ。
凄まじい勢いで吹き飛んだため100メートル以上離れた場所で激しく回転しながら転がり倒れこんだ。
ザザナールの目の前にいたのはスノウだった。
スノウが凄まじい速さと力でカヤクを蹴り飛ばしたのだった。
「な、なんで‥‥兄ちゃんが‥‥」
スノウはザザナールに回復魔法を施した。
みるみるうちに傷が塞がり完治した。
「出血で失った分の血は戻らない。ここまで貧血状態じゃぁ十分に動けないだろう。あんたは戦闘不能状態だ。離脱してこの吊られた大地から脱出しろ。手を貸している余裕はないから自力でだがな」
「なんかすまねぇな。何故俺を助けたのか理由は聞かんが、ゼントさんがあんな状態になっちまったとなればここにいる理由もねぇ。肉片の一つも持って帰って墓でも作るわ」
ふらついているザザナールは持っている布でニル・ゼントの肉片の一つを包むとポーチにしまった。
「逃しませんよ」
ダゴォン!
凄まじい速さで戻ってきたカヤクはザザナールに向かって手刀を放ってきたがスノウがそれを受け止めた。
「アノマリー!」
「簡単に乗っ取られやがって。少しはお前に期待したんだが期待ハズレだったようだ」
「ハハハ!まさかこの体の精神体に話しかけているのですか?!笑えますね!精神世界の深層で瀕死状態のまま倒れ込んでますよ。もちろん戻ってくることはできませんし、用済みとなり私が抜ければ、植物状態でやがて死にますがね」
「カヤク。おれはそう気が長くない。戻ってこないならお前を殺すかもしれない」
「ハハハ!バカなのですか貴方!戻って来るわけがないでしょう!それに貴方、私に勝てるとでも思っているのですか?瑜伽変容時は計画がありましたからねぇ。敢えて弱く接していたのです。力をセーブしなければ貴方は死んでいましたよ」
ヒュゥン‥‥ガキィン!!
突如背後からアドラメレクが攻撃してきたのだが、スノウはそれを、視線を向けることなくフラガラッハで防いだ。
「全くバカなニンゲンですよ。逃げられたものを、自ら殺されにやって来るのですからねぇ!アノマリー!さぁおっ死ぬ時間です!」
アドラメレクはもう片方の短剣でスノウの背中を突き刺そうと力の限り腕を振り下ろした。
シュワン!ガキィン!
「何?!」
アドラメレクの渾身の一撃は、ザザナールによって防がれた。
「ザザナール。瀕死のニンゲンが何のつもり?」
「決まってんだろ。気にくわねぇからお前らを殺すんだよ。それに俺ぁ最強の戦士だ。こんな状態でもお前ら殺すなんざ訳ねぇんだよ」
「生意気ですねぇ。いいでしょう、バラバラに切り刻んであげますよ。主人と同じようにグチャグチャにねぇ!」
グググ!!
アドラメレクは振り下ろしている短剣へさらに力を込めて押し込み始めた。
「よう、兄ちゃん、こいつは俺が面倒見るから、そこのいじけてる引きこもりは任せたぜ」
スノウは振り向かずに軽く頷いた。
ガキィン!ボゴォン!
「ふぉご!」
ザザナールはアドラメレクの短剣を弾くと強烈な蹴りを腹部に叩き込み後方へと吹っ飛ばした。
ザンッ!
ザザナールは凄まじい跳躍を見せてアドラメレクとの距離を一気に縮め、螺旋を込めた一撃を放つ。
剣の鋭い突きがアドラメレクの頭部目掛けて迫る。
「舐めるなぁ!」
ガァン!
アドラメレクは角でザザナールの剣を受け止めた。
「その迷いのない頭部への攻撃。頭部の破壊が我ら魔王や悪魔の弱点のひとつだと知っているようねぇ」
「まぁな。昔、悪魔は散々殺したし、魔王も二匹殺しているからな」
「魔王を名乗った三下の悪魔でしょう?魔王が何故角を持っているか知っているかしら?魔王の角を破壊できる者はいないのです。破壊出来ない角で頭部への攻撃を全て防ぐために角があるのですよ。つまりこの私に頭部への攻撃は絶対に効かないと、い、う、こ、と、です!」
アドラメレクは角でザザナールの剣を押し返している。
その軌道のまま押し切られると角はちょうどザザナールの心臓を貫く位置にあった。
「そういう挑発、堪らんねぇ!」
グググ‥‥
ザザナールはアドラメレクの角が徐々に自身の心臓に近づいていくを冷静に見ながら、全身に力を込めている。
グググ‥‥
そして後数センチという距離までアドラメレクの角の先端が迫ってきたその時、ザザナールの全身の筋肉が痙攣するように動き出した。
グググ‥‥
「何?!」
ザザナールの剣がアドラメレクの角を押し返し始めた。
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ビギ‥
「!!」
ザザナールの剣の突きの圧が凄まじく、アドラメレクの角から妙な音が発せられた。
「ぬおぉぉぉぉぁぁぁぁぁ!!」
ビギギ!ギヤァァァァァァ!‥‥バギィン!!
アドラメレクの角は軋み音から地獄の悲鳴のような音に変わった後、激しい破裂音と共に折れてしまった。
「おりゃぁぁ!!」
グザン!!
ザザナールはそのまま剣を押し切り、刃をアドラメレクの額に食い込ませた。
「わ、私の角がぁ!!」
バゴォォォォン!
