<ホド編 第2章> 115.未来の最強
<レヴルストラ以外の本話の登場人物>
【ザザナール】:ニル・ゼントの配下の剣士 昔は冒険者でレッドダイヤモンド級を超えるレベルだったが、その後殺戮への快楽に目覚め悪に堕ちた。その後ニル・ゼントに拾われ用心棒兼ゼントの護衛部隊の隊長を務めている。
【カヤク】:元三足烏の分隊長だったが、エントワによって人生を変えられたことで改心し、現在はレヴルストラの見習いメンバーとして信用をえるために三足烏に潜入し情報収集に努めている。
【ニトロ】:元三足烏カヤク隊の隊員だったが、カヤクと共に改心しレヴルストラ見習いメンバーとしてカヤクと行動を共にしている。レヴルストラメンバーとして認めてもらうために、カヤクと共に蒼市へと潜入し、現在はニル・ゼント最高議長の護衛をとして活動しつつ情報収集に努めている。
115.未来の最強
「さぁて、正念場だぜ」
そう言うと、ザザナールは凄まじい威圧オーラ放ち始めた。
先ほどとは違う真剣な表情で構え、今にも凄まじい攻撃が飛んできそうな緊張感が走る。
一方シルゼヴァは余裕の表情で短剣の二刀流で構えをとった。
「あんた、一体何者だ?」
突如ザザナールがこれまでとは違うトーンで話し始めた。
「哲学的問いか?くだらんな。さっさとかかってこい」
「‥‥‥‥」
ザザナールはこれまでとは違い、全くふざけた様子は見せずに剣を構えたまま動かずにいた。
「来ないのならこっちから行くぞ」
ダシュン!‥‥ガキィン!キキキキンガキキン!
シルゼヴァの凄まじい速さの攻撃を冷静に受けていくザザナールは隙をついて螺旋を練り込んだ強烈な拳撃をシルゼヴァの腹部に叩き込む。
ガシィン!
シルゼヴァは表情ひとつ変えずに、左肘と左腿でザザナールの拳を挟み込み止めた。
そしてそのまま右手の短剣をザザナールの首元に突き立てる。
ザザナールは仰け反ってそれを躱わすとそのまま螺旋を練り込んだ蹴りを放ったのだがシルゼヴァは半身で交わしつつ腕で払い除け、そのまま再び短剣をザザナールの首元に突き立てる。
「ぬおおお!」
ザザナールは避けられないと悟り、自分の拳を固定しているシルゼヴァを力任せに放り投げる。
ブワァン!ヒュゥゥン‥‥スタ‥
放り投げられたシルゼヴァは空中で回転しながら無重力かのように静かにゆっくりと地面に着地した。
「あんた化けもんかよ」
ザザナールは額やこめかみから汗を滴らせながら言った。
(何なんだこいつは。俺の螺旋が全く効かねぇ。いやそれどころじゃない。俺の攻撃も威力を失っている。一体何が起こってんだ?)
ザザナールの練り込む波動気の威力は凄まじい。
本来であればザザナールの螺旋を練り込んだ拳を肘と腿で挟み込んだシルゼヴァはその時点で螺旋の破壊力と力の収束の流れによって少なくとも腕と脚は吹き飛んでいたはずなのだ。
だがまるで螺旋は無かったかのように軽々と拳は挟み込まれ、その後に放った螺旋が込められた蹴りも軽々と弾かれた。
触れただけで腕はズタズタ引き裂かれていたはずだったのだがシルゼヴァの腕には傷ひとつない。
「あんた、無動を使ったのか?」
「よく質問するやつだな。波動気は使っていない。普通に戦っているだけだ。さぁ続けるぞ」
「有り得ねぇよ!」
ダシュン!ガキキン!キャァン!キキキキン!
(剣捌きがどんどん早くなってるっつーの!)
ザザナールは必死にシルゼヴァの攻撃を受けているが徐々にそのスピードに対応できなくなっていた。
それを観ていたスノウは無意識に拳を強く握っていた。
握った拳からは血が滴っている。
(シルゼヴァとは真剣に戦ったことはないが、あそこまで強いとは‥‥)
決して派手な戦闘ではない。
魔法の稲妻や爆発もなく、大地を抉るような凄まじい破壊波もない。
だが、目の前の戦いはそのような派手な攻撃が一切無意味となる高みに立つ強者同士の戦いであった。
そして自分が入り込めない戦いを目の当たりにし、心は悔しさで満たされていた。
スノウはこれまで何度も強くなることを欲していたが、それは全て大切な仲間を守るためであった。
自分は決して強くはないと思っていたが、それは自分自身を認めていなかったことと、自分の強さが何処か他人のもののような感覚があったためであった。
自分では説明できない強さでありつつも、悉く敵を倒せる爽快感や、皆に強さで頼られることの快感を得てしまったことから借り物の力を手放せない自分がいたことに気づいたのだ。
(シルゼヴァはおれのことを買い被っている。‥‥いや、違うな。おれの数奇な運命に興味を持っているだけだ。おれと共に行動しているとあいつの好奇心が満たされる‥‥ただそれだけ。おれはやっぱり弱い‥‥いや、そうじゃない。おれは強い。だが、上には上がいる。それだけだ。おれ自身、弱いやつのことを気にすることがなかったように、ザザナールやシルゼヴァはおれを気にしていない。戦う相手として認めていない‥‥おれはこの力でもっと強くなりたい!)
