<ホド編 第2章> 93.シャダハ
<レヴルストラ以外の本話の主な登場人物>
【カマエル】:痴呆の老人姿の守護天使で神を見る者と言われている。ゲブラーを守護している。銀狼の頭部であったワサンにニンゲンの頭部を与えた。
【サンダルフォン】:最高級のスーツに身を包んだ紳士の姿の守護天使。メタトロンと兄弟でマルクトを守護している。罪を犯した天使たちを永遠に閉じ込めておく幽閉所の支配者と言われている。
【ラファエル】:ホドの守護天使。黒いスーツに身を包んだ金髪の女性の姿をしている。瑜伽変容をロンギヌスの槍で阻止し裏切ったザドキエルを追い詰めたが、突如現れたディアボロスによって退けられた。
93.シャダハ
「馬鹿な!有り得んぞい!コード002は神の滅祇怒じゃないぞ!」
「はい‥‥コード002‥‥神の炙朶破です」
ラファエル、カマエル、サンダルフォンは数秒言葉を失うほどの衝撃を受けていた。
「ば、馬鹿な!! 神の炙朶破と言ったのか?!今一度確認しろ!!」
いつも冷静な口調のサンダルフォンが口調と声を荒げている。
それもそのはずだった。
神の炙朶破。
神の御業はコード001からコード007まで存在する。
その効果はコードによって変わるが、番号が若ければ若いほど威力は指数関数的に高まる。
つまり、コード002神の炙朶破はコード003神の滅祇怒の数百倍の威力を持つということになる。
だが、サンダルフォンが天使には珍しく取り乱した理由はその威力ではなく、効果だった。
神の滅祇怒は超強力な破壊攻撃だが、破壊するものを選ぶことが出来る。
今回は神の土地アヴァロンには一切の破壊効果を及ぼさない設定となっていたため、アヴァロンに転がる小さな石ころですら神の滅祇怒では破壊出来なかった。
だが、コード002神の炙朶破は破壊に特化した神の兵器であるため、破壊対象を選ぶ制約を持ってはいない。
これは神の土地アヴァロンを破壊してしまうことを意味していた。
しかもコード002、001についてはあまりに威力であるため守護天使と言えども発動は出来ない。
唯一神、または唯一神によって使用の力を授かった者にしか発動できないのだ。
「ラファエル、貴様なんということを!‥‥すぐに被害を確認するのです!」
「!」
ラファエルはホログラムに神の炙朶破が落とされた場所を映し出した。
『!!』
天使達は驚愕した。
アヴァロンの真南に位置する場所に巨大なクレーターと南北に走る渓谷のような深い亀裂が走っていたのだ。
「なんという‥‥」
「神の土地を破壊したじゃと?!」
「あ、ありえない‥‥」
あってはならないことが起こった。
決して傷つけてはならないとされるアヴァロンが大きく破壊されてしまったのだ。
まるで大きな隕石でも衝突したのではないかと見紛うほどの被害だった。
「す、直ぐにコングレッションを招集しなければ‥‥」
「今は無理じゃて!まずはコード003に切り替えて神の裁きを与え切らなければならんぞ!」
「馬鹿な!何を言っているのですか!‥‥いや待て‥‥コード002は我らには扱えないレベル。ラファエル!なぜコード002を使えるのだ?!一体何をした!」
「私は何もしていません。出来るわけがない!」
「じゃぁ誰がコード002を設定できるのだ‥‥はっ!」
サンダルフォンは上下の越界魔法陣の接続を維持しながらゆっくりとカマエルの方を見た。
「今回のコード設定は貴方がやったと言われましたねカマエル」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥‥
ドーム内に緊張が走る。
俯いていることから表情は分からないが普段は優しい呆けた老人姿のカマエルがみるみるうちに鋭いオーラを発っし始めている。
ラファエルは震える手を押さえながらコードを変更し始めた。
この後の展開でふたたび神の炙朶破が放たれてはまずいと判断したからだ。
「ほう、コードを書き換えたか。この状況下で中々優秀だなラファエル」
『!!』
「貴様、カマエルではないな?!」
サンダルフォンが警戒しながら言った。
「何を言っておる。わしはカマエルじゃよフォッフォッフォ‥‥なんてな」
カマエルの姿をした何かは不敵な笑みを見せながらサンダルフォンを見た。
その目は金色に輝いている。
そしてサンダルフォンとラファエルにはカマエルが放つオーラを知っていた。
「ありえない‥‥」
「ま、まさか!なぜ貴方ここに?!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
「なぜここにいるのですか!ルシファー!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
「フ、フハハ!ハーッハッハァ!ウケるぞ全く。この俺の存在に全く気づかないのだからなぁ!守護天使失格だな」
カマエルの姿をしたルシファーは下方に展開している越界魔法陣を操るのをやめたのか、その場から歩き出した。
「馬鹿な!デヴァリエが崩壊しますよ!」
「なぁに焦ってんだよサンダルフォン。俺をお前らと一緒にするな。こんなもんは思念波でどうにでも扱えるんだよ」
カマエルの姿が一歩一歩踏み出すたびに徐々に変化していく。
少しずつ若返り、背が伸び、いつもコングレッションで登場する青年の姿へと変わっていった。
「なぜこんなことを!主への復讐ですか!?」
「馬鹿かお前。あれはなぁ‥っておいおい、口が滑りそうになったぞ。俺も少しは緊張感ってやつを持たないとならんな」
ルシファーは頭を掻きながら言った。
「いいかサンダルフォン。俺が復讐なんてチンケな感情に囚われて行動するとでも思うのか?今やつは眠っているも同然なんだぜ?復讐の前にお前らを全員破壊してハノキアを手中におさめるのが先だろ普通。なのに何で何もせず復讐なんだよ。想像力の欠片もないな」
「ではなぜ!」
「クックック‥‥面白いからに決まってんだろ?どこぞのガキが描いたシナリオが崩れていき、そいつが地団駄を踏み、焦って取り繕うように行動するのを見ることほど面白いものはないだろう?」
「なんという身勝手な思想‥‥穢れた地獄の王よ。今直ぐここから立ち去るがいい!」
「言われなくても出ていくが、もう少しアヴァロンを破壊しておきたいんでな。もう一発神の炙朶破を撃たせてもらう」
「させません!」
ヒュン‥ピンッ!