「うぐぁ!」
ヒュゥゥン‥ゴゴォン!
アドラメレクは嫌がるように強烈な裏拳を放ちザザナールを吹き飛ばした。
剣士であるザザナールは吹き飛ばされても剣は離すことなく手に握られていた。
意識のあるザザナールは自身に回復を施す。
「回復魔法が発動する。やはりさっきはあの武器の影響か」
ピキキ‥‥
「おいおい‥‥」
ザザナールの剣先に亀裂が入っておりと刃の一部が欠けていた。
「俺の愛刀が‥‥」
一方アドラメレクは怒りの表情をザザナールへと向けていた。
「私の角をよくもぉ!許さないわ!手前ぇは必ず私の手でグチャグチャに握りつぶし骨も粉々に砕き切って家畜の餌にしてあげるわ!」
「やってみろ。だが、お前は既に俺の流動と螺旋を喰らってんだぜ。回転を帯びた収束と拡散が均衡を保った時、止まらない波動気の回転はお前の体を徐々に破壊していく。完全に破壊されるまでの時間は10分か。俺はそれまでお前の攻撃を受け切り、避け切ればいい。どっちが先に死ぬか賭けようじゃねぇの!」
「生意気な小僧が!!」
アドラメレクは狂気の表情でザザナールへと襲いかかった。
一方スノウはカヤクと戦っていた。
カヤクと言っても元守護天使のザドキエルが相手であり、正体を明かした今となっては戦闘もカヤクの得意な炎攻撃と円月輪による攻撃に加え、天使の強力な攻撃魔法を合わせた強力な攻撃の連続だった。
だがスノウはそれに押されるどころか逆に押し返していた。
「カヤク!おれがお前の体を壊す前に戻ってこい!」
「だからカヤクは戻ってこないと言っているでしょう!」
ガキィン!
ドゴォン!バシュア!
魔法攻撃は無詠唱でイメージだけで発動できるスノウの方が速く、カヤクの放つエレメント系魔法を打ち消す属性の魔法の繰り出しているためスノウに分があったが、剣撃はカヤクに分があるようで、円月輪を割って半月輪に切り替えて攻撃した後、円月輪に戻して防御した後、死角を利用して短剣で攻撃するトリッキーな動きでスノウを押していた。
(こいつの剣技はかなりレベルが高い!トリッキーで動きが速く、攻撃も重いせいだ。フラガラッハ一本じゃ防ぎ切れない!)
ドッゴォォォォン!!
スノウはエレメント系混合魔法でバリアを作りつつ攻撃して距離を取った。
トン‥
ザザナールもアドラメレクとの戦いで一旦距離を取ったようでスノウとザザナールは背中合わせとなった。
「随分と押されてるじゃねぇの兄ちゃん」
「あんたこそ、神話級の剣がボロボロだぞ。相当やられたみたいだな」
「おいおい、ショック受けてんだ。それ、言わんでくれよ」
「おれを負かしたんだ。あんなのに負けてくれるなよオッサン」
「オッサン!まぁそこまで言われちゃ頑張るしかねぇな!」
ガキン!
ザザナールは振り向きながらカヤクの攻撃を受け、剣から流動の波動気を流し込んだ。
一方スノウは腰を落とし低い体勢からフラガラッハを振り上げてアドラメレクの攻撃を受けた。
そしてそのままもう片方の手からジオライゴウとジオストームを放ち吹き飛ばした。
ヒュン!
ザザナールはスノウを回転しながら飛び越えるとそのままアドラメレクの方へ凄まじい跳躍を見せ詰め寄った。
スノウは低い体勢のまま回し蹴りで足払いを放った。
それを跳躍で躱したカヤクにフラガラッハの一撃を繰り出す。
ガキィン!
堪らず円月輪を盾がわりに受けたカヤクはそのまま後方へと飛ばされた。
逃すまいとスノウは跳躍を見せて吹き飛ばされているカヤクに詰め寄るとそのままフラガラッハで攻撃した。
「生意気ですね!」
「ふん!」
ビカッ!ドッゴォォン!!ズザァン!!
スノウはジオライゴウをカヤクに放つとそのままさらに間合いを詰めて剣突を叩き込んだ。
カヤクは円月輪で魔法を避けたが、その隙間を縫って迫ってきた剣先に思わず左手で受けてしまう。
グザリ!バァン!
「!!」
カヤクの左手が破裂するように粉々になった。
ヒュン‥‥
カヤクは後方へ大きく跳躍しスノウから距離をとった。
そしてぐちゃぐちゃな断面となった手首を空に掲げた。
「神よ祝福を!」
何も起こらない。
「神に見放され天使でも悪魔でもないお前は一体何なんだ?」
「ちっ‥‥まぁいいでしょう。体などまた探せばいい。貴様の仲間のこの体は貴様が壊していくのだ。死ぬ直前に精神体を面まで引っ張り出してやろう。そしてこの者に恨まれるがいい」
「‥‥‥‥」
「言葉もでないか。所詮はニンゲン。感情の生き物だ。感情の振れは脆さだ。お前は恨まれるか死ぬかを選択することになる。哀れなだなぁ」
「お前‥‥段々下品になってきたな」
「何?」
ザン!
「覚悟を決めたぞ。おれは今からカヤクごとお前を殺す。恨まれるならそれも仕方ない。全部背負って生きてやる」
スノウは殺意のオーラを発しながら構えた。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




