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<ティフェレト編>48.隕石衝突

48.隕石衝突



 音伝導ボットがノースピラー、サウスピラーに順次取り付けられる。

 ボットに装着されているタイヤのようなものが急速回転しボットが上昇する仕組みで、4時間ほどが経ち約80%の数のボットが既に宇宙空間に張られているマクロネットまで到達していた。


 「ボット設置の進捗状況は?」


 スメラギ天文台内宇宙船制御室にスメラギ氏が入ってくるなり操作担当に確認し始めた。


 「スメラギ様!まだお休みになられていてよかったのですよ?ご不在中はこの私めにお任せ頂ければと!」

 「では進捗率は何パーセントかね?」

 「え!?ええー、おい!そこの担当!今すぐここへきて進捗率をこここ答えなさい!」

 「はい!現在83.2%のボットがマクロネットに到着しネット上への配置も68%まで進んでおります!」

 「そういうのは不要ですと言っているのだよ」

 「おい、貴様!そいうのは不要なのだ!この役立たずめが!クビにするぞ!」


 操作担当は下を向き震えながらかしこまっている。


 「いや、君だ。君は私にここは任せて休めと言ったね。しかし、私の進捗率を聞く質問に答えることができない体たらく。そのような状態の君にどうしてこの制御室を任せられるというのかね?終いには有能な部下を威圧する始末。君こそ辞めていただく。今すぐ荷物をまとめてここを去りたまえ」

 「な!そそそんな!スメラギ様!それは困ります!」

 「すまないが、困るのはこちらだ。上級貴族の家柄でどうしてもと頼まれたからこの天文台の所長のポストを用意したのだが、やはりそういうくだならないコネで任せると碌なことはないことが改めて立証されたわけだ」

 「く‥‥!調子に乗りやがって新参者が!お前など父上の力でどうとでもなるんだぞ!」


 たった今クビになった元所長はそう言いながらスメラギ氏に殴りかかる。

 スメラギ氏はそれを軽くかわし、殴りかかった腕を掴んでそのまま背負い投げで地面に叩きつけた。


 ドォン!ググッ!


 そして腕は掴んだままで、踵で鳩尾を踏みつけている。


 「君は何をしているのだ?私がそのような言葉と力の暴力で怯むとでも思ったのかね?こう見えても私はフォックスで言うところのダイヤモンド級でね。それと君のお父上に何を言おうと構わんがお父上の立場が危うくなると思っていた方がいい。興味はないが、私の今の立場はそういうことなのだよ」

 「ぐ‥‥!!」


 手を離された元所長は泣きそうな顔をしながらバツ悪そうに制御室を出ていった。


 「あ、そこの君、名前はなんというのかね?」

 「わ、私でしょうか?」

 「君以外誰に話しかけるというのかね」

 「私はトニオ・ヴェルデと申します」

 「ではトニオ君。今から君がこの天文台の所長兼制御室室長だ。私はもうしばらく部屋で休ませてもらう。配置完了次第、または何か緊急事案が発生したら呼んでくれたまえ」

 「は、はい!!」


 そういうとスメラギ氏は背を向けて歩いていく。


 「あ、あの‥‥」

 「ん?何かね?」

 「ご、ご期待に添えるよう全力でがんばります!」

 「全力?‥‥ふふ‥‥好きにしたまえ」


 そういうとスメラギ氏は自室の戻っていった。



・・・・・


・・・


 一台のEV車輌がロアース山とノーンザーレの中間地点のあたりノーンザ中央地を走っていた。

 先ほどスメラギ氏に追い出された元所長だった。


 「あの優男め‥‥調子に乗りやがって!なにが 私の今の立場はそういうことなのだよ‥だ!クソが!」


 上級貴族の家に生まれ何不自由なく育てられ、苦労することもなく望むままの生活を送っていた彼に訪れた初めての屈辱。

 顔は恨みで歪みひきつっていた。


 「クソが!クソが!クソが!クソが!クソが!!!わっ!!!」


 悪態をついていた矢先、突如目の前に1人の男が現れて行手を遮った。

 急いでブレーキを踏むが間に合わないため、普通ならハンドルを切るところだが彼にとっては自分に危険が及ぶ行動は決して取らないポリシーがあるため、そのまま突っ込んだ。

 目の前に現れた男はEVに轢かれたが、元所長はEVを止めずにそのまま走り続ける。

 若干反応し左角でぶつかった状態で、その衝撃で左前は凹んでしまったが走行に支障はないようでそのまま走り続けようとしたが、再度前方に同じ男が現れたため、急ブレーキを踏んだ。

 最初のブレーキで減速したこともあり、今度は轢く直前で止めることができた。

 元所長は轢いたはずの男が再度現れたことで若干の恐怖を覚えたが、それよりも自分の運転を邪魔されたことへの苛立ちで文句を言わずにはいられなかったため、勢いよくEVを降りて男の方へ歩いていく。


