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<ホド編 第2章> 125.無化の力

125.無化の力


 ピカッ!!


 突如世界が真っ白になるほどの発光が発生した。

 スノウは目が眩みはっきりと見えない状態となったため、万空理(バンクーリ)空視(クーシー)で周囲の状況を確認し始めた。


 キィィィィバシュァァァァ!!


 超高密度エネルギーを形成している因の線が 異質な因の構成の存在に衝突し放物線を描くように複数のさらに細い線に分岐している状態が見えた。

 

 バフォォォォォ!!


 凄まじい勢いで超高熱の爆風が広がりスノウの体を焼く。

 スノウはすぐさま身を屈めるような姿勢で腕クロスにし体を回復しつつエレメント系のバリアを展開した。

 背中全体から炎魔法を発して爆風の勢いに逆らいその場に止まっている。


 (これが神の炙朶破(シャダハ)か!)


 視力が回復しない状態であるため実際にどのような惨劇となっているのかは分からない。

 空視(クーシー)で視る他ないのだが逆にそれが状況を正しく理解することに繋がっていた。


 (神の炙朶破(シャダハ)‥‥確かに凄まじい威力だ!だが!!)


 スノウは戦慄した。

 何故ならニル・ゼントは神の炙朶破(シャダハ)でダメージを受けることなく、逆に弾き、さらには徐々に手のひらの中に神の炙朶破(シャダハ)のエネルギーを吸い込み始めたからだ。

 正しくは吸い込み始めたのではなく、超高密度エネルギーのこれ以上ないほどの破壊力を有する神の炙朶破(シャダハ)を無化し始めているのだ。


 (やつはバケモノか!前方にかざしている手のひらの前に神の炙朶破(シャダハ)を反射するバリアを展開し、そのバリアの手前に無化する空間を作り出している!放物線上に弾けて散っている神の炙朶破(シャダハ)の攻撃線が徐々に収束され消え始めている!)


 ビギィィィィィィィ‥‥ジュワン!!


 神の炙朶破(シャダハ)はエネルギー切れを起こしたのか消え去った。


 周囲は凄まじい超高熱の波動が広がったために吊られた大地の地表は焼け野原で全ての植物が灰も残らず消え去り、岩や石は溶けていた。

 激しい煙を放出していたが次第に収まり始め、その全容が顕になってきた。

 同時にスノウの視力も回復して肉眼で状況を確かめることが出来るようになっていた。


 「!!」


 既に空視(クーシー)で状況は理解いていたものの、肉眼で見ると神の炙朶破(シャダハ)の破壊熱波の凄まじさを痛感した。

 200名ほどいた悪魔は皆焼けついて消え去っていた。

 冥府の劫火にすら焼かれずに生き存えることの出来る悪魔が跡形もなく消え去ったのだ。

 スノウはライフソナーで生命反応を確認し、生き残っている存在はスノウ以外で7名いることを感じ取った。

 守護天使3体、アドラメレク、かなり離れたところに避難し難を逃れたザザナールとカヤク、そしてニル・ゼントだった。


 「ニル・ゼント‥‥あの攻撃に耐えたのか?!」


 ニル・ゼントは異常な力を有しているが、人間であり、神の炙朶破(シャダハ)を受けて無事でいられるはずはなかった。

 全てを無化する両手のひらですら無化し切れないほどの超高密度のとてつもない破壊力を見せた神の炙朶破(シャダハ)は弾かれつつもニル・ゼントの体を確実に焼いたはずだった。

 悪魔たちが灰すら残らずに燃え尽きたことから考えれば、凄まじい回復力を行使したか、バリアを張ったかのどちらかだと思われた。


 (いずれにしても神の炙朶破(シャダハ)でやつを怒らせたことは間違いない。おれがこの場にいる理由もない。天使たちとアドラメレクが共闘しようとニル・ゼントには敵わないはずだ。その後のやつの行動は読めないが、その前にこの吊られた大地が越界されるんだろうな。兎に角この場は立ち去るべきだ)


 スノウは退避しようと動き始めたが、ふと何かを思いついたように動きを止め、遠くにいるカヤクを見ていた。


 「‥‥‥‥」


 スノウの脳裏にロムロナの必死に訴える顔が浮かんだ。


 「チッ!」


 スノウは舌打ちをするとゆっくりと回り込むようにしてニル・ゼントから離れた場所に着地した。


 (暫く様子を見るか‥‥)


 ニル・ゼントはまるで充電の切れたロボットのように静止した状態のままだった。


 スゥゥゥゥ‥‥スタ‥‥


 守護天使たちとアドラメレクが地上に降りてくると少し離れた場所でニル・ゼントを観察し始めた。


 "死んだのか?"

