<ホド編 第2章> 112.集結
<レヴルストラ以外の主な登場人物>
【カマエル】:痴呆の老人姿の守護天使で神を見る者と言われている。ゲブラーを守護している。銀狼の頭部であったワサンにニンゲンの頭部を与えた。
【ミカエル】:少年の姿の守護天使。ティフェレトを守護している。スノウの仲間であったレンに憑依していた。ベルフェゴールを冥府へと還している
【エルティエル】:美しい金色の髪の女性の姿の守護天使。ネツァクを守護しているが消滅してしまった本来の守護天使のハニエルから守護天使の任を引き継いだ。スノウがネツァクにいた頃に行動を共にしていた。
【ニル・ゼント】:ガレム・アセドーの後を継ぎ、元老院最高議長となった人物で、謎多き存在。ガレム・アセドーを大聖堂の最上階テラスから突き落とし殺害している。その後、ホド中央元老院の最高議長となった。また、普通では不可能とされるオーラを自在に操る力を持つ。
【ザザナール】:ニル・ゼントの配下の剣士 昔は冒険者でレッドダイヤモンド級を超えるレベルだったが、その後殺戮への快楽に目覚め悪に堕ちた。その後ニル・ゼントに拾われ用心棒兼ゼントの護衛部隊の隊長を務めている。
【カヤク】:元三足烏の分隊長だったが、エントワによって人生を変えられたことで改心し、現在はレヴルストラの見習いメンバーとして信用をえるために三足烏に潜入し情報収集に努めている。
【ラツィエル】:Tシャツにジャケットを着てメガネをかけたの姿の守護天使。コクマを守護している。神の神秘と言われている不思議なオーラを放つ天使。
【ザフキエル】:青いスーツを着た黒人の姿の守護天使。ビナーを守護している。気性が荒いが、守護天使の責務を最も重要視している責任感ある天使。
【サンダルフォン】:最高級のスーツに身を包んだ紳士の姿の守護天使。メタトロンと兄弟でマルクトを守護している。罪を犯した天使たちを永遠に閉じ込めておく幽閉所の支配者と言われている。
【アドラメレク】:ホドを拠点としている魔王。何かの計画に沿って行動しており、アレックスを巨大亀ロン・ギボールに幽閉した。瑜伽変容を引き起こした。
【剛力王バラム】:凄まじい怪力の持ち主で結界杭ではヘラクレスを幽閉していた。
【智慧の悪魔ストラス】:結界杭でワサン、ソニック、シンザを幽閉していた。王冠を被っ梟の姿をしている。
【剣士アロケル】:体は人型だが、頭がライオンの剣士で二刀流。結界杭ではフランシアを幽閉していた。騎士道を見せるのはフェイクで騙し討ち、不意打ちを好む卑怯な剣術を使う。
【フアルシ】:ケセドで明か時サーカス団の団長をしていた男。スノウをサーカス団に引き入れ、一緒に公演も行った。オルダマトラ顕現時にオルダマトラの上版に座っていたほどの謎の力を持った人物で、カルパの凝縮魔力にも耐性を持っている。
【メグリ】:ケセドで明か時サーカス団の曲芸師をしていた女性。スノウがサーカス団にいた時にスノウの面倒をみてくれた理解者。
112.集結
ーーデヴァリエーー
カマエルとミカエルの展開している越界魔法陣によってデヴァリエは部分的にホドに越界していた。
"大陸引き" で上空から伸びている黒い稲妻の鎖がアヴァロンに突き刺さっている場所から少し上の部分の鎖が神の炙朶破で狙う場所となっているのだが、神の咆哮生成器からは直線で照射しなければならず、位置の関係でデヴァリエはかなり傾いた状態となっていた。
「エルティエル、準備はええか?」
「はい!」
「念を押して申し訳ありませんが今回は本物のカマエルですね?」
「当たり前じゃ!2度も同じ過ちを犯すと思うのか?このわしが!」
「ええ」
「がっは!お主も言うようになったのう‥‥」
「エルティエル、急ぎましょう。 "大陸引き" はかなり進行しています」
「照準合わせ完了、エネルギー69パーセント。現段階の最大出力です。発射します」
エルティエルはモニターを見ながらパネルを操作する。
神の咆哮生成器の先端に光の粒子が集まっていく。
そして光の粒子が凝縮されたエネルギー球へと変わっていく。
「発射」
バシュュアァァァァァ‥‥
眩い光球が凄まじい熱を放出しながら黒い稲妻の鎖で上空へと引き上げられている場所を目掛けて飛んでいく。
シャァン‥‥ドッゴォォォォン!!
