<ホド編 第2章> 83.謎の神殿
<レヴルストラメンバー>
・スノウ:レヴルストラのリーダーで本編の主人公。ヴィマナの船長。
・フランシア:謎多き女性。スノウをマスターと慕っている。どこか人の心が欠けている。ヴィマナのチーフガーディアン。
・ソニック/ソニア:ひとつ体を双子の姉弟で共有している存在。音熱、音氷魔法を使う。フィマナの副船長兼料理長。
・ワサン:根源種で元々は狼の獣人だったが、とある老人に人間の姿へと変えられた。ヴィマナのソナー技師。
・シンザ:ゲブラーで仲間となった。潜入調査に長けている。ヴィマナの諜報員兼副料理長。
・ルナリ:ホムンクルスに負の情念のエネルギーが融合した存在。シンザに無償の愛を抱いている。ヴィマナのカウンセラー。
・ヘラクレス:ケテルで仲間になった怪力の半神。魔法は不得意。ヴィマナのガーディアン。
・シルゼヴァ:で仲間になった驚異的な強さを誇る半神。ヴィマナのチーフエンジニア。
・アリオク:ケセドで仲間になった魔王。現在は行方知れずとなっている。
・ロムロナ:ホドで最初に仲間となったイルカの亞人。拷問好き。ヴィマナの操舵手。
・ガース:ホドで最初に仲間になった人間。ヴィマナの機関士。ヴィマナのエンジニア。
83.謎の神殿
神殿に入るとすぐ目の前に楕円形の石畳があった。
不思議なのはその楕円形の石畳は空中に浮いていることだった。
「何だよこりゃぁ!」
ヘラクレスは扉から入ってすぐにある切り立った崖の下を恐る恐る見てみる。
「底が見えねぇぞ‥‥」
「この石畳は完全に浮いているぞ」
石畳に興味があるのか、シルゼヴァは石畳を色々と調べている。
「この石畳に乗って移動するとかかな」
スノウの言葉にシルゼヴァとフランシアは納得した表情を見せ頷いたがヘラクレスだけは首を小刻みに横に振って拒絶している。
「遠慮するなハーク。これくらいのことで立ち止まっていたらいつになっても領土の獲得宣言が出来んぞ」
シルゼヴァの言葉にスノウ、フランシアは頷く。
「全く‥‥人使いが荒いぞお前ら‥‥」
ヘラクレスは項垂れた様子でゆっくりと石畳に足を乗せてみる。
「ん?」
ヘラクレスは石畳に慎重に乗せた左足に体重を乗せていくが空中に浮いているように見える石畳はしっかりと固定されているようでびくともしないため全体重を石畳に乗せた。
「問題なさそうだぜ」
「単に浮いているだけなの?」
「ああ。とにかく俺が乗っても問題ない!すごいなこれ!」
「問題ないって言っても、石畳の先には何もないんだぞ?」
「まぁそうだが‥‥え?!おっと!」
突然石畳が動き始めたためヘラクレスはバランスを崩し何もない空間へと落ちそうになった。
何とか踏ん張ったヘラクレスは石畳に誘われるまま前方へと進んでいく。
そしてスノウ達から見えなくなった辺りで石畳は止まった。
ヘラクレスの目の前にはしっかりとした床が存在している。
「降りていいんだよな‥」
ヘラクレスは慎重に石畳から床に移動した。
「!」
ヘラクレスが床に移動したのを検知したかのように石畳は音も立てずに元の場所へと戻っていった。
「おぉい!こっちは大丈夫だぞ!空飛ぶ石の床に乗ればこっちに運んでくれるぞ!」
ヘラクレスの言葉通りシルゼヴァ、フランシア、スノウは石畳で移動した。
「何か意味があるのか?この空飛ぶ石板は」
「元々こんな地形で橋でも作らないと渡れない場所だったところに遥か昔の高度な文明の者達が作った移動手段なのだろうな」
「なるほど‥‥って石板向こうに行ってしまったぞ!」
「呼べば来るんじゃないか?試しに呼んでみるか!おーい石ぃー!こっちこい!」
ヘラクレスはふざけているかのような仕草で言ったのだが数秒後、石畳はヘラクレスの前にやって来た。
