7、2人だけのおまじない
朝、いつもより早く目が覚めたので授業の前に図書館で勉強しようと支度をして部屋を出た。エントランスで壮真と一緒になったので声をかける。
「おはよう壮真。」
「おはよう。」
「壮真はいつもこの時間?」
「ああ。授業の前に勉強するんだ。」
「そういえば壮真って何学部なの?」
「言ってなかったか。看護学部だよ。看護師志望だ。」
「そうなんだ。ねえエイクの事は何でも知ってるけど、壮真の事は知らないでしょ。だから大学に行くがてら話さない?」
「ああそうだな。」
「うーん。趣味は?」
「スポーツと料理。」
「だからジャージだったの?」
「ああ。教授が皆やたらと俺に雑用をさせるんだよ。」
「えぇなんで?」
「うーん。多分、入学式の代表やってからだな。こいつは頼めば何でもやると思われてる。」
「すごいね!2年生の中で1番賢いって事でしょう。壮真賢いんだね。」
「たまたまだよ。今は雑用係だし。」
「ふふ。優しいね。そうだ私ね田舎から出てきて全然この辺りがわからないの。美味しくて安い中華屋さん知らない?」
「お前さ。女子大生だろうそれでいいのか?」
「あのね女子はおしゃれなカフェには連れてってくれるけど、美味しい定食屋さんとかには連れてってくれないの分かる?」
「じゃあ連れてってやるよ。いつがいい?」
「じゃあ明日。学校休みだし。」
「ああいいよ。じゃあ明日夜ご飯ってことでいいか?朝から昼にかけて用事があるから。」
「うん。分かったありがとう。」
「じゃあ明日エントランスに18時で。」
「うん。ってあの前にいるのって。マコちゃんかな?」
「ああ昨日の。」
マコちゃんが道を挟んで少し前を歩いているのが見えてどうにか声をかけようとした時だった。ヤンキーっぽいお兄さんにナンパされてそのままからまれている。私は壮真を引っ張って隠れる。
「あのね私あの子が主人公だと思ってるの。」
「ああ。確かにいつも友達が周りにいるのにこういう時1人もいないっておかしいよな。」
「でしょ。だからもうすぐ男の子が助けに来てくれる気がする。」
と言ってるそばから何だか可愛らしい感じの男の子がヤンキーっぽいお兄さんを倒してマコちゃんを助け出した。マコちゃんは泣いてその男の子に抱きついてその後2人は歩き出した。
「ねえ壮真。今の男の子さあ。」
「言うな。」
「ずっとマコちゃんの後ろを歩いてたよね。ナンパされてる時もからまれてる時もずっと後ろにいたよね。マコちゃんが泣きだしそうになってから出て行ったよね。怖いよ。」
「やめろ。言うな考えるな。」
「エイクもああいう事したの?」
「する訳がない!騎士なんですよ!」
壮真ははっとして顔を伏せてしまう。今のは完全に私が悪い。エイクは真面目で優しい騎士だったのにそんな事する筈がない。確かエイクと2人だけのおまじないがあったはず。仲直りの時とか帰る時とかにする。ああ思い出した。でも、あれはさすがに。うん。仕方ない。
「壮真!」
「急にどうした。」
「永遠に続く。」
そして壮真の頬にキスをする。壮真はびっくりして動かないし、私は顔が熱い。でも思い出した。合言葉は永遠に続く。
「桃、そういう事は好きな男だけにするんだ。」
「いいの。エイクとマリアなんだから。仲直りする時のおまじない。覚えているでしょう。」
「ああ忘れる訳ない。さあもう行こう。」
「今日もし男の子にからまれたら壮真の名前を出すね。」
「ああ出せばいい彼氏なんだから。」
そうして2人ともぎこちなく歩いていた。