<ホド編 第2章> 92.有り得ない出来事
<レヴルストラ以外の本話の主な登場人物>
【ラファエル】:ホドの守護天使。黒いスーツに身を包んだ金髪の女性の姿をしている。瑜伽変容をロンギヌスの槍で阻止し裏切ったザドキエルを追い詰めたが、突如現れたディアボロスによって退けられた。
【カマエル】:痴呆の老人姿の守護天使で神を見る者と言われている。ゲブラーを守護している。銀狼の頭部であったワサンにニンゲンの頭部を与えた。
【サンダルフォン】:最高級のスーツに身を包んだ紳士の姿の守護天使。メタトロンと兄弟でマルクトを守護している。罪を犯した天使たちを永遠に閉じ込めておく幽閉所の支配者と言われている。
92.有り得ない出来事
――ケテル・デヴァリエ――
ここはケテルの遥か上空に浮遊する天空島。
守護天使メタトロンが管理していた場所だ。
ケテルでクロノスの暴走を止める目的で、神の呼吸器を暫定起動するために自らの肉体を贄にして以来、守護天使メタトロンはここに留まることが出来ず、長らく封鎖状態となっていた。
そこへ3体の天使が訪れた。
訪れたのはカマエル、サンダルフォンそしてラファエルで、メタトロンの指名によるものだった。
これからこのデヴァリエを越界魔法陣の発動によって部分的にホドへと越界させるのだ。
目的は神の裁きとして神の滅祇怒をおとすことだった。
3人はデヴァリエの神の咆哮生成器のあるドーム状の建物へと入っていく。
外からは大きな白いドーム状の建物だったが中に入ると壁は全て透けており、青空と漂う雲が見えた。
3体の天使は建物内の広い空間に正三角形の位置で立ち、中心にあたる部分につま先を向けている。
「これより越界魔法陣を発動する。準備はよいな?サンダルフォン、ラファエル」
「大丈夫です」
「いつでも詠唱を開始できます」
カマエルは頷くと両手を前に出した。
バッ‥‥ギュワァァァァン‥‥
すると丁度3体の立つ中心の床部分に魔法陣が出現した。
バッ‥‥ギュルルワァァン‥‥
今度はラファエルが同様に両手を前に出したが今度は目線より少し下辺りに別の魔法陣が出現した。
2メートルくらいの間隔をかけて魔法陣が上下に展開されている状態となった。
続いてサンダルフォンも両手を前に出した。
そして何かを操作するようにして上部に展開されている魔法陣から下の魔法陣に光る線を発生させている。
どうやら上の魔法陣と下の魔法陣を繋ぐ作業を行なっているらしい。
1分ほどサンダルフォンは光の線を上から下の魔法陣へと伸ばし、その形は徐々に光る円柱状へと変化している。
デヴァリエに搭載されている神の咆哮生成器より照射される神の滅祇怒はケテルの千年平和宣言を維持するための抑止力の役割も担っていることから、ケテルから完全に越界させることは出来ない。
そのため、部分的な越界を行うこととしたのだ。
通常であれば、越界させきれば魔法陣を操る必要はなくなるのだが、今回は部分的な越界となるため、ケテルとホドを繋ぐ越界魔法陣を繋ぎ続ける必要がある。
つまり、2つの魔法陣を繋ぐ役目のサンダルフォンと移動が生じるホド側の魔法陣を展開しているカマエルは越界魔法陣を維持し続ける必要があるのだ。
「これよりホドへ部分越界させる。ケテルの越界魔法陣を展開しているラファエルは離れてもええが、ホド側の越界魔法陣を作っておるわしとそれを繋いでいるサンダルフォンはここから離れられん。ラファエル、神の滅祇怒は任せるがええかの?」
「もちろんです。既にカマエルに設定頂いているので後は照射だけですから」
ラファエルはその場を離れ、神の咆哮生成器の操作盤の前に立ち操作し始めた。
「第一目標はアヴァロン北東部、無人の集落。コード003神の滅祇怒収束準備完了」
「よぉし、それじゃぁ部分転送させるぞ。サンダルフォン、準備はええか?」
「既に接続は済んでいますよ。後は貴方の魔法陣を動かすだけです」
「了解じゃて。ラファエル、宣言はよいか?」
「現在投影中です。予め思念と纏めておいたものをホドで投影しています。合図致します」
ラファエルの言葉通り、ホドではラファエルのふたたび神託が与えられていた。
アヴァロンから立ち退かなかった者たちへの神の裁きを与える言葉がホド全土に響いていた。
「間も無く発射時間となります。転送開始」
「はぁっ!」
ラファエルの合図を受けてカマエルが魔力をさらに込めると魔法陣の光が増した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
デヴァリエが僅かに震え出した。
「神の滅祇怒照準固定完了‥‥エネルギー充填‥‥」
シュワンシュワンシュワンシュワンシュワン‥‥
神の咆哮生成器の先端に光の粒子が収束され、光は徐々に大きな光球へと変化していく。
凄まじいエネルギーが凝縮されているためか、高温の熱風が周囲に広がっていく。
「エネルギー臨界点‥‥発射」
ズズゥゥゥゥゥン‥‥トシュゥゥゥゥゥン‥‥パァァン‥‥ボッグォォォォォォォォォォォン!!
