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夫と浮気相手が現れた!腹たつ!先に出会えるもんなら出会ってみたらいいじゃない!

作者: 鈴木めりよ

 「あたしが先に出会ってたら今頃…、神様は意地悪ね! ただ出会うのが遅かっただけなのに! あたしのほうがあなたを愛してるのに!」


 「ジュリー、そうかもな、妻より早く君に出会ってたら確かに違っただろうな…」


 「悲しいわ…、きっとあたしがあなたの運命の相手だったはずなのに!」


 ただいまお昼休み、私と夫の職場であるお城の中庭にて、夫カインと浮気相手(どうやらジュリー?)の茶番が繰り広げられていたのでとりあえずそっと木陰から見守ってみた。


 私の名前はアルマ・アップベル。茶髪に茶目の平凡な容姿の29歳共働き、仕事はお城の治療室で治癒師である。

 茶番のヒーローである夫はカイン・アップベル。金髪に青い目で長身、なかなか整った顔をしている30歳。同じくお城勤めの、第四騎士団副団長。

 茶番のヒロインな浮気相手ジュリーは桃色の髪に水色の目をした20代前半かな? なんの仕事してるんだろー? 制服な感じメイドさんかな。


 ふむ、どうやら先に出会ってたら私たちは結ばれてた運命の人?なはずなのにと話しているらしい。

 そんなに好き合ってるなら、今からでも離婚できるなら離婚して差し上げたいくらいなのだが、残念ながらこの国は離婚ができない制度だ。

 この国はひと昔、ほいほい離婚する夫婦が増え、国が管理するの大変になったのと、今の王様がロマンチストなので恋愛結婚を推奨し、婚約までは破棄可能だが、愛を誓って結婚までしたら離婚はできない制度だ。


 お金持ちな商家の四男で末っ子、カイン・グラノーラ。家がお隣で騎士家の長女で一人っ子な私、アルマ・アップベル。父親同士が親友。平民同士。

 婚約は私が6歳、カインが7歳の時に決められた。しかもカインから一目惚れだから結婚してやるってぐいぐい言ってきたので親も婿養子に乗り気になってしまい、私には断る権利がなかった。この国は少し男尊女卑なのだ。跡継ぎは男って感じ。


 というわけで私より早く出会うにはカインが7歳になる前でないと、現在の浮気相手は5歳下くらい?2歳とかか?頑張って私より早く出会えば一目惚れされるかもね。

 ほんと、そんなに結ばれたいと嘆いているなら…、ぜひとも一度結ばれてみてほしい。結婚するまでもしてからも結構大変だったんだから。


 カインは商家の四男で末っ子だ、兄達とは年が離れていたため大変甘やかされて育った。子供の頃は我が儘で大変だった。自分の思い通りにならないと癇癪をおこして暴れる、泣き叫ぶ。それに負けず嫌いで、私に勉強負けて悔しかったから勉強しだしたりで、私が負かさなきゃ頭も悪いままだろうな。私がパパみたいな強い男ってかっこいいよねって言ったから剣術も魔法も覚えてたから、私いなきゃ弱いままだろうし、きっと華奢で我が儘でお馬鹿な女好きの美形ボンボン様に育つな、うん。


 私のパパは騎士団員で城下町の警備、第七騎士団団長をしていた。ママは私が8歳の時、出産で亡くなってしまった。赤ちゃんはお腹から出ることができなかった。ママと赤ちゃんが亡くなって、パパは私とついでに婚約者なカインに剣や魔法を教えてくれた。パパは男手一つで私を育ててくれた。

 カインは私のパパに憧れて騎士になった。騎士学校へ入学し、無事卒業して、パパの伝手もあり、騎士団へ就職できた。私も騎士になろうかと思っていたが、カインが私を守ってくれるために騎士になってくれたので、私はカインにもしもの事があったら助けられるように、お城の治癒師になることにした。私も無事治癒師として就職して、少し生活が落ち着いた20歳頃に私たちは結婚した。

