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<ホド編 第2章> 95.歯車のずれ

<レヴルストラ以外の本話の主な登場人物>

【メタトロン】:神衣を纏い仮面を被った騎士の姿の守護天使長。ケテルを守護している。スノウと友であった記憶を持っている。

【カマエル】:痴呆の老人姿の守護天使で神を見る者と言われている。ゲブラーを守護している。銀狼の頭部であったワサンにニンゲンの頭部を与えた。

【ミカエル】:少年の姿の守護天使。ティフェレトを守護している。スノウの仲間であったレンに憑依していた。ベルフェゴールを冥府へと還している。

【ラツィエル】:Tシャツにジャケットを着てメガネをかけたの姿の守護天使。コクマを守護している。神の神秘と言われている不思議なオーラを放つ天使。

【ザフキエル】:青いスーツを着た黒人の姿の守護天使。ビナーを守護している。気性が荒いが、守護天使の責務を最も重要視している責任感ある天使。

【サンダルフォン】:最高級のスーツに身を包んだ紳士の姿の守護天使。メタトロンと兄弟でマルクトを守護している。罪を犯した天使たちを永遠に閉じ込めておく幽閉所の支配者と言われている。

【ラファエル】:ホドの守護天使。黒いスーツに身を包んだ金髪の女性の姿をしている。瑜伽変容(ゆがへんよう)をロンギヌスの槍で阻止し裏切ったザドキエルを追い詰めたが、突如現れたディアボロスによって退けられた。

【エルティエル】:美しい金色の髪の女性の姿の守護天使。ネツァクを守護しているが消滅してしまった本来の守護天使のハニエルから守護天使の任を引き継いだ。スノウがネツァクにいた頃に行動を共にしていた。


95.歯車のずれ


 ――マルクトの野球場――


 メジャーリーグの試合が繰り広げられている中、ピッチャーマウンドを中心として等間隔で椅子が置かれている。

 不思議なことに無音だった。

 明らかに盛り上がっている試合に見えるのだが、全く音はせず選手達も椅子が置いていあることに気づいていない。

 ここはマルクトでありながら、天使達だけが入ることが許されている別次元だった。


 椅子の背後から次々に人の姿をした者たちが滲み出るように現れ椅子に座った。

 最初に現れたのは神衣を纏い仮面を被った騎士の姿メタトロンだった。

 そしてその隣から時計回りに黒スーツに身を包んだ金髪の女性のラファエル、老人姿のカマエル、青いスーツに身を包んだ黒人の姿のザフキエル、ラフなTシャツにジャケットを着てメガネをかけた青年姿のラツィエル、最高級のスーツに身を包んだ紳士姿のサンダルフォン、少年の姿のミカエル、美しい金髪の女性の姿のエルティエルで、5つの空席があった。

 野球場にいる選手や観客には彼らも彼らの座る椅子も見えていない。

 集まれる全員が揃ったのを確認したメタトロンが話し始めた。


 「臨時のコングレッションを始める」

 「今回の議題は承知しているが、それにしてもコングレッションが行われる頻度が増えすぎていると思わないか?これは守護天使の中で任務を遂行する実力のない者がいるという証拠に他ならないと思うのだが、これについても議題へ登録しておきたい」


 メタトロンの守護天使会議、コングレッションの開催宣言があった直後に無表情のまま怒りを露わにしながら言い放ったのはザフキエルだった。

 彼はことあるごとに批判的なコメントをする傾向があり、場の空気をよく言えば変える、悪く言えば壊すことが多かった。

 その度にメタトロンが議論の軌道修正を行うのだが、今回ばかりはその言葉も出なかった。


 「分かった。議題に加えよう。それでは始める。まずアヴァロンの被害報告だ。ラファエル頼めるか?」

 「はい。神の咆哮生成器より発射されたはずのコード003神の滅祇怒(メギド)はルシファーの手によって書き換えられコード002神の炙朶破(シャダハ)が発射されたのは皆周知の通りですが、その被害の場所と被害状況をご報告します。まず神の炙朶破(シャダハ)が着弾した場所はアヴァロンの真南で、その被害は地中500メートル以上を抉り、大きなクレーターを生み出しました。クレーターの直径はおよそ1キロメートル。そしてそのクレーターから南北に連なる亀裂を生み出しています。亀裂の長さは10キロメートル以上。ホド全土を見渡す高度の上空から見ればさほど大きくは見えませんが、今後アヴァロン自体に甚大な被害を及ぼすかどうかは調査が必要で、地層のズレは激しくクレーターから2〜3キロ地点までは渓谷のようになっておりますが、それは目視可能範囲であり、さらに地中を観る必要があるでしょう」


