<ホド編 第2章> 110.緊急事態
<レヴルストラ以外の本話の主な登場人物>
ー守護天使たちー
【ラファエル】:ホドの守護天使。黒いスーツに身を包んだ金髪の女性の姿をしている。瑜伽変容をロンギヌスの槍で阻止し裏切ったザドキエルを追い詰めたが、突如現れたディアボロスによって退けられた。
【メタトロン】:神衣を纏い仮面を被った騎士の姿の守護天使長。ケテルを守護している。スノウと友であった記憶を持っている。
【カマエル】:痴呆の老人姿の守護天使で神を見る者と言われている。ゲブラーを守護している。銀狼の頭部であったワサンにニンゲンの頭部を与えた。
【ミカエル】:少年の姿の守護天使。ティフェレトを守護している。スノウの仲間であったレンに憑依していた。ベルフェゴールを冥府へと還している。
【ラツィエル】:Tシャツにジャケットを着てメガネをかけたの姿の守護天使。コクマを守護している。神の神秘と言われている不思議なオーラを放つ天使。
【ザフキエル】:青いスーツを着た黒人の姿の守護天使。ビナーを守護している。気性が荒いが、守護天使の責務を最も重要視している責任感ある天使。
【サンダルフォン】:最高級のスーツに身を包んだ紳士の姿の守護天使。メタトロンと兄弟でマルクトを守護している。罪を犯した天使たちを永遠に閉じ込めておく幽閉所の支配者と言われている。
【エルティエル】:美しい金色の髪の女性の姿の守護天使。ネツァクを守護しているが消滅してしまった本来の守護天使のハニエルから守護天使の任を引き継いだ。スノウがネツァクにいた頃に行動を共にしていた。
ー三足烏ー
【シュリュウ】:三足烏・烈の第1分隊長であったが、現在は烈の連隊長復代理を担っている。ジライを慕っており以前は有能な部下であったが、ジライの変貌と共にジライへの仕え方を見失い苦悩している。
【ギョライ】:三足烏ギョライ隊隊長。リボルバーを武器として遠距離攻撃を得意とするが、接近戦も得意。筒状のレンズが付いた仮面をつけ派手な明細柄の服を着ている。
【キライ】:三足烏ギョライ隊副隊長。鼻が高くその先に黒いツノのようなものがついた顔でサングラスをかけている。腕の3本持つ特異体質。
【フンカ】:三足烏フンカ隊隊長。現在はジライの配下として活動しているが、ホウゲキが連隊長であった時は特命部隊として別行動していた。一説にはキレると手がつけられなくなるため、ホウゲキに殺されないように別行動させていたとも言われている。
【ネンドウ】:三足烏サンズウーの大幹部のひとり。訳あってジライの部下として活動している。
110.緊急事態
バチィィン!
「?!」
スノウは脳裏に火花が散るのを感じた。
「何をぼさっとしているんだいこの小童が!」
「!!」
突如オボロがスノウを叱責したのだが、それで何かに気づいたスノウは慌てて凄まじい速さで上空へと引っ張られる大陸を目指して飛んでいった。
「マスター!」
「なるほど。一刻を争う事態だな」
フランシアとシルゼヴァはスノウを追って飛んでいく。
大陸からは地面がバラバラと崩れるようにして瓦礫が海へと落下していく。
その無数の瓦礫が風に流されているのか、スノウたちの行手を阻むようにして迫ってきた。
スノウたちはそれを避けながら上昇していく大陸を目指す。
「フランシア!お前はスノウと共に永劫の地にある元老院の拠点へ行け!俺は蒼市を見に行く!」
「分かったわ!」
スノウ、フランシア、シルゼヴァの3人は巨大な魔法陣から伸びている黒い稲妻の鎖が引き上げている大陸部分にシンザ、ルナリ、ロムロナがいることに気づいたのだ。
黒い稲妻の鎖は大陸を魔法陣の中へと引き摺り込もうとしていることは容易に想像ができたため、その前に3人を救い出そうとしたのだ。
「オボロすまない!ぼけっとしていた!」
「詫びる前に全力を尽くすことに集中しな!時間はあと10分ってところだね!その間に3人を見つけ出し救い出すんだよ!」
「おう!」
ギュワァァァァァァァン!
スノウと少し遅れてフランシアは左側へ進み、シルゼヴァは右側へ進んで上昇してく。
ギジュアァァァァ!
