<ホド編 第2章> 91.神の裁き
<レヴルストラ以外の本話の主な登場人物>
【ジライ】:三足烏サンズウー・烈の連隊長代理。かつてレヴルストラにライジという名でスパイとして潜り込んでいた。戦闘力が高く策士。
【シュリュウ】:三足烏サンズウー・烈の分隊長でありジライの補佐を担っている。
【ラファエル】:ホドの守護天使。黒いスーツに身を包んだ金髪の女性の姿をしている。瑜伽変容をロンギヌスの槍で阻止し裏切ったザドキエルを追い詰めたが、突如現れたディアボロスによって退けられた。
91.神の裁き
6日目。
天使ラファエルがホド各所に降臨してから6日が経過した。
ロン・ギボールの変容した甲羅の心臓によって海水が吸い取られ、海水面が上昇して出現した陸地は実は神の土地アヴァロンと呼ばれる人類が足を踏み入れてはならない禁制地なのだという。
アヴァロンから人々が出ていくための猶予として6日が与えられ、今日はその神託の期限である最終日となる。
ガルガンチュアを中心とした緋市の者たちは全員陸地から退去している。
小さな村ほどにまで拡大した彼らの建設した新たな生活拠点には誰一人おらず、神の裁きの対象ではないだろう。
仮にこの緋市の村にある人々が建設した家々ですら神の土地では不敬な遺物であるなら破壊の対象になるのかもしれない。
スノウ達率いる素市の者たちの大半は素市へと戻っていった。
スノウが上陸し最初に発見した謎の神殿を中心に家々が建ち始め、ここも緋市の村同様、小さな村程度の建物が出来ているが、まともに建てられた家は5軒ほどであとはハリボテ状態の家だった。
スノウ達の指示に従い、建設資材の殆どは謎の神殿内に格納されているのだが、これは神の滅祇怒によって建物が破壊されることを想定し、無駄に建築資材を失わないようにした彼らの策であった。
この素市の村にはスノウ、フランシア、シルゼヴァ、ヘラクレスの4人がおり、謎の神殿の破壊と再生が同時に繰り返される原理を利用し、神の滅祇怒の破壊から逃れ死を偽装するのも策のうちとなっていた。
一方南西部に上陸した元老院配下の三足烏は、完全に天使ラファエルの言葉を信じずにこのまま居続けると決めたらしく、ほぼ街の規模と化している新たな拠点が出来つつあった。
ーー三足烏の拠点内にある執務室ーー
コンコン
「どうぞ」
ジライの執務室に連隊長副代理であるシュリュウが入ってきた。
「ジライ様」
「どうかしましたか?」
ジライは書類に目を通しており、シュリュウの顔を見ることなく答えた。
「いえ、今日が最終日だと思いまして」
「天使ラファエルの啓示のことですか?」
「はい。あのような戯言、信じているわけではないのですが、流石にあのような不気味な姿で現れたのを見ると調査団の中にも怯える者が出てきまして‥‥」
「無視していいですよ。それは既に通達したはずですが?」
「は、はい。あ、いえ、私はジライ様を全面的に信頼申し上げておりますので通達は重々承知しております。問題は他の者たちでございまして‥‥黙らせるためには今後、いえ、明日何が起こり、どう我らは助かるのかを伝えてやりたいと思いましてね」
「‥‥‥‥」
ジライは書類に目を通していた動きを止めた。
(こいつも結局は自分の命が惜しいというわけか。他が騒いでるのは確かにそうだけど、こいつ自身が恐怖を抑え込めずに自分が本当に生き残れるのかを知りたいんだな。このまま何も言わなければおそらくこいつは逃げ出すだろう。全く、忠誠心のかけらもない)
表情ひとつ変えずにジライはシュリュウに対して嫌悪感を抱いた。
(圧倒的恐怖で支配すると決めたんだ。逃げ出す者には容赦はしないよ)
「明日起こることは分からないですよ。でも何が起こっても我らが取るべき行動やそもそも負っているタスクには変更はありません。しっかりと建設計画を遵守して拠点を守り抜いて下さい。それが出来ない者には三足烏として制裁がくだると思っていてください。場合によっては処刑もありますから」
「!‥‥わ、分かりました。皆にそのように伝えます」
「頼みますよ。確実に伝えて下さい」
「はい‥‥それでは失礼致します」
シュリュウは曇って表情でジライの執務室を出て行った。
その後、シュリュウはジライの言葉を正確に伝えた。
当然の如く不満の声が方々から聞こえてきた。
ホウゲキが連隊長であったならば誰一人として不満の声は漏らさなかったに違いない。
不満の声を少しでも発しようものなら瞬殺されていたからだ。
だがジライは冷静でドライな性格として知られており、ホウゲキのような恐怖を感じる者は殆どいなかったため、不満の声が方々からあがったのだった。
その日の夜。
三足烏の者がひとり、またひとりと殺されていった。
死体の額には制裁と書かれた紙が貼られていた。
中には、目の前で突然意識を失うようにして倒れ絶命する者もいたのだが、その直後に現れた人物を見て、なぜ殺されたのかを悟っていた。