 「おおおおい!きき貴様!一体何考えてんだ!死にたいのか!」


 一度轢かれたはずの男には一切の傷がなかった。


 「おおおい!きき聞こえないのか!?」

 「お前‥‥スメラギの作戦に参加していた者か?」

 「ななななんだ?!いきなり!俺の話聞いてねぇのか?!」


 男は背中に背負っていた剣を引き抜き、元所長の首につきつける。


 「何度も言わせるな。次に答えなかったらお前の首が地面に転がることになるぞ」

 「ひぇぁぁぁ!!!そうそうそうそうそうですです!!!」

 「そうか。ではちょっと来てもらおう」


 そういうと男は剣をしまい、元所長の首を掴んで引きずって歩き始めた。

 しばらく歩くと、何か見たことのない装置が見える。

 男と元所長はその装置の中で消えた。

 それからしばらくして一機の音電動ボットが上昇した。

 スメラギ天文台内宇宙船制御室内でそれに気づく者はいなかった。


・・・・・


――スメラギ天文台内宇宙船制御室――



 「スメラギ様をお呼びしろ。お時間だと‥」


 指示を受けた若い担当はスメラギ氏を起こしに行く。

 しばらくしてスメラギ氏が制御室へやってきた。


 「いよいよかね?」

 「はい!」

 「位置は?」

 「マクロネット衝突まで1時間の距離で軌道上を進んでいます」

 「いいでしょう。準備にかかりたまえ」

 『はい!』


 担当者たちは新所長の指示に従って音伝導ボットをマクロネット上に分散配置させた。

 無数の音伝導ボットは等間隔でマクロネット上に配置され、静かに震え出した。


・・・・・


――ブロンテースの鍛治小屋――


 「ねぇスノウ‥大丈夫かな‥‥」


 エスティがスノウに問いかけた。

 空一面に広がる巨大な隕石が視認できティフェレト中が恐怖する中、スノウたちもスメラギ氏の作戦の行方を案じていたのだ。


 「大丈夫だろう。おれも精一杯のリゾーマタ系魔法を注ぎ込んでいる。それがネット状に炸裂し共鳴して更なる破壊を生むそうだ。おそらく通常の10倍の破壊力はあるだろう」

 「仕組みはよく分からないけどスノウの魔力を込めた魔法なら大丈夫よね。こんなところで死んだら、お父様やレヴルストラ、ガルガンチュアのみんなに顔向けできないものね」

 「そうだな」


 (もし失敗してもおれの魔力を全て使い切ってでも隕石を破壊し尽くしてやる‥‥)


 「それはそうと、聖なるタクトの鍛え具合はどうだ?もうすぐ終わりそうなんだろうか?」

 「たぶんもう少しっすけど、工房締め切られてるっすからよくわからないんすよ‥‥」

 「待つしかないわね」


・・・・・


――ラザレ王宮都――


 「誰かおるか!」

 「は!」

 「これから少し出かける。空飛ぶ風車を用意せい!」


 スメラギ氏が作った魔力で動くヘリコプターは王宮都にも備えられていた。


 「は!行き先はどちらでしょうか?」

 「天文台とやらだ」

 「は!かしこまりました」

 「ムーサ王!どこへ行かれるのか?空に浮かぶあの巨大な物体をご覧になられたでしょう?このような時こそ民に説明し、安心させる必要があるのでないのですか?!」


 でっぷりとした腹を重たそうに歩いてきた宰相ルー・サイファノスが王の外出を止めるべく話しかけてきた。


 「ルーよ、そなたの言う通りだ。だがそれは宰相であるそなたに頼む。我には我にしかできないことがあるのだ。いや、我が果たさなければならないことがある。これもまた民とこの世界を救うためだ」

 「全く‥‥貴方様はそんな歳になっても変わりませんな。いやまるで子供だ。私はいつまで貴方様のお守りをすればよいのやら」

 「すまん。許せ」

 「さぁ、早くいきなされ!そしてしっかりとお役目を果たされますよう!」


 ムーサ王は軽く手を挙げ宰相に挨拶すると部屋をでて城にあるヘリーポートへの足を運んだ。


・・・・・


――スメラギ天文台内宇宙船制御室――


 「対象のマクロネット到着まであと10分!」


 制御室内に緊張が走る。

 制御室内にはこれまで天文台内の宇宙船製造、マクロネット製造、音伝導ボット製造に関わった者たちも集まっていた。

 大きさの割に操作担当は少なく広々としていた制御室は大勢が集まったこともあり、気持ち空気が薄く感じられ緊張と熱気で少し蒸し暑かった。

 おそらくあと数時間で結果が出る。

 この世界の命運が自分たちに委ねられているという重圧で操作担当たちの手は震えている。

 するとスメラギ氏が全員の前に立った。


 「諸君!」


 低く澄んだ声に一同の背筋が伸びる。

 ここにいる者たち全員にとってスメラギ氏はノーンザーレ領主であり、科学の王として君臨する絶対的存在であり、憧れと畏怖の対象だった。

 この男に認められることは最高の喜びであり、皆そのために高いモチベーションでこの場にいる。


 「知っての通り、このティフェレトは未確認の隕石の衝突を目前にしている!衝突はこの世界の消滅を意味する。既に理解している通り、あの規模の隕石が衝突した場合の結果は、この世界が木っ端微塵になる前に灼熱の爆風によって全ての生きとし生けるものは一瞬で焼失する。生き残ることは100%不可能だ。君たちの家族、友人、知人、可愛がっているペット、思い出の場所、美しい山や海、君たちの頭に蓄積された知識、音楽や芸術、さまざま対象に向けられ育まれた愛情‥‥ありとあらゆる物事が全ての命と共に消え去る。あと1時間もすればこのティフェレトは消滅する!これは紛れもない事実だ」


