<ホド編 第2章> 118.援軍
<レヴルストラ以外の本話の主な登場人物>
【剛力王バラム】:凄まじい怪力の持ち主で結界杭ではヘラクレスを幽閉していた。
【智慧の悪魔ストラス】:結界杭でワサン、ソニック、シンザを幽閉していた。王冠を被っ梟の姿をしている。
118.援軍
悪魔たちを行動不能にしたルナリは力なくその場に両膝をついていた。
その両肩を支えるシンザの視界に巨大な人影が入り込んできた。
「こいつがいなければ悪魔兵たちは行動不能にはならんな!」
ルナリの背後に現れた巨大な人影は、異常に太い腕を振り上げている剛力王バラムだった。
シンザは咄嗟にルナリを自分の方に引き込み後方へと放り投げながら防御の体勢をとった。
バッゴォォン!!
ズザァン!ズンズズンズズン!
「シンザ!」
ルナリは絞り出すような声でシンザの名を叫んだ。
シンザは剛力王バラムの攻撃を受け、数十メートル後方に吹き飛ばされてしまったのだ。
シンザに与えられた衝撃を和らげようと触手を伸ばすがすぐに消えてしまう。
ルナリはそのまま気を失ってしまった。
「何じゃこりゃぁ」
剛力王バラムの右拳に短剣が突き刺さっていた。
短剣はシンザのもので、防御する直前に腰に下げていた短剣を引き抜き、バラムの拳に突き立てながら防御していたのだ。
ブシャァ!グググ!
短剣を引き抜いたバラムの拳から血が噴き出たが力を込めると一瞬で出血が止まった。
「中々な小細工を出してくれるじゃないか!儂はそう言うのが特に嫌いでなぁ。この戦いではアドラメレク様より手加減無用のご指示が出ている。つまり儂はフルパワーを出せるということだ。ゆえに、お前は今この場で殴り潰しグチャグチャの肉片に変えてやることにした!」
血管を浮き立たせ不気味な笑みを見せつつゆっくりとシンザの元へと歩み寄るバラムは異常なまでに太い腕を振り上げた。
そしてシンザの前に立つと、血走った目を見開いた。
シンザは意識を失っているのか、仰向けに倒れたまま動かない。
「意識がないのか、演技か。何れにせよ力の前では小細工など無意味であることを教えてやろう」
グッググ‥‥
バラムの腕がさらに太くなる。
「死ねぃ!」
ヒュゥゥゥゥン‥‥
突如どこからか風切音が聞こえてきた。
興奮しているのかバラムには聞こえない。
ブワァン!
異常な太さのバラムの腕がシンザに振り下ろされる。
次の瞬間。
ドッゴォォォォン!!!
バシュゥゥゥン‥‥ズドドドォォォォン!!
バラムは突如地面を転がるようにして後方に吹き飛んでいった。
あまりの激しさにバラムが飛ばされた方向に向かって地面が抉れてしまった。
砂埃が舞い上がり、一体何が起こったのか確認できなかったが風が砂埃を押し流すと大きな人影が現れた。
人影はしゃがむと軽々とシンザを抱き抱えた。
「遅れてすまねぇ、シンザ」
「ヘラ‥クレスさん‥‥」
突如現れたのはヘラクレスだった。
「少し向こうで休んでいろ」
そういうとヘラクレスはシンザを少し離れた場所に寝かせた。
ボキボキ‥‥ボキボキ‥‥
ヘラクレスは指をポキポキと鳴らし首を回しながらバラムが吹き飛んだ方向をみた。
するとゆっくりと起き上がる巨大な人影が見えた。
「ヘラクレス!」
「誰だっけ、お前」
「儂に遅れをとった男が随分と劇的に登場したものだ。これでまた負けるのだから儂なら恥ずかしくて生きておれんな」
「何だ。インチキ預言者か。俺ぁそういう奴が大嫌いなんだ。すぐに終わらせてやる」
「やってみろ!」
ブワァン‥‥ドッゴォン!!
剛力王バラムの巨大な拳がヘラクレスに炸裂する。
衝撃波が広がるがヘラクレスはバラムの凄まじい拳撃を、両腕をクロスに合わせた防御で受け切っていた。
「これはお前の全力か?」
「生意気な!」
ゴォワァァン‥‥ズドォォン!!
ふたたびバラムの凄まじい拳撃がヘラクレスに振り下ろされたがヘラクレスはそれを受けきった。
「威力が弱まったが疲れたのか?」
「ほざくなクソガキが!」
ギュワァァァァン‥‥ドッゴォォォォン!!
バラムは両手を握り振り上げると全身に血管を浮き立たせ、異常なまでに盛り上がった筋肉に力を込めて振り下ろした。
それを受けたヘラクレスの足は地面に埋まってしまった。
だがヘラクレスは余裕の表情でクロスに合わせている腕の隙間から鋭い眼光をバラムに向けて言った。
「これがお前の全力だな」
「貴様!」
「今度は俺のターンだ」
グゴォォォ‥‥
ヘラクレス腕が熱せられた鉄のように赤くなっていく。
筋肉は盛り上がり、頑強だがしなやかな動きを見せながら腕が振りかぶられる。
ギュワァァァァン‥ドッゴォォォォン!!
