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<ホド編 第2章> 101.終末ミロク神示

<レヴルストラ以外の主な登場人物>

【ニル・ゼント】:ガレム・アセドーの後を継ぎ、元老院最高議長となった人物で、謎多き存在。ガレム・アセドーを大聖堂の最上階テラスから突き落とし殺害している。また、普通では不可能とされるオーラを自在に操る力を持つ。

【レンゲル・ガファエラ】:ハノキアの世界のひとつであるビナーに置かれている中央元老院の最高議長を務める男。ニル・ゼントが幼少の頃からの付き合いで兄と慕われている。ニル・ゼントの素顔を知り、唯一の理解者でもある。

【ジルグラス・ネーグ】:ハノキアの世界のひとつであるビナーに置かれている中央元老院の議員。エルフューマンと呼ばれるハーフエルフで人間とエルフの混血。ホドの最高議長を決めるクム・クラーヴェに次期最高議長候補者として出席したが、選ばれることはなかった。


101.終末ミロク神示


 「全く。相変わらず息苦しい場所だ」


 ニル・ゼントはビナーに来ていた。

 ビナーとはハノキアの9つに世界の一つである。

 この世界にもニルヴァーナは入り込んでいて、その管轄はビナー中央元老院が統治の役割を担っていた。

 ニルヴァーナがハノキアの9つの世界に支配浸透する戦略として、トップダウン的支配が好ましい世界では中央元老院、民衆の支持を増やし拡大して力を得るボトムアップ的支配が好ましい世界では人類議会(ヒューパラメンタル)を設置するという使い分けをしていた。

 当然時世の流れで変わるべきとニルヴァーナが判断すれば入れ替わることもある。

 当然ハノキアを越界する力を持つ上位層は横の繋がりを持っている者もおり、ニル・ゼントは同じ中央元老院ということもあり、密に連携していたため、ビナー中央元老院の大聖堂を訪れていた。

 彼の姿は、美しい柄のついた厚手の布を両目が隠れるように巻いている不思議なものだった。

 目隠しされているにも関わらず、視力は問題なく機能しており普通に歩けている。

 ここビナーでは視覚が異常に鋭くなっており、目隠しをしても見える状態で、逆に目隠しをしないとあまりの光彩から目が眩み視界が遮られてしまうことと、それだけの情報を処理する脳への負担から重度の頭痛を発症することになるのだ。

 そのため、目隠しをするのは常識でその目隠しもファッションの一つとして様々な形状や柄など多岐にわたるデザインのものが存在している。

 ニル・ゼントが付けている目隠しは上級職民のみが許される色と模様が施されており、ビナーでも最高議長にしか許されていないものだった。


 「これはホド中央元老院最高議長ニル・ゼント様。よくぞおいで下さいました。お部屋をご用意しております。こちらへどうぞ」


 大聖堂で出迎えてくれたのはジルグラス・ネーグだった。

 彼はホド中央元老院最高議長の候補者の1人だった男でエルフューマンというエルフと人間のハーフである。

 実直で実行力ある優秀な人物でありビナー最高議長からの信頼は厚く、ゆえにホド最高議長候補者に選ばれたのだが、唯一の欠点と言えるのはエルフへの強い恨みを持っているようで普段は顔に出さないが、エルフが現れると途端に不機嫌になる点だった。


 「こちらです。本日19時よりレンゲル・ガファエラ最高議長との会食を予定しております。それまでごゆっくりなされて下さい。私は執務室におります。何かあればいつでもご連絡を」

「ありがとうございます。ネーグさん」


 ジルグラス・ネーグが部屋を出て暫くしてニル・ゼントは部屋を出て行きとある場所へと向かった。

 基本的に最高議長は別の世界の元老院であろうとどの場所でも入ることを許されているため、自由に出歩くことができる。

 彼が向かった先は大聖堂の地下だった。

 進むにつれて中世の聖堂の雰囲気から無骨で近未来的な様子へと変わっていく。

 辿り着いたのはカラクリ隠し扉を幾つか通った先にある部屋だった。

 その部屋には重厚な扉があり極めて厳重なセキュリティとなっているようで、高度な技術の施錠がなされている。

 幾つかのパスワードに加え、網膜のスキャン、指紋、声帯、脈打つ状態の血管、血液による簡素なDNAによる多重認証をクリアして初めて開く扉だった。

 最高議長以上しか開けることの出来ない扉であり、映画でよくある解錠する権利を持つ人物の死体を使って開けるということは出来ない仕組みになっている。


 ドォン!ギィィィ‥‥


 太い鉄柱が動き解錠された音が響き分厚く重い扉が開いた。

 ニル・ゼントは落ち着いた表情で中へと入る。


 (やっとこの瞬間が来たか)


