<ホド編 第2章> 111.ネンドウの暗躍
<レヴルストラ以外の本話の登場人物>
【ジライ】:三足烏サンズウー・烈の連隊長代理。かつてレヴルストラにライジという名でスパイとして潜り込んでいた。戦闘力が高く策士。
【ネンドウ】:三足烏サンズウーの大幹部のひとり。訳あってジライの部下として活動している。
【シュリュウ】:三足烏・烈の第1分隊長であったが、現在は烈の連隊長復代理を担っている。ジライを慕っており以前は有能な部下であったが、ジライの変貌と共にジライへの仕え方を見失い苦悩している。
【ギョライ】:三足烏ギョライ隊隊長。リボルバーを武器として遠距離攻撃を得意とするが、接近戦も得意。筒状のレンズが付いた仮面をつけ派手な明細柄の服を着ている。
【キライ】:三足烏ギョライ隊副隊長。鼻が高くその先に黒いツノのようなものがついた顔でサングラスをかけている。腕の3本持つ特異体質。
【フンカ】:三足烏フンカ隊隊長。現在はジライの配下として活動しているが、ホウゲキが連隊長であった時は特命部隊として別行動していた。一説にはキレると手がつけられなくなるため、ホウゲキに殺されないように別行動させていたとも言われている。
【ザザナール】:ニル・ゼントの配下の剣士 昔は冒険者でレッドダイヤモンド級を超えるレベルだったが、その後殺戮への快楽に目覚め悪に堕ちた。その後ニル・ゼントに拾われ用心棒兼ゼントの護衛部隊の隊長を務めている。
111.ネンドウの暗躍
「私の炎魔法を受けてタダすまないことくらい分かるな?貴様らはジライ様の配下!ジライ様を救いに出向くのだ!」
一刻も早くこの場を立ち去りたい分隊長たちは苛立ちの表情をみせつつも、シュリュウの両手のひらの上で回転し続ける凝縮された炎の球体を警戒し、この場に留まり防御の構えをとらざるを得なかった。
早くケリをつけてこの場を立ち去りたい分隊長のギョライとフンカは攻撃の機会を窺っている。
まさに一触即発の中、突如耳鳴りと共にその場にいるシュリュウ以外の者たちの体が金縛りにあったように硬直し動けなくなった。
そして体の中を何かが這い回るような感覚になった時、シュリュウとその他の者たちとの間の空間から突如声が聞こえ始めた。
“よくぞ申したジライの部下よ”
ギュワァァァァン‥‥
『!!』
声の聞こえた場所に不気味な空間の歪みが生じ、そこから足手、そして頭部と胴体が出てきた。
その出立ちに見覚えがあるただ一人動ける状態のシュリュウはその場で片膝をついて首を垂れた。
現れたのはネンドウだった。
「ネ、ネンドウ様」
「シュリュウと言ったな。貴様の愚直なまでのジライへの忠誠心。三足烏に必要なものであり、ジライの勝ち得た力の一端でもある。それに引き換え他の者どもは自らの長を置き去りに逃げ出そうとするとは三足烏の風上にも置けぬ所業」
スッ‥‥
『ぎぃやぁぁぁぁ!』
ネンドウが右手の人差し指と中指を揃えて軽く横に動かすと、シュリュウ以外の全員が悲痛の叫びをあげた。
みると両腕両足があらぬ方向へと一人でに曲がっている。
スッ‥‥
ネンドウが再び手を動かすと痛みが消えたのか皆虚ろな表情を浮かべているが体の硬直状態は続いているため思うように動けずにいた。
「貴様らには恐怖が必要だな。ジライへの不敬な発言や行動が出るたびに先ほどの激痛を与えることとした。せいぜい自らのとるべき行動を考えるのだな」
ネンドウは両腕を組んで言った。
「さてシュリュウ。貴様の推察通りジライはグルトネイに囚われている。そして先ほどの激しい攻撃の燃料として生命力と魔力の半分以上を吸い取られた状態だ。再びあの攻撃が放たれればジライは死ぬ。お前のとるべき行動は何だ?」
「ジライ様をお救いすることです!例えこの身がどうなろうと!」
「よくぞ言った。では貴様らにジライを救う機会を与えてやろう」
ギュワァァァァン!