 一同は緊張する中改めて絶望的状況を突きつけられたような気がした。


 「一方でこれほどの隕石が衝突する確率は極めて低い。私は無神論者だが、そんな低確率の事象に居合わせている今この瞬間は幸運か不運か‥‥まさに運命の悪戯とでも言おうか」


 一同は気が重くなったようで皆下を向いている。


 「だが!!」


 その声に一同はビクッと反応した。


 「隕石をいち早く発見したのは誰だ?‥‥隕石の軌道を予測計算し衝突を予測したのは誰だ?‥‥隕石の衝突を防ぐ方策を立てたのは誰だ?‥‥方策を実行に移し、準備を完了させたのは誰だ?」


 一同は目を見開き呼吸を早めて聞き入っている。


 「全て科学と魔法を融合させた私たちだ!」

 「!!」

 「隕石が!このティフェレトに極めて低い確率で今まさに衝突しようとしているこの信じ難い状況に対し、科学と魔法を融合させその衝突を防ごうとしている私たちがここに!この瞬間にいることもまた!さらに極めて低い確率の元に実現していることなのだよ!」


 全員が拳に力を込めて聞き入っている。


 「隕石が運命の悪戯だとしたら!そんな運命に負けるなと!抗いきってみせろと!私たち生きとし生けるものの叡智と魔力が!そう言っているとは思わんかね?!‥‥ならば!!答えてみせようじゃないか!先人たちが私たちを試しているのなら!応えてやろうじゃないか!」

 『うおぉぉぉぉぉぉ!』

 「さぁ!隕石退治だ!全員配置に尽きたまえ!」


 その場にいた全員の士気がスメラギ氏の言葉によって最高潮に達していた。


 「対象のマクロネット到着まで秒読みに入ります!」

 「10!」

 「9!」

 「8!」

 「音伝導ボット軌道!」

 「7!」

 「6!」

 音伝導ボットが大きく振動する

 「5!」

 「4!」

 「3!」

 「2!」

 「1!」


 衝突の直前で全ての音伝導ボットに溜め込まれていた数々の破壊魔法が音もなく起動し、まるで空一面に広がる花火のように破壊破の連鎖によって凄まじい衝撃を巻き起こしている

 巨大な隕石はマクロネットの中心に位置する宇宙船を破壊しマクロネットに包まれるように衝突した。

 同時にネットにバウンドするように衝突した隕石が破壊破によって甚大なダメージを受ける。

 巨大な隕石に亀裂が生じる。

 マクロネットを反時計回りに破壊衝撃破が発生し続ける。

 マクロニウムの特性上、長時間続く音の共鳴によって破壊破消えない。

 宇宙空間の中で音もなく巨大隕石に大きな亀裂が入りついに3つに割れた。


 『うぉぉぉぉ!!』


 制御室に大歓声が轟く。

 3つに割れた中で小さい隕石がネットに直に付着しさらに破壊破で粉々に砕ける。


 「やった!す、すごい!!!」


 直前で昇格した所長は思わず涙を流しながら歓喜に震えた。

 2つの巨大な塊となった隕石がネットに付着する。

 2つのうちの一つがネットに触れ破壊破でさらに複数に割れた。

 次の瞬間、割れた片方の大きな隕石が、もうひとつの大きな片割れの隕石にぶつかり、ネットの端の方に弾かれる。


 『!!!』

 「まずいぞ!」


 スクリーンに映し出された映像を見てスメラギ氏は思わず声をもらす。

 片割れの隕石の角度の変わった衝撃にネットがよじれてその部分から隕石がすり抜けようとしている。


 「いかん!やはり、ピラーの位置がズレた微妙な影響が出てしまったようだ」

 「あの片割れ隕石は?!」

 「あと20分ほどでこの地に落ちてくる!」

 「くそ!」

 「ここまでか!!」


 スメラギ氏はスクリーンに映し出されるその状況を無言で凝視していた。

 歓喜に満ちたその場は一瞬にして絶望に包まれた。


 キィィィィィーーーーン!!!


 「みなさん‥‥」


 突如屋外放送のようなティフェレト全体に響く声が聞こえた。


 「私は‥‥キタラ聖教会の大司教、ユーダ・マッカーバイです」


 ユーダの声がティフェレト全土に響き渡った。




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