37、瀬良君の気持ち
「おはよう、桃。」
「おはよう、壮真。ご飯食べたい。お腹空いた。」
「ぶっふっ起きていきなり。分かった、じゃあ作るよ。」
「うん、作りたまえ。私は荒くれ者を倒し、あなたを助けてもうくたくた。」
「はは、なんだよそれ。じゃあクレープ焼いてやるよ。クレープって言わないんだっけ、卵とかツナとかソーセージとかのやつ。」
「わーいなんかオシャレ!」
朝からこんな料理を思いつき、サラっと作ってしまう壮真が憎らしい。それにしても少し落ち着いたようだ。あの斎藤とかいうやつにだいぶ苦しめられたみたいだったから。
「桃、ありがとう。俺、幸せだよ。」
「えっ美味しいご飯が食べられて?」
「違う、お前がそばに居てくれて。ありがとう。ずっと一緒にいような。」
「うん、そうだね壮真。」
大学に行くとちゃんと佐藤信夫もマコちゃんも来ていた、元気はなさそうだけど。
「竹中さんこれ昨日の授業のプリント。後さ明日集まれる?」
「ありがとう。ああ、発表の件だよね。うん大丈夫だよ。明日、お昼とかでいい?」
「うん、じゃあまた会議室借りておくよ。」
「ありがとう。じゃあ明日、お昼に。」
「だから明日、瀬良君とお昼から大学で発表のまとめするから。」
「ああ、分かった。」
今日も壮真は私の部屋にいてご飯を食べ終わり、そのまま泊まるようだ。
「じゃあ図書館で待ってるよ。」
「うん、すぐに終わるように頑張る。」
「ああ。眠い。」
「じゃあ寝る?」
「ああ、そうだな。なんだか今日は眠い。」
私のベッドで2人で寝るめちゃくちゃ狭い。でもまあいいか。それにしてもアンちゃん帰ってこないな、心配になってきた。大学が始まる前には帰ってくると言ってたのに。
「竹中さんって賢いよね。僕は結構ついていくのに必死な時があるよ。」
会議室に集まってまとめているけれど全く進まない。というか多分瀬良君は原作を読んでいない。これは言い訳だ。
「そんな事ない、私だって必死だよ。とにかく私はまとめてきたから後は瀬良君だけ。主人公がアルコールや薬に溺れていくのは、前に発表したアルコール依存症の事も使えるし頑張って。」
「ああ、そうだね。少しだけ話を聞いてくれる?」
「うん、どうぞ。」
「昔ね好きな人がいたんだ、その人は完璧だった中身も、外見も。とても綺麗なのに慈悲深くて優しくて賢い人だった。彼女には他に好きな人がいた。その彼も優しい奴で、でも優しい人って傷付けられる事が多い。だからいつも2人は一緒にいた。傷を分け合う為に。僕はそれを見てるだけだった。結局、見てるだけしかできなかった。」
「そう。」
「そして今もそうだ。あれから何年も経つのにまた君を見てるだけだ。何が起きても僕には何もできない。竹中さんが好きなんだ。好きなんだよ。」
「私、瀬良君はミカちゃんが好きだと思っていたから。その。」
「待ってその先は言わないで。そう見えたのはそれはきっと竹中さんがそう思いたかっただけだろう、自分が誰かを傷付けていると思いたくなくて。出会った時から、僕の好意には気付いていたはずだ。とにかく自己満足だけど言っておきたかったんだ、僕が竹中さんが好きだという事を。ごめん今日はこれで終わりでもいいかな?続きは同じ時間の明日でもいい?今日ちゃんと原作を読むよ。」
「うん、分かった。」
そう言って瀬良君は出て行ってしまった。嘘はないようだ。少し休んでから壮真のとこに行こう。深く座り直す。私は瀬良君の気持ちに気が付かなかった。授業で最低限話すだけだし発表の時に集まって、少し仲良くなってバイトに行ってまた少しだけ仲良くなった。それだけだと思っていたのに。
「なんてこった。友達じゃないの本意はこういう事だったのか。」
小さな会議室に独り言がこだました。
「明日も集まる事になった。」
「今日で終わらなかったのか?」
「うん、瀬良君、原作を読んでこなかったの。だから今日読むって。」
「そっか。明日バイトだから、帰ったら連絡くれ。なんだか疲れているけど大丈夫か?」
「うん分かった部屋に着いたら連絡するね。大丈夫。」
告白の事を壮真には言わなかった。なんだか私が人の心が分からない女と思われるのが嫌だったから。はー憂鬱だ。明日、上手くできる気がしない。