 ちなみにパパは現在引退して田舎の町でのんびりしている。


 カインは顔は美形だが自分のことにはほんと無頓着で、現在着ている下着も靴下も私が選んで買ったやつ。制服のシャツも毎日私が洗濯してピシッとしている。整った髪型も私がこないだ魔法でちゃちゃっとカットしたやつ。言わないと風呂も進んで入らないようなやつだ。たまにクリーンの魔法もかけてやってる。私が用意しないとご飯は食べないとか言い出す、まれに外食。朝は弱くて優しく起こさないと不機嫌になる。休みの日に放置すると不機嫌になる。

 掃除ってなに? ご飯まだ? 俺これ嫌いー、何着て行けばいい? な人だ。ほんと、よく騎士が勤まる。

 カインが清潔で爽やかにセンスよく見えるのはすべて私のお陰である。


 カインは私にべったりだが、少しお調子者で顔が良いためかよく浮気する。さらに騎士は職業柄、遠征とかよくあり、遠征に行っている間はほとんどの騎士が浮気するらしい。


 この国は離婚できないため、既婚者と知ってもそれでもいいと言う女性が多い。遠征先での現地妻になりたいらしい。遠征終わった騎士達が王都に帰るとしばらくして浮気相手が王都に突撃してきて近くに暮らしだしたりすることがよくあるらしい。

 騎士は憧れの男性職業の第二位らしい。ちなみに第一位は王子様。

 なのでよくモテる。


 私はあまり詮索しない、興味がないタイプなので、まったく気づいてなかったのだが、そんな私でもさすがにおかしいと気づいた浮気相手たちがちらほら。

 一人は私の勤め先に押しかけてきて、私を刺そうとしてきた。さすがに気づいた。刺されそうになったから返り討ちにした。お前がいなければカイン様は私の物なのに!てきなことを叫んでいた。私に危害を加えようとしたことで怒ったカインにより牢屋に入れられた。私には思い込みの激しいストーカーだと言っていた。

 二人目はカインの制服のポケットに見たことない時計と手紙が入ってた。手紙の内容はこないだはありがとう、愛してる、また早く会いたい…てきな。これもナニコレと突き詰めたところ、ファンからのプレゼントだそうだ…黒だろう。

 その他にもシャツに口紅ついてたり、香水臭かったり、どこどこで旦那さん見たよ~って知人に言われたり、怪しいところはたくさんある。

 私には浮気はしていない。肉体関係も持っていない。彼女たちの思い込みだ、気にするなと言い訳。

 だが騎士は娼館通いや浮気は国公認だそうだ。経費まででるらしい。カインは副団長だし、真っ黒だろう。

 最初は女の気配がでるたび悲しくて苦しかった。ずっと信頼してきたカインの裏切りに、悔しくて泣いて。すがったり…はしてないけど、されて嫌なことはしたくないから仕返しもしてないけど。


 けれどまぁ悩んだところで離婚はできないし、どうせ帰ってくるし、放置でいっかとなった。


 私たちには子供がいない。魔力の相性の問題なのか、なかなかできないのだ。私はママを出産で失っているからか少し怖い気持ちもあるんだけどね。

 だからもし浮気相手に子供が出来たら…とか不安になる日もある…、さすがにそこまでクズじゃないと信じているけど。


 腹立ってきたなぁ…、こんな私もいる職場で…バレないわけないでしょ…。

 浮気現場に出くわしたのも初めてだし、カインのあんな甘い顔も久しぶりに見たし…。


 最近、目が合わなくなったり、すぐ機嫌悪くなるし、私なんか嫌われるようなことしたかなって思ってちょっと悩んでた…、浮気してたからかい!


 あぁほんと真面目に生活してるこっちの身にもなれ! 腹立つ!


 ほんと、なんでこの国、離婚できないかな。


 いっそ私も行動の制限されず、自由に過ごしたい。一人で家に籠って猫でも飼って、好きな本読んで、のんびり暮らしたいな、なんて思ってた今日この頃。

 もう結婚とかしたくなーい! 働きたくなーい! 家事だって疲れるし! 仕事だけど人の怪我癒してる場合じゃないよもう! 誰か私の心の傷も癒して下さーい!

 とりあえず浮気者ムカつくー! もっと私に感謝しろー! できるもんなら離婚したーい! 捨ててやりたーい!!

 パパー!! カインが本気っぽい浮気したー!! そっちに帰っていいですかー!?


 はっはっはー! 実は過去に何回も浮気されてムカついていたので、次カインの浮気が発覚したらなんかしようと思ってました。


 なので、探して調べて覚えてましたー!


