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8、ナンパって怖い


朝1番の図書館は人が少なくいつにも増して静かだった。壮真と私は恋人らしく1階の机に隣同士で座って勉強を始めた。

10分も経たない内に誰かの話し声が聞こえてきた。1階の奥から聞こえるけど誰も気にせず勉強している。いやいやこんなに静かな場所で普通の話し声で喋ってたらめちゃくちゃ聞こえるよ。なんで誰も注意しないの?完全に2人の話す内容が聞こえてくる。


「ゆうちゃん朝はありがとうね。」

「いいんだよマコちゃん遅くなってごめんね。」

「ううん。でも怖かったぁ。あっお弁当作ってきたよ。これどうぞ!」

「わあありがとう。」

「ああ昨日、健くんと2人で遊んだらね幼なじみの彼もまた一緒にって言ってたよ。」

「ああ、まあその内ね。」

「もういっつもその内って!ゆうちゃんのいじわるー。」

「ていうか研修医なのに遊びすぎじゃない?」

「健くんは賢いからいいの。」

「へえ。」


結局、今日帰る約束をして声は途絶えてしまった。他の男が出てきて完全に不機嫌になってしまったけど、この2人ってマコちゃんとあのジェンダーレスな可愛い男の子だよね見えないけど。マコちゃんって天然でこの男の子の好意を分かってないとはいえ残酷だな。というかマコちゃんってあんな女の子だっけか?男の子の前で変わるタイプなのかな?まあそれもモテるための技だもんね。……技?という事は天然じゃないって事か?

なんだこのゲーム?というかマコちゃんは医学部だから看護師志望じゃないって事は主人公じゃない?でもマコちゃんイベントに異常に巻き込まれるし…。もしかしてゲームの内容が変わってしまった?アンちゃんをねじ込んだから?

よし落ち着こう。壮真は勉強している。タブレットを確認しよう。やっぱりさっき盗み聞きしたのも入力されている。なんだったらマコちゃんがナンパされた内容も確認できるな。どういう原理か分からないけど便利だ。なるほどマコちゃんあのヤンキーっぽいお兄さんも知り合いだったんだ。この頃俺と遊ばねえじゃんってなって腕をつかまれたと。マコちゃんって顔広いなー。

って幼なじみのゆうちゃんと研修医の健くん。後は、指導官、同級生、医者、看護師の4人出てくるのか?やっぱり主人公じゃん。


「おい桃。そろそろ授業に行くぞ。2限からなんだろ。」


「あっうん。」


「なんだかぼーっとしてるけど大丈夫か?」


「うん。大丈夫!」


「よし、今日は3限までなんだけどお前は?」


「うん私も3限まで。」


「分かった。じゃあとりあえず今日も一緒に帰るぞ。もしかしたらお前もナンパされるかもしれないし。いいか?」


「うんじゃあまた図書館で待ち合わせにしよう。」


「ああ、じゃあな。」


今日の2限の授業は名前順に座る席だけどプリントを出さない代わりにめちゃくちゃ板書が多い教授だから問題なし。3限は席が自由だから瀬良君には近付かなければいいし。昨日アランって分かってあまり怖くなくなったし。

2限が何事もなく終り3限の教室に移動しようとリュックに教科書をしまっていると英子ちゃんに話しかけられた。英子ちゃんは同じ学部の大学からできた友達で大学内では1番仲がいいと私は思っている。


「桃ちゃん次一緒に座ろう!」


「うん。もちろん!」


英子ちゃんは私にいつも優しくて可愛らしい女の子でメガネをかけているので知的な雰囲気だ。


「今ね小説読んでていいところなの。」


「へー今度も探偵物?」


「勿論!私探偵になるんだから!」


「英子ちゃんなんで医学部に入ったの?」


「話題作りよ!興信所に就職してその後独立するの!」


「応援してるよ英子ちゃん!」


英子ちゃんは少し変わっている気がするけど、そういう所も好きだな。難事件を解き明かす名探偵になってほしい。

問題なく3限も終わりふと見ると、マコちゃんが後ろの席の男の子と話しているのが見えた。自由な席だったので近くに座ったらしい。


「のぶ君いつもノートとってくれてありがとう。大好き。」

「マコちゃんの為だから!またいつでも言ってね。」

「うん。それでねお礼と言っちゃなんだけどクッキー焼いたのどうぞ!」

「わあありがとう。そうだこれから。」

「じゃあゆうちゃんと約束してるから!バイバイ!」

「あっバイバイ。」


マコちゃんって小悪魔なんだなー。英子ちゃんも聞こえていたのか置いて行かれた男の子を気まずそうに見ている。男の子は帰り支度をしてさっと出て行ってしまった。


「帰ろっか?」


「うん。」


「今日は彼氏さんは?」


「あっ一緒に帰るんだった。ごめんね忘れてた。」


「いいよ。じゃあまた明日ね桃ちゃん。」


「うん。また明日ねバイバイ。」


壮真は早めに授業が終わったのかもう既に図書館の前に立っていた。


「帰ろうか。」


「うんおまたせ。」


大学を出るまでそこかしこでナンパしている男女を見たおかげで本当に壮真がいて良かったと心の底から安堵していた。なんだこの大学は。嘘でしょ言ってるそばから。背が高く割と顔は整っているがホストっぽい男が近付いて話しかけてくる。


「可愛いねー横のは彼氏?こんな奴やめて俺と遊びに行かない?」


えっと私に言ってるのか。合気道をずっとやってるんだぞ。はっ倒してやろうか。


「えっ私に言ってます?」


「うん。君可愛いしおっぱい大きいし。」


「おい。こいつに変な事言うな。」


「俺はこの子と話してるんだよ。」


「おい俺の彼女だぞ。やめろ。」


「そうですよ。彼氏とデートなんで失礼します。」


「えー分かった。じゃあ名前だけでも教えて。」


「えー嫌です。」


「でも教えてくれないと俺は消えないよ。」


「しつこい男は嫌われるぞ。消えろ。」


「やだね。君、結構好みだなー。俺は斎藤陸だよ。りくって呼んで。学部は人間科学部心理学科だよ。」


「桃。竹中桃。」


「桃ちゃん可愛い名前だね。じゃあね桃ちゃん。」


まさか彼氏と居るのにナンパされるとは。しかもおっぱい大きいしとか。最悪。


「おいあんまり変に気にするなよ。魅力的って事だろ。」


私の気持ちを察してか壮真が励ましてくれる。エイクと違ってなんだか不器用であまり励ましになっていないのが面白くて笑ってしまう。


「ありがとう壮真。」


「ああ良かった。やっと笑ったなさっきからすごい顔だったぞ。」


「ふふ。ありがとう。」


「一応、彼氏だからな。何か思ってるなら口に出して言うんだぞ。」


「はいはい分かりました。じゃあまた明日ね。」


「ああ明日18時にここな。」


そうしてエレベーターで別れた。壮真は本当に優しい。



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