<ホド編 第2章> 85.とある時間軸の話
<レヴルストラメンバー以外の本話の登場人物>
【謎の天使】:別の時間軸に登場した天使と思われる謎の存在。身長は3メートルほどで、金色に輝くトーガを纏い、背中に6枚の美しい翼を持ち、左の腰に美しい剣を、左手には明らかに最上位の神杖を持っている明らかに大天使とも違うさらに高位の者と思われる。
85.とある時間軸の話
石像は一見何の変哲もないものに見えた。
しかしスノウが空視を使ってみた本質的構造は神殿のものと同様に因の繋がりが微細な文字の影響なのか、切れては繋がる状態を繰り返しており、常に新しい状態となっていた。
常に壊れて再生する工程が同時に行われている状態であり、壊れたものを再生すると言うより再生するために同時に壊れているという感覚をスノウは持っていた。
「しかしどっからどう見てもお前そのものだよなぁ。違うっつったら、この表情くらいか」
「どういう意味だ?表情が違うって」
「いや、明確にこうだって言えねぇんだけども、なんつーか、性格悪そうな感じに見えるんだよなぁ」
「それはあるかもしれないわね。実は私もそう感じていたの。マスターは全生命体最強だけど、心の中にある核の部分は慈しみだわ。マスターを人間不信に追い込んだ愚劣な者たちなど一瞬で細切れに出来るのだけどそうしない優しさがあるのよ」
「シア‥‥何か、前半は納得できたが後半は違う気がするけど、まぁ何となくその通りな気もするような‥‥。とにかくだ。いずれにしてもよ、この石像はスノウそのものに見えるが実は違う気がしてならねぇんだよな」
「そうか‥‥おれにはそこまで分からないからな。何となく怖い表情だとは思うが、おれも似たような顔している気もするし」
「いや、何か違うんだよなぁ」
「わたしもそう思います。これはマスターに似せた偽物ですね」
自分では分からなかったが、改めて他者から言われると段々そう感じてきて、自分ではない自分が目の前に形作られているのかと思い奇妙な感覚になった。
「それでどうするんだ?結局この神殿はお前のそっくりさんの石像があるって不思議体験しただけで終了か?」
「そうなるかもな」
「こいつもぶっ壊してみるか」
シルゼヴァが不適な笑みを浮かべながら言った。
確かにそうすべきなのだが、幾ら違和感のあるからといって自分を模った石像を壊されるのは複雑な気持ちになってしまう。
「おれが壊す。誰かに壊されると何となく気分が悪いからな」
「フフフ、そうか。怖気付いてしまうならいつでも代わってやるから遠慮なく言え」
「‥‥‥‥」
面白がっているシルゼヴァを一瞬睨むとスノウはフラガラッハを抜いた。
そして石像から距離を取ると、腰を落として波動気を練り始めた。
グググ‥‥ダシュン!ゴゴォォン!!
凄まじい一撃でフラガラッハが石像の胸に突き刺さった。
次に瞬間、スノウは突如意識を失った。
・・・・・
「はっ」
スノウは周囲を見渡した。
場所は同じなのだが、大きく違うところは周囲に大勢の人がおり、皆跪いて祈りを捧げいたのだ。
(何だこれは?!この人たちはいつどこから入ってきた?!い、いや違う‥‥ここは‥‥場所は変わっていない‥‥だが人だけが入れ替わっている!シアは?シルゼヴァとヘラクレスはどこだ?!)
つい数秒までスノウはフランシア、シルゼヴァ、ヘラクレスの4人だけだったにも関わらず、3人は消え目の前では人模様だけが全く違う景色となっていた。
スノウは3人を探す。
だがどこも見当たらなかった。
そしてもう一つ奇妙な状況に気づいた。
(音がない!この人たちは何やら呟いている仕草だが何も聞こえない。それどころか自分の息遣いすら聞こえない!一体何が起きてるんだ?!)
スノウは石像に突き刺さっているフラガラッハを抜こうと試みた。
だがどれだけ力を込めても抜くことは出来なかった。
というよりフラガラッハが現実にあるのかどうかすら分らなくなっていた。
(一体どうなってる?!)