 天使たちはざわつき始めた。


 「前代未聞だな。今回直接の原因はルシファーだが、あやつにその隙を与えたのはカマエル、お前だ。お前があやつがすり代る隙を与えなければこのような事態にはなっていなかったのではないか?」

 「馬鹿を言うなザフキエルよ。わしとて大天使を冠する者。そのような隙など与えていたわけがなかろう。ケテルのデヴァリエへ越界する際に別の時間軸へと飛ばされたのじゃ。その罠は二重三重にも張り巡らされており、越界魔法を詠唱した瞬間に発動し、それに気づき詠唱をやめた瞬間にその場所から別の時間軸へと飛ばされる結界が張られていたのじゃ。その結界に気づけたとしてもその時点で別の時間軸へと飛ばされる。おぬしらも知っていると思うが、時間軸を超える魔法を詠唱するためには1時間以上の時間を要する。それを20分程度に早めておぬしらに伝えたのじゃ。これ以上の対応があろうか」

 「我もそう考える。カマエルは魔力を大量消費し対応を早め、我らに危機を知らせた。言い換えれば、神の炙朶破(シャダハ)を2発発動しようとしていたルシファーの計画を途中で止めたとも言える」

 「それはそうかもしれないが、カマエルの魔力不足によって三発目の神の滅祇怒(メギド)打てず、未だアヴァロンに土足で踏み入っているニンゲンどもを野放しにしているとも言える。この点についてはどう釈明するのだ?」

 「いい加減にしてはどうですかザフキエル。これはどう考えてもカマエルの対応は最善を尽くしたと言えましょう。未だアヴァロンにいるニンゲンには改めて神の滅祇怒(メギド)を放てばよいでしょう」


 割って入ってきたのはラツィエルだった。


 「分かった。だが、そもそもルシファーは何故カマエルを罠に嵌めてまで神の炙朶破(シャダハ)を放たせたのか。これについては我らとしても把握しておく必要がある。もちろんこの場にいる者があやつの意図を理解しているはずもないことは重々承知しているが、今後のあやつの動きを警戒する上でもせめて推察しておく必要はあるはずだ」

 「それはその通りだザフキエルよ。だが見当もつかんなぁ」

 「ルシファーは私にこう言いました」


 そう言って話始めたのはサンダルフォンだった。

 彼は神の裁きの最中にルシファーと会話している。


 「ルシファーは主への復讐ではないと言っていました。主が沈黙している現状であれば、このハノキアを支配するのは容易いと。復讐を果たすのが目的であればそうするはずだと言っていました」

 「では何が目的なんじゃ?」

 「単純に面白いからだと‥‥。そしてこうも言っていました。どこぞのガキが描いたシナリオが崩れていき、そいつが地団駄を踏み、焦って取り繕うように行動するのを見ることほど面白いものはないだろう?と‥‥」

 『‥‥‥‥』


 一同は言葉を詰まらせてしまった。

 面白いからという理由で神の炙朶破(シャダハ)を使う横暴ぶりに言葉を無くしてしまったのだ。

 同時にそのような傍若無人なルシファーを止める力が自分たちにはないという不甲斐なさも感じていた。

 そんな中でメタトロンは議論を進めるために敢えて質問を投げかけた。


 「その ”どこぞのガキ” とは一体誰を指しているのだ?我らが神の滅祇怒(メギド)を撃つこともその者のシナリオだというのか?」

 「分からんのぉ」

 「アノマリーでしょうか?」


 恐る恐るエルティエルが質問した。


 「それは違うじゃろうな。あやつは寧ろ、そのシナリオを描いているガキとやらの手のひらで踊っている者たちの中で予測不可能性であるだけじゃ」

 「そうですか‥」


 エルティエルは少しホッとした。

 スノウが攻撃対象になってはまずいと思ったのだ。


 「だとしたら誰なのでしょうね」

 「オルダマトラを主導している一人であるアスタロトか」

 「一介の魔王風情がそのような大それたシナリオを書けるとは思いませんね」

 「他にいませんよ。‥‥いえ、いるとすれば異系の神々でしょうか」

 「オリンポス、スヴァルガ、ヴァルハラ、イアル、高天原‥‥あれらに住まう神々がシナリオを書けるはずもない。あれらは世界の覇権を欲してはいない。自分たちの子飼いの種族の守護と自らの繁栄のみを目的としている。我らに歯向かう勇気も目的もない」