一瞬ホド中に眩い光を放った直後凄まじい爆発が生じた。
激しい爆発にも関わらず、今回アヴァロンはほぼ無傷となっていた。
黒い稲妻の鎖に照準を定めており、地面から百メートルほど上の部分に神の炙朶破の光球が衝突したのもあった。
神の滅祇怒は狙ったもの以外の破壊は回避できる対象の選別が可能であるのに対し、神の炙朶破は破壊に特化した攻撃であるため、対象を選ぶことはできない。
そのためエルティエルは高い難易度であったが、黒い稲妻の鎖を狙い見事当てたのだった。
・・・・・
"大陸引き" によってまさに上空へと引き上げられている大陸の欠片の中にあるグルトネイの外壁の上でザザナールとネンドウが対峙していた。
ザザナールの凄まじい殺意のオーラとネンドウの異様な圧がぶつかり合って空間が歪んでいるように見える。
「言いたいことはそれだけか?」
目を見開いて全身の血管が浮き出ている状態で凄まじい殺意のオーラを発しながらザザナールはゆっくりと剣を抜いた。
ヒュゥゥゥン‥‥ドッゴォォォォォォォォォォォォォォン!!
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
凄まじい轟音の直後、地面が激しく揺れ始めた。
南西の黒い稲妻の鎖に向かって超高熱の波動破が放たれたのだ。
越界し神の咆哮生成器より放たれた神の炙朶破による破壊だった。
攻撃が当たったのは地面から100メートルほど上の黒い稲妻の鎖部分であり大地やグルトネイへの被害はないのだが、凄まじい爆熱が大地に降り注いだ。
三足烏の面々が中心であった元老院の調査団が築いた拠点の建物はほぼ全て熱で溶けてしまった。
「ほう、あれを受けて生き残るとはな」
ネンドウはザザナールに向かって言ったがザザナールは殺意のオーラを放ったまま余裕の表情を見せていた。
「お前さんこそ火傷どころか埃すら被ってないとはなぁ!やはり魔法の類じゃない不気味な力だってことか。ゼントさんが言ってたよ。ネンドウは得体がしれないってな」
「能書はいい。さっさとかかって来い。我も暇じゃないのでな」
「ああそうかい!」
ズゴゴゴォォォォン!
ザザナールが腰を低く落とし、ネンドウに向かって跳躍を見せようとした瞬間、上昇していた大地が動きを止めた。
よくよく見ると黒い稲妻の鎖が千切れそうになっている。
「おいおいまさかこの陸地落ちるんじゃないだろうな?!」
ザザナールが周囲を見渡した。
「チッ!まずいな。仕方ねぇ!よう、ネンドウ!一旦勝負はお預けだ!いいか?俺ぁ逃げるんじゃないからな!用事があるだけだ!次会った時は何があってもお前をぶっ殺すことを最優先にする。それまでせいぜいのんびり生を謳歌するんだな!」
「逃さんぞ!」
ブワァン!
ザザナールが剣を一振りすると周囲を切り裂く真空の波動が剣から放たれたのだが、ネンドウが両手を前に掲げると真空の波動がまるで生き物のように方向を変え、空に立ち昇って行った。
「逃げ足の早い奴め」
気づくとザザナールは姿を消していた。
・・・・・
一方スノウとフランシアは破壊し尽くされた元老院調査団の拠点跡に到着していた。
「メギドの影響か‥‥天使ども‥無茶苦茶しやがって」
「ルナリがいますからこの状態でもシンザたちは無事ですよ」
「分かってる。だがいつまたこの陸地が上昇するか分からない。早く見つけて救い出すぞ」
「はい」
スノウたちは瓦礫すら疎にしか残っていない場所でシンザたちを探し始めた。
「!」
遠くに人影を見つけたスノウは凄まじい速さで飛んでいくが、その人物がレヴルストラの者ではないことに気づいた瞬間、その場に静止した。
しかもひとりだと思った姿は実はふたりであり、ひとりは椅子に座りもうひとりはその人物を庇うようにして両腕を広げており、全身血だらけであった。
明らかに先ほどのシャダハの爆熱風から椅子に座っている人物を庇っていた。
そして異様であるのが、椅子に座っている人物を中心にして怒りと虚無の入り混じった禍々しいオーラが不規則な波動で広がっていたことであった。
普通の人間であれば気絶するか、気が触れてしまうほどの不協和音のようなオーラだった。
そしてスノウはそのオーラを知っていた。
「ニル・ゼントか!」
スタ‥
スノウとフランシアはニル・ゼントの背後から少し距離をとって着地した。
ニル・ゼントはスノウに気づいていない様子であったため、スノウはゆっくりと距離を詰めていく。
シュゥゥゥゥゥン‥‥
「!!」
ガキィン!!
突如視界の外からザザナールが凄まじい勢いで迫ってきてスノウに向かって剣を振り下ろしてきたのだが、直前で気付いたスノウはそれをフラガラッハで受けた。
「ははは!今の攻撃を真っ向で受けるってか!」
ザザナールは余裕の笑を浮かべながら言った。
「お前は!」
「素市では世話になったな。ところ何でお前さんがここにいるんだ?」
「お前には関係ないな」
「秘密主義かい。そう言うやつは嫌われるぜ」
「余計なお世話だな。それよりこの剣、収めてくれないか?」
「そりゃぁ無理な相談だ。お前さんから漏れ出ている攻撃のオーラがある限りはな」
ガキィン!
