<ホド編 第2章> 114.波動気を極めた男
114.波動気を極めた男
ガキィィン!!
ガカカン!キュワァン!シュババァン!
スノウとザザナールは凄まじい剣の応酬を繰り広げていた。
ザザナールの強烈の一太刀一太刀をスノウは絶妙な距離感で躱しながら攻撃を仕掛けるが、ザザナールもそれをギリギリで躱している。
「オラオラ!本気ださねぇと俺を倒すことはできねぇぞ!」
ブワァン!!ザキィィン!!
スノウは波動気の螺旋を込めた一撃を繰り出した。
それをザザナールは剣で受け止めようとしたがギリギリで躱した。
ズゴゴォォン!!
スノウの放った斬撃波は地面を大きく削りながら消えた。
強力な斬撃波は巨大な谷を作り出した。
そのあまりの破壊力にザザナールは驚いた表情を隠せずにいた。
「おいおいマジかよ!螺旋は使いこなしているようだなぁ!本気を出さなきゃならねぇのは俺の方だな!」
ブワン!ブワン!バババァァン!!
ザザナールは斬撃波を立て続けに放った。
その一つ一つに波動気の螺旋が強く込められていたのだが、スノウはそれを避けようともせずにフラガラッハを構えて立ちはだかった。
スリュリュゥゥゥゥゥゥ‥‥
スノウはザザナールが放った複数の斬撃波を波動気の流動を込めたフラガラッハで全て受け流した。
「流動もか!」
ブワンブワン!ブワワワワン!!
ザザナールはふたたび複数の斬撃波を放った。
「!」
スノウはザザナールの斬撃全てを素早く動き躱した。
「ほう、よく見破ったなぁ!だが、俺の波動気は普通じゃねぇぞ」
ババババババン!バシュゥゥ!
スノウの全身に傷が生じ、血が吹き出し始めた。
シュゥゥン‥‥
即座に回復魔法を発動し止血した。
傷は既に完治している。
「流石の治癒速度だな」
「流動か」
「ご名答。流動ってのは普通、波動気を受け流す術として使われる。だが本来の流動は違う。波動気を拡大し広範囲に甚大な破壊を齎すものだ。波動気を極めたものが斬撃波に込めるのは流動であって螺旋じゃねぇ。余程硬い障壁や一撃必殺の攻撃を放つ時に1点集中の螺旋は有効だが、それも極めた者だけが使えるレベルだ。凡人じゃぁ流動は受け流し、螺旋は攻撃って使い方が関の山だな。さて、お前さんはどうだかな。少々波動気を練る力はあるよだがよ」
スノウは久しぶり脅威を感じていた。
(今のおれにはこいつほどの波動気を練ることはできない。空視で視たが、流動の氣の強さはおれの数十倍だ。こいつは一体何者なんだ?)
「声も出ねぇか。まぁ八支天に名を連ねたんだ。もう少し楽しませてくれよ、兄ちゃん」
「‥‥‥‥」
スノウはフラガラッハに強力に練り込んだ氣を流し込んだ。
ダシュンッ!‥シュン!
スノウはザザナールとの距離を詰めながら複数の魔法を放った。
ジオエクスプロージョン、ジオライゴウ、ジオストーム、ジオデストロックの混合魔法であり、それをさらに凝縮させてものであるため、発動すれば凄まじい破壊の渦を巻き起こす。
常人であれば間違いなく体が引き裂かれて絶命する。
防ぐには魔法のバリアを幾重にも張り、自身も回復魔法を唱えながら防御に徹しないと完全には防ぐことができないため、相当な魔法力と強靭な肉体が必要となる。
だがザザナールは笑みを見せながら剣を肩に乗せ、左手を前に出した」
スノウの放った魔法がザザナールの左手の中へと吸い込まれた。
「!!」
その光景に驚きつつもスノウは冷静に勢いを殺さずに強烈な一撃を放つ。
ガコォォォォン!!
スノウの一撃をザザナールは剣で受けるが、あまりの威力で剣が弾かれてしまう。
そしてその流れでフラガラッハがザザナールの首に斬りかかろうと振り下ろされた瞬間、ザザナールは体を異常な角度で反り、そのまま回転して蹴りを放った。
スノウはその蹴りを冷静に避けつつ、先ほどと同様の4種の魔法の凝縮された魔力球を間近でザザナールへと叩きむ。
だが、ザザナールはそれを左手のひらで吸い込んだ。
「!!」
シュヴァン!トォン!ヒュゥゥゥゥゥン‥‥スタ‥
「いい判断だな兄ちゃん」
「チッ‥‥」
(こいつ、一体何者だ?!‥‥あそこで飛び退かなければ腕一本持っていかれていた‥‥)
ザザナールは剣を肩に置いて余裕の表情を見せながら話し始めた。
「兄ちゃんは間違いなく八支天の中でもトップクラスだな。極端に器用すぎるからな。剣技、武技、魔法、力、全てに置いて飛び抜けてる。だがねぇ、極めてないんだよ。極めた者には何を並べても無駄だ。七支天が俺に勝てなかったのは俺が波動気を極めているからだ。まぁ剣技や武技、魔法でもやつらは俺に勝てねぇがな。そういう意味では兄ちゃんは素質あるわ。だが、それももう終わりだ。ここで死んでもらうからな」
「くっ‥‥」
(打つ手なしなのか?)
