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<ホド編 第2章> 99.ロムロナの過去

<レヴルストラメンバー>

・スノウ:レヴルストラのリーダーで本編の主人公。ヴィマナの船長。

・フランシア:謎多き女性。スノウをマスターと慕っている。どこか人の心が欠けている。ヴィマナのチーフガーディアン。

・ソニック/ソニア:ひとつ体を双子の姉弟で共有している存在。音熱、音氷魔法を使う。フィマナの副船長兼料理長。

・ワサン:根源種で元々は狼の獣人だったが、とある老人に人間の姿へと変えられた。ヴィマナのソナー技師。

・シンザ:ゲブラーで仲間となった。潜入調査に長けている。ヴィマナの諜報員兼副料理長。

・ルナリ:ホムンクルスに負の情念のエネルギーが融合した存在。シンザに無償の愛を抱いている。ヴィマナのカウンセラー。

・ヘラクレス:ケテルで仲間になった怪力の半神。魔法は不得意。ヴィマナのガーディアン。

・シルゼヴァ:で仲間になった驚異的な強さを誇る半神。ヴィマナのチーフエンジニア。

・アリオク:ケセドで仲間になった魔王。現在は行方知れずとなっている。

・ロムロナ:ホドで最初に仲間となったイルカの亞人。拷問好き。ヴィマナの操舵手。

・ガース:ホドで最初に仲間になった人間。ヴィマナの機関士。ヴィマナのエンジニア。


99.ロムロナの過去


 ロムロナは人混みをかき分けて最高議長が演説している方へ進んでいく。

 だが、あまりの人の密度で思うように前に進めない。


 グィ!


 「!」


 ロムロナは突如足を掴まれた。

 掴んでいるのはルナリの触手だった。


 グィィッ!


 「放して!」


 ロムロナの叫び声は歓声にかき消された。


 “だめだ。ここで目立つことは潜入調査の任務の妨げになる。ロムロナよ。機会はまだあるのだ。一旦落ち着くのだ。急いては事を仕損じるぞ”


 「!」


 触手を通してルナリがロムロナの心に話しかけてきた。

 それを聞いたロムロナはふたたびカヤクとニトロを見た。

 民衆はニル・ゼントに目が向いているため気づいていないが、カヤクとニトロの表情は明らかに暗殺者の表情になっていた。

 むしろそれ以上で、常に殺意を発する強戦士(バーサーカー)のようにも見えた。

 その時、さらに鋭い殺意のオーラを感じ取った。


 (え?!何?!)


 ロムロナは殺意のオーラが発せられた方向に目を向けた瞬間驚愕した。


 (ザザナールボウヤ!)


 目線の先にはザザナールがいたのだ。

 ロムロナを凝視し不適な笑みを浮かべている。

 明らかにロムロナの存在に気づかれてしまった。


 「くっ!」


 あまりの強い殺意のオーラにロムロナは思わずめまいを起こした。


 シュワァァ‥‥


 ロムロナの脳裏に過去の出来事が映し出された。


 ・・・・・


 それは5人のパーティでダンジョンを冒険している様子だった。

 青い肌で白く長い髪の男。

 白い鱗肌で紅い目を持つ女。

 身長は低いが筋骨隆々で巨大な盾を持つドワーフの男。

 背中に大きな剣を背負っている赤い髪の少年。

 そして5人目はイルカの亞人ロムロナだった。

 目の前には巨大な魔物が狂気のオーラを発して威嚇している。

 魔物が攻撃を繰り出してきた瞬間、ロムロナが魔法のバリアを展開し防いだ。

 その隙に青い肌の男が凄まじい拳撃を叩き込む。

 怯んだ魔物に白い鱗肌の女がジオライゴウを放った。

 感電し震えながらも魔物は攻撃を仕掛けてくる。

 鋭い爪を持つ手を凄まじい速さで青い肌の男に向かって振り下ろしてきたが、ドワーフの男が巨大な盾で防いだ。

 その隙をつくように背後に回った赤髪の少年が凄まじい勢いで剣を振り下ろした。

 魔物は頭頂部から縦に真っ二つに斬られ絶命した。

 戦闘が終わると5人は互いを労うように肩を叩いた。

 先ほど鋭い剣撃を放った少年はロムロナにひっついている。

 ロムロナは赤髪の少年の頭を撫でた。

 少年は嬉しそうにしている。


 ・・・・・


 (ザザナールボウヤ‥‥)


 ロムロナはシンザたちのところへと戻って行った。

 3人は一旦宿屋に戻り今後の計画を練ることにした。


 「取り敢えずありがとうねルナリちゃん。あなたがあたしを制止してくれなければあのままザザナールに殺されていたかもしれないわぁ」

 「問題ない」

 「ロムロナさんどうしちゃったんですか?らしくないですよ」


 突然制止を振り切って雑踏をかき分けてニル・ゼントに近づいて行ったことを心配したシンザがロムロナに問いかけた。


 「ごめんねぇ。ちょっとカヤクボウヤとニトロボウヤがニルボウヤの護衛でいたのを見つけてね。その顔が三足烏(サンズウー)の頃の殺気立った暗殺者の顔になっていて思わす心配で体が動いちゃったのよ」