突如ザザナールの背後からフランシアが剣を振り下ろしたのだが、ザザナールは足に付けている小盾のプレートを振り上げて受け切った。
スノウには剣に体重を乗せて刃の押し合いをしつつ、フランシアに対しては脚を振り上げて剣を受けているという普通ではあり得ない体勢だった。
「あの時のお嬢ちゃんかい。可愛い顔して相変わらず鋭い太刀筋だわなぁ」
「マスターに向けた剣を収めることね。さもなければあなたの首が飛ぶことになるわ」
「なるほど。お嬢ちゃんの剣の強さの源は愛か。中々厄介だなぁ」
ガキュゥゥン!シュルルル‥‥スタ‥‥
ザザナールはスノウとフランシアに一瞬の隙を作ると大きく跳躍し、ニル・ゼントを庇うような立ち位置で着地した。
「さて。ここで引くなら見逃してやる。あくまで戦うっつーならマジでいかせてもらう。言っておくが俺のマジはマジで強烈だぜ。そこの兄ちゃん、七支天に並び今八支天となってそのひとりとして数えられてる強者らしいが、俺は正直元々の七支天の誰よりも強い。何故なら、全員と戦い殺しかけたからなぁ!」
「何の自慢だ?おれは七支天とかいうのは知らないし興味もない。そんな奴らに勝った話を聞いておれに何をしろって言うんだ?」
「おいおい、俺の脅しが効かねぇってどんだけ肝座ってんの兄ちゃん。まぁいい、とにかくここから立ち去れ」
「そこの椅子に踏ん反りかえっているやつを庇っている男を渡せば立ち去ってやるよ」
「ん?あぁ、なんつったか、カヤクだかカヤックだか変な名前のやつな。くれてやってもいいが、おそらくお前さんには付いてかないぜ?」
「どういう意味だ?」
「どういう意味も何も本人がそう望んでいるからだよ」
「洗脳か」
「おいおい、人聞きの悪いこと言うもんじゃねぇよ。俺たちは悪人じゃねぇんだ。立派に国を治めている善人なんだぜ?」
「よく舌の回るおっさんだな。渡さないなら力づくで貰っていく」
ジャキン!
スノウとフランシアは剣を構えた。
「おいおいベストカップルか?動きめっちゃ揃ってるじゃねぇの。ちょっと羨ましいぞ。だがなぁ‥‥俺の前でイチャついたやつは必ず死ぬって決まってんだよ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
ザザナールから凄まじい殺気のオーラが広がった。
その強烈なオーラはこれまでのザザナールが如何に手を抜いていたかを想像させるのに十分なものだった。
オーラがぶつかり合い、空間が歪んでいく。
今にも戦いが始まりそうとなった瞬間。
ズドン!ズドドン!!
『!!』
突如空から複数の何かが落ちてきた。
「アドラメレク!」
スノウはさらに怒りのオーラを発しながら叫んだ。
現れたのはアドラメレクと配下の悪魔である怪力王バラム、智慧の悪魔ストラス、剣士アロケルだった。
「殺したはずのやつもいるな。全く悪魔は面倒だ」
「おいおい何だ何だ?ややこしいことになってきたぞ?」
ヒュン‥‥ドッゴォォン!!
突如空から光線が降り注ぎ数メートルを焼き尽くす小爆発が起こった。
ヒュゥゥゥン‥‥ドドドォン!!
「今度はなんだい?」
突如地面が揺れるほどの衝撃が発せられた。
砂煙が立ち上るが、かなり上空に陸地が上昇しているせいか、直ぐに晴れていく。
そして姿を現したのは、守護天使のラツィエル、ザフキエル、サンダルフォンの3体だった。
ここにニル・ゼント、ザザナール、洗脳されているカヤク、魔王アドラメレクと配下の3体の上位悪魔、3体の守護天使たち、そしてスノウとフランシアの4つの勢力が一堂に介した。
それを上空から面白そうに見ている人物がいた。
「フハハ!面白いことになってきたね!」
「フアルシ団長。いい加減あたしに無理な体勢とらせるのやめてよね」
遥か上空の黒い稲妻の鎖が伸びている根本の岩の一角で岩を足で掴んでいるのはケセドで明か時サーカス団にいた女曲芸師のメグリで、彼女に足を掴まれる形で宙吊り状態で地上を見下ろしているのは団長のフアルシだった。
「さて、この状況をディアボロスとザドキエルはどうクライマックスに持っていくのか、見ものだねぇメグリ」
「いえ、いい加減この姿勢が我慢ならないわ。そろそろ手を離していい?」
「離したら僕が落ちてしまうじゃないか。それは君も困るだろうにさ」
「困らないわよ」
「まぁもう少しの我慢だ。直ぐに決着がつくだろうからさ」
フアルシは嬉しそうに見下ろしていた。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます!




