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<ホド編 第2章> 120.錯綜する戦局

 120.錯綜する戦局


 ロムロナとニトロは慎重にカヤクのいる方へと進んでいた。

 カヤクの洗脳を解くか、解けなくともこの場から強引に連れ出し拘束して後で洗脳を解くつもりだった。

 近づくにつれて激しい戦闘音が聞こえ始めた。


 「(あね)さん!」

 「ええ、急ぐわよぉ」


 ふたりは音をなるべく立てないように早足で進んだ。


 『!!』


 ロムロナとニトロは戦闘音が発せられている場所に辿り着き驚きの表情を見せた。

 守護天使3体に囲まれ凄まじい戦闘を繰り広げているスノウがいたからだ。

 しかも防戦一方となっており、所々に血痕が見えた。


 「スノウさん血だらけじゃないですか!」


 小声で叫ぶようにニトロが言ったのに対しロムロナは冷静な表情で首を軽く横に振った。


 「攻撃を受けても直ぐに回復しているから傷はないわ。すごい戦いよ。スノウボウヤは天使3人を相手に波動気ってのを練り込みながら剣で攻撃しつつ、攻撃魔法と回復魔法を同時に発動しているわ。しかもあのスピード‥‥目で追うことも難しいほどだわ」

 「俺には見えないですよ。魔法の光と剣がかち合う際の火花くらいっす。でもどうしますか?スノウさんでも流石に奴らを一人で相手にするのには限界があるんじゃないっすか?」

 「あたしたちが入ると逆に足を引っ張ってしまうわねぇ‥‥それどころか、あの戦いの余波で命を落とすかもしれないわ‥‥それだけ凄い高レベルな戦いなのよね‥‥ここはスノウボウヤに戦闘に集中してもらった方がいいわね‥‥悔しいけど、あたしたちにはあの子の援護はできないわ‥‥」

 ニトロは悔しそうな表情を見せながらスノウと天使達の戦闘を見ていた。


 スノウはカヤクが去って以降、ずっとザフキエル、ラツィエル、サンダルフォンを相手に1人で戦っていた。

 厳密にはオボロとマダラが加勢しているのだが、万物の真理を読み解く万空理(バンクーリ)空視(クーシー)空廻(クーエ)を使いながら、同時に体内で波動気を練り剣や拳、脚に螺旋を込め攻撃を繰り出しつつ、無数の魔法を繰り出している。

 空視(クーシー)とは因と呼ばれる対象を個体として繋ぎ止めている最小単位の粒子であり、細胞よりも遥かに小さい粒を視る力であり、空視(クーシー)によって物体を固定している構造が理解できる。

 一方空廻(クーエ)はその因を操る力を表す。

 因を断ち切れば、細胞は壊れ個体状態のものは消えてなくなるが、因を繋げば、逆に存在を固定させたり、変化させたり出来る。

 だが、守護天使には空廻(クーエ)がほぼ効かないことがわかった。

 何らかの防御を行っているようだが、空視(クーシー)ではその防御方法を視ることは出来なかった。

 そのため因の動きを把握して天使の攻撃を先読みすることによって、天使たちの攻撃をギリギリで躱していたのだった。

 だが、流石のスノウも守護天使3体の動きを同時に見極めることは難しいため、オボロが的確な指示を出しており、致命傷を受けずに済んでいるのに加え魔法はほぼ相手を見ずに発動することができていた。

 スノウは無詠唱かつ頭の中で思い描くだけで魔法発動が可能であるため、このような多勢に無勢の状態では大きな効果を発揮する。

 加えてマダラが自律的に動き守護天使の攻撃を防いでいることもありスノウは攻撃に集中出来ていた。


 「アノマリー!しぶといやつだ!」

 「ザフキエル、アノマリーは所詮ニンゲン。人体構造上必ず息切れし動きが鈍くなります。そこを一気に叩く。それまで油断は禁物ですよ」

 「了解したラツィエル」


 「主人(あるじ)よ、疲れたら遠慮なく言うがいい!我が休む時間くらい稼いでみせよう!」

 「主人(しゅじん)思いはいいが、お前にはこやつらを同時に捌くのは無理だねぇ。小童、一瞬でも気を抜くんじゃないよ。こっちは一心同体。だが向こうは3体バラバラだ。連携しているとはいえ、いつか動きに誤差が生まれ隙が出来るはずだよ。その瞬間を逃さずに確実に頭部を狙って破壊するんだ」