 部屋の中を見回すと奥にガラスケースに保管されている分厚い本を見つけた。


 (あれだな)


 その目の前にたち、ガラスケースを開ける。

 中に篭っていた異様な臭いが周囲に広がってニル・ゼントは咽せてしまいそうになったが堪えた。

 目の前にある本に唾液などが飛んではならないと思ったからだが、厳重なセキュリティで守られてガラスケースにまで入れらているこの本は一体何なのだろうか。

 表紙は皮で出来ているように見える。

 その表紙にはこう書かれていた。


 "ミロク書"


 ニル・ゼントは手袋をしてその分厚い本を開いた。


 スン‥‥


 「?」


 ニル・ゼントは部屋の雰囲気が若干重苦しくなったのを感じた。

 それだけ重要なことが書かれており書自体からもオーラが発せられているのかもしれないと彼は思った。


 (ついに手にできたぞ。終末ミロク神示。代表的な人族9種族の皮を重ねて鞣して作った表紙、中身のページは全て人皮紙となっている。人族にしか触れることも読むことも許されていない書物‥‥我が神の言葉通りなら天啓が書かれているはずだ)


 長年この瞬間のために努力してきたにも関わらず、意外にも落ち着いていた。

 それは多くの修羅場を潜り抜けて来たことと、彼の持つ幾つかの特殊能力と彼自身のフィジカルな強さによって精神的にも鍛えられて来たからだった。

 ニル・ゼントはゆっくりとページを捲り読んでいく。

 ページを捲る動作は、通常の羊皮紙を捲るようなものではなく、素材が硬質化していることからプレートを捲っていくような感じになっている。


 (凄いぞ‥‥これまでハノキアで起こっている事が書かれている‥‥だがおかしい‥‥自分の生まれた頃からの内容しか書かれていない。この書自体は遥か昔に作られているはず‥‥)


 ページを捲り読み進める。


 「!!」


 遂に現在について記されたページを終えこれから起こることについて書かれているページになった。

 食い入るように目を通していく。

 そして10分ほど経過所でニル・ゼントは部屋の隅にある机と椅子から椅子だけを手に持ち書の近く置いて座った。

 その表情は狂喜そのものだった。


 「何てことだ‥‥フフ‥‥フハハ!‥‥ファッハッハ!」


 部屋に高らかな笑い声が響く。

 普段は冷静で物腰の優しい彼からは想像もできない様子だった。


 (間違いない!これぞ天啓に相応しい!私はこの天啓の執行者なのだ!やはりあの存在は神であったな!)


 ニル・ゼントはもう一度これから起こる予言のページを読み返した後、丁寧に書を閉じガラスケースを元通りに設置して部屋をあとにした。

 その体から放たれるオーラは今までにない異様なもので、側に生物がいたらあまりのオーラの強さに肉体が崩壊していたと思われるほどだった。


 ・・・・・


 その日の夕方。

 ニル・ゼントはビナーの中央元老院最高議長のレンゲル・ガファエラと会食をしていた。

 レンゲル・ガファエラは高身長で細身の見た目で物腰の優しい雰囲気が滲み出ているのだが、流石最高議長にまで上り詰めただけあって優秀な人物である。

 ちなみにニル・ゼントが最初に元老院の門を叩いた時に先輩として応対、サポートしてくれたのが彼である。


 「遅くなってしまったが、先ずはホド最高議長就任おめでとう」

 「ありがとうございますガファエラ最高議長」

 「水臭いね。以前の通りレングで構わないよ。旧知の中だし君はもう私と同じ立場なのだから遠慮は不要だ。それにどうニルヴァーナへ貢献すべきかについてしっかりと意見交換をしていきたいからね」

 「それではお言葉に甘えさせて頂きますよ、レング最高議長。私のことはこれまで同様気軽にニルで構いません」

 「ははは、最高議長は余計だよ。でもまぁ敬意を払ってくれているんだね。ありがとう。しかし相変わらず爽やかな男だね君は。幼少期から知っているがあの辛い戦争で傷ついた心がここまで強靭で落ち着いた状態まで成長するとは誰も想像出来なかっただろうね」

