<ホド編 第2章> 96.神殿のさらなる謎
<レヴルストラメンバー>
・スノウ:レヴルストラのリーダーで本編の主人公。ヴィマナの船長。
・フランシア:謎多き女性。スノウをマスターと慕っている。どこか人の心が欠けている。ヴィマナのチーフガーディアン。
・ソニック/ソニア:ひとつ体を双子の姉弟で共有している存在。音熱、音氷魔法を使う。フィマナの副船長兼料理長。
・ワサン:根源種で元々は狼の獣人だったが、とある老人に人間の姿へと変えられた。ヴィマナのソナー技師。
・シンザ:ゲブラーで仲間となった。潜入調査に長けている。ヴィマナの諜報員兼副料理長。
・ルナリ:ホムンクルスに負の情念のエネルギーが融合した存在。シンザに無償の愛を抱いている。ヴィマナのカウンセラー。
・ヘラクレス:ケテルで仲間になった怪力の半神。魔法は不得意。ヴィマナのガーディアン。
・シルゼヴァ:で仲間になった驚異的な強さを誇る半神。ヴィマナのチーフエンジニア。
・アリオク:ケセドで仲間になった魔王。現在は行方知れずとなっている。
・ロムロナ:ホドで最初に仲間となったイルカの亞人。拷問好き。ヴィマナの操舵手。
・ガース:ホドで最初に仲間になった人間。ヴィマナの機関士。ヴィマナのエンジニア。
96.神殿のさらなる謎
ーー謎の神殿ーー
スノウ、フランシア、シルゼヴァ、ヘラクレスの4人が謎の神殿内で生活を始めて1週間が経過した。
生活している場所は入り口付近に罠として存在している谷底だった。
ここへ今後街を築くために必要な建築資材を持ち込んでいる。
それらの一部を使って即席で作り上げた簡素な家と予め持ち込んでいた十分な水、食料があるため生活に困ることはない。
またこの神殿にはかなり進んだ文明であったことが窺える箇所が幾つかあり、そのひとつに灯りがあった。
魔力を込めて壁に触れ明るさをイメージすると壁面が光ることが分かったのだ。
これによって十分な明るさが確保できていることと、時間を管理しつつ明るさを調整することによって昼夜の感覚も損なわずに生活することができているのだった。
「しかし意外と狭いんだな」
「まぁ元々上層階の床だった部分だからな。でも資材を置くには十分だし問題ない」
「そりゃそうだがそろそろトレーニングもしたいぜ。このままじゃぁ体が鈍っちまう」
「何だ暇なのか。それなら俺が相手をしてやるぞハーク」
そう言っての首をポキポキ鳴らしながら歩いて来たのはシルゼヴァだった。
「おお!まじか!シルズが俺の相手をしてくれるなんて珍しくて涙がちょちょぎれるぜ!」
「お前の感情などどうでもいい。やるのかやらないのか決めろ」
「もちろんやるぜ!」
「おいおい、構わないがくれぐれも家とか資材とかは壊さないでくれよ?」
「分かっている。安心しろ」
「安心できるわけねぇって‥‥まぁ最悪おれが止めるしかないな‥‥」
「殺してよければ私も止めます」
恐ろしい言葉吐き捨てたフランシアを軽くスルーして、スノウは腕を組みながら周囲を確認した。
一応自分が即席の家の盾になる位置に立っていることを確認してシルゼヴァとヘラクレスに向かって頷いたが、既にふたりは戦闘の構えをとっている。
「スノウ、合図だ」
「はぁ‥‥それじゃぁ‥‥始め!」
ドッゴォォォォン!
スノウが雑な合図を出した瞬間にいきなり凄まじい打ち合いが始まった。
二人ともあらゆる武器を使いこなすが、基本的な戦闘スタイルはヘラクレスは武器は使わず、シルゼヴァは短めの剣を使うというものだった。
今回はシルゼヴァも武器を使わずに両者素手で戦う形だ。
ドゴン!ダダダン!バゴォォン!