突如その場にいた全員が異様な歪んだ空間に包まれた。
『?!』
次の瞬間、自分たちが全く別の場所にいることに気づき驚きの表情を見せた。
「ここは?!」
「分からぬか?ここはグルトネイだ。ここからは貴様らの本気を見せる場となる。見事ジライを救ってみせよ」
「はっ!」
シュリュウが返事をし終えると既にネンドウはその場から消えていた。
「さぁ行きますよ!」
シュリュウは一緒に転送されてきた分隊長たちを引き連れてグルトネイの内部へ入る入り口へと向かった。
だが、フンカとギョライはネンドウがいなくなったのを確認すると、別の方向へと歩き出した。
「ぎぃやぁぁぁ!」
「あがぁぁぁぁ!!」
突如ふたりは奇声を発し始めた。
見ると二人の手足はあらぬ方向へと曲がっている。
凄まじい激痛が全身を駆け巡っていることが容易に想像できた。
必死の形相でシュリュウの方へと戻ってくるふたりはシュリュウたちのいる場所まで到達した時点で激痛から解放された。
フンカとギョライは2度と逆らうまいと心に誓ったのだが、他の者たちも絶対に逆らってはならないと胸に刻んだ。
「ここだ!今すぐ開けますよ!」
シュリュウの指示でキライとフンカが炎魔法と力技で扉をこじ開けた。
簡単に開くはずのないグルトネイの扉はなぜか開くことができたのだが、シュリュウは心の中でジライが抵抗し、自分たちを招き入れたのだと思った。
そうしている間にも大陸は徐々に上昇していく。
急いで奥まで入っていくと肉の鎖によって繋がれているジライを見つけた。
「ジライ様!」
「‥‥‥‥」
ジライは空な目をして意識があるのか分からない状態であったが、シュリュウたちは肉の鎖を断ち切りジライを担いで外へと連れ出した。
ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥ‥‥
ジライを解放した瞬間、グルトネイが停止した。
ジライを担いで外に出た瞬間、グルトネイに連れて来られた状況同じように突如空間が歪み、気づくと元々いた三足烏の拠点に戻っていた。
「おい!もういいだろシュリュウ!ジライを救ったんだからとっとと逃げるぞ、オラ!」
「そうよ!こんなところに長居してちゃウチらどうなるか分からないわよ!」
「いいでしょう。ですがあなた方は分隊長と副分隊長だ。この場にいる200人以上の三足烏の部下たちを逃すのです!それがあなた方の責任です!」
「馬鹿か!そんな余裕あるわけねぇだろうが!それにお前はどうするつもりだよ!」
「私はジライ様を担いで安全な場所へ避難します。いいですか?これはお願いではなく命令です。逆らうならばそれなりの苦痛を味わうことになるでしょうね!」
分隊長たちは顔を見合わせた。
またあの耐え難い激痛地獄に落ちるのかと想像した瞬間、すぐさま行動に移っていた。
「これで部下たちも大半は救えます。ジライ様もう少しの辛抱です」
シュリュウはジライを担いで不安定な状態で飛行し始めた。
それからしばらくして分隊長たちの指示で、他の者たちも炎魔法で飛び始めた。
上手く制御できない者は炎魔法の得意な者に掴まって逃げ出した。
ギュウィィィン‥‥
グルトネイの別のハッチが開いた。
そこから出てきたのはザザナールだった。
「おいおいおいおい。なんでジライが消えてんだ?」
腕を組んでザザナールは周囲を見渡した。
「ほう、三足烏の雑魚どもがこの俺を出し抜いたっていうことか」
ジライを担いでフラフラと飛行しているシュリュウを見つけたのか、ザザナールは風魔法を発動し体を浮かせ始めた。
「おいおい、他にも大勢逃げ出しているってか?仕方ねぇなぁ。ジライを回収するついでに全員殺すか」
ヒュゥゥ‥‥ガシ!
「?!」
飛び立とうとした瞬間、ザザナールは何かに足を掴まれ、それ以上飛行できなくなった。
「グルトネイから手が出てきてるぜ。一体なんなんだこれは?」
ザザナールの言葉通り、グルトネイの壁面から腕が飛び出てきてザザナールの足を掴んでいる。
その腕がゆっくりと上昇し始め徐々に全身を露わにした。
「なぜお前がここで俺を足止めするんだ?ネンドウ!」
現れたのはネンドウだった。
「まさか裏切ったわけじゃねぇよな。いや、今はそこはどうでもいい。俺はジライを取り戻さなければならねぇ。邪魔するなら殺す。死にたくなければここで大人しくしていろや」
ヒュゥゥ‥‥ギュゥン‥‥
「!!」
飛行しようとしたザザナールは何故かグルトネイの外壁に磁石が吸い付くように引き戻された。
「殺されたいってことだな」
ザザナールから凄まじい殺意のオーラが放たれ始めた。
「貴様ごときに我は殺せんぞザザナール。そしてジライは渡さぬ。あれの使い道はまだあるのだ。貴様らの使い捨ての玩具にすることは出来ぬということだ。諦めて大陸と共に上昇しここで死ね」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
「おいおい、意味が分からねぇな。ゼントさんを騙したってことなんだな?ジライを俺たちに引き渡すことには賛成していたし、絶望を味わせることに一役買ってたのはどういう理由からだ?」
「貴様が知る必要はない。だが、ひとつだけ言っておこう。我のとった行動は貴様たちのために行ったものではない。偶然にその時に望んだものが一致しただけだ。貴様らが勝手に我を仲間になったと思い込んだということだ。怒りを覚えるならその対象は無能で想像力の乏しいそのちっぽけな自分の脳みそに向けるのだな」
「言いたいことはそれだけか?」
目を見開いて全身の血管が浮き出ている状態で凄まじい殺意のオーラを発しながらザザナールはゆっくりと剣を抜いた。
ヒュゥゥゥン‥‥ドッゴォォォォォォォォォォォォォォン!!
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
凄まじい轟音の直後、地面が激しく揺れ始めた。
南西の黒い稲妻の鎖が突き刺さっている大地に向かって超高熱の波動破が放たれたのだ。
越界し神の咆哮生成器より放たれた神の炙朶破による破壊だった。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