スノウは石像に突き刺さったままのフラガラッハから手を離し、人混みをかき分けるようにして出入り口へと向かった。
「おわっ!」
突如子供が走って部屋に入ってきたため、避けようとしたのだが別な人にぶつかりそうになり体勢を崩してしまった。
倒れないように足を動かした瞬間、奇妙なことが起きた。
「!!」
自分の足が誰かの足を踏んでしまったのだが踏めるはずが透過してすり抜けたのだ。
厳密には触れることが出来ない状態だった。
(何だ?!)
まるで自分が幽体になった感覚だった。
(これは‥‥)
スノウは自分が精神体としてその場に存在しているのだと認識した。
(どうやらおれはあの石像にどこか別の時間軸に精神体だけ飛ばされたらしいな。おれ自身が何かとリンクしたか、フラガラッハが何かと反応しておれをこの時間軸へと飛ばしたか。いずれにしてもここはあの石像がおれに何かを見せようとしているのかもしれない)
スノウは多くの人たちが行き交うなか、避けることなく部屋から出ていった。
部屋の外には神殿に入ってきた時とは構造が違っていて普通に外に繋がる扉まで床が広がっていた。
(何かがあってこの床は抜けて、おれ達が入ってきた時のような構造に変わったってことか?)
スノウはそのまま神殿の外へ出てみる。
「!!」
スノウは目を見開いて驚きの表情を見せた。
そこには一面緑に覆われた大地が広がっていたのだ。
所々に木々が生えており、自然にあふれた美しい景色だった。
(これは遥か昔のホドか、それとも緑を取り戻した未来のホドか。神殿内部の床があったことを考えると過去のような気もするが、あまり決めつけずに見ていった方がいいな‥‥あれは街か?)
スノウは少し離れた場所に多くの建物が建っている一帯を見つけた。
然程大きな規模ではないが、街を形成しているように見えた。
(行ってみるか‥‥!)
スノウは上空を人が飛んでいるのを見た。
(リゾーマタの魔法で飛んでいる?‥‥いやどこか違う感じだ。リゾーマタ特有のエレメント系の魔法が見えない。炎も風もないとなればリゾーマタでは飛行は難しいはずだ‥‥!!)
スノウは他にも空を飛行している人々をみた。
皆当たり前のように飛行しており、中には本らしきものを読みながら飛んでいる者や、あぐらをかいた状態でパンのような物を食べながら飛んでいる者もいた。
(どんな原理で飛んでいるんだ?!‥‥ここはあの神殿を作った高度な文明の時代なのかもしれない。物質に破壊と再生を常時に与えて新しい状態を維持させ続ける技術はおれが見てきたハノキアのどの世界にもなかったし、スメラギさんだってそんな発明は出来ないはずだ。あれは万空理でも相当高度な能力が使えなければ出来ないものだ。スメラギさんは万空理を知らないはずだしな。‥‥考えていてもしょうがない。あの街の中に答えがあるかもしれないからとにかく行ってみよう)
ドクン‥‥ドクン‥‥ドクン‥‥
街に近づくにつれて音は聞こえないのだが、空気の揺れのようなものをスノウは感じ始めた。
まるで鼓動のようなリズムを刻んでいるように空気の波が街から広がっていく感覚だった。
(何だ?!分らないことだらけだぞここは‥‥しかもこの空気の波は感じるたびにエネルギーが漲っていく感覚がある。それだけじゃない。精神が生まれ変わるような感覚さえある。一体何なんだ?!)
キィィィィィィィィィィィィン!
「?!」
突如音もなく全身を切り裂くような感覚が広がった。
(殺意のオーラだ!どこからだ?!‥‥上か!)
スノウは空を見上げた。
そこには巨大な魔法陣が形成されており、無数の人影がいた。
(いつの間に?!)