 「分かった!それまで頼むぜばぁさん!マダラ!」

 「承知した!我が主人(あるじ)よ!」


 スノウはオボロ、マダラと連携し守護天使たちとの戦闘を続けている。


 「スノウボウヤ‥‥もはやニンゲンの域を超えてるわねぇ。いえ、既に分かってたことだわね‥‥」

 「姉さん‥‥俺、マジで役に立ってねぇっすね‥‥」

 「いいえ、あたしたちに出来ることをすればいいのよ」

 「カヤクさんを探して洗脳を解く、ですね」

 「ええ」


 ロムロナとニトロは戦闘に巻き込まれないように距離をとって進んでいった。

 そして何とかニル・ゼントのいる場所の近くまで辿り着いた。

 そこには何もない地面に何故かひとつだけ残っている椅子に座っているニル・ゼントがいた。

 椅子に座ったまま全く動きを見せないニル・ゼントは、後ろ姿のため意識があるのか、どのような表情なのかなどは分からない状態だった。

 そしてその少し手前にはザザナールが倒れていた。

 うつ伏せで倒れており背中には斜めに斬られた傷跡と血痕があった。


 「ザザナールボウヤ‥‥」

 (まだ意識はあるようだわね。あの子も救ってあげたいけどまずはカヤクぼうやだわ‥‥カヤクボウヤは何処かしら‥‥)

 「カヤクさん、何処にも見えませんね。洗脳状態ですからニル・ゼントから離れるとは思えないんですけど」


 ロムロナとニトロは小声で会話している。


 ガクン‥‥


 突如ニル・ゼントの体が不自然な状態になった。

 左腕を後ろから真上に振り上げた状態で右足は膝の部分からあらぬ方向に曲がっている。

 顔は真下を向いており微かに見えるその表情は不気味そのもので目は見開いているが真っ黒だった。

 まるで糸の切れたマリオネットのようだった。


 キィィィィィィィィィィィィィン‥‥


 「え?!」


 ロムロナとニトロは突如全てが飲み込まれ無になるような虚無感に襲われた。

 体に力が入らず、震える足が言うことをきかなくなりその場に崩れるように座り込んだ。


 「な、なに‥‥が‥起こって‥‥」


 思うように話すことすら出来ない状態となっている。


 ググ‥‥


 ロムロナの視界に起きあがろうとするザザナールの姿が映った。


 「ゼントさん‥‥だめだ‥‥あんた死ぬぞ‥‥」


 ガガギギン‥‥


 ニル・ゼントは人間の間接構造を無視した不気味な動きをし始めた。


 シュン‥


 そしていきなり姿勢よく直立した。

 徐々に体が弛緩していくように普通の立ち姿へと変わっていく。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥


 虚無感を抑えきれないオーラがニル・ゼントを中心に展開され、ザザナールとロムロナ、ニトロはその場に倒れ込むようにしてうつ伏せ状態となった。

 目線だけニル・ゼントに向けているのだが、徐々に振り向く彼の姿を見て、ロムロナとニトロは恐怖した。

 目が真っ黒であり、その黒は底なしの暗黒で “無” そのものだったのだ。

 全てを飲み込み無に帰す感覚がロムロナ、ニトロに恐怖を植え付けたのだ。


 (一体何者なのあの子は‥‥)


 グググ‥‥


 凄まじい虚無のオーラの中、力がほぼ抜けた状態であるにも関わらずザザナールはゆっくりと痙攣しながらも立ち上がった。


 「ゼントさん‥‥ダメだ‥‥戻ってこい‥‥」


 ザザナールは必死にニル・ゼントの方へ進もうと少しずつ足を前に進め始めた。


 ヒュゥゥゥゥン‥‥ズン!