「うぶお!!」
バラムの腹に向かって振り上げられたヘラクレスの拳は体を突き破るのではないかと思うほどバラムの腹部にめり込み、背中の筋肉にヘラクレスの拳の形が浮き出るほどだった。
ブジョァァァ‥‥
ヘラクレスが拳を引き抜くとその手にはバラムの青い血がべっとりと付着し伸びている。
ズチャァァ‥‥
バラムの腹部から大量の血が流れ、地面に血溜まりが出来てしまった。
バラムは急いで回復魔法を唱え腹部を修復した。
「グバァァ‥‥生意気なクソガキだァ‥‥だがこの程度じゃぁ儂を殺すことは出来んぞ!」
「うるせぇな。そろそろその口、2度と開けねぇようにしてやるよ」
ヘラクレスはふたたび拳を振りかぶり凄まじい力を溜め込み始めた。
「愚か者め!」
バラムがそう言うとヘラクレスの背後に智慧の悪魔ストラスが静かに現れ10を超える魔法陣を出現させた。
グッ!
ストラスが拳を握ると10個の魔法陣から様々な攻撃魔法がヘラクレスに向かって放たれた。
ズババババドドゴォォォン!!
凝縮された爆裂魔法がヘラクレスを襲った。
爆炎が広がっては凝縮を繰り返している。
「グハハでかしたぞストラス!」
「全くヌシは世話が焼ける男だ。あとは好きにするがよい。まぁ消し炭になってるからどうこうすることもできないだろうがな。それじゃぁ我は他のニンゲンどもを殺してくるとしよう」
ガシ!
「いぎ?」
突如爆炎の中から手が出てきてストラスの頭部を掴んだ。
ブジョァァァ!!
その手はストラスの梟の頭部を握り潰した。
ヘラクレスは血を払うように腕を振った。
「バカな!貴様何故爆炎の中で火傷ひとつなく生きていられるのだ?!貴様は魔法がほぼ使えないはずだ!回復など出来るはずがない!」
ストラスの攻撃に全く怯むことのないヘラクレスを見たバラムは驚きの表情を見せていた。
ヘラクレスによって頭部を握りつぶされたストラスの体はムクっと起き上がり距離を取ると、頭部が生えるかのように再生された。
「ピーピーうるせえな。でけぇ図体して肝っ玉小せぇ野郎だ。俺たちはお前らの姑息な手には引っかからねぇんだよ」
「?!」
爆炎が消えていくにつれてヘラクレスの体が露わになっていくがその姿を見てバラムは驚いた。
「貴様の皮膚‥何なのだ?!‥‥!!」
ヘラクレスの体には火傷ひとつなかったのだ。
いくら強靭な肉体を持っていてもあれだけの凄まじい爆熱魔法を喰らい続ければ広範囲の火傷は免れない。
フシュゥゥ‥‥
ヘラクレスの体から蒸気のような煙が出ている。
「ぬ!誰だそこにいるのは?!」
蒸気のような煙が風に流されていくにつれて、ヘラクレスの向こう側に別の人影が出現しバラムは驚いた。
「貴様は何者だ?!」
青い髪を靡かせながら姿を現したのはソニックだった。
ストラスが爆熱魔法をヘラクレスに発動する直前、密かにこの場所へ降り立ったソニックは音氷魔法による頑丈な氷の鎧を生成し爆熱魔法の高熱と衝撃から身を守ったのだ。
ズンズズズン!!
そして空からふたりの何者かが飛来して着地した。
現れたのは、ワサンとアリオクだった。
「き、貴様はアリオク!」
「な!」
バラムは驚きの表情を見せ、ストラスはアリオクを見た瞬間に転移魔法で姿を消した。
「ストラス!‥‥チッ!逃げ足の速いやつめ。アリオクとヘラクレスふたりを相手にするのは流石に骨が折れる。仕方あるまい、本気を出すとするか」
バラムは全身に力を込め始めた。
「ぬぅぅぅぅぅん!!」
バラムの体が徐々に萎んでいく。
フシュゥゥゥゥゥゥ‥‥
空気が抜けていくかのようにバラムの体は小さくなり、身長まで縮んでいた。
そして身長が1メートルほどになったところで、体の変化が止まった。
「何の芸だ?くだらねぇぞ。殺してやるから早くかかってこい」
苛立っているヘラクレスは手を前に出して ”かかってこい” と言わんばかりにクイクイっと指を曲げて挑発しながら言った。
シュン‥‥ドッゴォォン!
「ブグオォ!」
突如ヘラクレスは前屈するような姿勢で空中に浮いた。
小さくなったバラムがヘラクレスの腹を殴り上げたのだった。
「ヘラクレスさん!」
「なんてパワーだ。加勢するか」
「いや不要だろう。ヘラクレスは負けない」
ヘラクレスへの攻撃で致命傷を心配したソニックとワサンに対し、アリオクは余裕の表情を見せながら言った。
ズン!!
ヘラクレスはうつ伏せで地面に落下した。
「うぐぅ‥‥」
シュン‥‥スタ‥
「儂の攻撃が見えなかったようだな。体が小さくなったことで舐めていたな?この姿になることによって儂の素早さは2倍、パワーは4倍に引き上げられているのだ。儂の本気の力の前では下位の魔王ですら何もできずに倒される」
ズザ‥グググ‥
ヘラクレスは地面に手をついて、ゆっくりと起き上がる。
「ふぅぅ‥‥」
ググ‥ザ‥グィィン‥
ヘラクレスは立ち上がった。
「さぁて‥‥第2ラウンドといこうぜ」
ヘラクレスは不敵な笑みを見せて構えをとった。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