 じゃじゃーん!時戻しの魔法アノトーキ!


 なんと術者の現在の記憶を持ったまま、戻りたい過去に戻って一度だけやり直しが体験できるという優れもの。ただし夢の中で。その時こうしていたらこうなってたという体験ができるのだ。

 こうなってたらいいなは通用しない、そっちを選んだらこうなっていたという体験だ。

 一度だけ選択を変えたらその選択の人生を追体験で見せてくれる。

 本によると、時の女神様が現在に感謝できない欲張りな人間のためにノリで作ってくれた仮想体験魔法だ。


 ぜひカイン達にやって頂きたい。


 ちなみに好都合で、三人まで一緒にそれぞれのあの頃からを体験できるらしい。

 現実の肉体は眠って、夢を見るようだ。

 意識あるまま眠ってるようなもので、過去から現在までの年しか見れない&途中でやめるのもスキップも可なので、目覚めは人によって違うらしい。

 だいたい一年が一分くらいらしい。私とカインは長くても30分くらいかな?


 ここはカイン、ジュリー、私の三人でやってみよー!


 私とカインは婚約しないと選択するでしょー!

 ジュリーはわかんないけど、どっかやり直してカインと出会って運命の恋に落ちて下さい。


 それで過去に戻って結婚しないバージョンを体験してみて、カインが私の有り難みに気付かず、やっぱジュリー最高ってなったら、もう別居して仕事辞めてパパのいる田舎の町に引っ越そうかなと思うよ!


 今日暑いからか今ここには私たち3人しかいないみたいだし。ちょうどよし!


 というわけで! 木陰からこんにちはー!


 「はぁい!! あなた!」


 と飛び出して見ました。


 「「!!!?」」


 「あっあああアルたんっ!?」


 あっ夫カインは私をアルたんと呼んでます。びっくりして素が出たようだ。カインは私の前では我が儘甘えん坊属性が出てしまう。外ではクールでテキパキ仕事できる系だ。そう、まるで別人。


 「えっ誰? アルたん?」


 混乱するジュリーさん。


 「なんか二人とも、ものすごく悲しそうで可哀想だから、協力してあげようと思って、素晴らしい魔法をかけてあげようと思います!」


 「ちっ違うんだアルたん、彼女とは!!」


 「カイン様!? 違うってなにが!?」


 「はい黙って。言い訳は聞きたくない。今回はダメ、もうダメ、アウトー。なので聞いて下さい」


 と二人に口封じの魔法をかける。


 「「…」」


 あー静かになった。


 「説明するね! これから仮想体験魔法アノトーキをかけるから、それぞれ戻りたい時に戻って人生のやり直しを体験してきてくれる? カインは私と婚約しないこと、私もカインと出会わないで婚約しない選択をするから、そうすればカインは独身のままで、運命の相手であるジュリーさんと出会うはずだから、ジュリーさんと結ばれていたらどうなったかを体験できるわ。ジュリーさんはいつに戻りたいかわからないけどやり直したい年齢に戻ってカインと出会えるように頑張ってちょうだい。運命の相手だからきっと出会えるっしょ。私はカインと結婚しなかったらどうなってたかを見てくるから。夢から覚めて、それでも二人の絆が本物だった場合、私は大人しく身をひいて田舎のパパのところに行くわ。ちなみに眠るだけで身体に害はないみたいだから安心してねっ! じゃっ!」


 さて、えーと、こないだ紙に書いた魔法陣を用意して、三人の真ん中に置いて、念じる、時の女神様、私と夫カインとジュリーさん! 三人まとめてお願いします!


 アノトーキ!!


