<ホド編 第2章> 106.天使の千里眼
<レヴルストラ以外の本話の登場人物>
【ラファエル】:ホドの守護天使。黒いスーツに身を包んだ金髪の女性の姿をしている。瑜伽変容をロンギヌスの槍で阻止し裏切ったザドキエルを追い詰めたが、突如現れたディアボロスによって退けられた。
【メタトロン】:神衣を纏い仮面を被った騎士の姿の守護天使長。ケテルを守護している。スノウと友であった記憶を持っている。
【カマエル】:痴呆の老人姿の守護天使で神を見る者と言われている。ゲブラーを守護している。銀狼の頭部であったワサンにニンゲンの頭部を与えた。
【ミカエル】:少年の姿の守護天使。ティフェレトを守護している。スノウの仲間であったレンに憑依していた。ベルフェゴールを冥府へと還している。
【ラツィエル】:Tシャツにジャケットを着てメガネをかけたの姿の守護天使。コクマを守護している。神の神秘と言われている不思議なオーラを放つ天使。
【ザフキエル】:青いスーツを着た黒人の姿の守護天使。ビナーを守護している。気性が荒いが、守護天使の責務を最も重要視している責任感ある天使。
【サンダルフォン】:最高級のスーツに身を包んだ紳士の姿の守護天使。メタトロンと兄弟でマルクトを守護している。罪を犯した天使たちを永遠に閉じ込めておく幽閉所の支配者と言われている。
【エルティエル】:美しい金色の髪の女性の姿の守護天使。ネツァクを守護しているが消滅してしまった本来の守護天使のハニエルから守護天使の任を引き継いだ。スノウがネツァクにいた頃に行動を共にしていた。
【ジライ】:三足烏サンズウー・烈の連隊長代理。かつてレヴルストラにライジという名でスパイとして潜り込んでいた。戦闘力が高く策士。
【ニル・ゼント】:ガレム・アセドーの後を継ぎ、元老院最高議長となった人物で、謎多き存在。ガレム・アセドーを大聖堂の最上階テラスから突き落とし殺害している。その後、ホド中央元老院の最高議長となった。また、普通では不可能とされるオーラを自在に操る力を持つ。
106.天使の千里眼
ーー雲の上のような景色の場所ーー
ここは一体何処なのだろうか。
見上げれば青空、足元には雲が広がっており、その一角に様々なデザインの椅子が並べられている。
その椅子の背後から次々にハノキアの守護天使たちが現れ椅子に座った。
神衣カムイを纏った大天使メタトロンから時計回りに老人の姿の大天使カマエル、Tシャツにジャケットを着た青年の姿の大天使ラツィエル、高級スーツに身を包んだ大天使サンダルフォン、少年の姿をした天使ミカエル、冒険者の姿をした天使エルティエル、そして黒いスーツに身を包んだ天使ラファエルが着席した。
「いい加減に突然の臨時コングレッションの招集は控えてくれないか?暇じゃないんだ。おそらく起案者はラファエルだろう。我らはお前の支援者ではないのだぞ」
「すまんな。今回は私から起案させてもらった」
ザフエキルの苛立ち混じりの発言にメタトロンが返した。
「議題はオルダマトラについてだ」
『!』
「あれが何だというのだメタトロン。図体はデカいが機動力は鈍く、攻撃力も乏しい。あれは巨大な越界ポータルに過ぎん」
「そう単純な話ではない。あれはそもそも古の炎。我の調べでは機動力はアカシックレコードにある記録を超える。何故なら、あれの上部はアガスティアだからだ」
『!!』
全員表情は変わらないが明らかに驚いた雰囲気を見せていた。
数秒間誰からも反応がない状態となってしまったが、メタトロンは一人ひとりの様子を確認するように見回した後、再び話を通づけた。
「遥か昔に顕現したオルダマトラとは違うゆえ、どれほどの膨大かつ強力な火力が備わっているのか分からないが、少なくともメギド級を想定しておくべきだ。それゆえオルダマトラの動向を掴んでおきたい。それが今回の招集目的であり議題だ。ケセド以降、あれの動向は殆ど掴めていないのだ。ハノキアのどの世界に姿を現しているのか、守護天使の千里眼で確認して欲しい」
「今でしょうか?」
「そうだ。こうして一堂に会している状態で確認したく、集まってもらったのだ。時間差があっては見失う可能性がある」
「私は構いません」
「わしも構わんよ」
「私も構いません。一度も使ったことはありませんが」
「心配いりませんよエルティエル。かなりの痛みは伴いますが、それも詠唱中だけです」
「我も構わん」
「もちろん私も」
「右に同じ」
コングレッションに出席している守護天使は皆賛同した。