突如ホドの上空の別の位置に長方形の異空間が出現した。
この異空間は守護天使が緊急事態のみに使うことのできる簡易越界魔法であり、ハノキアの別の世界にいながら、長方形の空間でホドと繋ぎホド全体を観測出来るという特殊魔法だった。
この場に招集されたのはメタトロン、ラファエル、カマエル、ミカエル、ラツィエル、ザフキエル、サンダルフォン、エルティエルの8体の守護天使たちだった。
「何だこれは?」
「あれを見てください」
「わずかに見えておるが、あれは間違いなくオルダマトラじゃな」
「驚く前にこの緊急コングレッションを開いた目的と我らがとるべき行動を説明したい。そして即刻実行に移る」
切り出したのはメタトロンだった。
「皆が気づいた通り、あの巨大な魔法陣はオルダマトラが作り出した越界魔法陣だ。そしてあの黒色雷鳴の鎖はオルダマトラから伸びている。我の管理する神の書庫にある古の文献によればあれは “大陸引き” を行うものだ」
「”大陸引き” じゃとぉ?!」
カマエルが驚いたように言った。
「何なのだそれは?」
ザフキエルがいつもの如く威圧的な口調で言った。
それに対しメタトロンが答える。
「”大陸引き” とは物理的にハノキアを別の世界へと越界させるものだ」
『!!』
「馬鹿馬鹿しいぞメタトロン!そのようなことができるはずもない!」
「いや、現に今目の前で発生している。かつて我が主は “大陸引き” が行われた際に黒色雷鳴の鎖を断ち切ることで “大陸引き” を阻止したとある」
「だが、そのようなことをして何の意味があるのでしょう?物理的に大陸を別世界へ越界させたところで、混乱するだけ。ハノキア自体が崩壊するわけでもないはず」
「いやそのような単純な話ではないのだラツィエル。ハノキアの9つの世界を物理的にひとつにした時、各世界に散らばる半身たちがひと所に集まることになる。そうなれば強引に瑜伽変容を発動できるようになるということだ」
『!!』
「馬鹿な!」
「ディアボロスどもめ!我らが阻止した瑜伽変容を諦めず強硬手段に出たということか!」
「そのような力、神を超える力なのでは無いですか?」
「不敬な表現はやめいラツィエル。我が主は全てを超越する存在。必ず阻止する方法をわしらにも授けてくれとるはずじゃ」
「その通りだカマエル。これより神の炙朶破を撃つ」
『!!』
「まだ十分にエネルギーが充填されていません」
「よいのだミカエル。黒色雷鳴の鎖がアヴァロンに突き刺さっている場所を狙い放つ。当然エネルギー不足により完全には引き剥がすことは出来ない。だが、不安定な状態になるはずだ。その隙に黒色雷鳴の鎖の付け根部分へと向かいオルダマトラを破壊する」
「どうやって破壊するのだ?!」
「わしら守護天使が直々に出向いて攻撃するということじゃな!」
「馬鹿な!我らがこのホドに集結している隙をついてハノキアの別世界が攻撃を受けるかもしれないのだぞ?!」
「ならば、もしオルダマトラが出現し “大陸引き” の黒い鎖がお主のいるビナーに突き刺されてもお主ひとりで対応することになるわけじゃな。お主の配下の天使は大勢おるが、あれの禍々しい強大な力の前では羽虫同然じゃろうて」
「くっ!」
「議論している時間はない。賛同する者だけでよい。越界の準備だ。我は物理的にハノキアの世界への顕現が出来ない。ここで指揮を取らせてもらう」
「私は神の炙朶破を操作しにケテルへ向かいます」
エルティエルが志願したのを見て、カマエルとミカエルが前に出た。
「わしとミカエルは神の咆哮生成器を越界させるためにエルティエルと共にケテルへ向かおう。汚名返上じゃ!」
「それ以外のラツィエル、ザフキエル、サンダルフォンはホドへ向かってくれ。ラファエルはホドで現場の陣頭指揮を頼む」
「分かりました」
「ちっ!全く面倒なことばかり起こしてくれる!アヴァロンがこのような状態になったことですら大罪であるのに!」
「処罰は全ての対応がなされた後にいくらでも受けます!まずはこの事態を止めることを優先して頂きたい!」
「貴様が言うなラファエル!だが全ての処罰を受け入れるという言葉、忘れんぞ!」
ラファエルは表情を変えずに頷くと、長方形の空間から飛び出た。