 「僕のところからは見えませんでしたがそうだったんですね。カヤクさんたちがニル・ゼントの護衛となれば、ヨルムンガンドの鍵の在処を突き止められる可能性が出てきましたね。取り敢えずは2人にどう接触するかを考えないとって感じですか」

 「そうねぇ‥‥まぁ、暫く大聖堂辺りで定点観測でもしてたら2人と接触するチャンスはあるかと思うけど、心配なのは2人が洗脳されてないかってことかしらねぇ。場合によっては記憶消されちゃってたりしてるかも‥‥」

 「その時は切り捨てるしかあるまい。邪魔だてすればと言う話だがな」

 「やっぱりそうなるわよねぇ‥‥」


 シンザは洗脳されているかどうかを確認したくて敢えて目立つ場所に向かったのだとシンザは気づいた。

 洗脳されている場合、洗脳を都合よく解ければよいのだがほとんどの場合ショック療法的なものでない限り解けないことをシンザは知っていたのだ。

 ロムロナもそれを知っており、場合によってはカヤクとニトロを始末しなければならない覚悟を持つために2人が洗脳されているのかを確認したかったのだと理解した。


 「本当にそれだけか?」

 「?!」


 突如ルナリがロムロナに問いかけた。


 「それだけって?」

 「お前の表情が少し強張っているからだ。それは心配からくるものではなく恐怖と後悔からくるものだ。我は人々の無数の負の感情が凝縮されたものを取り込んだのだ。負の感情においては理解できぬものはない」

 「あらら、ルナリちゃん、乙女かと思ったら意外と現実主義で人間観察が得意なのね。確かにあたしはもう一つ別の存在も見ていたわ。何なら向こうも気づいたわねぇ。しっかりと殺意のオーラ飛ばされてしまったわよ」

 「誰ですかその相手は?!」

 「ザザナールよ」

 「ザザナールってあの素市で戦闘になったやつですか?ロムロナさんやつと知り合いなんですか?」

 「まぁね、昔一緒のトライブに所属していたの。あたしは亞人でしょ?ニンゲンとパーティ組むことが難しくてね。それで亞人だけで結成したトライブに戦争孤児でまだ幼いザザナールが加わってたって話ね」

 「!」


 シンザは驚きの表情を見せた。


 「そりゃまぁ驚くわよねぇ」

 「ロ、ロムロナさん一体何歳なんですか?!」

 「そこぉ?!」


 ロムロナは思わずズッコケた。


 「シンザボウヤ。女性に安易に年齢聞いちゃダメよ?傷つく人もいるんだしね。あたしみたいな長寿の種族はそういうのは関係ないからいいけど、特にニンゲンや獣人は気をつけることねぇ。寿命が短く老いも早いから。特にニンゲンは見た目に自尊心依存しちゃうこと多いからねぇ。」

 「わ、分かりました。それで何故ザザナールと一緒のトライブだったんですか?」

 「話すと長いのよ‥‥でもいいわ、ほんのちょっとだけ話してあげる」


 ・・・・・


 今から50年以上前の話。

 そしてホドではない別の世界。

 ロムロナは4人の亞人とトライブを結成していた。

 そのトライブ名は“イーシャ”。

 リーダーは青い肌に艶やかな長い白髪の男、エルフと神のハーフで名をアガティンといった。

 人格者である彼は危険が迫ると常に自分が前に出て仲間を守っていた。

 アガティンは拳闘を得意とする近接型のファイターである一方で、回復系の魔法にも非常に長けているため傷を負っても瞬時に回復することが出来、異常なまでのスピードも備わっていることから狙った獲物は決して逃さない不死身の男と言われていた。


 サブリーダーは巨大な盾を持つドワーフのヴェルトだ。

 彼は一見ドワーフだが、実はサーベルタイガーの獣人とドワーフのハーフであり、怒りが一線を越えると獣化し、戦闘力が数十倍に跳ね上がる特性を持っていた。

 仲間思いで常に仲間の安否を気遣っており、自らタンクを買って出たのも、自分が仲間を守れれば心配はないという気持ちからで、あらゆる攻撃を神話級武具の巨大な盾で防いだと言われていた。


 3人目は銀髪に白い鱗肌の女性、目が紅い蛇人の女のアリディアだ。彼女は神蛇の末裔で人型に進化した種族のひとりで希少種でもあった。特に白い鱗は装飾として希少価値が高いとされていたため、人間たちによって狩られたことから白い鱗を持つ蛇人はアリディアひとりとなってしまっている。神族の末裔であるため、魔力が非常に強く魔法に長けており、神秘精霊魔法ミュトスを操れると言われている。