 魔法陣が発光してものすごい光が私たち三人を包んだ。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 「アルマ、お隣のグラノーラ家のおじさんが、来週にでも息子さんと遊んでみないかと言ってくれてるんだけど、どうする? アルマもそろそろ年の近いお友達が欲しいだろ?」


パパの声だ。私は目を開ける、王都の家の食卓だ。私は座っている幼い私の頭上くらいから見渡す感じだ。演劇をものすごく近くで見てるみたい。

 テーブルにはたぶん6歳の私、20代だろう若いパパと同じくまだ若い美少女なママが優しい微笑みを浮かべて座っていた。サラサラと腰まで伸びた、プラチナブロンドの髪に宝石のような薄紫の目をした透き通った肌の美少女、ママだ。涙が出そうになる。そっかママがまだ生きてる。


 私の感情とは別に幼い私はきょとんと勝手に答えた。


 「えー、おとこのここわい。おんなのこならいいよー!」


 「そうか、そうだよね、アルマには男友達なんていらないよね。まずは女の子のお友達のほうがいいよね。うんうん、パパもそう思うよ」


 「あなたったら…」


 「ハンバーグおいしいねー! ママ! あしたはほんやたん行こー!!」


 「はいはい、アルマったらお口の周り汚してるわよ」


 「そうだよなぁ家の天使にはまだ早い、ダムには明日断ろうっと…」


 ダムとはパパの親友のお隣の金持ち商家、カインのお父さんだ。なるほど、これでカインとは出会わないかも。

 現在の私は会ってもいいよーお友達ほしいーって言って一目惚れされて婚約者にされるのだ。

 にしても若いママ美女でびっくりするわ…亡くなって随分とたつから少し記憶が薄れてて、こんな美人さんだったんだなぁ…私は肌の色以外すべて髪も目の色もパーツもパパ似なんだな。


 微笑ましい家族三人の食卓。私は幸せそうだ。ご飯を食べ、ママとお風呂に入り、子供部屋のベッドに入れられた眠そうな私にママはお話をしてくれていた。


 「いーい? アルマはママとパパの宝物よ。きっとこの先アルマもパパのような素敵な旦那様に出会うはず、そしたら自分の気持ちに正直になること、どんなに旦那様が大好きでも、嫌なことは嫌、素直になんでも話し合って、寄り添って、幸せになってね。アルマは世界で一番素敵な女の子よ。もし何かに失敗したり、後悔しても、あなたの選んだことなら、きっと大丈夫。自分を信じて前を見てね。ママはずっと見守ってるわ…」

 私は眠った。ママはそっと私の額にキスをして、ベッドから離れ、部屋から出て行った。

 ママ…、自分がいなくなることわかってるみたいなこと言ってる…。


 それから時は流れて、カインが遊びにこないだけで基本行動は同じかな、本読むか、ママのお手伝い、魔法の練習したり、たまーにママの友達の家に遊びに行って女の子の友達と人形遊びしたり。ただこのままだと甘やかされて男嫌いの人見知りになりそうだ。

 ママは毎日眠る前に私にお話しをしてくれて、まるで自分が早くいなくなるのをわかってるみたいだった。

 パパはママにデレデレで、仕事が終わるとまっすぐに家に帰ってくるので浮気の心配は皆無っぽい。騎士なのに…ちなみに遠征したくないから城下町の警備である第七騎士団に所属したらしい。

 過去のママに会えただけでもこの魔法を使ってよかったな…。私、パパにもママにもすごく愛されてる。戻ったらパパに美味しいハンバーグ作ってあげようかな。


 一年たってしばらくした頃、ママが妊娠した。ママとお腹の赤ちゃんが亡くなるのはすごく悲しいので、私はママが亡くなった8歳まで体験をスキップをした。


 「アルマ、パパ頑張るから、ママの分もアルマを愛するから、これからは、アルマの幸せのためだけに生きるから、お願いだよ、ご飯を食べておくれ」


 私の部屋のベッドの中だ。

 パパがシーツに丸まった私を抱きしめて語りかけている。


 「ママがいい!! パパのご飯やだ!! ママのがいい!!」


 「お料理へたくそでごめんな、アルマ、ごめん。パパ上手になるから」


 「うわーん!!」


 やばい、つらい、直後すぎた、もう少しスキップだ。


 でも現実の私の時はこんな引きこもったりした記憶ないなぁ。

 そっか…、カインが隣にいたんだ。ママの出産の時、私はカインの家に預けられていて、亡くなった報せを聞いた時はカインが隣にいて、すぐに私を抱きしめてくれた。


 「死ぬって何?ママがいなくなっちゃったって、なんでぇ、赤ちゃんも…」


 「大丈夫、アルたんにはオレがいるから、オレは絶対いなくならないから…、泣いていいよアルたん、オレがいるから、いっぱい泣いていいんだ」


 カインもこの時9歳とかだろう、どうしていいかわかんなかっただろうに、それでも泣きじゃくる私を抱きしめてずっと背中をなででくれた…。私はお葬式が終わるまでカインの家で過ごしたんだ。お葬式が終わってからはカインが私の家に泊まりに来てくれて、一緒に料理したり洗濯したり…。パパが仕事でいない時間もずっとカインが一緒だった。