ラツィエル、ザフキエル、サンダルフォンも後に続き長方形の空間を超えてホドの世界へと足を踏み入れた。
「ホド。この地に足を踏み入れるのはいつぶりか」
「まずは神の炙朶破が放たれるまで、我らはここで待機し状況を見守ることになりますね」
「またカマエルがヘマをしなければだがな」
一方ケテルへ越界したカマエル、ミカエル、エルティエルの3体は神の炙朶破を放つ準備を行っていた。
数分後、ホドに凄まじい振動音が響き渡る。
ギュワァァァァァァン‥‥
ホドの上空に別の越界魔法陣が出現する。
「マスター!あれを!」
「!!」
上昇する大陸を目指して飛行しているスノウとフランシアの目に新たに出現した巨大な越界魔法陣が飛び込んできた。
だが、 ”大陸引き” の魔法陣と比べ明らかに小さく見えた。
”大陸引き” の異形の越界魔法陣が異常なほど大きいことが窺える。
「まさか神の滅祇怒か?!」
「おそらく!目標は黒い稲妻の鎖?!」
「とにかく急ごう!」
一方シルゼヴァの目ににも越界魔法陣が捉えられていた。
「神の滅祇怒を撃つつもりか!ということはこの鎖を出して陸地をひっぱりあげている奴らは天使とは別の勢力!クハハ!面白いぞ!この読めない展開は俺をどこまで楽しませてくれるのだ?!」
ギュワァァァァン‥‥
シルゼヴァは満面の笑みを見せながら上昇する大陸の右側をさらに速度を上げて飛んでいった。
・・・・・
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
元老院の調査団の拠点では凄まじい地響きと共に地面が大きく傾き大混乱となっていた。
その一角にある三足烏の拠点でも混乱が起きていた。
「!!」
窓からシュリュウが外を見て驚きの表情を見せた。
驚いた理由は大陸が上昇していることではなく、グルトネイが放った攻撃を思い出し、何かに気づいたからだった。
「何故だ?!我らはひとりも欠けることなくこの場にいる!それなのに何故グルトネイの兵器が起動したのだ?!」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
「シュリュウ!一体何が起こっているんだ?!指示を出せ!混乱しているぞ!ジライがいない今、三足烏で指示を出すのはお前の役割だぞ!」
幹部の一人であるフンカが叫んだ。
だがシュリュウの耳には届いていないのか、全く反応しない。
シュリュウは思考を回しあらゆる可能性を検証していた。
だが答えは必ずと言っていいほどひとつの結論へと辿り着く。
全身から血の気が引くような感覚に襲われる。
震え始めた手を抑えることなくシュリュウは口を覆った。
(まさか!あの不気味な兵器のエネルギー‥‥ジライ様が!!)
「おい!シュリュウ!」
フンカはシュリュウの両肩を掴み揺らしながら叫んだ。
激しい地震の中、フンカ以外の幹部たちもシュリュウの指示を待っている。
バァン!
「おのれニル・ゼント!」
シュリュウはフンカの手を振り払って叫んだ。
「おいシュリュウ!何を言っている?!」
「今のこの状況分かってる?ウチら死ぬかもしれないんだよ?!」
「黙れ!!」
シュリュウは険しい表情で一喝した。
「我らが連隊長ジライ様が今、ニル・ゼントに捕らえられグルトネイに装備された禍々しい兵器の燃料にされているのだぞ!!我らはこれからジライ様を救いに行くのだ!」
「馬鹿か!こんな状況でジライのことなんて考えていられるか?!」
「そうだわ!早く避難するわよ!」
「ギョライ様の仰る通りです!」
ボゴゴゴォォォォォォォ!!
シュリュウは凄まじい炎の塊を両手に出現させた。
「私の炎魔法を受けてタダすまないことくらい分かるな?貴様らはジライ様の配下!ジライ様を救いに出向くのだ!」
シュリュウ対分隊長と副分隊長という構図で一触即発状態となった。
“よくぞ申したジライの部下よ”
ギュワァァァァン‥‥
『!!』
シュリュウたちの真ん中に突如不気味な空間の歪みが生じた。
そしてその歪んだ空間から足、手、そして頭部と胴体が出てきた。
現れたのはネンドウだった。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