光球が地上に到達した瞬間、凄まじい光がホド全土を包み、その数秒後に激しい爆音と共に衝撃波が広がり、デヴァリエにも到達した。
だがデヴァリエは微動だにしない。
「次、南東部分です。カマエル魔法陣の移動をお願いします」
「おお、分かっとる」
カマエルは前にかざしている手を動かしている。
すると、下にある魔法陣の色が変わりふたたび光出した。
ホドでは越界魔法陣が消え、別な場所に出現した状態となっていた。
「よし、準備完了じゃて」
「?」
ラファエルは操作盤の上に映し出されているホログラムを見て目を細めた。
「カマエル、ここは場所が違うのではありませんか?」
「大丈夫じゃて、わしの魔法陣は確かに目標ポイントの真上に出現させておる。ホログラムは先ほどの神の滅祇怒の影響で投影の場所がずれておるかなにかじゃろうて‥‥それより急いでくれるか?本来はこの形での越界魔法陣は少なくとも守護天使級5人以上で行うものじゃからの‥‥」
「分かりました。それでは第二砲、エネルギー充填に入ります」
ホドの上空の別の場所に出現した越界魔法陣からデヴァリエの神の咆哮生成器がふたたびせり出て来た。
そして先端に光の粒子が収束されていく。
「?」
先ほど以上に光が収束されていく感覚を持ったラファエルはカマエルを見た。
「カマエル、エネルギー充填量が先ほどよりも多いのでは?」
「集中させてくれラファエル。今気を抜くと越界魔法陣が崩壊してしまう」
「分かりました」
ラファエルの脳裏に一抹の懸念が生まれていた。
今回の照準はスノウ達が作った素市の村である。
ドォォォォン‥‥
小さな爆発音が聞こえて来た。
「何があったのですか?」
「これは爆裂魔法じゃな。アノマリーが魔法でも放ったんじゃろうて。あやつは死ぬつもりらしいな。まぁこれもあやつの選択。アノマリーへの干渉は無意味じゃて、これもまたあやつの選んだ道ということじゃ‥‥」
「アノマリー。ここで消し去れるとは好都合です。ラファエル、早く発射するのがいいでしょう」
カマエル、サンダルフォンに促されラファエルは発射を急ぐ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
ふたたびデヴァリエが僅かに震え出した。
「神の滅祇怒照準固定完了‥‥エネルギー充填‥‥」
シュワンシュワンシュワンシュワンシュワン‥‥
光の粒子が収束とともに大きな光球が生じる。
凄まじいエネルギーの凝縮によって高温の熱風が周囲に広がっていく。
その間ラファエルはホログラムで発射先を見ているが目標の場所に変わったことを受けて安心した。
「エネルギー臨界点‥‥発射」
ズズゥゥゥゥゥン‥‥トシュゥゥゥゥゥン‥‥
ファシュゥゥゥゥ‥‥ドドドドォォォォォォォォォン!!
「?!」
ホド全域を眩い光が包むはずが、逆に暗黒の光が到達地点から稲妻のようにホド全土に広がった。
(何かが違う‥‥)
ラファエルはカマエルとサンダルフォンを見た。
「ラファエル!これはどういうことですか?!神の滅祇怒ではありませんよ!」
「なっ!!」
ラファエルはモニターを見た。
モニターには間違いなくコード003神の滅祇怒と天使文字で書かれている。
「コード003と表記されています」
パァッ!
サンダルフォンは上側の魔法陣を維持しつつ魔法を放った。
するとモニターの表記が砂嵐のように変わり、表記が変化し始めた。
「!!」
天使としては珍しくラファエルは目を見開いて驚愕の表情を見せた。
「な、なぜ?!なぜですか?!」
「何と表記されているのですか?!」
「コ、コード‥‥002‥‥」
「なんですって!?」
サンダルフォンもまた、これ以上ないほどの驚愕の表情を見せた。
「馬鹿な!有り得んぞい!コード002とは神の滅祇怒じゃないぞ!」
「はい‥‥コード002‥‥神の炙朶破です」
ラファエル、カマエル、サンダルフォンは数秒言葉を失うほどの衝撃を受けていた。
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