 「アルたん、オレおむらいす食べたい!」


 「カインのお家のお手伝いさん作ってくれるよ?」


 「アルたんの作ってくれるやつがいい!」


 「あるま、まだ上手にできないよ?」


 「いい! じゃあ、卵オレがやってやる!」


 「うん!!」


 少しスキップして、私はパパにべったりになっていた。この国の子供は10歳~18歳までそれぞれ行きたい学校へ行く。現実では普通の庶民向けの魔法学校に入学して自宅から通っていたが、カインといない私はパパの近くで働きたいと女性ながらにして王族貴族も通う騎士学校へ入学していた。髪はばっさり切り、なるべく目立たないように自分に姿くらましの魔法をかけ、通学はこっそり転移魔法を使い、基本学校と家の往復でなるべく外に出ない、いつも下を向いてムスッとしてる、真面目&父のお蔭で、剣術も魔術も目立たない程度になかなか優秀。友達はいなく、いつも一人。パパの前だけでは笑うようなそんな人見知りな子になっていた。


 そっか、今の私はカインがパパを騎士になって支えてくれるって言ってくれたから、じゃあ私は治癒師になってママみたいな人を助ける存在になりたい、パパとカインが怪我したら治してあげたいって思ったんだ。

 学校に行くまでは二人で家庭教師に勉強習ったり、パパにいろいろ習ったりしてて一人きりの時間はほぼなかった。学校は別々だけど毎日カインと会っていたから自動的にカインの周りの友達が私の友達にもなり、交流関係が広がっていったんだ。

 誰にでも優しくてちょくちょくモテるカインに嫉妬しては喧嘩したりしてたけど、最後にはいつも仲直りして笑顔だった。



 カインと出会わない私は一人ぼっちだ。なんか見てるの辛くなってきた。ちょっとスキップしよう。

 18歳、騎士学校を卒業した私はどうやら父のいる第七騎士団の補佐事務に就職したらしい。主にその騎士団の事務処理を担当する裏方だ。緊急時は出動もする戦える事務職である。父が団長のため、団員さん達は私を娘のように可愛がってくれている。私は毎日父と団員さんのためにせっせとお弁当作りをしている。やはり、家事全般は私がやっているようだ。

 19歳頃かな?ある日異変が起きた。


 「君があの幻の、アップベルおじさんの娘?」


 なんと、カインが第七騎士団室に現れた。見慣れた金髪に青い目のイケメンだ。ただし髪の毛は伸び放題を一つに結んでいるし、着ているシャツはヨレヨレだ。それでもイケメンだからか、なんかいい感じに見えている。


 「はい?」


 「へぇ~おじさんにそっくりな可愛い顔してるじゃん! 俺、ずっと隣に住んでた商家の息子、カイン・グラノーラ、よろしく!」


 「はぁ、ダムおじさんの四兄弟…」


 「そうそう!末っ子のカインって言うんだ!よろしくな!えーと…」


 「アルマ・アップベルです」


 「アルたんな!」


 「アルたん…?」


 「そっアルたん、可愛いだろ! 今日はおじさんに頼まれた依頼の報告に来たんだ~」


 「はぁ…少々お待ちください。父を呼んできます」


 結局出会ったけど…。

 なんか軽いなカイン。私の人見知りと無表情もすごい別人のような…。

 カインは父と仕事をすることがあるらしく、この日からちょくちょく顔を出しては、お昼時など私の作ったお弁当を勝手につまみ食いしたりするようになる。


 「アルたんの作るご飯、マジうまいのな、俺もうアルたんに惚れた…」


 「お前のようなちゃらんぽらんに娘はやらん」


 「まぁまぁおじさん、お父様とお呼びしても?」


 「カイン、クビにするぞ…、お前こないだ桃色の髪の美少女がどうの言ってただろうが」


 「あーどの子だろ? 学生時代の話かな? おじさん、俺はまだ婚約者もいない独身ですよ。それにアルたんに出会ってからはもうアルたんしか見えないんです!」


 「あーもうだから会わせたくなかったんだよ。アルマ、しばらく有給あげるから家にいなさい。」


 「あー! おじさん! 公私混同はやめてよね!」


 「そもそも勝手に娘に変な呼び名をつけるな! 気持ち悪い!」


 「パパ、カインさん、うるさい。黙って食べて。私忙しい。」


 「くー!! 冷たいところがまた可愛いね!」


 騒がしい日々だ。話の桃色の美少女はジュリーさんかな?婚約できなかったのかな?