スノウはこれまで幾多の困難を乗り越えてきたのだが、何も心のどこかで自分は乗り越えられると感じていた。
理由も分からず、見ただけで魔法を理解したり、剣技も直ぐに習得出来た。
波動気も使えたし、万空理で因の繋がりを見極めて常人では理解し得ない戦いも勝利してきた。
時間の縛りからも解放され、越界と同時に時間も超える経験もしている。
それらが自分の中で全能感を与え、心のどこかで自分の意志で乗り越えられると感じ取っていたのだ。
だが、今、初めて敗北を強烈に感じ取っていた。
スノウの中でどのような攻撃を繰り出しても通用しない確信めいた感覚があったのだ。
そしてそれはザザナールが練り込んでいる波動気の因からも見てとれた。
(やつの波動気の練り込みは異常だ。氣の密度が濃すぎる。隙間が見えないほどだ。そしてそれを一瞬で練り込めるスピード。こいつの余裕でいられる理由はこれだ。)
スノウは自身の手に波動気を凝縮させてみた。
(ダメだ。おれの氣の密度はやつの半分程度。おれの使った無動が相手の攻撃を消し去れたのは相手の氣の密度がおれよりも薄かったからだ。だがおれの無動はザザナールの波動気を無にできない。これが波動気の本質か)
ガシンッ!
(ならば剣技で倒すしかない!)
スノウはフラガラッハ構えた。
「おお、やる気だね兄ちゃん」
シュン!ガキキン!カカカァン!ガキカカァン!!
凄まじい剣撃の応酬が繰り広げられた。
スノウの一太刀一太刀はザザナールの攻撃を読みつつ急所を狙って繰り出されているが、ザザナールはそれを悉く剣で受けている。
その表情には余裕すら見えるほどだった。
「中々良いぞ兄ちゃん。脱力からの力み、スピード、振りの角度、狙い所、体幹を使った動き、全て超一級だな。だが最高峰まで到達してねぇ」
ヒュゥン‥‥ズバギャァァン!
ドッパァァ!!
「がっはぁ!」
スノウは腹から胸にかけて大きく深く斬り裂かれた。
斬られた勢いでスノウは後方に大きく吹き飛ばされ、空中で数回転した後着地した。
空中で回転中に周囲に血が飛び散ったことからザザナールの攻撃がかなり深く入ったことが窺えた。
だが着地する頃には傷は魔法で完治していた。
「うーむ。回復魔法は異常だな。回復体質もある。まぁ大した問題じゃねぇが」
「‥‥‥‥」
(どうするか。こいつには勝てる気がしない‥‥おれはこいつに負けるのか?!今まで心の何処かで戦って負ける筈はないと高を括っていた‥‥だが今回は‥‥)
スノウは怒りに震えていた。
もちろん自分への怒りだった。
パシィン!
スノウは自分の頬を叩いた。
(くだらない考えは捨て去って今この瞬間の戦いに集中すべきだ!そもそもおれは凡人だったんだからな。常に挑戦者であるべきなんだ!)
スノウは気持ちを切り替えてフラガラッハを構えた。
「‥‥‥‥」
それを見たザザナールは何かを感じ取ったのか無言のまま真剣な表情となった。
そしてこれまでとは違う腰を低く落とし、脱力した構えをとった。
そしてふたりが同時に攻撃を仕掛けようとした瞬間。
『!!』
ドォォォン!!
突如ふたりの間に何かが凄まじい勢いで落下してきた。
「何だ面白い状況ではないか」
「シルゼヴァ!」
隕石でも落下したかのような衝撃の正体はシルゼヴァだった。
『わぁぁぁぁぁぁぁ!!』
ズゥゥゥゥン!!
再びスノウの前で激しい衝撃が生じた。
それはルナリが負の情念の触手で抱えながら飛んできたものだった。
シンザはルナリに大事そうに抱きしめられている一方で、触手にはロムロナとニトロが雑に掴まれた状態となっており、ふたりはここまでの道程が激しかったのか疲労と雑な扱いへの怒りが入り混じった表情になっていた。
「来てくれるとは思っていなかったぞ」
「l蒼市は混乱していたがそれだけだ。主戦場はここだからな。用が済めばここに来るのは当然の流れだ。そしてそこのニンゲン。確かザザナールと言ったな。相当な戦士だとみた。スノウ、獲物を横取りするようだがこいつは俺が相手をする。お前はこの先の戦局を動かしてくれ」
シルゼヴァは体や指を鳴らしながら柔軟体操を始めた。
「お前なら問題ないと思うがやつは相当強いぞ?」
「ああ。さっき上空から見ていた。相当な波動気を練り攻撃をしかけているな。だがおれの敵ではない」
「おいおい、多勢に無勢だなぁ」
ザザナールはシルゼヴァたちの登場に太々しい笑みを浮かべながら言った。
(まぁいいか。どうせいつかは戦う奴等だからなぁ。成長する前にこいつらを始末出来れば脅威は減るわけだ。本気でいかせてもらうとするか)
ザザナールは凄まじい威圧オーラ放ちながら先ほどとは違う真剣な表情と構えたをとった。
「さぁて、正念場だぜ」
スノウ、シルゼヴァとザザナールは一触即発状態となった。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