 「これまではそうだったかもしれませんが、念の為調べておく必要はありそうですよ。私が調べましょう」


 そう言って多神教の神々の動向を調べると名乗り出たのはラツィエルだった。


 「それでは結論はそれからにすることとしよう。一方で神の炙朶破(シャダハ)のダメージの修復が必要だが、それにはどれくらかかるのだ?」

 「数年はかかるでしょう」

 「遅いな。それでは更なる被害に見舞われるかもしれんのう」

 「守護天使総出で修復にあたれば数ヶ月で終えることも可能でしょうが、そんなことをすれば、他の世界に危機が訪れるでしょう。それこそが何者かのシナリオなのかもしれません」

 「ルシファーめ‥‥面倒を起こしてくれる‥‥とにかくラファエルよ、お前の責任で一刻も早くアヴァロンの修復を完了しろ」

 「はい‥‥」

 「修復にはわしも参加しよう。ゲブラーはアニエルに代理をさせることする」

 「私も修復に参加します。ティフェレトはアナウエルに守護代理を務めさせます」

 「カマエル、ミカエル、支援はよいが、其々の世界の守護を怠るなよ」

 「分かっておるわいメタトロン」

 「問題ありません」

 「分かった。それではもう一つの議題に移る。最近のコングレッション招集の頻度が高い件についてだ。だが、これは議論の余地はないだろう。何故ならすでに世界は次のフェーズへと動いだしているからだ」

 「次のフェーズ?どういう意味だメタトロン」

 「アノマリーの出現、度重なる隕石の落下、オルダマトラの顕現、瑜伽変容(ゆがへんよう)、アヴァロンの損傷‥‥いずれも長きに渡り起こるはずのなかったものが、一度に発生している。これらの収束する先には今までと同様の状態は有り得ないだろう。つまり次のフェーズへ移行するということだ」

 「サード・アセンションか‥‥」

 「馬鹿な!!」


 ザフキエルの言ったサード・アセンションという言葉にカマエルが声を荒げて叫んだ。

 それを見たメタトロンが話しを続ける。


 「鎮まれカマエル。これは我ら守護天使として目を逸せてはならない話だ。主が眠りについて以来平和そのものだったハノキアに何かが起ころうとしている。我らは守護天使。自分たちの任務を正当化するための現実逃避は不毛だ。これだけのことが同時に発生している現実から目を逸らしてはならない。セカンド・アセンションで固定不変を失ってしまったのが全ての始まり‥‥いやファースト・アセンションのシシータナフで主の一族が善と悪に分かれてしまったことから既にサード・アセンションへの崩壊は始まっていたのかもしれないのだ」

 「確かに避けて通れん未来かもしれんが、それを最小限に抑えるためにわしらは特異点に肩入れしてきたのではないのか?有我の特異点(ルーパフィキシティ)は失われて久しいが、収束の特異点(アノマリー)裸の特異点ネイキッドシンギュラリティはわしら側の監視下にはるはずじゃ。サード・アセンションを最小限に抑えるための手駒のはず。わしは認めんぞ」

 「カマエル。ネイキッドは我らの監視下と言えど、既に瀕死状態となっていますよ。死んでしまえば転生し、振り出しに戻る。アノマリーについても監視はできていてもコントロールはできる状態にはありません。あれは力を付け過ぎました。メタトロンの言う通り、次のフェーズに移行することは間違いないのでしょう。ですが、それをどの方向へと向けるかは我々次第でもある。ならば、その方策も検討せねばなりません」

 「アノマリーもネイキッド同様に緊縛し生きる屍と化すつもりか‥‥」

 「手駒ですからね」

 「それは次回の議題とさせてくれんか‥‥まずはアヴァロンの修復に専念したい」

 「構いませんが、時間はありませんよ。メタトロン、貴方の指示で次回ノコングレッションの招集としたいと思いますがよろしいでしょうか?その時に本当に我らがこれからもこのハノキアを守護する立場に相応しいのかについても議論する‥‥いかがでしょうか?」

 「構わん。状況を見て我が召集する。他に議題がなければ以上で解散とするがよいか?」


 誰も何も発言しなかった。


 「以上、解散」


 エルティエルを残し、野球場から守護天使と椅子が消えた。

 

 (スノウ‥‥)


 神の名の下に一枚岩だと思われていた守護天使たちの連携が徐々にバラバラに崩壊していく感覚とスノウへの危機が迫っている不安感でエルティエルは落ち着かない様子のまま姿を消した。




いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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