 カインは行商人がてらに情報屋をしているらしい。なので城下町の警備が主な第七騎士団はよい取引相手らしい。

 徐々にカインが現れる回数が増え、毎日仕事終わりに迎えに来るようなり、休日にデートに誘われ、基本無表情な私が笑顔を見せるようになっていった。

 6歳で婚約しなくても結局私の人生にカインは現れるらしい。


 20歳頃かな、いつもどうりの帰り道、家の前でカインは私の両手を握りまっすぐ向き合った。


 「アルたん…、俺はお調子者だし、自分で言うのもあれだけど結構モテるし、たぶんアルたんより弱いし、頭悪いし、過去は女性に対して日替わり扱いしたり、本当に最低な行為してきたし、今も仕事柄女性を利用することも多々あるから、軽く見えちゃうかもだけど、絶対にアルたんを裏切らないし、絶対にアルたんを一人にしないから、だから……俺と結婚してくれない?」


 「なんで…わたし? カインならもっといっぱいいるでしょ…」


 「アルたんしかいないよ! アルたんが今まで出会った人の中で一番可愛い! たまに見せてくれる笑顔がすごくいい! なんだかんだ言って俺の分までお弁当用意してくれたり、さりげなく気遣ってくれたり、自然に優しいとことか大好き! 俺の家族になって! 俺だけのアルたんでいて欲しい! 俺のために毎日おいしいご飯作って下さい! ずっと隣で笑ってて下さい!」


 土下座でもしそうな勢いだ。


 「ふふっ…わかった。結婚してあげる。私、カインの隣にいたい。きっと私、カインが好き」


 「本当に!? いやったー!!」


 「ただし、パパがいいって言ったらね」


 おいおいおいおい。結局婚約しなくても結婚するの?ちょっ私ちょろいんですけど!

 ただこっちのカインのほうが全力で私を愛してくれてる気がする。どうしよう、ちょっとスキップしようか、このカインが結婚してから浮気するのか見てみようかなぁ…それともそろそろ起きるか…。


 現実のカインはどんなプロポーズだったかな、あれ? されたかな? ずっと婚約者だったし結婚するものだと思ってて…


 「アルたん、仕事もやっと落ち着いたし、そろそろ一緒に暮らさない? 俺、アルたんの作るご飯毎日食べたい」


 「うーん、今もほぼ毎日家に来てるし、あんまり変わらないんじゃ…、じゃあそろそろ結婚する? カイン、家の婿になってくれるんでしょ?」


 「するする! なるなる!」


 「じゃあカインのご家族と家のパパとで一度集まろうか?」


 「そうだね! 結婚式いつにしようかー、アルたんのドレス姿楽しみだなーあっ! ケーキ焼いてよ! お祝い用の!」


 「いや、なんで自分の結婚の祝いのケーキ自分で焼くのよ…」


 あーうん。思い出した。



――ア…、ん、、――



ん?なんか胸元が温かいような…。



「アルたん!!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ぱちり。


 もみもみもみもみ。


 もみもみもみもみ?


 「アルたん!! よかった!!」


 泣きながら私にまたがるカイン。私はなぜか裸で、顔はカインの涙か濡れていた。カインは泣きながら私のおっぱいもんでやがる。何してんだ変態!!