現れたのはジライであり、不満の声を漏らした者全てを記録し、その日の内に全員抹殺したのだ。
ジライは一晩で恐怖の連隊長代理と認識された。
当然逃げ出す者は皆殺されたため、蒼市に戻る者はいなかった。
そしていよいよ天使ラファエルによって神に裁きがなされる7日目。
ホドはいつになく静まり返っていた。
日が昇り、本来であれば人々が活動し始める時間帯となった。
キィィィィィィィィン‥‥
突如、ホドの3つの場所にふたたび天使ラファエルの巨大な姿が現れた。
現れた場所は、ガルガンチュアを中心に上陸して家々を築いていた緋市の村、レヴルストラ中心に素市の者たちと家々を築いていた素市の村、そして元老院の指示のもと三足烏が中心となった調査団の築いた街の3ヶ所だった。
「約束の時間となりました。神のご慈悲によって救われた命があり、一方で神のご慈悲を踏み躙る命もあるようです。ここは神の土地アヴァロン。遺物の一切は神の裁きによって滅せられるでしょう」
姿を現したのは3ヶ所だけであったが、声はホド全土に響き渡っていた。
「ホドに生きる全ての者たちよ。さぁ神の御業をその目に焼き付けるのです」
そう言い放つとラファエルは消えた。
そして空は突如暗雲が立ち込め太陽を遮り、ホド全土を夜と見紛うほどの闇で覆い尽くした。
ギュワァァァァン‥‥
突如緋市の村の上空に超巨大な魔法陣が出現した。
その魔法陣からゆっくりと何かが出てくる。
白く尖った円錐状の物体が音も立てずに出現した。
巨大な円錐状の物体は動きを止めると突如先端に光が収束され始めた。
シュワンシュワンシュワンシュワンシュワン‥‥
収束された光の粒子は徐々に光の塊へと変化し、溢れんばかりのエネルギーの球体が揺れ始めた。
ヒュゥゥゥン‥‥
風切り音のような音と共に光の球体が凄まじい勢いで地上へと進んでいく。
パァァン‥‥ボッグォォォォォォォォォォォン!!
一瞬ホド全体が眩い光に包まれた後、巨大なドームの状の爆炎が発生した。
その爆炎は凄まじい熱風へと変わり周囲に広がっていく。
一方中心からは巨大な黒煙が舞い上がっている。
神の滅祇怒。
守護天使だけが扱うことの出来る神の力を宿した破壊兵器。
その恐ろしさは破壊力だけではない。
破壊対象のみを破壊することも可能なのだ。
今回の神の雷は緋市の村の生物、建物、全てを焼きつくし灰一つ残さずに消滅させた。
だが、神の土地アヴァロンへの影響は皆無だった。
爆風こそ発生したが、小石ひとつとして破壊されてはいないのだ。
天使ミカエルの説得もあり、緋市には誰一人残ってはいなかったため、ガルガンチュアの者たちによって築かれた人工物だけが跡形もなく消え去った。
舞い上がった巨大な黒煙は緋市だけでなく素市やスノウ達の上陸した謎の神殿のあたりから見えるほどだった。
「相変わらずとんでもない破壊力だな」
「神殿があれに耐えられるか自信がなくなってくるほどだな」
「何を弱気なことを言っているんだスノウ。お前が大丈夫だと言ったら大丈夫なのだからな」
「ははは、お前がいてくれるだけでここ強いよ」
レヴルウトラメンバーが中心となって築いた素市の村にある謎の神殿の入り口からスノウ、フランシア、シルゼヴァ、ヘラクレスが舞い上がる黒煙を見ていた。
「マスター。そろそろ神殿へ入りましょう。やつらが使っているのは越界魔法陣です。一瞬でここの真上に移動も可能だと思います」
「そうだな。さてそれじゃぁ一応おれ達がここにいることを示しておくか」
スノウは両掌をボールを持つように構えてその中でジオエクスプロージョンの球体を発生させた。
何度も発動しては球体に融合し爆裂魔法を凝縮していく。
バッ!
スノウはそれを片手に移し浮遊させた状態で、回転しながら凄まじい力で何もない真上に向けて放り投げた。
そして謎の神殿へと入っていく。
すると突如素市の村の上空に超巨大な越界魔法陣が出現し白い円錐状の神の咆哮生成器が出現し始めた。
ドッゴォォォォォォォン!!
タイミングを見計らったようにスノウの放った凝縮されたジオエクスプロージョンが神の咆哮生成器に直撃し凄まじい爆裂波を生じさせた。
渦巻く黒煙が風に流されていくと何一つ傷のない状態で白い円錐状の突起が出現した。
キュィィィィィィィン‥‥
そして巨大な円錐状の物体は動きを止めると突如先端に光が収束され始めた。
シュワンシュワンシュワンシュワンシュワン‥‥
緋市の村に落とされた時と同様に収束された光の粒子は徐々に光の塊へと変化し、溢れんばかりのエネルギーの球体が揺れ始めた。
ヒュゥゥゥン‥‥
無慈悲な光の球体が凄まじい勢いで素市の村へと落とされた。
パァァン‥‥ボッグォォォォォォォォォォォン!!
ふたたびホド全体が眩い光に包まれた後、巨大なドームの状の爆炎が発生した。
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