それまで平和に見えたその場にいた人々は慌てふためいたように街に戻る者、神殿に向かう者に分かれて走り出した。
その表情は鬼気迫るものだった。
スノウは街へ行きたいと思ったが、神殿に戻らなければならないという感覚になり神殿へと向かった。
振り向くと上空にいた無数の人影は街に降り立ち街を攻撃し始めた。
建物がひとつひとつ砂のように崩れていくのが見えた。
(おれ達が石像を壊したときと同じだ!‥‥)
「!!」
神殿へと向かうスノウの前に上空にいた者のうちのひとりが降り立った。
当然スノウに気づくことはない。
だが、スノウはその姿を見て驚愕した。
スノウはその者の背後に立っているため顔は見えなかったが、身長は3メートルほどで、金色に輝くトーガを纏い、背中に6枚の美しい翼を持ち、左の腰に美しい剣を、左手には明らかに最上位の神杖を持っている姿だった。
(天使‥‥いやそれ以上だ。唯一神に等しいほどの大天使‥‥誰だこいつは?!)
目の前の天使はゆっくりと神殿へと歩き出す。
だが数歩進んだところで足を止めた。
「‥‥‥‥」
天使はゆっくりと振り向く。
「!!」
気づかないはずの精神体のスノウを見ている。
表現のしようのないほど美しい顔でスノウをしばらく見つめると僅かに微笑んだ。
そして何かを呟いたが、音が聞こえない状態で知らない言語で話しているのか読唇もできず理解はできなかった。 天使はそのまま向き直り、神殿へと入っていった。
スノウも後を追う。
神殿の入り口を入ると数名の人が天使を通さないように両腕を広げて壁を作っている。
そしてその背後には何か指揮者がタクトをふるような動作をしている者がいた。
その直後、神殿内から灯りが消え、地面が崩れ落ちた。
(地面がなくなったのはこれが原因か!)
天使は神杖を上にかざすが何も起こらなかった。
魔法が使えないことを悟ったのか、翼を広げて飛行し始めた。
スノウは対岸までの距離を知っているため大きく跳躍して反対側へと飛んだ。
精神体であるせいか、物理的な制約を受けず空を飛ぶようにして対岸の床に着地した。
天使も同様に着地すると部屋の扉の前に立った。
剣を抜いた天使は凄まじい一太刀で扉を斬る。
すると扉は砂のように崩れてなくなった。
ゆっくりと一歩一歩前に進む天使の後をついていくようにスノウも部屋の中へと入っていく。
(石像がない!そうか、これは反転した下にある部屋じゃないんだ‥‥いや待てよ、おれがこの時間軸に精神体として来た時は反転していなかった!普通に床があったんだ!ってことはさっきの床が抜けた時に部屋も反転したってことか!つまり石像は下の部屋に反転した状態で存在してるということだ!)
天使は周囲を見渡すとその場にいる者たちの首を掴んで持ち上げた。
そして何かを問いかけている。
だが、首を掴まれている者は笑みを浮かべて答えていない。
覚悟を決めた表情で死を受けいているように見えた。
天使は掴んでいる者を放り投げた。
凄まじい勢いで飛んでいった者はぐちゃぐちゃになって死んだ。
他の者も皆、死を覚悟したように平然と笑みを見せて立っている。
逃げることもなく、何かの役目を負っているようにその場に居座って、荘厳な天使を前に怯むことなく向き合っていた。
天使がその者たちを皆殺しにするのに然程時間はかからなかった。
不満そうな表情を一瞬見せたあと、天使は翼を広げて飛び立ち神殿から出ていった。
“無限エンジンはどこだ”
「?!」
音がなく何も聞こえるはずのない状況の中でスノウは微かに言葉を聞いた。
おそらく見知らぬ言語で話しているはずなのだが、天使が呟いた言葉をスノウは思念として聞きとった。
(ファッハ・ジャイア?‥‥何だそれは‥)
「!!」
キュィィィィィィィィン‥‥
スノウは何かに引っ張られるような感覚になった直後気を失った。
目を覚ますとそこは元の時間軸に戻っているようで3人の影がぼんやりと見えた。
「大丈夫ですかマスター!」
心配そうなフランシアの顔が目の前にあった。
(戻って来たのか‥‥何だったんだあれは‥‥)
スノウは頭を抱えながらゆっくりと起き上がった。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




