<ホド編 第2章> 124.違和感
<レヴルストラ以外の本話の主な登場人物>
ーー元老院ーー
【ニル・ゼント】:ガレム・アセドーの後を継ぎ、元老院最高議長となった人物で、謎多き存在。ガレム・アセドーを大聖堂の最上階テラスから突き落とし殺害している。その後、ホド中央元老院の最高議長となった。また、普通では不可能とされるオーラを自在に操る力を持つ。
【ザザナール】:ニル・ゼントの配下の剣士 昔は冒険者でレッドダイヤモンド級を超えるレベルだったが、その後殺戮への快楽に目覚め悪に堕ちた。その後ニル・ゼントに拾われ用心棒兼ゼントの護衛部隊の隊長を務めている。
【カヤク】:元三足烏の分隊長だったが、エントワによって人生を変えられたことで改心し、現在はレヴルストラの見習いメンバーとして信用をえるために三足烏に潜入し情報収集に努めていたが、ニル・ゼントの護衛となった際に洗脳された。
ーー守護天使ーー
【エルティエル】:美しい金色の髪の女性の姿の守護天使。ネツァクを守護しているが消滅してしまった本来の守護天使のハニエルから守護天使の任を引き継いだ。スノウがネツァクにいた頃に行動を共にしていた。
【ラツィエル】:Tシャツにジャケットを着てメガネをかけたの姿の守護天使。コクマを守護している。神の神秘と言われている不思議なオーラを放つ天使。
【ザフキエル】:青いスーツを着た黒人の姿の守護天使。ビナーを守護している。気性が荒いが、守護天使の責務を最も重要視している責任感ある天使。
【サンダルフォン】:最高級のスーツに身を包んだ紳士の姿の守護天使。メタトロンと兄弟でマルクトを守護している。罪を犯した天使たちを永遠に閉じ込めておく幽閉所の支配者と言われている。
ーー悪魔ーー
【アドラメレク】:ホドを拠点としている魔王。何かの計画に沿って行動しており、アレックスを巨大亀ロン・ギボールに幽閉した。瑜伽変容を引き起こした。
124.違和感
「一体何が起こっているんだ‥‥」
スノウは目を見開いて驚きの表情で戦況を見ていた。
アドラメレクの配下である剛力王バラムの存在が見当たらなかったことに対し、フランシアはバラムの存在の記憶を失っていた。
問題はスノウが無化されたと思われるバラムの存在を覚えていることだった。
この意味。
スノウはレヴルストラのメンバーを全員覚えている。
これは確信と言うより揺るぎない真実であるかのようにスノウの中で固定された認識であった。
だがもし、自分だけ覚えていてフランシアがレヴルストラの誰かの存在を覚えていなければそれは無化されてしまったことになる。
スノウは全身から冷や汗が吹き出て手が震えているのを感じた。
バッ‥‥
思わず震える手を押さえた。
(質問するのが恐ろしいが、聞かなければならない‥‥)
スノウはこれ以上ないほどの恐怖を感じていた。
これまで幾多の修羅場を潜り抜けてきたスノウであったが、ここまでの恐怖を感じたのはネツァクで目の前でリリアラが木にされてしまった時以来だった。
ケテルでバルカンをゼウスによって殺された時もこの上ない恐怖を感じた。
大切な存在を失うことに比べれば、これまで戦ってきた強大な力を持つ神々や魔王たち、スノウに敗北感を味わわせたザザナールと戦いで死を意識した瞬間ですら大した恐怖ではなかった。
(手の震えが止まらねぇ‥‥)
スノウは意を決してフランシアに問いかけることにした。
こうしている間にも仲間を失う可能性があるからだ。
「シア、君が認識しているレヴルストラのメンバーをひとりずつ言ってみてくれ」
「?‥‥分かりました。マスター、私、ワサン、ソニックとソニア、シンザ、ルナリ、シルゼヴァ、ヘラクレス、アリオクです。あと加えるならロムロナとヴィマナにいるガースですね。もしこれ以上に誰かがいたとしても私は覚えていません。仲間を大事にしているマスターに合わせる顔がないと思っていましたが‥‥」
「そうか‥‥」
ズン‥‥
スノウは崩れるように片膝をついた。
安堵したのか急に膝に力が入らなくなったのだ。
(全員いる!直感だが全員と確信している!)