 「キャー!! 何!? 何!? 何!?」


 どんっ!! 押しても離れねぇ。ぎゅーぎゅーくっついてきた。どうやら家のベッドだ。


 「何!? 家!? なんで私裸なの!?」


 「アルたーん!! 目が覚めてよかったよう!! ごべんねぇ!!」


 「離れろ変態!! 浮気野郎!!」


 ぎゅーぎゅー、くっ力が強すぎる…苦しい…


 「ごめんね、ごめんね、俺、アルたんがいないとダメだった、傷つけてごめんね、遊びのつもりだったんだ、アルたんがいたから俺すごく幸せなのに、当たり前だと思って感謝してなかった、俺最低なクズ野郎で、ごめんねぇ…いなくならないでぇ!」


 「ちょっ!! 離してってば!!」


 「嫌だ!! もう絶対浮気しないから!! 捨てないでください!!」


 「はぁ…、わかった、とりあえずいなくならないから、落ち着いて、離れて」


 なんなんだ、てかジュリーさんどこ行った? 今何時よ…? あれ? まだ30分もたってないじゃん。昼休み中だわ。なんでこんな重病で目を覚まさない人みたいな扱いされてんのよ。

 シーツで体を隠し、上半身だけ起き上がる。おいちゃっかり隣に入るな、見えるだろうが。


 「でっ、まず、なんで家なの?」


 「アルたんの無防備な寝顔、他人に見られたくなくて…アルたん連れて転移した」


 「でっ、私、なんで裸なの?」


 「眠った時にどこかぶつけたんじゃないかと思って心配になって…チェックしてた」


 「はぁ…ジュリーさんは?」


 「置いて行こうとしたら、起きて、『本当最低!』って殴られた」


 確かに、カインの頬が片方赤い。ジュリーさんは何を見たのかな。


 「俺、アルたんに言われた通り7歳の時アルたんと会っても婚約しなかったんだ…そしたら俺、なんもできない我が儘なガキになっていった。9歳の時、おばさんの葬式に出たんだ…アルたんは引きこもってたみたいで会えなくて…夢の中の俺は悲しかったけど、おじさん家大変だなくらいにか感じてなくて、俺はアルたんが心配で傍にいる立場にない自分が悔しくて…。そのままスキップして成長して、親のコネで官僚学校行って、いろんな女の子とも付き合ったけど、みんな俺の外見と実家以外に興味ないみたいで、誰も信用できなくなって、付き合っては捨てて、毎日つまらない日々だった。そんな時、一度町でおじさんと買い物してるアルたん見かけて、俺がいなくてもすごく可愛く笑ってて、あぁ、アルたんは俺がいなくても平気なんだって思ったら、悔しくて…、夢の中の俺は気にしてなかったみたいだけど、きっとアルたんはこのまま俺じゃない男と結婚したりして、俺じゃない男に俺にしてくれたみたいに尽くして、温かい家庭を築いて幸せになるんだろうな…って思ったらそんな姿見たくなくて、もういいやって途中で起きちゃったんだ…」


 「カイン…」


 その続きで結婚するのはたぶんお前だがな。見なかったんだ。


 「そしたら、アルたんが無防備に寝てて、制服のスカートは少しめくれて色っぽいし、顔色は悪いし、こんな誰でも来れるところでアルたんが寝てたら危ないと思って連れて帰ろうと思って」


 殴られても連れて帰ったと…。

 私が一番起きるの遅かったとしても20分前後しか寝てないのに家に連れ帰って脱がすって恐ろしい早業だな。


 「俺、ずっとアルたんしか知らなくて、経験値が低いから、下手くそとか、いつかアルたんに飽きられたり幻滅されたら嫌だなって思ってて、それで、その、最低だけど若い頃は浮気して練習してたんだ。でも俺の心はアルたんから離れたことないです。体はアルたんにしか反応しないしで…最後まではしていません。それに今はしてません。ほんとです。若い頃は女の子にちやほやされて調子に乗ってたせいもある…、あとは俺の所属する第四騎士団は仕事柄情報収集しなきゃいけないことが多いから女性を騙すのも仕事で…本気で惚れられることもよくあって…、あまり話せない極秘任務が多くて説明できないしで…、でもアルたんを傷つけたのは変わらない、本当にごめん。ジュリーは部下の最近できた恋人で、いい噂聞かないから口説いてみてくれないかって頼まれたんだ。今日で会ったの二回目なんだけど、俺が結婚してても俺がいいって調子のいい事言うから、音集めの魔法で会話を残して部下に聞かせようと思ってて、完全に二人きりになりたくなかったから中庭で会ってたんだ。もうクソみたいな言い訳ばかり、アルたんには変態です、浮気野郎です、クズ人間です、本当にごめんなさい。」

 

 口を挟む隙がないわ。

 あーなんか第四騎士団って顔がいいのしかいなくね?とは思ってたけども…。


 「私もカインしか知らないから、今さらうまいとか下手とかわかんないよ…、別に…気持ちいいと思うけど?」


 んっ? だいぶ恥ずかしい話になってないかコレ…?


