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<ホド編 第2章> 89.仲間ゆえに

<レヴルストラ以外の本話の登場人物>

【エルティエル】:美しい金色の髪の女性の姿の守護天使。ネツァクを守護しているが消滅してしまった本来の守護天使のハニエルから守護天使の任を引き継いだ。スノウがネツァクにいた頃に行動を共にしていた。

89.仲間ゆえに


 「エル!」


 突如スノウ達の前に現れたのはネツァクの守護天使代理である天使エルティエルだった。


 バッ!


 エルティエルは両腕を広げると周囲にバリアを形成した。


「ふぅ‥これで話せる」


 緊張が解けたのか、堅苦しい表情が一気に表情豊かなかつてのエルティエルに戻った。


 バッ!


 「え?」

 「はぁ?!」


 突如エルティエルはスノウに抱きついた。

 それに面食らったかのようにスノウは驚き、その光景を見てフランシアは一気に怒りのボルテージを一気に上げた表情になった。


 「スノウ!」

 「いでで!おいエル!何してんだ放せって!」

 「あ、ごめん!」


 エルティエルはスノウを解放した。

 天使であるエルティエルのハグは想像以上に強力だったようでスノウは本気で痛がっている。


 「それでいきなりな‥‥」

 「あなた」


 ズン!


 スノウとエルティエルの間にフランシアが立ち、エルティエルに向かって殺意のオーラを放っている。


 「おいシルズ、女の嫉妬ってのは怖えな」

 「黙って見てろ。これらか凄まじい戦闘が見られるぞ」


 ヘラクレスとシルゼヴァは小声で会話しながら面白がっている。


 「私のマスターに馴れ馴れしく触らないでくれるかしら?いえ、マスターの視界に入ることすら烏滸がましいわね」

 「あらフランシア‥‥だったわね。マスターと呼ぶということはスノウと主従関係ってことかしら?だったら口出す権利はないわね。何故って?私はスノウの恋人だからよ」

 「え?」

 「はぁ?!」

 「うほ!」

 「フフ!」


 スノウ、フランシア、ヘラクレス、シルゼヴァはそれぞれ違う感情で反応した。


 「お、おいエル!お前、い、いつからおれの恋人になった?!っつーか、お、おれにはそんなのいねぇし!」

 「あら、恥ずかしがってるのね。そういうところも好きよスノウ」

 「ばっ!‥熱!」


 スノウはあまりの高熱に思わず後退りしたのだが、その原因がフランシアであることを知った瞬間、恐怖した。

 フランシアの周囲に超凝縮された火球が発生し浮遊しているのだ。

 おそらく強力なジオ・エクスプロージョンを複数発動しており、エルティエルの作り出したバリアが逆に爆風を閉じ込める効果となり、スノウ達はこのバリアの中でとてつもない超高熱の爆裂の嵐の中で骨すら残らない消し炭状態になることが容易に想像できたからだ。


 「やべぇぞシルズ!シアのやつ我を忘れちまったぞ!」

 「フハハ!ここにソニアがいたらさらに見ものだったな!」

 「のんきか!」

 「シア!やめろ!おれ達全員死ぬぞ!」


 フランシアは聞く耳を持たない。

 そして爆裂魔法がいよいよ発動する直前。


 パチン!


 エルティエルが指を鳴らした瞬間、フランシアが発動していた火球が跡形もなく消え去った。


 『え?!』


 スノウ、ヘラクレスは驚きの表情を見せた。

 一方シルゼヴァは残念そうな顔をしている。


 「私の結界の中では誰であろうと魔法はキャンセルされるの。フランシア、ごめんね冗談よ。私はスノウの恋人じゃないわ。大好きだけどね。この人、鈍感で色恋に疎いじゃない?少しはそういう刺激を与えないと気づくべき気持ちに気づかないから、ちょっと意地悪したのよ。あなたを傷つけようとしたわけじゃないの」


 パシィン!


 フランシアはエルティエの頬にに平手打ちした。


 「これでチャラにしてあげるわ」

 「ふふふ、ありがと」


 エルティエルの頬は一瞬だけ青くなったがすぐに元に戻った。


 「さてスノウ。‥‥ん?」


 スノウの怒りと驚きと恥ずかしさが入り混じった複雑な表情を見てエルティエルは愛おしそうな表情を見せた。


 「エル、お、お前ふ、ふざけんなよ?!お、お前一体何がしたいんだよ!」

 「はいはい、落ち着いて。ネツァクを救った英雄がそんな顔しないの」


 パチン!


 エルティエルが指を鳴らすとスノウは冷静を取り戻した。


 「はい、これで大丈夫ね。さて、気を取り直してと。私がここへきたのは貴方達に話しておきたいことがあったからなの。でも本当は管轄外の世界へ勝手に入り込んではいけないし、影響を及ぼす干渉も禁じられているのね。だからこのバリアを張って外界との繋がりを絶った状態にしているの。この状態はホドにいながらホドにはいない状態と思ってね」

 「分かった。だが、アドラメレク達との戦いの時に干渉したはずだがあれはいいのか?」


 驚くほど冷静に会話しているスノウを見てヘラクレスは呆けたように口を開けて見ている。


 「あれは大丈夫。瑜伽変容(ゆがへんよう)を止めることはハノキア全土に跨って必要だったから。その代わり干渉を最低限に抑えるために言葉は発生なかったわ。それもあってか、誰にも咎められていないから特例として認められたみたい。それでね、貴方達に伝えたかったこと、それはね」


 エルティエルは一呼吸置いて話を続けた。


 「6日以内にこの陸地から出て、そのまま別の世界へ越界してほしいの」

 『!!』


 突然の意外な申し出に一同は驚いた。


 「どういう意味だエル!何故おれ達はこの陸地から出るばかりか、ホドからも出ていけっていうのか?!」

 「そうよね、ちゃんと説明させて。この陸地はアヴァロンと呼ばれる神の土地なの。これはこの地が生まれた時に結ばれた契約で、契約に関わっていない者は足を踏み入れてはならないという条件になっているの」