「おお!この石優秀だぞ!まるで飼い犬みたいだぜ!」
「おい、行くぞハーク。俺たちは暇じゃないんだ」
「わぁかってるよシルズ。皆まで言うなって」
石畳が対岸まで進む中間辺りから、周囲が暗くなったため、スノウはサイトオブダークネスを発動した。
「!‥‥おい、どうなってる?!」
「どうかしましたか?マスター」
「サイトオブダークネスを発動したつもりが発動しないんだ」
フランシアは手のひらを目の前出した。
「どうやらここでは魔法が使えないようですね。ファイヤーボールを出そうとしましたが発動しませんでした」
「俺もだ。どうやらこの神殿、魔法をかき消す力が働いているようだな」
「やはり無理か‥」
「お前は元々魔法が使えないだろう?気持ち悪い演技はするなハーク」
「‥‥‥‥」
ヘラクレスは少し寂しそうな表情を見せて俯いた。
それを無視するかのようにスノウが話し始めた。
「つまりさっきの石板移動も足を踏み外せば魔法で飛ぶことも出来ずに落下してしまうってことか‥‥。魔法が使えないとなるといざという時の行動の選択肢減るな。マジで慎重に進もう」
スノウはポーチから布を取り出してブーツに仕込んである短剣を取り出しその先に巻きつけ油を染み込ませた後火を点けた。
「用意がいいじゃないかスノウ。何でも魔法で片付けちまうお前が何でそんなの持ってんだ?」
「ん?いつも持っているぞ?魔法が使えない場所はこれまでもあったし、そもそもサバイバル術は少しは身につけている。それにおれはネツァクで道具屋をやっていたからな。冒険者たちが何を買うのかをずっと見てきたんだが、武具の次に売れてたのが窮地に陥った時の応急セット的なものなんだよ。それだけ、ダンジョンや秘境を冒険するってことは危険が潜んでいるっていう話だ。それで持てる範囲で常に携帯している。なるべく小型化してな」
「ほぇ‥‥器用なやつだなぁ」
「お前がズボラで杜撰なだけだハーク」
「お前もだろシルズ」
ボゴン!!
「ふぐ!」
シルゼヴァの強烈な蹴りがヘラクレスの鳩尾にヒットした。
そんなやりとりを無視するかのようにスノウは周囲を簡易的な松明で照らした。
ぼんやりと照らされる景色は明らかな人工的造りの通路だったが、どこか違和感のある不気味な雰囲気を漂わせていた。
「生命反応も魔力反応もない。ヘラクレスの言う通り、この神殿には何者も入ることが許されなかったのかもしれないな」
「マスター、見てください」
フランシアが前方を指さした。
その先には大きな扉が見える。
「また扉かよ‥‥スノウ、その、バンクールだっけか、それでチャチャッと開けちゃってくれ」
「万空理だ」
スノウ達は扉の前に立った。
この扉も入り口のものと同様にかなりの年月が経過しているはずにもか関わらず、破損や腐食が見当たらない。
スノウは右の手のひらで扉に触れる。
(ここもだ‥‥因と因を結ぶ繋がりにもの凄く小さな文字が張り付いて蠢いている。そして繋がりを切っては繋げている。それだけじゃない。因の粒子そのものも壊して再生しているように見える。一体何なんだこれは‥‥)
スノウは空視でさらに扉の構成因子の奥深くへと視線を向ける。
(綻び‥‥あれは‥‥)
スノウは黒い微細な蠢く文字が痙攣するような不可解な動きをしている箇所を見つけた。
(切ってみるか‥‥)
スン‥スゥゥゥゥ‥‥
扉が砂のように消えた。
「おお!さすがスノウだな!だが向こう側真っ暗だぜ?」
「照らしてみるよ」
スノウは簡易的な松明で扉の先にある場所を照らした。
広い空間になっているように見えた。
薄暗いが扉らしきものはなく、行き止まりとなってしまった。
「まさかこれだけってことか?まぁ神殿の大きさ考えたらおかしくはないが、こんなのに態々あんな面倒な扉付けるか?普通‥‥」