両者の凄まじい拳撃、蹴撃の応酬が繰り広げられている。
二人とも根っからの戦闘人であり、筋力はもとより柔軟性も高くトリッキーな攻撃の避け方も出来るため、打ち合い稽古とはいえかなりレベルの高いものとなっていた。
驚くべきはシルゼヴァで、その小さな体格でヘラクレスの重い拳や蹴りを受け切り、さらには拳撃でヘラクレスを吹き飛ばすほどの一撃の重さを持っていた。
ズダダダン!ドゴン!
「流石シルズだ!本気で打ってもまだ足りねぇぜ!」
「ふん。くだらんブラフはやめろ。本気で打って来い」
「へへ!」
ドガガガガン!バゴォン!ドゴゴォン!
ヘラクレスの拳撃の威力と速さが見るからに増したのが分かった。
だがシルゼヴァは変わらず受けきっている。
次第にシルゼヴァの拳撃や蹴撃も徐々に速く重くなってきた。
シュシュシュ!ドゴン!ヅガガガン!
ヘラクレスはシルゼヴァの攻撃を嫌がったのか避け始めた。
シルゼヴァの放つ一撃が、喰らうと自分の攻撃のペースを乱されるほどの強力な攻撃だと直感で分かっているからだ。
自分のペースを乱されると致命的な隙を与えてしまい、一気に押され負けてしまうことは明白だった。
シャシャ!ドゴゴォン!シュ!
ヘラクレスは上半身をくねらせながらシルゼヴァの攻撃を避けつつ拳撃を繰り出す。
ジャッ!グルンッ‥‥ドゴォォォン!!
ドシュゥゥゥゥン!ドッゴォォン!
「うぎっ!」
ヘラクレスの凄まじい一撃を肌を擦らせながらギリギリで躱わしたシルゼヴァはカウンターをヘラクレスの側頭部に放った。
ヘラクレスはそれを手で受け止めつつ防ごうとしたのだが、シルゼヴァのカウンターの一撃の威力が強すぎて防御の手ごと側頭部を殴られそのまま回転しながら吹き飛ばされた。
そこで不思議なことが起こった。
何もない空間でヘラクレスが何かに叩きつけられたかのような格好で止まったのだ。
ヘラクレスはその衝撃で気を失ってしまったのだが、そんなのお構いなしと言わんばかりにシルゼヴァ、スノウ、フランシアの3人はヘラクレスが空中で何かにぶつかったかのように見えた場所へと走って来た。
「見たよな?」
「はい」
「間違いない。目の前に何かある」
3人は何もない空間の前に立ちながら何かある感覚を持っていた。
シルゼヴァが恐る恐る触れようと何もない空間に手を差し伸べる。
ス‥‥トン‥‥コンコン‥‥
何かに当たる感覚を持ったシルゼヴァはスノウとフランシアを見た。
2人も同じように何もない空間にそっと触れてみる。
するとフランシアはシルゼヴァと同様に何かに当たった感覚があったのだが、スノウだけは何かに当たる感覚なく、そのまま前に倒れるように地面に手をついてしまった。
「?!」
スノウは振り返りシルゼヴァとフランシアを見るが、ふたりも驚いている。
「やはりこの神殿はスノウと関係があるようだな」
「どうやらそうみたいだな」
「俺たちは入ることはできない。お前がこの先を調べろ。もしかするとこの見えない壁を取り払う起動魔法やスイッチがあるやもしれん」
「分かった」
「マスター気をつけて」
スノウは笑顔で頷くと立ち上がり前に進み始めた。
奥へ進むと扉が見えてきた。
シルゼヴァたちがいる場所からは見えないようになっている。
スノウは扉の把手を掴もうとするが、またもや肩透かしのように何も掴めずそのまま扉に突っ込む形で前のめりに倒れ込んだ。
ズザ‥‥
辛うじて転ぶのを堪えるとそこには不思議な光景が広がっていた。
「何だここは?!」
広い空間に家々が立ち並んでおり、まさに街だった。
しかも地下であるにも関わらず天井には陽の光が差し込み青空が広がっている。
「あれは‥‥確かに空だが、天井はある‥‥デヴァリエのドームの天井と同じだ‥‥」
薄らと天井の石の継ぎ目が見えており、ここが地下であることを示していた。
スノウはソナー魔法を展開した。
「やはりだめか‥‥」
魔法は使えないらしい。
「ん?」