 "いえ、ライフソナーでは生命反応として検知されています。間違いなく生きていますよ"

 "神の炙朶破(シャダハ)をくらって擬態満足なんて信じられません‥‥"

 "これも想定してはいました。未知の生命体(アンノウン)には異系の神、いえ神の対極をなすような存在を感じています。あれをニンゲンと思ってはなりません。警戒を怠ってはなりま‥‥"


 ズバァァン!!


 突如サンダルフォンの左腕が消え去った。

 その背後にはニル・ゼントがいた。


 「何ぃ?」


 サンダルフォンは目線を背後に向けながらゆっくりと振り向いた。


 シャバン!


 今度は右脚が一瞬のうちに消え去った。


 「な‥」


 バランスを崩しそうになったサンダルフォンは一気に上空へと飛んだ。

 消された左腕と右脚の断面からは血が出てくることもなく、まるで何もない空間のようになっていた。


 「何ですかこれは。回復魔法も効かない」

 「無化されたようです」

 「無化?何を言っているのですラツィエル。私の左腕と右脚は元々こうでした。そもそも私は神によって世界に生まれ落ちて以来ずっとこの姿です」

 「そうでしたね、サンダルフォン。私は勘違いしていたようです。もしくはあのニル・ゼントに偽りに記憶を植え付けられているのかもしれません。気をつけましょう」


 ニル・ゼントにより体の部位を無化され欠損したサンダルフォンやラツィエルは無化の影響によって元々手脚があったことすら覚えていない状態となっていた。


 「貴方たち、悠長なことを言っている場合ではないでしょう?神の炙朶破(シャダハ)が効かないということはあれを倒すことは出来ないってことでしょう?あんなものが大陸引きに引っ付いてくるなどあの方が許すはずもないわ!」

 「喚くなアドラメレク。そのようなこと、言われずとも分かっている」

 「ザフキエル!相変わらず口の悪い天使だわねぇ!でも貴方、あれに狙われているわよ」

 「何?!」


 ザフキエルはニル・ゼントを見た。

 

 「!」


 明らかに目線が自分に向いていることを理解したザフキエルは無表情のままその場から逃げ出した。


 ヒュン‥


 「!!」


 逃げ始めたザフキエルは突如動きを止めた。

 何故なら目の前にニル・ゼントが現れたからだ。


 「あの攻撃を仕掛けたのは貴様ら天使だな。あの攻撃は脅威になり得る。貴様らを無に帰せばあの攻撃は使えない。よって貴様を無化する。その次は貴様、そして貴様、そして貴様、さらには地上にいるふたつの有機生命体、そしてさらに上空にいる危険な存在である有機生命体だ。抵抗は無意味だ」


 ズバン!!


 「ザフキエル!」


 ザフキエルはニル・ゼントのかざした右手の中に一瞬で吸い込まれて消えた。

 ラツィエルが叫ぶが叫んだ本人はその2秒後には何を叫んだのか忘れてしまっていた。


 「ここは危険です。退避しましょう!」


 ラツィエル、サンダルフォン、アドラメレクはその場から逃げ出す。


 ヒュン‥‥


 「!!」


 今度はラツィエルの前にニル・ゼントが現れた。

 まるで瞬間移動だった。

 目で追うことも出来ないほどのスピードで移動し、逃げる隙を与えずに右手のひらを目の前に翳してくる。


 「くっ!」


 シュン‥ズッドォォォォォン!!