 「神の土地アヴァロン‥‥それって人類が住む前に締結された契約ってことか。人類にははっきり言ってどうでもいい話なんだが、仮にその契約の条件を無視して居座り続けたらどうなるんだ?」

 「そこがややこしい話で、主はこの神の土地含めてハノキアの世界に陸地を形成したのだけど、神の土地アヴァロンはこのホドの陸地だけなの。つまりそれ以外の世界の土地は自由に住める場所という位置付けだったってこと。そうしてハノキア全土に陸地が生まれ、アヴァロンの契約が為されたその後に、主がニンゲンが地上の陸地に住むことを許したのね。厳密にはエデンから追放したのだけど、そうしてニンゲンが陸地に住むようになったの。そういう経緯があって、アヴァロンにはペナルティは無くて、守護天使が監視して主以外の者を立ち入らせないようにするという追加のルールになっているのよ」

 「追加のルール‥‥くだらん。そのような曖昧な契約内容ならば無視して構わんな?」


 シルゼヴァが鼻で笑うようにして言った。


 「それは困るわ」

 「何故だ?仮にお前ら天使どもが俺たちに報復しようとしていても蹴散らすまでだ。既に俺たちは強い集団だ。レヴルストラにはスノウを筆頭に強力なメンバーが揃っている。天使や魔王共と対等に渡り合うほどのな。まさか俺たちと戦争でもするつもりじゃないだろうな?」

 「流石シルゼヴァ。噂通りの捻くれ者ね。でも確かに貴方の言う通りだわ。私はスノウの強さを知っているし、アドラメレクとの一戦でもそれは証明されているから。でも神の強力な破壊兵器には抗えないはずよ」

 「はっきり言え。もったいぶるだけお前への信頼感が薄れるだけだ」

 「本当に嫌な人ね。守護天使たちはアヴァロンから出ていかない者たちに報復として神の滅祇怒(メギド)を落とすことに決めたわ」

 『!!』


 神の滅祇怒(メギド)

 レヴルストラの面々はケテルでそれを見ている。

 特にシルゼヴァとヘラクレスはオリンポスの神々を従えたゼウスがデヴァリエにある神の滅祇怒(メギド)発生装置を奪おうと破壊の限りを尽くした歴史を知っており、同時にその威力も理解していた。

 テュポーンを取り込んだクロノスを破壊したことからその威力の人智を遥かに超えた凄まじさが分かる。


 「エルティエル。お前いい加減なことを言っているな?神の滅祇怒(メギド)発生装置はそこら中にあるものではない。俺の知る限りケテルのデヴァリエにしかないはずだ。なぜこのホドで神の滅祇怒(メギド)が撃てるのだ?」

 「守護天使の賛同が得られ、越界魔法陣が発動されるからよ」

 『!!』


 スノウたちはオルダマトラが越界するところを見ているため、それが実際に存在し、実行されることが理解できた。


 「暇人どもめ。いいだろう。好きにしろ。俺たちは俺たちのやりたいようにやる。神の滅祇怒(メギド)を落としたければやれ」

 「貴方一人がその犠牲になるなら、態々リスクを冒してまでここには来ないわ。スノウを守りたいから来たのよ。お願いだからこのアヴァロンから出て行ってほしい。そしてホドのことは忘れて別の世界へ行ってほしいの。この世界はやがて戦場になるわ。それもアルマゲドン級のね。そんな戦いに貴方たちを巻き込みたくないのよ」


 スノウたちは言葉が出なかった。

 確かに理不尽な要求だが、エルティエルの思いと立場も理解できからだ。

 しばらくの沈黙の後、スノウが話始めた。


 「エル。ありがとう。気持ちは受け取ったよ」

 「それなら!」

 「おれ達はおれ達のやるべきことをやる。その目的のためにアヴァロンに留まらなければならないなら、何かを考えるまでだ。仮にアヴァロンを出るにしてもホドから逃げるわけにはいかない。ここはアレックスやエントワの故郷だ。アルマゲドン級だか知らないが、この世界が破壊される戦争が起こるなら、おれはそれを止めたい。いや、その戦争をやるやつら丸ごとぶっ潰したい。その時は逆にお前を仲間として呼びに行くよ」

 「スノウ!」


 エルティエルは悔しさと嬉しさの入り混じった涙を流して口元を抑えている。


 「そういうこった。ウチのキャプテン兼リーダーがそう言ってるんだ。俺たちもお前さんを仲間と認めるよ。そしてお前さんも仲間だと思うなら、俺たちの意見を尊重してくれってことだな」

 「くだらんな。天使に仲間論など通用するものか。だが、お前は長らく天使の記憶を失いニンゲンとして生きたと聞いた。俺は涙を流せる天使は見たことがない。お前だけは別格ということにしておいてやる」

 「そうね。マスターに対する無礼は未来永劫許さないけど、それ以外なら手を取り合える気がするわ」

 「貴方たち‥‥」


 エルティエルは止まらない涙を拭うと真剣な表情になり決意を固めたように話始めた。


 「いいわ。全部ひっくるめて貴方たちを信頼するわ。そして、時が来たらレヴルストラの末席に加えてもらう。それまで死ぬなんて許さない」

 「へへ、臨むところだな」

 「エル。ありがとう」


 エルティエルは優しく微笑むとバリアを解除した。


 「さて、そろそろ行くわね。私はこれでもネツァクの守護天使代理だから忙しいのよ」


 そう言って軽く手を上げると、光の速さで天に昇っていった。



いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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