 「アルたん…気持ちいいの? 満足してくれてる?」


 となぜか色っぽい表情で自身のシャツのボタンを外しだすカイン。


 「まぁくっつくのは別に好きだけど…って! 違う! そんな話は置いといて!」


 あんた20年くらい一緒にいて今さら何言って…顔が熱いわ! 押し倒そうとしてくんな! 押し返す!


 「今までの理由はわかった。でもたとえ仕事でも浮気されるの嫌なんだけど…」


 「だよね…俺も嫌だ。もう二度とアルたんを悲しませたり、呆れられたりしたくない。だから俺、決めたよ! アルたん! 一緒に仕事辞めよう!!」


 「えっ?」


 「アルたん言ったよね? 田舎のおじさんの所に行くって! 俺も一緒に行きたい! 二人でおじさんと一緒の町で暮らそうよ!」


 「でも、カイン、騎士になるの夢だったじゃん、いいの?」


 「俺の夢はアルたんの騎士になることだから、もう叶ってるよ! 別に王様守りたくてなったわけじゃないし! それに仕事だってわかっててもアルたんが他の人触って魔力流すの嫌なんだよね」


 「あぁ、仕事行かないでとかよく言うもんね…。わかった…。今までのことはとりあえずわかった。最低でムカついてできるもんなら離婚したかったけど、もう二度としないなら…、頑張って許す」


 「アルたーん!!」


 がばりっ!!

 また押し倒してきた!


 「やめーい!! とりあえず仕事!! 昼休み終わっちゃうでしょ!!」


 「もう妻の具合悪くなったから午後は休むって休んだ。アルたんのとこにも伝言送っといたよ! だから!!」


 「嫌、無理! とりあえず、私からもカインに話あるんだけど…どいて!」


 「はい!」


 まったく、重いったら、体格差を考えてよね。カインはベッドの上に正座した。


 「私も、過去に戻って気づいたことがあるの…。カイン、私を選んでくれてありがとう。ずっと隣にいてくれてありがとう。カインがいたから私は寂しくなかったの、賑やかで楽しかったの、それとごめんね、ずっとカインをお世話してあげてるって思ってた、カインは私がいなきゃダメ人間になるって。けど違ったの、カインは私と育たなくてもちゃんとしっかりしてたし、私といないカインもわたしを笑顔にしてくれる優しい人だった。だから、私がいなきゃダメって思わせてくれてありがとう。当たり前の存在として私を頼ってくれてありがとう」


 「アルたん…、俺こそ、俺のために毎日美味しいご飯作ってくれてありがとう。洗濯したり、髪の毛切ってくれたり、お風呂入れてくれたり、見捨てないでくれてありがとう! 俺、これからはちゃんとアルたんの手伝いするようにする!」


 「うん、いるのが当たり前すぎて気付かなかったけど、今回のことで気づいたの、私、カインがいるからすごく幸せよ。ありがとう」


 「俺も、アルたんの魔法のお陰で改めてアルたんの大切さがわかった。アルたんが居てくれたから俺もずっと幸せだよ。愛してるよ、アルたん、これからもずっと一緒でいてね」


 私が笑顔で頷くと、カインは私にキスしてきた。もう黙って受け入れようと思う…。







 私はアルマ・アップベル。夫はカイン・アップベル。

 夫の浮気相手ジュリーちゃんは今回は浮気相手じゃなかったけど、ただ巻き込んでしまったけど、わだかまりはとれて、夫と向き合うことができました。ありがとうございます! 時の女神様! ママの姿も見れて嬉しかったです。過去を変えてもカインと出会ってまた恋をするってこともわかりました!この人を大切にしようと思います!


 私、アノトーキを使ってよかったです!素敵な魔法をありがとう!

アノトーキとは、詳しく聞いてはいけません☆ お読みいただきありがとうございました。

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