ふと背後を見ると、地面から1メートルほど伸びている立方体が視界に入ってきた。
「こんなのあったか?い、いや‥‥おれがいた場所も無くなっている‥‥」
確かにスノウは扉を透過してこの場所へ来たのだが、扉を通る前の神殿の地下がなくなっていたのだ。
「あの扉が移動のポータルだったのか?てかおれはどうやってシルゼヴァたちの所へ戻ればいいんだ?!」
スノウは途端に不安になってきた。
立方体を見ると、それは特殊な石で出来ているようで、上面が操作盤のように3つのボタンのような突起がついていた。
「なんか‥‥分かるぞ‥」
3つの突起には何も記載はないのだが、左が “はい” 右が “いいえ” で真ん中が “選ぶ” とスノウは理解した。
スノウは真ん中の “選ぶ” の突起に触れた。
キュィィィィィィィン‥‥
すると不思議な音と共に目の前にホログラムのウィンドウのメニューが出現した。
「!!」
遥か昔の高度な文明が作り上げた遺物なのか、驚くばかりであったが、スノウは自分を模った石像に飛ばされた過去の情景を思い出していた。
(おそらく遥か過去に飛ばされた時に見た種族が作った文明なんだろう‥‥立派な文明だったに違いないが、あの天使たちに滅ぼされたってところか‥‥っていうか、このメニューの中にも分かる部分がある‥‥)
全てを読めるわけではないのだが、スノウはいくつか理解できる単語があることに気づいた。
全く見たことのない文字であるにも関わらず、何故かスノウには理解できた。
(前にもこんなことがあったっけ。ティフェレトの禁断区域だったか‥‥ティフェレトに行けたら禁断区域にも足を運んでみるか。それで‥えっと‥‥ “結界解除” ‥ってあるな‥結界ってさっきの見えない壁か?それと “転移の扉を起動” ってのもあるぞ。あぁ、あの移動ポータルの扉か。もしかしてこれを起動させるとここへ来られるってことか。でもおかしいな、停止状態になっているな‥‥おれは何でここに来られたんだ?‥‥ってまぁいっか。分からんことは考えても仕方ないってヘラクレスが言っていたな。取り敢えず、結界は解除で‥‥“はい” を選択して、転移の扉を起動も “はい” を選択だな)
スノウはホログラムウィンドウを操作した。
( “無事に操作完了” ‥‥って出たぞ。もしかしてこれでおれも帰れるのか?)
「マスター!」
「お前ら!」
背後からフランシアの声がして振り向くとフランシアとシルゼヴァがいた。
「突如見えない壁が消えて、そのまま進んできて扉に触れたらこの場所へ辿り着いたんです」
「お前があの見えない壁を取り払ったんだな?」
「そうみたいだな‥‥よく分からないが、このホログラムウィンドウのメニューを操作すれば解除や起動ができるらしい」
「何を言っている。何も見えないぞ」
「!?」
スノウはホログラムメニューを確認した。
確かに目の前に映し出されている。
「これが見えないのか?」
「ああ」
「私にも見えません。マスターにだけ見えるものなのですね」
「またおれだけってやつか‥‥一体この神殿は何なんだ?」
「追々調べればいい。それよりここは凄いな。地下でありながら太陽光を取り込むことができる。しかも大きな街の規模ほどの建物が建ち並んでいるぞ。この高度な文明を築き上げた種族の街だった‥‥いや、今もそうなのかもしれんな」
「つまり、この街にこの高度な文明を築いた人々が住んでいる可能性があるってことか」
「そうだ」
「調べてみる必要がありますね」
「そうだな。早速散策してみるか。だが警戒は怠るな。ここも魔法は使えないようだからな。ここに人が住んでいるとしても無闇に攻撃はダメだ。だが、いつでも防御できるようにはしておこう」
スノウ達は街へと入っていった。
ヘラクレスを置き去りにしていることはすっかり忘れて。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