 突如ザザナールの前に何者かが現れた。

 ザザナールが必死に見上げると、後ろ姿しか見えない状態であったが明らかにカヤクであることがわかった。


 「お前‥‥」


 ザザナールは必死に声を捻り出した。

 カヤクはそれを無視して目線をニル・ゼントへと向けている。


 「何ということでしょうか。この男、何かに憑依されていますね。しかもとんでもないものに‥‥この者をこのままにしておくのは非常に危険です。即刻排除すべきですね」


 カヤクはニル・ゼントを見ながら言った。


 カチャ‥


 カヤクが腰に下げている円月輪に手を伸ばした瞬間、ニル・ゼントは右手を何かを掴むような手の形にした状態で腕を真後ろに向けて曲げた。

 次の瞬間、カヤクは突如空中に浮き始めた。

 しかも苦しそうにもがいており、両手で何もない首の付近を必死に引っ掻いている。


 バッ‥ヒュン!!ズバン!


 もがいているカヤクは円月輪を手に取りニル・ゼントへ投げつけると、円月輪はニル・ゼントの腕を斬り落とし空中で向きを変えてカヤクのもとへと戻ってきた。


 ズタ‥‥


 カヤクは首を絞める何かから解放されたのか、地面い着地した。


 「厄介な相手のようですね」


 ニル・ゼントは無言で斬られた自分の腕を拾い上げると、それを最も簡単に元通りに繋げてしまった。


 「回復魔法にしては魔力の揺れが感じられませんでした。魔法ではない治癒ですか。貴方は一体何者ですか?」


 キィィィィィィィィン‥‥


 ニル・ゼントはカヤクの質問には答えなかった。

 それどころか、敵意をむき出しにしたように強烈な無のオーラを展開し始めた。


 「なるほど。このオーラは厄介ですね」


 ババッ!!シュゥゥン‥‥ズバァン!!


 カヤクは円月輪2枚に分割し左右に投げた。

 円月輪は大きく半円を描く軌道で、両脇からニル・ゼントに襲いかかるが、最も簡単にニル・ゼントの首を刎ねた。

 カヤクはすかさず距離を詰めて刎ねられて転がっているニル・ゼントの頭部に短剣を突き刺し、手元に戻ってきた円月輪を使ってさらに細切れ状態にした。


 ガッ!カララァン‥‥


 「何?!」


 突如カヤクは髪を逆立てた状態で空中に浮き始めた。

 首なし状態となっているニル・ゼントの両手が何かを掴むような形になっており、おそらくは何らかの力で距離があるにも関わらずカヤクの髪や首を掴むことが出来るようだった。

 しかも突然の出来事であったため、思わず円月輪と短剣を持つ手を離してしまったため、円月輪と短剣は地面に転がってしまっていた。


 ズバァン


 突然ニル・ゼントの両腕が斬り落とされた。

 同時に何かの力が失われたようにカヤクは地面に力なく落とされた。


 「ザザナール!」


 ニル・ゼントの両腕を斬り落としたのはザザナールだった。


 「カヤク、お前‥‥後できっちりカタをつけさせてもらうが、先ずはゼントさんだ。ゼントさんは何かやべぇ存在に乗っ取られている。そいつは恐ろしく強い。俺たち二人でゼントさんを相手にするんだ。いや、あれはもうゼントさんじゃねぇ。得体の知れないバケモンだと思え。いいか?ここで共闘しなければ全員死ぬ。俺を出し抜いて逃げようとしても無駄だ。ここで倒すしかない」

 「いいでしょう。このオーラの中、動ける状態の貴方がいるのは心強い。共闘してあげましょう」


 カヤクはザザナールに協力し、ニル・ゼントへの攻撃体勢を整え、ザザナールはニル・ゼントを見ながら苦しげな表情で剣を構えた。

 一方、ニル・ゼントは不気味な間接の動きを見せながら凄まじい虚無のオーラを発し始めた。


 (ゼントさん‥‥必ず救い出すから待ってろよ‥‥)


 ザザナールは剣の柄を強く握った。



いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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