「ですが、ザドキエルが守護していたケセドとガブリエルの守護下にあるイェソドは確認が出来ませんね」
「問題ない。我が対応する」
「なるほど。その苦痛は数倍ですが覚悟の上ということですね」
「ケセドはわしが受け持とう。3つの世界を見るのはしんどかろうて」
「それは助かる、カマエル。それでは早速準備を頼む」
「ケセドは不要ではないのか?元々ザドキエルのいた場所だ。その場から越界したのだからそこに戻ることはあるまい」
「いえ、カムフラージュという可能性もありますよ。隅々まで見ておく必要はあります」
「それを言うならイェソドの方が不要じゃ無いのですか?あそこはアストラル界ですよ。石ころひとつの侵入すら許されない場所にオルダマトラのような巨大な要塞など入ることが出来るはずもないと思いますよ」
「念のためだ。ラツィエルの言う通り巨大な要塞をそうそう隠せる場所も無いはずが、我らの中の誰一人、オルダマトラの目撃情報を掴めていないのだ。つまり何か得体の知れない手段で存在を隠している可能性がある。何らかの方法でイェソドへと入り込んでいる可能性はゼロではない」
「なるほど。それではダァトにいる可能性はありますか?メタトロン」
「うむ、流石にそれは無いだろう。ダァトはその存在すら知られていない。それに全ての世界を巡り鍵と解除コードを手にしなければ入り口すら見つけられない場所だ。そしてその解除コードと鍵はとある場所に保管されている。厳重な守りでな」
「その場所とは?」
「なぜそれを知りたいのだ?ラツィエル」
「何かあった時に連携して対応が取れるようにと考えただけですよ。我らに言えない場所ならば聞きはしませんが」
「ヤハウェ神殿だ。そこに保管されている」
「なるほど。それならば安心ですね」
「ああ。それではオルダマトラの追跡を始める」
メタトロンの指示に従い、守護天使たちは椅子に背筋を正して深く座りなおすと目を異常なほど開いた。
全員両手のひらを上に向けて胸の辺り掲げている。
全員の両手のひらが怪しく光り始めた。
そしてゆっくりと両手のひらを異常に見開いた目のそばに近づけた。
『マレーナガ・ザント・イリリス・エル・ヒム・ハーティス・キルマディアス・ザム・エデム』
グジュリ‥‥
呪文を唱えると全員目から青い血を流し始め、その数秒後目から眼球消え、空洞になった。
天使の千里眼。
物理的に眼球だけを越界させ、其々の守護している世界の隅々まで観渡す力だ。
体が部分的に違う世界へと越界される時に伴う痛みは想像を絶するものであり、複数の世界を同時に観ようとする場合はその苦痛は倍以上となる。
天使たちは感情や刺激、感覚によって表情を変えることはほぼ無い。
だが痛みや苦痛は感じることが出来る。
今この場にいる天使たちは凄まじい苦痛に耐えながら其々の世界を見ていた。
約半日後。
時間の流れが存在しないこのコングレッションの場ではどれほどの時間が経過したのは意味がないが仮に計測できたとしたら天使の千里眼発動から約半日後となる。
全員の眼球が戻ってきた。
皆目から青い血を吹き出している。
「皆視界をこの場に戻したようだな?」
天使たちの眼球が戻ったのを確認すると1人ずつオルダマトラの存在の有無を確認し始めた。
だがどの天使も確認できない結果になった。
「透過壁や擬態機能を有しているのではないか?誰かオルダマトラにお詳しいものはいないのか?」
「あれは要塞であるがゆえに誤解されてしまうことが多いですが本来は世界を焼き尽くす古の炎アーリカの火です。マグマ帯の奥深くに身を潜めている可能性は考えられませんか?」
エルティエルの発言にザフキエルが不快感を露わにしながら答え始めた。
「それは無いだろう。一度だけケセドで抉れた大地、すなわちオルダマトラの下部の規模を確認したが、あれの大きさはあまりにも巨大。ハノキア最大火山であるゲブラーのプロメテウス大火山より巨大なのだ。マグマ帯へ侵入しようとしても物理的に不可能だ」
ザフキエルによって一蹴された自分の発言に不快感を露わにしたエルティエルは、納得できない表情を浮かべていた。
「不満か?守護天使代理とはいえこの場にいるのだ。ニンゲンじみた反応はやめろ。改善できないのであればこの場から出て行け」
エルティエルの表情を見たザフキエルは無表情のまま厳しい口調で責め立てた。
「静粛にせんかザフキエル。お主も無表情なだけで感情を露わにしているのじゃぞ」
「黙れカマエル!ニンゲン同列に扱うならタダではおかんぞ」
ダァン!!
