さすらいの公爵令嬢~この世に魔がある限り~
初投稿です。よろしくお願いします。
真夜中の廃教会。
クリスティーヌは婚約者に呼び出され、婚約者と隣にたたずむ少女と相対していた。
「クリスティーヌ・ロンギヌス公爵令嬢。君との婚約をこの場で破棄する」
青年は虚ろな眼差しでクリスティーヌを見た。
金髪碧眼の絵に描いたような美貌は、どこか生気がなく色褪せて見えた。クリスティーヌの婚約者である、この国の第二王子フィリップは傍らの人形のような美貌の少女を見せつけるように抱き寄せた。
「フィリップ様…、ワタクシ嬉しいですわ。」
銀髪に紫色の瞳の少女は嬉しそうにフィリップに微笑みかける。
紫色の瞳がほのかに紅く輝いたかのようにみえた。
「貴方のすべてをワタクシに…」
「わ、私のすべてをカーミラ・ナイトレイド嬢に「お待ちくださいませ!!」
クリスティーヌはここでようやく口を挟んだ。
「誓約を終わらせてはなりません」
誓約。
つまり、クリスティーヌとの縁を破棄し、カーミラにすべてをささげる誓約。
誓約を邪魔されたカーミラがするどい目つきでクリスティーヌを睨む。
クリスティーヌほどの人物でなければ、その威圧だけで倒れ伏していただろう。
「そのものは人間ではありません。それと契約すれば、貴方は人間としては死ぬでしょう。フィリップ様、あなたはそれでいいのですか?」
クリスティーヌは静かに問いかけながらドレスの下に隠し持った短剣を取り出した。
魔力を流し込むと、短剣は鮮やかな深紅の大剣へと姿を変える。
クリスティーヌの固有武器『豪斬剣』はクリスティーヌの魔力でできた魔剣である。
「あなたが魔に取り込まれれば、この国の人間は大勢死にます。あなたが愛したこの国を、あなたが壊すのですか?」
いまだ貴族と平民の格差が激しいこの国で、少しでも格差をなくそうと官僚に積極的に平民の雇用を促進し。
平民よりもさらに貧しいスラムの住民に心を痛め、スラムで炊き出しを行い、無料で読み書き計算を教えてくれる教室を作り。
孤児院への経済支援、および慰問を積極的に行い。
そんな王族を失うことは民にとってどれだけ損失だろう。
彼が死ぬだけで命を落とす国民がどれだけいるだろうか?
それに、魔に転じれば物理的にも人間を殺すことになるだろう。
いや、殺し続けることになるだろう。
カーミラの眷属になるということはそういうことだ。
「フィリップ様、あなたが民を殺すのですか?」
クリスティーヌの言葉に、フィリップの目にわずかに生気が戻る。
「……わたしは…、、」
カーミラの魅了がわずかに解けたのだ。
「茶番はそこまでにしてくださる?ワタクシはあなたが欲しいのよ、フィリップ様?」
カーミラの手がフィリップの頬に伸ばされる。
魅了をかけなおすつもりだ。が、クリスティーヌはそれを許さない。
ガキィン!
クリスティーヌは躊躇なくカーミラに『豪斬剣』を振り下ろした。
「チィッ!ロンギヌスの狗が!!邪魔だてをするなっッ!」
鋭く伸ばした爪でカーミラがクリスティーヌの剣をはじいた。
もはや人間でないことを隠すつもりはないようである。
「化けの皮がはがれているぞ!吸血鬼!!」
「ワタクシが魔というなら、貴様も人のことは言えぬではないか!ロンギヌスの狗め。汚らわしい裏切り者の末裔よ!」
「先祖がどうであろうと、この身はか弱い人にすぎぬ。魔は人に滅ぼされるものときまっているのだよ」
クリスティーヌは再び『豪斬剣』を振りかぶった。
「『豪斬剣』」
銘を呟くと、先ほどとは違いギラギラと燃えるような魔力を纏った『豪斬剣』はカーミラを袈裟切りにした。
切られたところからカーミラは光の粒子となって消えていく
「馬鹿な……!…か……」
浄化の力だと…?
最後の疑問を口にするまでもなく、カーミラは光の粒子となって消滅した。
フィリップを縛っていた魅了の魔術が完全に解けたため、フィリップは気を失った。
翌日。
「クリスティーヌ様、もう行ってしまわれるのですか?」
長い間魅縛されていたため、顔色が悪いフィリップはそれでもしっかりと自我を取り戻していた。
クリスティーヌが出立するというため、フィリップは重い体を押して見送りに出ていた。
「ええ。フィリップ様…いえ、殿下も今までありがとうございました。正式に今朝、婚約は破棄いたしましたのであなたは自由の身ですよ」
「お礼を言うのはこちらのほうですよ。あなたは命の恩人だ。私の守護のために、婚約してくださりありがとうございました」
クリスティーヌはこの国ではなく隣国の帝国の貴族だ。
クリスティーヌは17歳ほどの見た目だが魔のものの血を引いており、なおかつ先祖返りにより魔のものに近いため、歳をとらないのだ。寿命はクリスティーヌ自身もよく知らない。
クリスティーヌの母親が聖女であったため魔のものを浄化する力をもっており、帝国や近隣諸国には人間社会を乱す魔のものが現れるため200年ほど、この役目を負っている。
そして、クリスティーヌが婚約しているのはこの国の第二王子だけではない。
魔のものに狙われやすい王族や貴族の男性を婚約という形で縁を繋いで守護し、魔のものを滅ぼした後は婚約を破棄する。
「では、次の婚約者が待っておりますので」
クリスティーヌは母親の聖女によく似ているという笑顔を残し、次の国へ旅立ったのであった。
クリスティーヌの旅はまだまだ続く。
この世に魔がある限り。
~fin~
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最後までご覧いただきありがとうございました!
思い付きでこんな中二病っぽい悪役令嬢がいてもいいかなと思いました。
★クリスティーヌ・ロンギヌス
帝国の公爵令嬢
200年以上生きている。母親は聖女で父親が魔のものの血を引いている。
先祖返りで年を取らない。婚約者は100人くらいいる(全部仕事)
★フィリップ
この国の第二王子。
吸血鬼カーミラに狙われていた。
★カーミラ
吸血鬼。伴侶探しに人間の国に来ていた。
食料は人間。