ラファエルがルシファーを拘束しようと魔法を放つが、ルシファーはそれを指で弾いた。
「お前は少し黙っているといい」
ルシファーが右手の人差し指を少し動かしただけで、ラファエルは空中に浮遊させられ遠くへと飛ばされてしまった。
ゆっくりと神の咆哮生成器の操作盤の前へと歩いていくルシファーにサンダルフォンは目を見開いて視線を向けている。
「両手が使えねぇから目から魔法を放とうとしているなサンダルフォン。やめておけ。目が潰れるだけだ。天使は自傷行為を治すことはできないからな。お前の目は潰れたら永遠に盲目になるだけだ。まぁ俺の知ったことではないがな」
「視力など!今この状況を止めずして何の守護天使か!」
「ほほう!ご立派だな!」
ルシファーが操作盤の前に到着したその時。
ブワァァァン‥‥
ダシュン!!ダダシュン!!
「!」
突如転移魔法陣が出現し中から天使達が現れた。
そしてルシファーに向かって攻撃魔法を放った。
「よくもわしに化けてくれたなルシファーよ!」
「これは大罪に値しますよルシファー!」
「許さんぞルシファー!守護天使の総力をあげて今ここで貴様を屠ってやる!」
現れたのはカマエル、ラツィエル、ザフキエル、そしてミカエルだった。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!
天使達は連続で魔法攻撃を繰り出すが、強力なバリアが張られているのかルシファーには当たらない。
「なるほど。メタトロンめ。意外と早く気づいたな。まぁいい、とりあえず目的は果たされたからな。ここで貴様ら全員を破壊してやっても構わないが、今後の俺の描くシナリオに一応必要な者たちだ。今日は見逃してやる」
そういうとルシファーは姿を消した。
「待たんか!」
追いかけようとするが、ルシファーは残穢を残さない移動を行なっているため追うことは出来なかった。
「がはっ!」
ラファエルが解放された。
カマエルは越界魔法陣の操作を引き継いでいる。
「早く神の滅祇怒をおとし切りましょう。神の裁きは絶対です」
ラツィエルの発言に呼応するようにザフキエルが神の咆哮生成器を操作し始める。
「何?!」
「どうしましたか?」
「神の炙朶破によって大きくエネルギーが消費されたため神の滅祇怒はあと1回しか打てん」
「何ですって?!」
「ルシファーは‥‥もう一度神の炙朶破を撃つと言っていました。何か方法があるはずです‥がはっ!」
ラファエルが喉元を押さえながら言った。
「無駄じゃ」
「何故ですか?」
カマエルの言葉に冷静な表情でラツィエルが質問した。
「ルシファーは主に最も近しい存在。今の地位に落とされて尚、その力健在じゃ。そして主以外で神の炙朶破を単独で撃てる唯一の存在でもある。つまり、わしらには分からん方法でエネルギーを生み出すことも可能ということじゃ」
「おのれルシファー!」
ガンッ!
ザフキエルは操作盤を叩きながら叫んだ。
「兎に角あと1か所神の滅祇怒をおとす場所を選ぶのじゃ。この越界魔法陣もかなり損傷を受けておるから長くは持たん。はよどこに撃つか決めい」
「順番通りでよいでしょう。神の裁きは何も神の滅祇怒だけではありません。ザフキエル、頼みましたよ」
「承知した」
ラツィエルの言葉に応えてザフキエルは照準をレヴルストラが建設を進めた素市の村に合わせた。
光の粒子が収束し凄まじいエネルギーの凝縮された光球が生まれた。
「発射‥‥」
神の滅祇怒が再び放たれた。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