 突如ニル・ゼントがラツィエルの視界から消えた。

 上空にあるオルダマトラから鋼鉄の塊が凄まじい速さで落とされたのだ。

 鋼鉄の塊はニル・ゼントに直撃し、全身の骨を粉々に砕いた上にさらに吊られた大地に直撃し、体を完全に押しつぶした。

 周囲に肉片が飛び散る。


 「ゼントさん!」


 ザザナールが慌てて散らばった肉片のもとへと駆けつけた。


 ザン‥‥


 ザザナールは両膝をつき、項垂れるようにしてニル・ゼントだった肉片を見つめた。


 ヒュゥゥゥン‥‥スタタ‥


 ラツィエルとアドラメレクが地上に降りてきた。


 「あらあら、未知の化け物であってもここまでぺちゃんこになってぐっちゃぐちゃになってしまったら、もうどうにもならないですねぇ」

 「念の為、天使の炎を焼いておきましょう」


 ラツィエルは肉片を焼くべく魔法を唱え始めた。


 シュヴァン!


 「何をするのですか?」

 「ゼントさんにこれ以上何もするんじゃねぇよ」


 ザザナールが剣を振り上げラツィエルの右腕を斬った。

 ラツィエルの右腕はすぐに再生し、何事もなかったかのように話し始めた。


 「実にニンゲンらしい行動ですね。ですが、貴方の慕うニル・ゼントの精神体は既にここにはいません。いるとしても未知の生命体(アンノウン)です。肉体は精神体を失った瞬間にただの有機物。機能を停止した細胞の集合体、つまり肉片です。そこに感情を注ぐことは全く理解できませんが、ニンゲンには火葬の風習があるわけですから、今それを行なっていると思えばよいでしょう」

 「ふざけんな!」


 ズバァン!!


 ザザナールの振り上げられた剣がラツィエルの体を股間から頭部の先まで貫通し、ラツィエルは左右真っ二つ状態となった。

 だが、何事もなかったかのように両手でそれぞれを掴み断面を合わせていくとみるみるうちに元通りに回復した。


 「つまらない攻撃です。ここで貴方を殺してあげてもよいのですよ?」

 「やってみろ。言っておくが俺は強いぞ。おそらくここにいる誰よりもだ」

 「威勢のいいニンゲンだわねぇ。さっさと片付けてしまいなさいよラツィエル」

 「そうですね。それでは本気を出‥‥」


 ズバババババババババババン!!

 

 ザザナールはラツィエルを細切れにした。

 一太刀一太刀に協力な波動氣・流動を流し込んでおりラツィエルの回復魔法は流動によって流され、細切れになった肉片は痙攣するように蠢いているだけだった。


 「あらら、油断するからこんなことになるのですよ、全く」

 「次はお前か?アドアラメレク」

 「冗談。私は未知の生命体(アンノウン)さえ排除できればそれでいいのよ。貴方にも興味はないわね。ということで帰らせて頂きますよ」


 アドラメレクが空を見上げた瞬間。


 グザリ!!


 「な、にぃ?!」


 ザザナールの腹から半月輪の刃が突き破って出てきた。

 背後に目をやるとそこにはカヤクがいた。


 「カ‥ヤク‥‥てめぇ‥‥がっは!!」


 ザザナールは血を吐いた。


 「お前は強い。だが、油断しすぎです。残念ですがここで死んでもらいますよ」

 「う‥裏切りやがったな?」

 「ぬはははは!バカを仰る!私がいつ貴方の味方になったのですか?まぁ勝手に味方扱いしてくれていたので、こうして致命傷を与えることが出来たわけですから、よくぞバカでいてくれましたということねぇ」


 ザザナールは回復魔法を試みる。

 

 「はい無駄ですよ。回復魔法は効きません。観念なさい」


 カヤクの特殊な武器の効果なのか、ザザナールは回復できず、開いていく切断部分から大量の血を流している。


 「お、お前‥‥誰だ‥‥カヤクが洗脳‥‥された姿じゃねぇ‥‥」

 「今頃気づくとはねぇ。私はザドキエル。元守護天使だったものです」

 「な‥なにぃ‥‥」


 今にも途切れそうな意識を保ちつつザザナールはザドキエルと名乗ったカヤクを睨みつけていた。




いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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