 そして4人目がロムロナだった。

 トライブ “イーシャ” は当時最強のパーティとして名を馳せており、冒険者たちに恐れられていた。

 蔑んでいた亞人の4人が自分達では倒せないような強大な魔物を次々と倒し、冒険者ランクを上げ力をつけていたからだ。

 いつか報復されるのではないかという気持ちがあり、畏怖の対象となっていたのだが、当の本人たちは亞人の地位向上のために必死にその力を振るっていただけだった。


 とある日。

 いつものように受けたクエストを達成すべく冒険に出ていた4人はターゲットの魔物が住まう森の奥へと入っていた。

 依頼主が不明であったが、前払いで多額の報酬が支払われていること、イーシャ名指しで発行されたクエストであること、そしてクエスト難易度が最高ランクであることから受けたのだが、ヴェルトだけは乗り気ではなかった。

 仲間に危険が迫っている予感が拭えなかったのだ。

 だが、取り越し苦労であったようで、4人はターゲットの魔物にとどめを刺すことに成功した。

 奇妙だったのはその魔物は上位悪魔に匹敵するほどの知能と力を持っていたにも関わらず一切の攻撃を避けることがなかった点だった。

 そしてもうひとつ、不気味であったのは、最期に言い残した言葉だった。

 なんとその魔物の背後に幼い人間の少年がいたのだが、魔物は幼い少年を庇うために一切の攻撃を避けることなく受け切り、イーシャの連携によって死に至ったのだった。

 その魔物の最期に言い残した言葉。


 “世界を滅ぼしたくなくばこの子を殺せ”


 アガティン、ヴェルト、アリディアは少年を殺すことを主張した。

 魔物の言葉を信じたのと、その少年に凄まじい戦闘力の源泉を感じたからだった。

 ロムロナも同様に感じていたが、彼女だけは少年を殺すことに反対した。

 そして意見を押し通して仲間にすることにした。

 ロムロナが少年の面倒をみて、もし世界の脅威になりうると判断したら4人でその少年を殺すことを条件にして。


 少年はイーシャの一員として戦った。

 基礎的な武術をアガティンから学び、剣術をヴェルトとロムロナに、魔法をアリディアから学んだのだが、その異常な吸収力で、あっという間に4人と肩を並べる剣士となった。

 少年はロムロナによく懐いていた。

 ロムロナに母や姉の姿をみたのだろう。


 とある時、事件が起きた。

 少年が亞人を罵倒していた人間を殺してしまったのだ。

 魔物を殺す行為は彼に命の大切さという概念を植え付けることなく成長させてしまった。

 ただ、仲間意識は高く、誰よりもイーシャの4人のことを好きだった。

 その仲間の位置付けである亞人が貶されたことに対し、仲間を貶されたと思ったのだろう。

 少年は何の躊躇もなく罵倒した人間を殺した。

 その時の表情は無表情であり何の感情もないといったものだった。

 人間を魔物と同じ存在と見做していたのかもしれない。

 それを知った4人は世界の脅威となりうる存在だと結論づけた。

 人を殺してしまったことでロムロナも庇いきれなかったのだ。

 そして4人は少年を殺そうとクエスト中に寝込みを襲った。

 しかし、その僅かな殺気を感じ取った少年は4人の攻撃を跳ね除けて逃走した。

 最も信頼していた仲間の4人に裏切られた強烈な恨みの念を心に宿して。


 ・・・・・


 「その少年がザザナールボウヤなのよね」

 「そうだったんですか」

 「彼には頬に傷があるんだけど、あれはあたしが付けた傷。でもね、本当は彼にとどめを刺せるはずだったの。それを躊躇ってしまったためにあの頬傷になってしまった‥‥。ザザナールボウヤは回復魔法でいつでも消せるはずのその傷を残しているわ。まるであたしへの恨みを忘れないと言わんばかりのねぇ」

 「ロムロナさん、危険な状況ってことですね。一旦離脱しますか?こういう状況っていわゆるミッションが達成出来ない高リスク状態なんです」

 「いいえ、離脱はしない。なぜならザザナールボウヤは少し変わったみたいだから。以前の彼なら、あの場であたしを斬り刻んでいたわ。でもそれをしなかった。これはあたしの推測だけど、ニル・ゼントに仕えて何かの目的を持って行動しているように感じるのよ。だからあの場であたしを殺さなかった。殺意のオーラを飛ばして脅しただけに留めた。これはカヤクボウヤ、ニトロボウヤの今の状況にも関係することかもしれない。だからあたしは残るわ」

 「分かりました。ですが、ミッションが達成出来ない、もしくはロムロナさんに危険が及ぶと()()判断した場合は強制的に離脱してもらいますよ。ルナリ、その時は頼むね」

 「もちろんだ」

 「あたしの意見は聞き入れられないってことね‥‥ウフフ、いいわ。ありがとうシンザボウヤ‥‥。ちょっと疲れたから少し寝るわね‥‥」


 そういってロムロナは出て行った。


 「ロムロナさん、大丈夫かな」

 「大丈夫だ。強い精神力を持っている者だ。迷っていても自分で整理出来るはずだ」

 「そうだね‥‥」


 シンザとルナリも休むことにした。



いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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