38、シークレットキャラクター
「本当にごめん竹中さん!」
会議室に入ってから瀬良君はずっとこの調子だ。昨日の事でずっと謝っている。
「ごめんね、口に出さない気持ちを他の人が分かるわけがないもんね。それなのに竹中さんを傷付けるような言い方をしてしまって。これねコンビニで買ってきたんだ。プリンとか、後で食べない?」
「うん、ありがとう。いただくよ。じゃあ早く終わらせちゃおう。」
昨日とは別人のように真面目にまとめをしてきたようで、すぐにまとめ終わってしまった。
「じゃあプリン食べる?」
やたらとプリンをすすめてくれるところがアランだ。というか色んな味や種類のプリンしかない。
「じゃあこのプリンにする。なめらかプリンっていうこれ。」
「ああそれ美味しいよ。本当になめらかで卵の味がしっかりしてて。」
プリンに力説してる。
「こっちも美味しいんだよ。チョコが濃くて甘ったるくないんだよ。ああ、こっちはしっかりしたプリンで焼きプリンだとこれが1番美味しいね!」
「ふふっ。そっかじゃあいただきます。」
なめらかプリンはその名の通りなめらかで美味しい。瀬良君も美味しそうにプリンを食べている。
「ごめんうるさいよね。プリンが絡むと子供みたいって昔からずっと言われてて。」
「ううん。美味しいこのプリン!」
「よかった。もう1つ食べなよ!」
「ありがとう、いただこうかな。」
その後もずっとプリンについて熱く語っている瀬良君の話を聞いていた。ひょんなことから苦手な話になって、瀬良君はお化けが怖いらしくいつもミカちゃんに馬鹿にされると、仕返ししたいと力説していた。子供っぽい。そういえばアランもお化けが怖くておどかされたりとかすると顔を真っ赤にして怒っていたな。
「ああ、ごめん竹中さんまた俺ばっかり。最後に発表の練習もしちゃおうか。はい、これもコンビニで買ってきたんだ。新発売の紅茶だって飲める?どうぞ。」
「ありがとう、じゃあいただきます。なんだかもらってばっかりだね。また返さないと。」
ペットボトルの紅茶は確かに見た事がないものだけど、まさかのプリン味っぽいミルクティーだった。
「すごいねプリン味だよ。」
「へーそうなんだ。じゃあやろうか。」
あら素っ気ない態度、飲みたいとか言うと思ったのに。
「では瀬良、竹中ペアの発表はこれで終わりとさせていただきます。ありがとうございました。」
発表の練習はだいぶ良くなってきたしもうそろそろ帰ろうかな。椅子から立ってレジュメを見ながら発表するスタイルなので結構楽だ。
ピコンッ、久しぶりの腕時計の音だ。アンちゃんが帰ってきたのかな?後、なんだろうまだ9月というのに寒くなってきた。腕時計にメッセージが。
瀬良はアランちゃう。
えっなんだろう体の震えが止まらない。いや、開封済みのものはなかったし、席も外してないし薬は入れる時間もなかった。
ピコンッもう一度メッセージが受信される。もう足に力が入らず椅子に座ってしまう。アランじゃない、なら誰なの?後、残っているのは?
「竹中さんどうしたの?」
瀬良君は微笑みながら私の体を支えてくれる。支えがないと前に倒れそうだ。おかしい口も動かないかろうじて呼吸ができているだけで、どこもかしこも動かない。でも、アンちゃんのメッセージは見なければ!動け腕、動いて!
瀬良はデレクや。
デレク。怒りのデレク。全身に寒気が走り完全に力が入らなくなった。あのゲームで、世界で1番関わってはいけない存在。彼は徹底的に周りを排除し、誰からも目に入らないようにされる。逃れられなくなる。それに親も協力するデレクの怒りの矛先がこちらにこないように。
「ああ、竹中さんやっときいてきたね。」
「あ、ああ。」
「可哀想にもう喋る事もままならないか。じゃあもういいな。」
瀬良君の雰囲気ががらっと変わった。あの穏やかそうな空気感が一瞬にして何か禍々しいような空気に変化した。
「その顔とうとう分かったのか。俺がデレクだと。はあ、おせーよ。もっと早くに分かってればこうならずに済んだのにな。まあ俺もアランのふりをしてたしな。俺はさ待ってたんだマリアに記憶が戻る事を。記憶を持ってないと俺がどれ程調べても分からなかった。金を使って色んな事を調べさせた。俺が分かったのはアランとシークレット。マリアとエイクは記憶なしで生まれ変わりたいと望んだんだな。だから最近まで分からなかった。でも記憶が戻ったのが仇となったな。」
記憶がなかったらバレなかった。でも記憶は戻ってしまった仕方がない。駄目だ力が戻ってこない。
「ああ、教えてやるよ。アランは佐藤信夫。シークレットは浅田英子だよ。アランは記憶を持っているけど本当にあのマコとかいう女を愛してしまったんだ、だからあいつはどうでもいい。シークレットの名前は覚えてないだろう。あいつの名前は……。お前は主人公だから覚えられないように設定されているらしい。もしかしたら名前も聞こえてないかもな。あいつは男のくせに男が好きだったんだよ。しかもエイクが好きだった。同じ騎士団で切磋琢磨するうちに好きになった。だからシークレットは恋愛をする相手じゃないマリアのお助けキャラだよ。エイクを愛しているから悲しい顔を見たくなくてマリアを助けるんだ、そうするとエイクが喜ぶから、まあそれもどうでもいい。問題はエイクだ。」
ああ、英子ちゃんいつも助けてくれていたのは英子ちゃんだったのか。ありがとう英子ちゃん。駄目だこれ以上考えられない。バタンとドアが開くとそこにいたのは英子ちゃんとアンちゃんだった。ああこの2人知り合いなのか。
「桃ちゃん!」
「桃ちゃん大丈夫か!」
「ああ、揃いも揃ってその猫はあれだな。なあ浅田英子今もエイクが好きなのか?」
「いや、今はあの彼氏を愛している。エイクはこの世界に存在しないし。」
「そうかよ。じゃあ柴田壮真をなんとも思ってないのか。」
「ああ、桃ちゃんを助けるのも友達だからだ。入学式、浮いていた私に気さくに話しかけてくれたのだ。」
「ああ、確かにお前浮いてたな。でももうそんな事はどうだっていい。……!お前にもうマリアは助けられない。」
「何を言っている。ここから逃げ切れると思っているのか?こちらには番人のアンソニーがいるんだ。お前などどうとでもなるぞ。」
「……!残念だったなもう飲ませたよマリアと俺はあちらの世界に戻る!」
「貴様!おいしっかりしろマリア!卑怯者!騎士道精神というものがないのか!」
何を言ってるんだろう。もう頭がぼやけている。なんだっけ。鮮明度?
「ああ、まずいな。マリア!我もそちらに向かう。待っていてくれ。騎士道にかけてマリアを助けよう。」
「無駄だろう。まあせいぜい頑張れよ。騎士殿。」
そこで私の意識は途絶えた。