「そうだな。どこかに仕掛けがあるのかもしれない。手分けして探してみるか」
3人はスノウの意見に賛同し、4人で部屋を調べ始めた。
だが何もなく、スノウの空視を持ってしても扉らしきものは見当たらなかった。
念の為床や天井も調べたが何も見つけられずとなってしまった。
「一体何なんだこの神殿は?どうする?一応土地を占領する上での拠点には出来ると思うけどな」
「それはありだが、どうも引っかかる。と言うかしっくりこないんだ」
「俺もだスノウ。あの扉の仕掛けから相当高度な文明が作った神殿と言える。そもそも神殿ではない可能性もある。いずれにしてもここが神殿だとした場合、神を祀っているはずだ。それがないということは、ここが神殿ではないか、別の隠し部屋があってそこに祀られているかのどちらかだろう」
「おれは隠し部屋がある気がしているよ。あくまでおれの感覚だけどな。そもそも誰も入ってこられないような仕掛けがあるんだ。さらに人を通さないようにする仕掛けがあってもおかしくない。もしかするとここは秘密裏に祀られている神の神殿なのかもしれない。もう少し探してみよう」
「部屋の外もな。もしかすると、石板に乗らずに谷底に落ちる必要があるのかもしれないぞ。魔法が使えない以上、壁を伝って降りるしかないが、この魔法も効かない再生する壁を伝って降りられるのかは疑問だがな」
「よし、おれが石板を見てこよう。3人はもう少しこの辺りを調べてくれ。松明はここに置いていく」
3人が頷いたのを確認するとスノウは石畳の方へと慎重に歩いていく。
「この石板に何か仕掛けがあるのか?‥‥おっと!くっ!」
スノウは石畳に触れてしまったため、石畳は動き出してしまった。
バランスを崩したスノウは石畳に飛び乗ろうとするが、体勢を崩したまま飛んだため、石畳に片手一本でぶら下がる形となってしまった。
「あぶねぇ‥‥え?」
スノウは自分の服が持ち上がるようにして石畳の裏面にひっついているのに気づいた。
「何だ?!」
スノウは恐る恐るもう片方の手で石畳の裏側に触れてみる。
「!!」
スノウは驚きの表情を見せた。
「ここだけ重力が反転しているみたいだ。一か八かだが乗ってみるか」
スノウは片手でブラさった状態で両足を石畳の裏側に触れるように持ち上げた。
ストッ‥‥
「やっぱりか!」
スノウはゆっくりと石畳を掴んでいる手を離した。
「マジか‥‥これ、一体どうなってる?!」
石畳自体に重力があるかのように、スノウは石畳の裏面に逆さ吊りのようにして立っていた。
だが、石畳の裏面に重力場があるため、逆さであるにもかかわらず普通に立っていた。
「すごい技術だ。魔力を感じないとすると魔法ではないはずだから、科学技術なんだろうか‥‥」
スノウをぶら下げている形になっている石畳は入り口の床に触れると、そのまま反対側へと動き出した。
「おれの重力を裏面も感知して動かしているってことか。ん?」
スノウは前方に何かを見つけた。
「扉か!」
上の方にはシルゼヴァたちが部屋の入り口付近や部屋の中を調べているが、重力場が反転している石畳の裏面に立っているスノウは、ひっくり返った状態の扉を見つけた。
「一体どうなっているんだ?!」
スノウは恐る恐る反転している床に足を踏み入れた。
「ここにも重力場があるのか?」
反転している重力場の床に普通に降り立ったスノウは扉に近寄る。
そして空視で綻びをみつけよと目を凝らした。
「同じ場所に綻びがある‥‥」
ス‥ススン‥‥
綻びから因の繋がりが解けて扉が消えた。
「!!‥‥何だこれは?!」
視界に飛び込んできた景色にスノウは目を見開いて驚きの表情を見せた。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