ググ‥‥
スノウは立ち上がった。
「シア」
「はい!」
「ニル・ゼントから距離をとって仲間を集めるんだ。ロムロナとニトロもだ。いいか?絶対にやつには近づくな。距離が縮まったらすぐに退避しろ。場合によってはおれを待たずにこの地を離脱して構わない。判断はシアに任せる」
「マスターは?」
「少し確かめたいことがある」
「分かりました。仲間を集めた後、ここで待っています」
スノウは笑顔で応えると炎魔法を発動し凄まじい速さでニル・ゼントの方へと飛んで行った。
正確にはニル・ゼントのいる場所の上空を目指して飛んでいた。
彼から距離を置くのもあったが、状況を見ながらスノウが本当に無化された存在を記憶し続けられるのかを確かめるためだった。
ニル・ゼントは既に人間の人体構造を無視した動きで関節を自在に曲げながら悪魔兵たちを消し去っていた。
(分かる!覚えている!あの緑の皮膚の悪魔‥‥消された!ひとり減った!またひとり減った!ものの十数秒で7人無化されたぞ!そしてその7人の特徴を覚えている!)
スノウはレヴルストラメンバーを探した。
(いる!やっぱりみんな賢く行動している!)
スノウの目に涙が滲み出てきた。
フランシアが効率的に動き、全員を集めていることも確認ができた。
そしてそのまま全体を見渡した。
守護天使やアドラメレクは健在でニル・ゼントから一定の距離を確保しつつ、悪魔兵に攻撃を仕掛けさせた隙をついてニル・ゼントの両手を切断する攻撃を繰り出している。
一方カヤクとザザナールもいるが、かなり後方で様子を見ている。
(ニル・ゼントを前にして安全地帯はない。あの速さと動きから逃げるのは不可能だ。ならば攻撃しつつ天使どもが言っていた勝機を待つしかない。何を隠しているのか分からないがその攻撃が先か、悪魔兵が尽きて守護天使やアドラメレクが無化されるのが先か)
「?」
スノウは戦局を見ているうちに何かがおかしいと感じ始めた。
だがその何かが分からない。
(何だ‥‥何なんだこの違和感は‥‥)
守護天使とアドラメレクは空中で浮遊して魔法攻撃を繰り出している。
ニル・ゼントは火炎、氷結、稲妻、暴風といった魔法は全て手のひらで吸い込んでしまうため、土系の重さのある物理的な攻撃しか出来ていなかった。
悪魔たちはニル・ゼントから距離を取りつつ、守護天使たち、そしてアドラメレクが土系魔法や遠距離物理攻撃を放ちニル・ゼントの両手を切断、破壊した瞬間に斬り込む攻防を繰り返していた。
賢い戦い方であり指揮官が上空から指揮を出しつつ兵隊が動くというニル・ゼントを相手に編成立てて戦えている。
無化される悪魔も徐々に減っておりまだ200体ほどの悪魔兵がニル・ゼントを囲んでいる。
だがスノウは何処か違和感を感じていた。
守護天使が言っていたニル・ゼントを破壊する術を行使するためには時間が必要でその時間稼ぎとしては現在の攻防は理に適ったものだった。
だが、違和感を拭えなかった。
(何故だ?何かが変だ)
「!」
スノウは自身の感じていた違和感を理解した。
"師匠!"
「?!」
突如頭の中にエルティエルの声が聞こえてきた。
「エルか?!」
"はい!今すぐレヴルストラの仲間を集めてなるべく離れて!"
スノウは大事な話だと察して念話で対応し始めた。
"何故だ?"
"間も無く未知の生命体への破壊攻撃が行使されるの!"
"神の滅祇怒ってやつか?!"
"いえ、神の炙朶破という攻撃で神の滅祇怒の数十倍の威力がある攻撃!その余波に巻き込まれたらいくら師匠といえどただでは済まないはず!いえ、師匠は耐えられたとしても他のメンバーはひとたまりもないはず!"