突如閃光と共に凄まじい破裂音が放たれた。
特殊な魔法を放ったのはラツィエルだった。
「落ち着きましょう。いずれにせよ、オルダマトラは何処かに姿を隠しているのでしょう。継続してさらに細部まで調べることにしましょう。それで如何か?」
ラツィエルはメタトロンを見ながら言った。
「ラツィエルの言う通りだ。オルダマトラは本来高い火力を持った空挺戦艦。アヴァロンすら破壊しかねない存在だ。全員継続して観察を行い異変があればすぐにでも緊急コングレッションを招集せよ。本会は以上だ。解散」
天使たちは各々不満を抱えながらその場から消えた。
・・・・・
ーーアヴァロン・元老院調査団拠点ーー
ニル・ゼントが視察に訪れてから3日が経過した。
ネンドウの指示もあり警戒にあたっていたジライは寝る間も惜しんで拠点を巡回していた。
日中は、なるべくニル・ゼントが視察する場所には三足烏の者たちは配置せずに極力自分が視察に同行しニル・ゼントの相手をした。
だが事件は突然起こった。
「ここがご視察としては最後の場所になります」
「ありがとう。よくぞ短期間でここまで拠点を築いてくれましたね。流石は私の見込んだ人だ。ですがこれまで殆ど調査や家屋建設に従事している方々は見ませんでしたね。私ごときで不足かもしれませんが労いの言葉をかけてあげたかったのですがね」
「これは勿体無いお言葉。ですがご安心下さい。皆前向きに元気に働いております」
「そうですか。それではこの場所にも殆ど調査や家屋建設に従事している人たちはいないのですね?」
「申し訳ありません。次回お越しになる際はもう少し拠点建設が進んでおりますのでその際は一同総出でご案内いたします」
「いえいえ、いいんですよ。この方が好都合ですから」
「え?」
ザザ!
突如ジライのことをカヤクと他の護衛たちが囲んだ。
(何だ?!明らかな殺気!い、いやさっきでは無い!攻撃オーラだ!だけど何処かおかしい)
「何ですか?カヤク、一体何のつもりですか?」
「‥‥‥‥」
カヤクは無言だった。
「ゼント様、これは一体?」
「いえ、気にしないで下さい。頼りになる君にもっと活躍できる場を提供するだけです」
「?!」
ガッ!バチィン!
「がはっ!」
背後から凄まじい速さで延髄への当て身と凝縮されたライゴウが放たれジライは気を失ってしまった。
ギュワァァン‥‥
突如ニル・ゼントの背後からネンドウが現れた。
「対応ご苦労様です」
「いえ、命令に従ったまで」
ネンドウはニル・ゼントに軽く頭を下げた。
「それでは失礼する」
ニル・ゼントが軽く手をあげるとネンドウは消えた。
「それでは所定の場所へ運んで下さい」
ニル・ゼントが指示するとカヤクと他の護衛たちはジライを運び出した。
「計画通りですね。天啓実行まであと少しです」
そう言うと、僅かに笑みを見せながらニル・ゼントは転移魔法陣で姿を消した。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