初めて自分自身のために強くなりたいとスノウは思った。
その感情が芽生えた時、今まで借り物の力だと思っていたものが、一気に自分のものになった気がした。
ガキキィィン!ガキキィン!シュヴァン!!ヒュゥゥン‥‥ズドドォン!
いよいよシルゼヴァの攻撃スピードに反応できなくなったザザナールは強烈な一撃を喰らい、後方へと突き飛ばされた。
辛うじて剣で防御していたため、切創はなかったが、受けた剣を持っていた腕の骨が折れてしまっていた。
「フハハ‥‥あり得ねぇ。突剣攻撃の直前蹴りを2発も入れてくるとはよ‥‥」
「観念することねぇザザナールボウヤ」
スノウの背後からロムロナが前に出てザザナールに向かって言った。
「ロムロナか‥‥」
「年貢の納め時ねぇ。もう十分楽しんだでしょう?」
「楽しんだ?馬鹿言うなよ。何も分っちゃいねぇんだな、相変わらず。俺がなぜこの頬の傷を今だに残しているか」
「!」
ザザナールはゆっくりと立ち上がった。
「俺が殺しまくってんのは、英雄トライブの “イーシャ” であるあんたらの顔に泥を塗るためだよ。いわば復讐だ。俺が善人や優秀な冒険者を殺せば殺すほど、俺を育てたアガティン、ヴェルト、アリディア、そしてロムロナ、お前の名が地に落ちていく。俺を怪物扱いして殺そうとした罰を受けさせるんだよ。そしてこれ以上ないほど地に落ちた時、俺の復讐は完遂する。お前らを細切れにしてぶっ殺すことでなぁ」
「‥‥‥‥」
ロムロナは苦しそうな表情を浮かべながら言葉を返す。
「恨むならあたしを恨みなさいよ。いくらでも細切れにすればいいわぁ‥‥」
「言われなくてもそうする。だが、あのちっこいのが強すぎてな。お前らレヴルストラはリーダーのスノウ・ウルスラグナじゃなく、あのちっこいので持っている感じだな。お前もあれがいるからレヴルストラにいるんだろ?」
ロムロナが反論しようとした時、シルゼヴァが軽く手をあげて制した。
「お前、何か勘違いしているんじゃないか?」
シルゼヴァが怒り混じりに話し始めた。
「レヴルストラのリーダーのスノウは紛れもなく最強の者だ。俺はやつの強さに惚れ込んでいるのだ。それは他のメンバーも同じだ。その意味が分かるのはレヴルストラの者たちだけだ。そして皆、スノウを慕い行動を共にしているのだ。少し特殊な生まれ方をしただけのお前が何かを極めたところで、お前はスノウの足元にも及ばん」
シルゼヴァの言葉に共感しているフランシア、シンザ、ルナリ、ロムロナがスノウを中心にして立っていた。
その姿は堂々たるもので、スノウに対して絶大なる揺るぎない信頼感を持っているというオーラを放っていた。
「おいおい、笑わせてくれるなよ。悪いがさっきの戦いでそこの兄ちゃんの実力は知れたぜ?俺には魔法がほぼ効かねぇ。そして俺の攻撃を兄ちゃんは受けることすら出来ねぇ。そりゃぁ紛れも無い事実だ。何ならもう一度、それを証明してやろうか?そこの兄ちゃんを細切れの肉片に変えてな」
「クハハ!愚か者だな、お前は!時間に縛られた哀れなやつだ。今この瞬間でしか物事を語ることが出来ない時点でお前は戦士としては下の下だな」
「どういう意味だい?俺を揶揄ってんなら笑えねぇぞ」
「理解出来ない馬鹿には本当にうんざりさせられる。お前の強さは今がピークだ。成長頭打ちということだ。そしてお前より遥かに強い俺もそうだ。だが、スノウは違う。天井も限界もないのだ。つまり常にピークを更新し続けるということだ。今という瞬間で勝ちを名乗ろうと言う、くだらんお前がスノウを攻撃するなら、俺たちがお前を細切れにする。それだけのことだ」
「く‥‥」
ズザ‥‥
ザザナールは片膝をついて苦い笑みを見せながら項垂れた。
(今じゃねぇってか‥‥何年後の話をしてんだか知らねぇが、将来の最強に魅入られて慕っているなんて意味分からねぇ‥‥)
グググ‥‥
「なるほどねぇ!」
ザザン‥
ザザナールは剣を杖代わりにしてゆっくりと立ち上がった。
「だったら作戦変更だ。あんたは俺に成長頭打ちだと言ったな。そんなことねぇってことを証明してやるよ。ってことでこの戦いは止めだ。俺はゼントさんを連れてこの場を引くことにする。追いかけようなんて野暮なことするなよ?」
「野暮なこと?いいえ、長年のしがらみを断ち切る好機だわ」
ロムロナは槍を持ち、ゆっくりとザザナールの方へと歩き出した。
その時。
ズザザァァァァン!!
突如ニトロが血だらけでロムロナの目の前に吹き飛んできた。
「ニトロボウヤ!」
全員ニトロが飛んできた方向に目を向けた。
『!』
そこには別人のような目つきになっているカヤクがいた。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