"分かった.あとどれくらいの時間があるんだ?"
"おそらく5分もない‥‥師匠、必ず逃げて!‥ブツンッ"
天使回線の念話は切れた。
(神の炙朶破‥‥神の滅祇怒の数十倍の威力がある攻撃‥‥何なんだよ全く‥‥どれだけ兵器を隠し持っているんだ?!)
スノウは浮遊して全体を見渡した。
既にフランシアがレヴルストラのメンバー全員とニトロを集めていたのを確認して安心した。
「よし!」
ヒュュゥゥン‥‥スタ‥
スノウはレヴルストラのメンバーが揃っている場所に着地した。
「スノウ!」
「無事だったようだな」
「ヒヤヒヤしたぜ」
各々スノウが一瞬で消えたことを心配していたようだ。
「すまない
「問題ない。お前に限って死ぬようなことはないからな」
シルゼヴァたちは嬉しそうに言った。
「すまないがみんなはこのまま離脱してこの浮遊大陸から脱出してくれ。もうすぐ天使の兵器、神の炙朶破という神の滅祇怒の数十倍の威力がある攻撃がここを襲う」
「神の滅祇怒の数十倍の威力がある攻撃だとぉ!」
「あり得るな。ケテルにあるはずのデヴァリエの一部が越界したのを見た。あれはかつて神々の戦いの中で世界を滅ぼしかけた火力を持つ兵器だ」
魔王であるアリオクの発言に皆納得した。
「興味ある話だが後で聞かせてくれアリオク。みんなとにかく離脱だ」
「お前はどうするんだスノウ?」
「おれは確認しなければならない事がある。大丈夫だ、神の炙朶破に巻き込まれたり無化されたりなんてヘマはしない。必ず戻る!」
「そうか、じゃぁヴィマナで待っているぞ」
「気をつけて!」
「何かあったらすぐに呼べよ!」
「マスター、信じています」
シルゼヴァ、ソニック、ワサン、フランシアが言葉を投げかけ、その他の者は頷きながらスノウを見ていた。
スノウはその光景を見て改めて自分の大切な宝だと思った。
「ああ、必ず戻る!」
スノウはそう言うと風魔法で一気に上昇していった。
「僕らも退避です。スノウに気を遣わせてはいけないですからね」
ソニックの言葉に皆頷き、飛行の出来ないヘラクレスや苦手なワサンをアリオク、ソニックと入れ替わったソニア、フランシアが支えながらその場から飛び去った。
ヒュュゥゥン‥‥
スノウは少し離れた上空から攻防を見渡していた。
「やはりだな」
スノウは納得した表情で言った。
スノウが感じていた違和感を再確認したのだ。
(守護天使たちとアドラメレク‥‥連携が取れすぎている。敵対する同士なら何処かで連携の歪みが生まれる。連携とは信頼感で成り立っている。自分が瞬間的に攻撃を受ける隙を与えつつ、他の者が効果的な攻撃を放つ。いわばリスクをとって大きなリターンを得るのが定石。信頼感が無くては不可能だし、奴らには信頼感などあるはずもない。中には攻撃の相乗効果を発揮するものもあるが、奴らの戦い方にはそれはない。ニル・ゼントの注意を惹きつけつつ他の者がやつの両手を切断する連携だ。しかもニル・ゼントの動きは加速し続けている。より高度な惹きつけとカウンターを連携しなければならない)
スノウは戦局を見守りながら思案を巡らせた。
(悪魔は元々神や天使だった者。だとすれば連携は容易いと言うのか?‥‥いや違う。そもそも理念や生き方が違う。天使は神を無条件で崇拝するように生き、悪魔は貶められた反動で人間を使って世界を混乱へと導こうとしている。そもそも意識を向けている先が違う。そんなやつらが心を一つにして連携など出来るはずがない)
スノウは守護天使たちとアドラメレクの連携を見ながらさらに思案を巡らせた。
(意識を向けている先が違う‥‥もし同じだとしたら?‥‥まさか!!)
ピカッ!!
突如世界が真っ白になるほどの発光が発生した。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