 「いえ、私などまだまだですよ。でも心の傷を回復できたのはレング最高議長が兄のように接して下さっていたことが大きいことは間違いありません」

 「それだけの強さを持ちながら謙虚さを忘れない。ジルが勝てないわけだ。まぁ元々君以外が選ばれるとは思っていなかったがね」

 「いえ、ネーグさんも立派な方ですよ」

 「いやいいんだ。元々私のこの席を譲るための事前の売り込みが目的だったからね」

「まさか引退される気ですか?まだお若いじゃないですか」

 「フフフ、ありがとう。そうだね。僕は君と過ごした教会の教えを広めたいとずっと思っていてね。君に元老院へ入ることを勧められた時、元老院の力があればもっと人々を救えるのではないかと思っていたんだが、より多くの者たちへの影響力はあっても救いを与えているわけではないし、目の前の大切な人でさえ救う暇すら無いことに少し嫌気がさしてね。私は放浪牧師となって身近な人たちから救っていきたいと思っているんだ」

 「素晴らしいことです。でもニルヴァーナはお許しにならないでしょうね。レング兄さんの手腕は元老院随一です。自由な活動が許されている人類議会と比較される中で辛うじて優位に立てているのはレング兄さんのご活躍あってのことですよ」

 「ありがとうニル。世辞でも君に褒められると嬉しいものだね。だが、君が最高議長になった。元老院は安泰だよ」

 「困りますよ。まだ現役で居続けて下さい。つまらないじゃないですか」

 「ははは、君らしいね。まぁでも暫くはいることになるからね。抜けることが容易では無いことくらい承知しているつもりだ」

 「そうですね。私も微力ながら無事に抜けられるようサポートさせて頂きますけど、あと数年は残っていてください」

 「ありがとう。‥‥ところで‥‥」


 レンゲルはこれまでの優しい表情から一変して真面目な表情になり話始めた。


 「地下には行けたかい?」

 「はい」

 「そうか。それで天啓は授かったのかな?」

 「はい。時が来るまで話せませんが、間違いなく私の神のお告げにあった天啓で、自分がその天啓を執行することまで書かれていました」

 「そうか。やはり君は特別な宿命を背負っているようだ。僕に出来ることがあればなんでも言ってくれ」

 「レング兄さん‥‥。兄さんだけが唯一私の神の話を信じて赦してくれましたからね。レング兄さんがいなければ私はどこかで挫けていたかもしれません。元老院に誘ったのも兄さんに側にいて欲しかったからですから。私の信念と我儘に突き合わせてしまってすみません」

 「ははは。元老院の門を叩いたのは僕の意思だ。ニルヴァーナという組織をしってもなお居続けたのも僕の意思だ。君が責任を感じる話じゃないよ。ところで、今のニルヴァーナをどう思う?」

 「‥‥‥‥」


 突然の答えづらい質問にニル・ゼントは数秒無言になったが、考えがまとまったのか、落ち着いた口調で話し始めた。


 「嘗ての理念は失われつつあります。7人衆が半ば意志を失っているようにすら思います。ここからは私の推論ですが、何者かが7人衆を支配し操っているのではないかと‥‥」

 「やはり君もそう感じていたか‥‥」


 レンゲルはそう言うと片手で目を押さえながら少し疲れた仕草を見せた。


 「ニル。このことはふたりの秘密にしよう。君はこれまで通り、上手く7人衆に取り入って利用していればいい。彼らを操る黒幕がいるとするならば、その存在については僕が調べるよ」

 「気をつけて下さい。腐ってもたぬき老害の集まりです。平気で裏切りますから」

 「分かっている。‥‥さて、食事が冷めてしまうね。小難しい話はここまでだ。この後は食事を楽しみながら明るい話をしようじゃないか」

 「相変わらずの切り替えの速さだ。私が唯一真似できないところですよ」

 「それは褒めているのかい?」

 「ご想像にお任せします」

 「ははは!冗談も言えるようになったか。泣き虫だったニルが」

 「いつの話をしているんですか?思考が昔に寄ってきたら老害の始まりですよ」

 「おお!そうきたか!」

 「ははは!」


 普段は見ることの出来ないニル・ゼントの姿がそこにあった。

 ふたりの歓談は遅くまで続いた。




いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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